第18章 脅威
「……春……」
声は、掠れていた。
呼吸のたびに、身体が小さく震えている。
「……『立て』ますか?」
問いかけは静かだったが、答えを急かしてはいなかった。
「…………」
一瞬の沈黙。
それから、ゆっくりと。
「……ああ……」
短い返事。
それだけで、限界が近いことは十分すぎるほど伝わる。
「…………」
炎夏の視線が伏せられる。
「……言い訳は……嫌いだ……」
言葉を選ぶように、区切るように。
「俺は...」
「殺した……」
空気が重く沈む。
「……でも、それは――」
遮るように、首がわずかに横に振られた。
「でも……この『罪』は……俺は…背負わねえ」
その言葉に、はっきりとした意志が宿る。
「!!」
春塵は息を呑む気配。
「でなきゃ……」
一拍。
「…もし俺がここで背負って潰れたら、今まで「俺の罪を返上してくれてたヤツら』に……」
顔を上げることはないまま、続ける。
「……『お前』に……見せられるツラがねぇ……」
その瞬間、春塵の堪えていたものが溢れた。
「……」
小さな音を立てて、雫が落ちる。
「……これは……『逃げ』か?」
問いは、どこか自分自身に向けられていた。
「……いいえ。『覚悟』です」
即答だった。
「今、手当をします。身体に『藍色』を流します。
できるだけ、癒されるイメージを持ってください」
指先が触れる前に、そう告げる。
「……研修生じゃねえっつーの」
かすかな抵抗。
だが、声に力はない。
「……ふふ。そうですね」
小さく笑って、藍色が広がる。
「……奴は、どうだ?」
視線を動かさずに問う。
「大丈夫です。ナイフの檻の中にいますよ」
落ち着いた声。
「……そのわりには、動きがねえぞ」
違和感。
ほんの、僅かな。
「ミリ単位で動けなくしてあ――」
言葉が、途切れた。
「…………いな……い?」
空気が、冷える。
「……奴は、どこに消えた……?」
視線が交錯する。
そして。
「……秋ちゃん……!」
その名を呼んだ瞬間、
場の緊張が一段、跳ね上がった。
次章は『秋夜』です。




