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陽暦1490年5月〜班対抗の代表戦③

 サイ教官とウーツァン指南役、バルガン団長が前に集まって何やら話し合いを行っている。


 次の試合順をどうするか、各班代表の実力や王位継承順位などをあぁだこうだ話しているのが聞こえてくる。


「そんなの聞こえないようにやってくんねぇかなあ」

 リョウが聞こえるように独り言を言う。


 サイ教官が咳払いをしながら訓練場の中央に戻ってくる。


「第三戦、第二班ガロン・ツェルク、対、第三班、リョウ」


「ええっ、リョウ連戦なんですか!?酷くない?」

 ジンが批難めいたことを言う、がこれはわざとで、リョウなら何戦しても大して疲れないのは承知の上、ただの不公平アピールに過ぎない。

 

 サイ教官も分かっているだけにジンにイラッとする。


「ここのルールは、団長、そして、指南役!階級社会に拒否権などあるもんか」


 ジンが打って変わったように黙って引き下がる。

 別に喧嘩が売りたいわけではない。

 リョウを心配しているフリをして自分が常識人だと思われたいだけだ。

 ヤナは“相変わらず腹黒”と思いながら横目で見ている。



 二班からガロン・ツェルクが前に出てくる。

 276期生の中で一番デカい。

 身長は2メートルを超え、体重は130キロはあるだろう。

 筋肉も見せかけのものではなく、動ける筋肉だ。

 重量のある長い木剣を片手に持ち、軽々と振り回しながらウォーミングアップをしているが、風圧で砂ぼこりが舞う。



 入校当初から目立っており、その恵まれた体格と圧倒的なパワーで他国の地下格闘技場で上位ランカーだったという。

 今回レオニード派の者のスカウトにより入団しており、言ってしまえばレオニード王子の護衛候補だ。

 

 24歳で大概の新入団員より年上であることを傘に着て、よその班の者にすぐちょっかいをかけるため、迷惑している者も多い。

 ヤナに失礼な感じで言い寄って来たことがあるので、3班全員もうすでにガロンを嫌っている。


 二班はメンバー全員ガロンの勝利を疑っておらず、「そんな田舎モン、瞬殺しちまえ」などと煽ってくる。



「よう山猿。まさかさっきのちょっとした運動で疲れたとか言わねぇよな?」

 前に出て来たガロンがいきなりリョウを挑発する。


「暗い地下にこもってなくて良かったのかい?明るいところじゃアンタの顔あんまり見れたもんじゃないからさ」

 リョウはヤナが以前不快な思いをした分を込めて煽り返す。


「舐めやがってガキが……」

 ガロンの顔の血管がピクピクしている。


「おい、お前ら、これ以上喧嘩するなら外出禁止プラス便所掃除だぞ」

 サイ教官が立場上間に立って止めに入る。

 本心ではリョウの味方だ。


「教官、たぶん今から事故が起こるぜ?」

 ガロンが指の関節を鳴らす。


「サイ先生、もう始めちゃってよ」

 リョウは呑気な表情。

 頭の後ろで腕組みをしている。



「もう知らん。はじめ!」

 投げやりな合図でリョウとガロンの試合が始まった。


 ガロンはいきなり「おおおお!」と雄叫びを上げながら木剣を正眼に構えながら突進してくる。

 隙のない構えに凄まじい踏み込みの速度だ。

 ほぼ体当たりに近い。

 直撃すれば常人なら10メートルは吹っ飛ばされる勢いだ。


 リョウはそれを見て、少し考え、手に持っていた木剣を振りかぶって、目一杯全力でガロンの顔面目掛けて投げつけた。

 目に見えないほどの凄まじい速度で、回転しながら唸りを上げガロンに襲いかかる木剣。


「ウオォッ!?」

 まさか初手で武器を投擲するとは思っておらず、意表をつかれたガロンは急に立ち止まって、飛んでくるリョウの剣を自分の剣で弾いた。

 バッギャーン!という乾いた音を立て2本の木剣は砕け散った。


 ガロンの両手は飛んできた剣の威力で上に流れてしまった。


 リョウは剣を投げた直後から前に踏み込んでおり、10メートル以上離れていたのにすでにガロンの眼前にいた。


「ガァァッ!」

 ガロンは上に崩れた体勢を戻して、リョウを掴むため重心を低く落として待ち構える。


 そこに素直に取り付くリョウ。

 いわゆるがっぷり四つにお互い掴み合いなった。


 リョウが「ふぅっ」と息をつく。


「このガキ!」

 ガロンは怒り心頭だ。

 俺と相撲取る気か!

