陽暦1490年5月〜初任騎士科程の日常
リョウたちは、王都騎士見習いになり、まず騎士学校でみっちり仕上げられることになった。
新入団生たちは、最初の一カ月は、外出許可が出されず騎士団の敷地内から出てはいけないことになっている。
なお、現在ハクヤはリョウの従魔として、騎士団の従魔舎で過ごしている。
そのうち適性が認められて申請が通れば、隊舎内を自由に動けるようになるらしいが、そこはサイ教官にお任せしている。
朝は6時に起床。
運動着で訓練場に集合し、国旗掲揚ののち、体操。
その後整列し、号令をかけながら8キロほど走る。
部屋に戻って着替え、清掃作業をする。
その後食堂で教官騎士らと一緒に食事。
貴族たちと一般市民とではメニューに大差は無いがテーブルが分けられている。
隊服に着替えて講堂に集まり朝礼。
騎士の誓いを唱和し、教場へ移動。
午前中は座学。
法律、軍略、魔術基礎などを集中して学ぶ。
ヤーマス王国の建国王は、文明の進んだ異世界からの転生者で行政改革に力を入れていたことから、現在のヤーマス王国は行政や法律の制度などは割と民主的な部分が取り入れられている。
騎士の職務執行も基本的に法律に則っており、法的な根拠のない行動は制限される。
そのため、見習い騎士たちは、これまで馴染みのなかった刑法や騎士職務執行法などを1年間かけて覚えさせられる。
リョウはなんとなくそれらの法律をもともと知っていたような気がするほど、しっくりと理解できた。
むしろ貴族のような特権階級の者たちの思考の方が理解不能だ。
午前の講義が終わると、食堂で全員揃って食事。
これでもかと言うほどの炭水化物を摂取させられる。
一旦宿舎に戻り、午後からは武器戦闘、格闘などの訓練が夕方までひたすら行われる。
日課時限の合間の休憩は10分しかないのに、装備品の付け替えや着替えの回数が多く、いつも時間に追われてドタバタさせられている。
男女問わず同じメニューで訓練するので、盾を持って走る訓練の際などは、体をあまり鍛えてこなかった同じ班のセラのような子はいつも泣きながら走っている。
リョウからするとどの訓練も運動強度が軽すぎるが、ジンからの忠告により、今のところ悪目立ちしないよう自分を抑えながら大人しくしている。
どうも自分たちは普通にしているつもりでも、本気を出すと他の班からうとまれそうな気はしている。
夕方まで体を動かした後は、再び清掃活動。
その後国旗を降納し、また食堂で一斉に食事。
食事が終わったら自主トレーニングの時間になる。
そこでリョウたち3人ははじめて重い鎧などを身に付けて組手をしたり、目立たないように外を走ったりして過ごす。
帰隊してからは入浴し、翌日の予習や課題をこなして午後10時には寝る。
そのような生活が一月ほど過ぎ、皆徐々に生活に慣れてきた頃、班ごとの特性が浮き彫りになってきた。
三班の部屋に班員皆で集まって話している時に、気になっていたことをヤナが聞く。
「ファルク班長もアルマさんも、セラもみんな魔力持ちなの、この班ちょっと偏り過ぎじゃない?」
ヤナが魔力を隠蔽しており、魔力持ちだと気づいていなかったので、ファルクたちは指摘されてとても驚いた。
「えっ、ヤナちゃん魔力持ちなの?」
セラが聞いてくる。
「知られたくないから隠してるの」
ヤナがシマーを目に集めて見せると、3人は驚いた。
「全然分かんなかった。完璧な魔力隠蔽だよ」
アルマも魔力を隠蔽したいのだが、なかなか隠すのは難しいと思っていたので、どうやっているのか知りたいくらいだ。
「……まあ、同じ班だから教えとくか。俺たちの親は、みんなカイゼル侯爵の派閥にいるんだよ。その中で魔力持ちだった俺たちにカイゼル公爵はとても良くしてくれてな。力をつけていずれ恩返ししなきゃって思ってる。そっちはどうなんだ?」
リョウ、ジン、ヤナは顔を見合わせて頷く。
ジンが答える。
「僕らは、ずっと前から担任のサイ教官から武術を教わったりしてて、お世話になってるんです。それで、サイ教官はカイゼル公爵の仲間みたいだから、まあ必然的にそっち寄りの考え方って感じですね。そうそう、昔、村を襲われたのでレオニード公爵は嫌いです」
思わずファルクは吹き出す。
「その話、二班にはするんじゃないぞ。あそこは全員レオニード派閥だからな。特に班長のグスタフ・ノーグルは、レオニード公爵の参謀、ヴァルター・ノーグルの息子だ」
「あっちは周り全員敵みたいな目で見てるけど」
リョウが感じたまま口にする。
「やっぱそうか。ジェイナス王子派閥の一班とはそのうちぶつかりそうだと思っていたが。とにかくうちの班はうまいことやり過ごそう」
「今のところは……ですね」
ジンは不敵に笑う。
「そうだ。ジン、今後の流れどう見る?」
「国王陛下の崩御とともに内戦が勃発するのはもはや避けられない情勢。内戦になると、王都騎士団は形骸化して、ここはほぼもぬけの殻状態になるでしょう」
「そうだ。騎士たちの半分以上がそれぞれの派閥に戻って軍隊として動くようになるからな。治安の悪化は避けられないが」
「そこでうまく立ち回れば、のちのちカイゼル公爵のお役に立てるかもしれません」
「なんらかの手柄を立てるってか。そんなこと上手くいくかね?」
「いずれ時機がくればあるいは」
「自信有りそうだな」
「直接戦闘になりさえすれば、うちのリョウは負けませんからね」
「リョウはそんなに強いの?」
アルマがいぶかしそうに言う。
「さあ?死んでないから運は強い方だろうね」
リョウがとぼけながらニヤリとすると、ファルクたちは何か得体の知れない感じを受けた。




