陽暦1490年4月〜初任騎士科程第276期生
王都の朝6時30分。
朝日の射す見習い騎士寮の一室で、真新しい制服に着替え、リョウは今日の「初任騎士科程第276期生入団式」に備えていた。
ひとりひとり採寸しあつらえられた白いシャツに黒いスラックス。
服の上からでも肩や胸や腰回りが分厚いのが分かるミチっとした体格。
今175センチくらいだろうか、そのうちサイズがまた上がりそうだ。
肩に貼られた紋章「大木と根元の大地に刺さった剣」が王都騎士団の証。
部屋の隅にいつも着ていた皮鎧が置いてある。
今日は少しだけ肌寒いが、山育ちのリョウにとっては暖かいくらいだ。
個室のドアがノックされる。
「準備できた?」
寝坊を心配したジンが見にきた。
185センチの長身に制服がとても似合っている。
男女ともつかない整った顔立ちの制服姿は現実味が薄く、このまま街に出たら女性たちからキャーキャー言われるのは間違いない。
「おう」
「髪の毛整えたら?」
「したことねえや」
「待ってて」
ジンが整髪料を持ってきてリョウの頭につけていじってやる。
「こんな感じで毛先をちょっとずつまとめて捻って後ろに流す感じ……うん、かっこいいよ」
なかなかワイルドな感じに仕上がった。
「おおー、みんなこんなんしてたのか。自然になるもんだと思ってたわ」
「そんなわけはない」
しばらく緊張をほぐすため2人で何気ない会話をしていると、廊下の伝声器から寮内にアナウンスが流れる。
「新入団生は、5分以内に講堂に集合」
リョウとジンはお互いに服装チェックをして、講堂に向かった。
講堂の入り口にはヤナが制服に身を包んで立っていた。
緩いウェーブの赤毛をポニーテールに纏めている。
スラっとして凛とした佇まいの制服姿のヤナは、以前にも増して声を掛けづらい程の高嶺の花感を醸し出していたが、リョウたちを見て年相応の女子の顔になる。
「よっ」
「ヤナ似合ってるねぇ」
リョウは思わず口から感想が出ていた。
「アンタたちもね。特にリョウは意外だったわ」
「あら、そう?今まで見る目なかったのね」
講堂の入口には、席次表が貼ってあり、3人並んで最後列だった。
今期の新入団生は合計30人。
試験会場で目立っていた者もいれば、全然見覚えのない者もいる。
約半数の顔に見覚えがある。
「半分が試験以外で入団みたいだね……ボクら実質倍率100倍以上だったか」
ジンがリョウにこっそり耳打ちする。
「結構みんな強そうだな」
リョウが見る限り、新入団生はだいたい何がしかの訓練経験がありそうに見える。
特に数人、佇まいから分かるが、猛者が混ざっている。
講堂に教官騎士が3人入ってきた。
入団式典の流れを説明する。
その時、今期の総代表が発表された。
「総代、ヴィクトル・フォン・ヤーマス!」
「はい」
名を呼ばれた体格の良いブラウンヘアの青年が静かに椅子から立ち上がると、講堂内の空気が一変する。
“ヤーマス王家の子弟!?”“ジェイナス王子の3男!?”
一般入試で入団した者には知りようも無かった情報で皆驚かされていた。
リョウは隣のジンがニヤッとした気がした。
悪いことを考えていそうだ。
「副総代、ゼルダン・クレスト!」
「はい!」
リョウがこの立ち上がった金髪の青年を意識するのはこれで3回目だ。
年齢はリョウと同い年くらいだろうか、身のこなしに隙がなさすぎて、同世代ではジン、ヤナ以外に見たことのないレベルだ。
王都のような大都会でどのような生活をすればこんな風に育つのか、リョウはとても興味が湧いている。
誰のどのような思惑か、同期生一同、とにかくこの2人をリーダーとして1年間まとまっていかなければならない。
式典に向け、本番前のリハーサルが行われた。
その冒頭でとにかく、騎士礼法の「起立、気をつけ、敬礼」の練習をさせられた。
厳粛な空気の中、全員が一糸乱れぬタイミング、角度、節度の統率感を示すまで、ひたすら動作を修正をさせられる。
今回の場合は無帽なので、敬礼は背筋を伸ばしたまま腰から15度お辞儀するものだ。
なお、手を曲げる敬礼は帽子や兜を被っているときだけだと教えられる。
また剣を持っているときも違うらしい。
全員のタイミングが揃うまで、何度も何度も何度も号令がかかる。
衣擦れの音や椅子から立ち上がる音などで、周りを見渡すことは出来ないが、全員が揃ってくるのが分かる。
もう良いんじゃ?というところまで来てから、さらにしつこく念入りに修正される。
ヤナが“いい加減にしなさいよ”と心の中で思い始めた頃、リョウは逆に面白くなってきて、どうせなら完璧な動作を体に染み込ませようと本気を出し始めた。
異様なキレの良さ。
ただのお辞儀が「バオッ」と風を切る音がする。
“ちょっと待てぃ!”
隣のジンとヤナは音のたび心で突っ込み、顔面の神経に全集中し笑いを堪えなければならなかった。
とんだ伏兵にこっそりリョウを睨むヤナ。
式典開始の直前まで、時間の許す限り1時間以上こってりみっちり敬礼の練習をさせられた。
本番の式典では、来賓挨拶や王室からの祝辞などいろいろ読み上げられたが、皆、礼法のタイミングに集中しているあまり、どのような流れだったか頭に入ってこなかった。
式典が終わると少しほっとする時間があった。
「あれは通過儀礼だよ。お前らすでに騎士団に所属してるんだぞ、つべこべ言わずに従えっ、てね」
ジンが言うと、リョウはあのしつこさが腑に落ちた。
「もう一生忘れないわ敬礼のやり方」
ヤナは途中から無意味だと思っていたからご立腹だ。
そのまま班編成が伝えられた。
6人を一班とし、全部で五個班。
リョウたちテオ村組は3人まとめられていたが、騎士団長の配慮だろうか。
残りの3人は「ファルク・リンデル、アルマ・キルステル、セラ・ヴェリオール」の3人の男女だった。
「ファルク・リンデル、男性、18歳」はワイルドな赤毛の短髪で体格が良く、明朗な兄貴分といった感じだ。
はじめに「おう、俺はファルク。この班の班長に決まった。よろしくなっ」と声を掛けてきてリョウたちに好印象を与えた。
「アルマ・キルステル、男性、17歳」はやや小柄で痩せているが人当たりの良さそうな少年だ。
「キミたちとっても目立ってたよ。これからよろしくね」と言われたが、3人は素直に好意として受け止めることとした。
「セラ・ヴェリオール、女性、15歳」は清楚な小柄の黒髪の少女だ。
「あ、あの、よろしくお願いします……」と言ってもじもじしており、ジンの顔を直視してこない。
6人が顔合わせをした後、小教室に移動させられる。
ドアを開けてリョウが中に入ると、そこにはサイ・ハグーダ騎士がいた。
「えっ。先生、なんでいるの?また武術指導者研修?」
戸惑ったリョウが聞く。
ファルクたちは「知り合いなのか?」と言う顔をする。
「んー、実は先般、県都から王都に異動になってね、キミたちの担任教官をやることになりました。1年間よろしくね」
「ええーっ!!」
さすがに驚くテオ村の3人。




