第16章 『 開 戦 』
絶望
中央市街地。
機関からの帰り道
本来なら、夕方のこの時間帯は人で溢れているはずだった。
買い物帰りの足音、車のクラクション、遠くの生活音。
それらが混じり合って、街は常に“生きている”。
だが――
ザッザッザッザッ
聞こえるのは、自分の足音だけ。
「……」
足を止めずに、視線だけを巡らせる。
(人がいねえ。)
建物の影にも、道路の先にも、誰一人としていない。
逃げた、という気配すらない。
最初から存在していなかったかのように、街が空だ。
(…誰も)
胸の奥に、嫌な予感が沈殿する。
(……)
(俺らといる時に春が気付かない訳がねぇ)
この状況を、彼女が見逃すはずがない。
ならば、これは。
「ついさっきか…」
時間差。
“消された”のは、ほんの少し前。
ザッザッザッザッ
歩調を早める。
自分の中の焦りが、足を動かす。
「……おい。」
声を張らず、低く。
「姿だせコラ。」
返事はない。
だが、確信があった。
「……」
空気が歪む。
視界の一部が、意図的に切り取られたように“薄く”なる。
「ここら一帯か?
ずいぶん殺ってくれたな。クソ野郎。」
沈黙。
しかし、沈黙は否定ではない。
「てめぇ朝から俺に目ぇ付けてたな?」
言葉を投げながら、距離を測る。
「俺が街中だと闘りずれーからって配慮のつもりか?」
「 あ ? 」
「…流石、四季彩威の…1人。」
「!!」
(こいつ…言葉を…)
喋れる。
それだけで、危険度が跳ね上がる。
「…へぇ…ずいぶん流暢に日本語喋れんようになったなぁ。お勉強タイムはおしまいか?」
「そう。これからは」
一拍。
「狩りの時間。」
背中を、冷たいものが撫でた。
「……………悪い…秋夜…」
名前が浮かぶ。
それを振り払うように、力を込める。
「 少 し 遅 れ る!!!」
炎と氷の爆裂の衝撃が『街』を叩き割る。
「!…いきなりだ。」
「てめぇに言われたかねえ。」
(こいつ相手に長期戦は分が悪い。速攻で終わらせる。……弔いって柄じゃねんだが)
一瞬、同じ「四季彩威」、かつての戦友
「凍傷」の顔が浮かぶ。
だが無論迷いはない。
「次は私…」
「もう遅ぇ。」
透明が次は自分の番という宣言を遮る
ド ク ン
鼓動が、相手の身体の芯まで響く。
「《 爆 界 》」
全身の血管内部からの破壊。
崩れかけた相手の隙。
続けて叩き込む、氷と炎。
「エンチャント色彩《青・赤》拳固定。超連撃!!」
凄まじ過ぎる連打連打連打連打連打連打連打の嵐。
相手をもはや「生命」ではなく単なる「敵」として認識した完成された『破壊者』の殴打拳撃。
瓦礫が崩れる音。
「……」
(《爆界》による全身の内部破壊、拳にエンチャントした氷・火の連撃での外部破壊。手応えあり。が…)
(…どうなる?)
「……」
佇む「敵」。
意にも介してない表情。
「やっぱかよ。」
「…来ると分かっていれば最初から内部の治癒力を上げるまで。」
透明が炎夏の認識の浅さを指摘する。挑発ではない。
ただ事実を言葉にしている。
(『来ると分かっていれば?』)
「……てめぇ…春塵の《白識》を覚えたな?」
「ご名答。」
「いつ見て覚えた?」
「最初から。」
(………!)
背筋が凍る。
百戦錬磨の、戦場を跋扈した『最大戦力』が。
「……ストーカー野郎が。」
「今度こそ…こちらの番。」
「!!」(疾い!)
拳の連打…
透明の過去の『無色』や『凍傷』、『秋夜』の記録では見せなかった行動に炎夏は違和感を感じた。しかし
(…俺相手に接近戦?……何考えてやがる…
この程度…!…秋夜や……『凍傷』に比べたら!!)
「《爆か…」
「《視》えた。」
宣言。
ド ク ン
「!??」
(身体の!な…か…が!)
「カッ…!ハッ…!」
(…爆……界!?)
理解が追いつかない。しかし現状は把握した。
(コイツ…強力な模倣術…シビアな条件があるもんだと……思っていたが…)
「…て…めぇ…見れば真似…出来んのか…」
「…...」
(……やべえな…こりゃ…)
久しく忘れていた「危機感」。
理解するしない以前の問題である事に炎夏は気づいた。
(ちっ…青色系統の…自己治癒は…苦手なんだが)
だが逃げない。『透明』が近付いてくる。
ザッザッザッザッ
(時間を稼ぐ)
「…おい…クソ野郎。お前…1年前に…秋夜にやられて…逃げたんだって?」
透明が足を止める。
「…しかも「街中」だった…らしいじゃねえか…本気じゃなくても…『異能持ち』のアイツが…恐くなったか?」
「…」
「んで…今回は周りを先に殺ってから俺が…闘りやすいようにって…か?」
静かに炎夏は青色(治癒・静寂)での治療を進めている。
「意味…わかんねえヤツだなぁ…てめぇはよぉ」
「…………………………………………………」
長い沈黙 そして
「…50名と…65名…」
「…あ?」
「いまキミが…私と闘って…
『 巻 き 添 え 』になった人数。」
「……………………は?」
「私は一度も…」
「殺したとは…言っていない…」
「ただ…」
「『存在を隠して拘束』してる…だけ。」
(……待て…なんだそりゃ…)
透明が淡々と『事実』を告げる。
「最初のキミのあの一撃で」
「33名」
「次に」
「…待て…」
「キミの連撃での衝撃波及び環境破壊で」
「32名」
「…やめろ。」
「次に」
「私とキミとの撃ち合いで」
「やめ」
「50名」
「やめろ!!」
「内」
「子どもが…5人」
「!!!」
「 計 1 1 5 名 」
「 や め ろ ぉ ぉ ぉ ぉ ぉ ぉ ぉ ぉ !!!」
氷と炎が交わった蒼炎が爆裂する。
「…」
透明は無傷で立っている。
そして
「無様。」
その一言があまりにも残酷に事実を突きつけていた。
透明が怖いのは単純な『個』の戦力だけじゃない。
炎夏は壊れかけ…他の『四季彩威』は…どう動くのでしょうか。




