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陽暦1490年5月〜班対抗の代表戦①

 1ヶ月間の外出禁止が明後日に解けるという、王都に住んでいる者からすれば待ちに待った時期。

 

 本日は初めて王都騎士団の武技指南役であり、ヤーマス王国最強の武人ダンマ・ウーツァンによる武術指導が行われることとなった。


 騎士科程276期生は全員訓練場に集められ、各班の担任教官らも周りで見守っている。

 アイザッツ団長も見に来ているのに気づき、皆少し緊張する。



 “剛鬼ウーツァン”と言えばヤーマス王国内外に武名轟く達人であり、新入団生たちはみなやや緊張した面持ちでウーツァンの入場を待っていた。



 その時、階段の上に長身の体格の良い人間の姿が見えた。


 と思いきや、その人はいきなりふわりと跳躍し、訓練場に降り立った。

 ほとんど足音がせず、砂ぼこりも立たない。


 ネコ科の猛獣のようなしなやかさ。

 全員の視線が釘付けになる。


「待たせたな!楽しみにしてたぞ。堅苦しい挨拶は抜きだ。さっそくやるぞ」


 ほとんどの新入団生は剛鬼ウーツァン指南役を見るのは初めてだが、とにかくデカく見えるし纏う空気が歪んでいるような迫力を感じる。


 リョウはウーツァンがセキサイの従弟であることから、そこはかとない近親感が湧いて嬉しい。



 ウーツァンは訓練担当のサイ教官に手で合図を出す。


 サイ教官が前に出てきて説明する。

「今日は、班代表による模擬戦闘訓練を行う。この276期の現時点での最強騎士決定戦だと思ってくれ。特に負けた班にペナルティはないから、楽しんで応援して大丈夫だよ」


 班対抗と聞くとペナルティの心配があるので嫌な気分がするものだが、今回は安心して観戦出来そうでみなホッとする。


「1分以内に代表を決めろ」


 各班それぞれ集まって話し合う。

 三班はとりあえずリョウに決まった。

 とにかくウーツァンに自分の武芸を見せてみたいとの思い、それに以前から気になっているゼルダン・クレストと戦えるかもとの思いから自ら志願した。


 ジンも頷く。

 ヤナも相当な強さで、初見でヤナに勝てる人間は276期生の中にほとんどいないと思っているが、まだその実力は隠しておきたい。


「まあとにかく頼むぜリョウ」

 ファルク班長が半信半疑な顔で言う。


「班長、勝ったら外でメシおごってくれよ。炭水化物以外のヤツでさ」


「……全部勝ったらな?」

 見習い騎士の月給は金貨2枚だが、6人分の焼肉を店で食べると十分の一くらい飛びそうだ。


「班長、大丈夫、自分の分は自分で出すわよ」

 ヤナが助け舟を出す。


「そ、それは助かる」


「落ち着いて見てたらいいわ」


 ファルクはテオ村出身の3人の落ち着きっぷりに驚いていた。



 各班から5名が選出された。

 第一班 ゼルダン・クレスト

 第二班 ガロン・ツェルク

 第三班 リョウ

 第四班 フォン・バルド

 第五班 ライナ・グレイス


 皆なかなかに落ち着いており、もともと武術の経験者といった雰囲気だ。

 

 ウーツァンが顔ぶれを見てニヤリとする。


「いいか、殺し合いじゃねぇぞ。目突きと過度な追撃をした奴の班は外出禁止延長にするからな」

 団長が念を押す。


「はい!」

 

 そうこうしている間に非番の騎士などが集まって来て、見世物の様相を呈してきた。


「第1戦、一班、ゼルダン・クレスト対五班、ライナ・グレイス」


 サイ教官が呼ぶと2人が前に出てきた。

 

