第10章 「最大戦力」たちの日常⑤終
新しい朝、新しい関係、新しい2人の在り方。
〈朝〉
薄いカーテン越しの朝日が、部屋の輪郭をゆっくりと浮かび上がらせていた。
夜の名残がまだ空気に残っていて、静かなのに、どこか落ち着かない。
「………………………」
ベッドの端に座ったまま秋夜は天井を見つめていた。
「やっちゃった…」
ぽつり、と零れた声はやけに現実的だった。
「も、もう少し段階踏んでも…
軽い女って思われたかも?
つーかどっちから告白したかも分からない感じだし!」
布団を握る指に、じわじわと力が入る。
「……あ、でも炎夏って意外と優しく触るんだな〜…って」
次の瞬間、顔を覆う。
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!何言ってんだ僕はァァ!」
「……やかましいぞ。地雷系かお前は」
低く、少し眠たげな声が背後から飛んできた。
「ひぇ!?起きてたんかい!」
振り向いた先で、炎夏は半身を起こし、腕で目元を隠していた。
「……目も覚めるわ」
一拍置いて、視線だけを向ける。
「……後悔してるのか?」
秋夜は一瞬だけ言葉に詰まったが、すぐに首を横に振った。
「し、してない絶対!むしろ嬉しかっ……」
「じゃあこっち来い」
被せるように言われ、思考が止まる。
「あ」
言葉の意味を理解する前に、引き寄せられた。
「……」ギュ
不意に感じる体温と、腕の力強さに秋夜の身体がこわばる。
「……ちょっと……あ、あんま見ないでよ」
「特権ってやつだ」
即答だった。
「……いいの?僕で……
けっこう独占欲強いよ?」
冗談めかした声音の裏に、ほんの少しだけ不安が混じる。
「問題ねえ。俺は一途だ」
「自分で言うかね」
思わず笑いが漏れる。
「……なあ秋夜」
「なに?」
炎夏は何か言いかけて、言葉を飲み込んだ。
「……ん……いや……何でもな」
その沈黙の意味を、秋夜はなぜか分かってしまった。
「僕も」
「……まだ何も言ってねえだろ」
「分かるもん」
短いやり取りの後、言葉は途切れたが、空気は不思議と穏やかだった。
「……」
抱き寄せられたまま、二人はしばらく動かなかった。
――――――――――
少し離れた場所。
カーテンの隙間、あるいは非常に都合の良い死角。
(◍︎´꒳`◍︎)ホッコリ
すべてを見届けた春塵は、満足そうに頷いた。
(尊い……完全に……尊い……)
次の瞬間、何かを思い出したように目を見開く。
(*゜ロ゜)ハッ!!
「……他人の心配してる場合じゃねえでした……」
そう呟きながら、そっとその場を離れる。
「2人の日常」はこれからも続く。
次回も「四季彩威」としての3人の日常は続きます。
でも確実に1人はいない。忘れちゃいけない。