 なら、地面に投げた後踏み付けてやる!


 ガロンは全力で右上手(みぎうわて)に力を入れ、腰を捻り、左手でリョウの腰あたりの服を掴んで投げを打った。


 しかし、リョウはビクともしない。

 

 まるで大地に根を生やした巨木だ。

 体重ではガロンの方が重いはずなのに、意味不明なリョウの安定感だ。


「なんだありゃ!」

 観衆のほとんどが理解不能なことが起こっている。


「丹田だよ」

 ジンとヤナは、リョウが今何をしているのか良く分かっていた。

 リョウの腰回りの鍛え方は異常で、大抵のことでは体勢が崩れない。


「チッ」

 ゼルダンが舌打ちしながら自らの頭の中のリョウの能力を更新する。


 ガロンはムキになって右に左に体を揺らしながら、足掛けを狙いながら投げようとするが、リョウはときにのらりくらり、時にどっしりとその全ての技を跳ね返す。


「クソがぁ!」

 ガロンがリョウの頭頂部めがけて頭突きをしてきたが、これはリョウには見え見えの攻撃で、首を横にずらして躱し、真横に来たガロンの側頭部に逆に頭突きをお見舞いする。


「う……」

 一瞬白目をむきそうになるガロン。


「うおりゃぁぁ!」

 リョウは隙ができたガロンの胸ぐらを両手で掴み、自らの体を後方に投げ出して、右足でガロンの腹を蹴りながら、ガロンを後方に投げ飛ばした。


「ゲハァッ!」

 一回転して背中を強かに地面に叩きつけられたガロン。

 ズズゥンという地響きがし、砂煙が上がる。


 リョウはそのまま動きの鈍ったガロンの側面から覆い被さり、顔を捻って胸で押さえつけた。

 ガロンは足をジタバタさせるが、うまく重心を押さえつけられており、押さえ込みを解くことができない。

 噛みつこうとするが、見透かされており、距離を離される。

 腕もリョウが手で押さえており、自由に動かせない。

 

 ときどき肘が顔に落とされたり、膝蹴りが脇腹に突き刺さる。


「そろそろ参ったしない?」

 リョウは的確にガロンのダメージを積み重ね続けている。


「だ、誰が……お前なんかに……」

 息も絶え絶えなガロン。


「じゃあ、仕方ねぇな」

 リョウは淡々と言い、左腕をガロンの首元に差し込んで、上半身の全体重をその一点にかけて圧迫した。


「お…………?」


 数秒で意識を失うガロン。


「勝負あり!」

 サイ教官が間髪入れず勝負を止める。


 リョウがガロンの上半身を起こし、背中に膝を当ててグイッと力を入れると、「カハッ」という息吹とともにガロンは息を吹き返した。


「はっ!」

 驚き振り返るガロン。

 鼻血が出て、瞼や頬が腫れ上がっている。


「納得いかないなら、もう一回やっても良いよ」

 息も切らさず、汗一つかいていないリョウを見て、ガロンは「コイツは本物だった」と悟る。


「いや……負けだ。完敗」

 井の中の蛙は自分だったと思い知るガロン。


「そうかい。じゃあ、今度から仲良くしようぜ。同期みんなともな」

 手を差し伸べるリョウ。


「ふん」

 その手を弾くガロン。

 しかし、その顔は意外にも穏やかだ。



 その様子を二班のグスタフ・ノーグルが睨みつけているのをジンは見逃さなかった。




 

 

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