第17章 亀 裂
【色彩機関:四季彩威専用区域・統合特別室】
室内は静かだった。
無機質な機械音と、淡く浮かぶモニターの光だけが空間を満たしている。
「……………」
椅子に深く身を沈め、長く息を吐く。
「…はぁぁぁぁ〜…」
春塵の肩から力が抜ける。
集中を強いられる作業が、ようやく終わった。
「終わりましたぁぁぁ…」
(…機械は苦手です…さっさと私の『白識』とリンクできるようにしてくださいよぉぉ…)
文句を飲み込みながら、指先で端末を操作する。
「……栄養補給!!」
軽い調子で言葉を発し、いつもの癖で個人ログに手を伸ばす。
「この間の秋ちゃんと炎夏さんの営み記録〜♩
やはり「色」より実物に勝るものは」
──その瞬間。
感覚の奥で、何かが弾けた。
「…」
空気が変わる。
張り巡らせていた認識の“端”が、僅かに削り取られている。
「『囲って』いる端っこが…欠けた?」
それはミスではない。
誰かが、意図的に触れた痕。
(…行く)
判断は一瞬だった。
空間が折り畳まれ、姿が消える。
⸻
『何者にも染まらない色』
転移先に、濃い血の匂いが漂っていた。
「!」
視界に映ったのは、崩れ落ちるように膝をついた身体。
「炎夏さん!!」
「…春…来る…な…来ないで…くれ…」
声は震え、指先は制御を失っている。
「来るに決まってるでしょう!」
距離を詰める。
躊躇はない。
「…う…う…く…」
「…………………………酷過ぎる。」
彼に触れ全て理解した。先程までの闘争も…
彼を「試した」ことも…
怒りよりも先に、静かな断定が胸に落ちた。
「…炎夏さん」
抱き寄せると、力なく身体が傾く。
「…俺ぁ…俺ぁ…」
「…殺した…」
言葉が、刃のように落ちる。
「…」
続きを促さない。
「守らなきゃいけねえもんを…」
「『子ども』を…」
「殺し」
「炎夏さんは悪くない。」
即座に、否定する。
「貴方はただ守ろうとした」
「それだけです。」
声は低く、確信を帯びている。
「それを利用されたんです。
利用なんですよ。炎夏さん。」
視線を合わせる。
「貴方なら分かるじゃないですか。」
沈黙が、肯定を返す。
「それは貴方の『罪』じゃない。」
一語ずつ、切り分けるように。
「押し付けられた、作らされた『罪』です。」
息を吸う。
「…でも貴方は…きっと自分を許せない…」
「いえ許さない…」
分かっているからこそ、続ける。
「…でも炎夏さんが自分を許せなくても」
視線を逸らさず。
「私が貴方を許します…」
間を置き、繰り返す。
「何度だって…何度だって」
⸻
背後で、気配が動いた。
「……最小限に『感応』は抑えたはずだが」
「やかましいです。 卑 怯 者。」
振り返らずに吐き捨てる。
「…気付きますよ。『大事なものは箱』にしまっておくものです。」
その言葉に、僅かに炎夏の指が動く。
「……」
「…なるほど…本当によく『動く』…」
「炎夏さんが『感じさせられた罪』、あなたに返上します。『規格外』さん。」
ドン!!
空間が歪み、相手の身体が揺らぐ。
「!」グラ
「いえ、ただの『卑怯者』ですね」
ドン!!
続けて、もう一撃。
「!」
ドン!!
衝撃が連なり、視線が跳ねる。
「!……『壁』…!」
「あなたは外ばかり『視』過ぎです。」
淡々と告げる。
「『規格内』でも使い方次第です。」
ドン!!
圧縮された防壁が、そのまま“質量”として叩きつけられる。
「…!防壁を…ぶつける…」ググ
「こんな『虹色』でも扱える、基礎的で解釈値が低いものは視てこなかったんでしょう?」
沈黙が返る。
「逃がしません。あなたは『1年前』から逃げてばかり。つまらないです。」
「………大っ嫌いです。」
春塵が一歩踏み込む。
「白識展開」
透明が構える。
「今更…」
「残念。 嘘 で す」
「!」
「後ろ…異常…ありませんか?」
振り向かなくても理解した「逃げ場がない」と
「……短剣… 2 万 5 2 6 4 本…」
数を把握した瞬間には
もう遅い。
「とりあえず死んでください。『卑怯者』」
無数の白い雨と風が降り注ぐ。
「…大っ嫌いです。」何気に春塵が感情的になってるのが好きです。
これで終わりじゃありません。
もう一段階いきます。




