第14章 炎夏が帰ってきた日②終
完成した「在り方」と矛盾している思想の持ち主。
これはそんな「最大戦力」が、少し救われた話し。
〜色でも見えないキズ〜
沈黙が部屋に落ちていた。
言葉がないわけじゃない。ただ、どちらも踏み出せずにいた。
しばらくして、秋夜が小さく口を開く。
「……」
視線を伏せたまま、ゆっくりと続ける。
「……炎夏……大丈夫?」
返ってきた声は、いつも通りだった。
「何がだ? 怪我はしてねえぞ」
その言葉に、秋夜は首を横に振る。
「でも……辛そうだよ」
一瞬、空気が止まる。
何かを言いかけて、言葉が消えたのが分かった。
「……」
不安が胸を締めつける。
「……やっぱり、僕じゃダメ?」
思わず零れた言葉に炎夏がわずかに目を見開く。
「? なに言って……」
秋夜は、ぎゅっと拳を握った。
「ハルみたいに聞き上手じゃないし、気も利かないから……話したくない?」
否定の言葉が返ってくるより早く、炎夏が口を開く。
「! 違う。俺はお前の事は――」
けれど、その続きを待たずに、秋夜は静かに言った。
「僕、知ってるよ」
顔を上げて、まっすぐに見る。
「炎夏が、僕を護ろうとしてくれてるの」
一拍。
「だって今回の任務、最初の指名は僕だったんだから……」
炎夏は何も言わない。
「他にも……たくさん、僕を危険から遠ざけようとしてくれてる」
少しだけ声が震える。
「誤解しないでね。感謝してるし、嬉しいよ」
それでも、と続ける。
「でも炎夏が僕を護ろうとしてくれてる分――」
胸に手を当てる。
「僕は、炎夏を支えたいって思ってるんだ」
一歩、近づく。
「……僕じゃ、ダメ?」
⸻
〜後悔の数〜
長い沈黙のあと、炎夏が低く呟いた。
「……34人…」
秋夜は、何も言わずに頷く。
「今回、俺が殺した人数だ」
淡々と、けれど重く語られる言葉。
「俺の力を見せて、降伏を勧めた。
その夜、俺個人を狙った部隊が来た。……100人くらいだ」
記憶を辿るように、視線が遠くなる。
「何度も銃を置けと警告した。でも連中は泣きそうな顔で襲ってきた」
「『命令通りに戦わないと死ぬ』……《色》で分かった」
秋夜は、静かに耳を傾ける。
「軍のメンツだの、プライドだの、政治だので降伏もしねえ。その上、100人の命をなんとも思わねえ連中に……キレちまってよ」
拳が、わずかに震える。
「気付いたら俺は敵の本部基地のど真ん中にいた。
命乞いする大将たちを《狐火の炎》で焼いた」
――狐火の炎。
徐々に命を削る、炎夏らしくない技。
「地獄の苦しみだったはずだ」
自嘲気味に、息を吐く。
「その時、俺が思ったのは……『ざまあみろ』だ」
短い、乾いた笑い。
「……全部、無駄だったんだ。
1ヶ月近く、殺さねえように戦って」
「やっと辿り着いた先で、最後にしたのは『いつも道り』焼き払うことだった」
「その時、焼いたのが……34人の将官や上層部だ」
沈黙。
「俺は結局……殺すことでしか解決できねえ弱い人間なんだ」
声が、少し掠れる。
「人を焼いて、『ざまあみろ』なんて考えちまう……クソ野郎なん――」
⸻
次の瞬間。
「!!」
強く、抱きしめられた。
「違う!!」
驚いた声が漏れる。
「……秋……夜……?」
秋夜は、力いっぱい腕に力を込める。
「炎夏は、頑張ったじゃん!!
敵が何千っている中を、『殺さない』ように進んだ!」
「確かに最後は、殺して終わったかもしれない!」
それでも、と叫ぶ。
「でも!!
少なくとも夜間に炎夏を襲ってきた『命令された100人の兵士』は、救われたはずだよ!!」
「!!」
「勝てっこないって分かってる戦いを、上層部に命令されて……生きた心地なんてするはずない」
「炎夏はそいつらの絶望や悲しみを、《色》で見たんだよね?」
「だからこそ、上層部の連中が許せなくなったんでしょ?」
涙を滲ませながら、秋夜は続ける。
「当然じゃん!!
僕でもぶっ潰すね!!そんなクソ上層部!!」
思い出す。
「昔、僕と約束したじゃん! 忘れた!?」
炎夏の瞳が揺れる。
――『良いじゃん。理不尽な事も悪い奴も全部ぶっ壊していこうよ。
更地にしちゃおうぜい〜! 一緒にさ! 相性良いよ僕達!』
「……」
「なんの慰めにもならないのは分かってるけど」
「炎夏は、『必要な殺し』以外してない」
「だから……」
声が、崩れる。
「精一杯頑張った自分を……
クソ野郎とか、そんなこと言わないでよぉ……」
涙が、ぽろぽろと落ちる。
⸻
静かに
でも確かに
思い出す。
――そうだ。
――あの時も。
炎夏が
ここまで来れた理由を。
「……秋夜」
秋夜は、嗚咽をこらえたまま顔を上げる。
「……ありがとう」
「大事なこと……忘れてた」
胸の奥が、少し軽くなる。
「そうだな。俺は精一杯やった」
「ちゃんと……変われてた」
「確かに最後は焼き払った。
けど、救えた命も……あったんだよな」
「……うぅ……バカぁ……」
「本当にお前は……あの頃からすげえ女だよ」
「また一つ……吹っ切れた気がする」
「……あ」
「お前がいて、良かった」
そっと、抱き返す。
「……まっったく、全然足りない……」
「え……そ、そうか?」
「今日は僕ん家泊まって。これ、命令」
「……仰せのままに。我が君」
「……つってな」
⸻
少し離れた場所で。
( :˙꒫˙: )ポロポロ
「……炎夏さん、本当にお疲れ様です……
秋ちゃんも……」
そして。
「さて、2人の様子をカメラで。今夜は徹夜です♩」
これまで彼・彼女達の日常と炎夏のエピソードを読んでいただきありがとうございます。
次章は物語の始まり、1年前の厄災、四季彩威の1人を欠けさせた存在。 絶 望 の始まり。




