第13章 炎夏がいない日①
『最大戦力』四季彩威ー炎夏ー今回は彼の後悔と「在り方」の肯定のお話し。
朝の特別室は、いつもより静かだった。
時計の針が九時を指しているのに、どこか時間がゆっくり流れているように感じる。
「はよー」
間延びした声で挨拶しながら、秋夜は椅子に腰を落とす。
視線が、無意識にいつもの席へ向いた。
――いない。
「おはようございます」
いつも通りの穏やかな声で返す春塵は、書類を整えながら微笑んでいる。
「……炎夏はまだ戻ってないんだ」
ぽつりと零れた言葉は、独り言に近かった。
「そうですね。今回の任務は同盟国の紛争地帯での制圧ですから」
春塵の声音は淡々としているが、内容は決して軽くない。
「何やってんだか。さっさと全域焼き払うなり、干枯らびさせちゃえばいいのにー」
冗談めかした言い方の裏に、苛立ちと心配が混じる。
「ふふ……炎夏さんにそんなこと出来ると思います?」
「……絶対ムリー。ホント損な性格してるよー」
口では悪く言いながらも、表情はどこか柔らかい。
「でもそんなところも好きなんですもんね?」
「まぁ……あ、だだだ誰が!!
一々時間にうるさい奴がいなくて清々してるよ!!」
「(´∀`*)ウフフ」
春塵の含み笑いに、秋夜は顔を赤くして噛みつく。
「なにさ!その顔はァァァ!」
(お2人が恋仲になって2ヶ月と11日と9時間34分。
バレてないと思ってる秋ちゃん、カワユス)
そんな内心を微塵も悟らせず、春塵は話題を戻した。
「でも本来なら二週間程で終わる任務なのに、一ヶ月近くかかっているのは少し心配ではありますね」
「まあね。あんなんでも仲間だし」
短い言葉に、本音が滲む。
「間違いなく《交渉》してるでしょうね」
「まーた機関上層部に審問会かけられるよー。
まあ、僕らに関しては形だけなんだけどさ」
「そうですね。ぶっちゃけ私達が本気出しちゃえば、機関ぶっ潰せますしね♩」
「……たまに僕よりぶっ飛んだこと言うよね、ハル」
「ふふ、事実ですし」
「これ聴かれてないー?」
「この室内全体は常に白で《囲って》ますので。
まず音声は拾えません♩」
「はえー。ハルそんなことも出来るんだ。さすが『白竜』ー」
「その二つ名好きじゃないです。人を恐竜か何かみたいに」
「実際、恐竜より恐いじゃん……」
「今なにか?」
「何でもありませーん!!」
そんなやり取りをしているうちに、時間は流れ――
夕方。
扉が開く音と共に、聞き慣れた声が響いた。
「よう。秋夜」
「炎夏!!……あっ」
思わず立ち上がりかけて、慌てて誤魔化す。
「ず、随分時間かかったねー。
どうせ《交渉》とかしてたんでしょ?」
「……まあな。さすがに毎回はスムーズにはいかねえな」
「お疲れ様です、炎夏さん。
報告書はもう完成してるので、ゆっくりしてください」
「え?マジか。助かるが……どうやって?」
「ふふ……《視て》ましたから。
毎日データ、ちゃんと更新してましたよ」
「えェェ!?ハル視れてたの!?
どして僕に教えてくんなかったの!?」
「え?私、初日にちゃんと言いましたよ」
「え、ウソ」
「ホントです。(嘘ですが)」
「……つーか、どこまで広げられんだよ、お前の《白識》は」
「秘密です」
「恐ろしいなおい」
春塵は一瞬だけ目を細め、何かを思いついたように微笑む。
「私、炎夏さんの報告書出してきますね。
一ヶ月近くあるので承認まで少しかかるかと思いますが、あなたは休んでてください」
「悪いな、春。助かるぜ」
「ふふ……無事に帰ってきてくれて良かったです」
そう言って、春塵は静かに部屋を後にした。
しかし残された二人の間には少しいつもと違う空気が漂っていた。




