第20章 「臨界点」
「は?」
短い問いかけが、部屋の空気を切った。
返事はない。
ただ、目の前にいるはずの相手を、秋夜はじっと見据えていた。
「……」
「お前、何言っ――」
遮るように、声が鋭くなる。
「炎夏は!!」
言葉に力がこもる。
「命を奪うことはあっても『死んで当然』なんて絶対に言わない!!」
その断言に、わずかな沈黙が落ちた。
「………………まだ……《視》え切れてない部分があった……」
どこか他人事のような声。
「どうでもいいよ」
淡々と、しかしはっきりと切り捨てる。
視線の先。
そこに、何かが“在る”。
「……」
気配だけを残し、言葉を発さない存在。
「炎夏に……何かした?」
問いは低く、抑えられている。
だが、その奥には感情の奔流が渦巻いていた。
「………さて?」
次の瞬間、空間が歪んだ。
空気が一気に押し潰される感覚。
重圧が、周囲を叩き伏せる。
視界が揺れ、地面が軋む。
「 重 竜 」
低く、しかし確実に放たれた言葉と同時に、重力が奔流となって解き放たれた。
「!! ここは市街地……」
切迫した声。
「でも、見たかったんでしょ?」
冷静すぎるほどの声が返る。
「……」
問いかけは続く。
「炎夏は、どこ?」
沈黙。
「………」
「教えてよ」
逃げ場を与えない、視線と言葉。
「……良い学習だった」
その返答に、わずかに間が空いた。
「…………そっか……死んだの?」
問いというより、確認。
返事はない。
「…………いいよ……」
静かに息を吐く。
「好きなだけ、見せたげる……」
そして、決定的な一言。
「そのかわり――」
言葉が、空気を切り裂く。
「 次 は 絶 対 に 逃 が さ 無 い」
それは宣告。
逃げ道を断つ、最終通告。
空間が、再び軋み始める。
重力が、意思を持ったかのように蠢き出す。