「ルールは目突き以外なんでも有り。武器は訓練用の木剣だ。盾は使っても良い」


「おっ、楽しみなカード」

 リョウが軽口を叩く。


 ライナ・グレイスは長身の女性だ。

 金髪の短髪、女性にしてはかなりたくましい体格。

 体幹や動きがとても安定しており、セキサイやウーツァンの系譜の武術の仕込み方に近い、とリョウは以前から感じていた。


 勝気そうだが冷静な表情で、もうすでにアネゴというあだ名で呼ばれている。


「本気出しなよ」

 ライナがゼルダンを挑発する。


「それはアンタ次第だな」

 ニコリともせず木剣を見ながら答えるゼルダン。

 長身で金髪のハンサムがこちらを歯牙にもかけない様子で、ライナは正直ムカついた。


「スカしてんじゃねぇよ?」

 木剣の腹を掌にパシパシ叩きつけながら睨みつける。

 五班のメンバーはアネゴを怒らせるなんて、と戦々恐々としていた。



「はじめ」

 どこか気合いの抜けたサイ教官の号令で2人は木剣を構える。


 2人とも盾を持たないスタイル。

 ライナは両手持ちの剣を右腰の後ろに隠して重心を低く構えている。


 ゼルダンはそれを見て「西方流か」と呟き、右手で剣を構えて半身でスッと立っている。

 こころなしかゼルダンの表情が険しくなったように見える。



「ライナ、うちの流派に近いな」

 リョウは1人呟く。

 そしてゼルダンの構えを見るが、どうにも隙が見当たらない。

 リョウが思っていた以上の遣い手だとハッキリ分かった。


 ライナはじりじりとゼルダンに近寄る。

 しかしやはり隙が見当たらない上、圧力を感じる。

 同世代にこんなヤツがいたなんて、とちょっと驚いている。

 

 睨み合うだけでは仕方ないので、ライナは自分から仕掛けることにした。


 膝抜きで動作の起こりをなくし、滑るように前に出てそのまま木剣を横薙ぎにゼルダンの足元を狙う。

 普通の遣い手レベルでは気付かぬ間にスネを叩かれて悶絶しているであろう速さの一撃。


 ゼルダンはその攻撃を完全に見切っており、ライナの膝抜きと同時に軽く前にジャンプして、そのまま右手の木剣を突き出した。


 その時ライナの横薙ぎの剣は真上に軌道を変え、ゼルダンの手首を下から切り上げようとした。


「それじゃ遅い」

 ライナの剣が届く前、ゼルダンの突き出した木剣は正確にライナの右腕に命中し、ライナの技が反れる。


 ゼルダンはそのまま体勢の崩れたライナの首に足刀蹴りを叩き込み、ライナは3メートルほど後方へ吹き飛ばされた。


「ゲハッ!」

 息が止まり、意識が一瞬白く飛びそうになるライナ。


 ゼルダンは着地と同時にライナの横まで移動しており、膝立ちで喉元に剣を突き立てる仕草で止まっていた。

 まばたき一つせず、とどめの体勢でいる。

 

 声の出ないライナは地面をパンパンと叩いて降参する。


「それまで!」

 サイ教官の声もちょっと熱くなっている。


 どよめく観衆。


 振り返りもせず壁に戻るゼルダン。


「クレスト家の呪いか……」

 硬い表情で呟くウーツァン指南役。


 今回、治癒魔法が使える三班のセラが救護を行なっている。

 少しずつ回復するライナだが、しばらく固形物を食べるとき喉が痛みそうだ。



「アイツ全然本気出してねぇな」

 リョウがヤナに言う。


「そうよ。魔力のかけらも使ってなかったわ。何となくだけど、西方流の武術との戦い方、良く分かってるみたい」


「あ、やっぱそう思う?先読みにしては流れが完ぺき過ぎなんだよな~。アイツと戦いてぇ」


「あの人もリョウをすっごく意識してるわよ」


「ふっふーん、それは分かるぜ。目も合わせて来ないけどな!」



「第2戦、三班、リョウ、対、四班フォン・バルド」


 リョウはぴょんぴょんと飛び跳ねて試合場に出て行く。


 体を動かしたくてたまらない気持ちでいた。


 


 

 

 






 


 

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