第11章 仲間から「恋人」へ
とある〈月曜日〉
週明けの本部は、いつもより静かだった。
任務の谷間。書類仕事と待機が主な一日。
「はよ〜」
気の抜けた声と共に、秋夜が現れる。
眠そうな目、気だるげな歩き方。いつも通りだ。
「おはようございます。」
春塵が丁寧に会釈する。
「おう、相変わらず時間守らねぇな。もう11時だぞ。」
「朝苦手〜。」
「気持ちは分かります。」
即座にフォローが入る。
「生活習慣ってのは大事だぜ?いざって時に身体が鈍くなる。」
「はいはいー。始まりましたよー。嫌ですねー武闘派は。」
「俺ら全員武闘派じゃねえか。」
軽口が交わされる空気は、もうすっかり日常だ。
「まあまあ。あ、丁度お昼ですよ。」
「腹が減ってはデスクはできねー。」
炎夏が机の引き出しを漁り、菓子パンを取り出す。
その瞬間、秋夜の動きが止まった。
「……」
「あら秋ちゃん、お弁当作ってきたんですか?珍しい。」
春塵の視線の先には、机の上に置かれた重箱。
「!」
秋夜が露骨に肩を跳ねさせる。
「…まあたまには。」
「じゅ、重箱?食べ過ぎでは?」
春塵は一瞬考え、そして目を見開いた。
「……あ。」
何かを察した顔。
「やるな。感心したぜ。自炊は細かい思考と繊細な動きの訓練に最適って話だしな。」
「ホントに戦いバカですか。あなたは。」
そのやり取りを聞きながら、秋夜は内心で絶叫していた。
――お前の為に作ってきたんだよぉー!!
なんで関心されてんの!?
今そういうのいらねんだよ!
ありがとね!
普段と違うことしてる時点で気付けよ!
春塵は黙って頷いた。
「……でも確かに量多いな。食いきれないんじゃねえか?」
「!!」
春塵の目が再び光る。
「ああ!急に身体の調子が!い、医務室に行かないと!」
「!?ハル大丈夫!?」
「だ、大丈夫です。いつもの事じゃないですか。」
「初めて見たぞ。」
「という事で私は医務室へいってきます。多分3時間くらいかかります。身体がそう言ってます。」
「対話できんのかよ。朝の段階で耳傾けてやれよ。」
「ではでは。」
そう言い残し、春塵は颯爽と姿を消した。
――計画通りです。
〈言葉にしないとダメな時〉ーーーーーーーー
室内には、二人きり。
「…あのさ…」
「おう?」
炎夏は菓子パンを咥えたまま応じる。
「このお弁当…ホントはアンタに作ったんだよね。いつもパンだし。」
「!!」
「僕がこんな量食べれる訳ないじゃん。少しは察してよ〜…」
炎夏は一瞬言葉を失った。
「……え?……わ、悪い…!いやなんか予想外過ぎるとしか…春もいたし…俺の分の弁当とは…」
「そんなに意外かな〜?好きな人に何か作ってあげたいって思うの…普通だと思うんだ…けど…」
秋夜は視線を逸らし、指先を弄る。
プツン
炎夏の中で、何かが切れた。
「……ありがとな。人から弁当作ってもらうのなんざ初めてでよ。」
「ホントだよー。はいこれ。気が向いたらまた作ったげる。」
炎夏は、秋夜の手首を引いた。
「あ!」
そのまま、抱き寄せる。
「ちょ、ちょっと炎夏…」
「なんだ?」
「お弁当…」
「分かってる。ちゃんと喰う。でもよ…」
一呼吸。
「先によ…少しだけ…良いだろ?」
「…ん…ちょ、ちょっと…ここ本部…」
「お前が悪い。」
「ええ!?僕なんかしたぁ!?んっ…!ス、スケベ!」
「お前にしかこうはならねえ。嫌なら別に止めるが。」
「…たまにいじわる。」
その様子を、廊下の陰から春塵が見守っていた。
( 尊 い…)
「きゃ─♡」
「しゅ、春塵様…あの…報告書の受け取りに来たのですが…」
「命に代えても報告書は渡しません!!」
「そんなに嫌ですか!?」
――今日も本部は、平和だった。
あるあるですよね。
次回から少し空気が変わります。




