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陽暦1490年4月〜旅立ち

 試験終了と同時に合格通知をもらい、不思議な気分で一行はテオ村に戻ってきた。


 帰る道中、サイ・ハグーダ先生に感謝を述べるためセオドール県都騎士団に立ち寄ったが、あいにくとサイは留守にしていたので会えなかった。



 帰って早々、村役場兼学校兼セキサイの家に集まる。



「そんなことあるんじゃな」

 セキサイも王都騎士団の採用方法は知らなかった。


「わかっていたけど寂しくなるね……」

 サイラー先生ややがて退官するスミス騎士がしょんぼりする。


「たまには帰ってきなさいよ」

 ヤナの父、フリード村長は号泣して話せないので、マギーが言ってやる。

 妹リナも7歳になっており、姉がいなくなるのはとても寂しそうだ。


「とにかく今はお祝いをしましょう。おめでとう!」

 すっかり頼もしくなったトール騎士が音頭を取る。


 村人全員が集まってお祝いのバーベキューをする。

 この日は飲める大人は全員痛飲して散々な二日酔いになってしまった。

 

 ヤナやジンは同世代の年頃の子たちから外に連れ出されて告白されたりしていた。


 リョウは酒を少し舐めたことぐらいはあるが、酔うと身体操作に悪影響が出そうな気がするので、飲まないでおこうと心に決めている。

 その差が致命的な隙を作ると思うと、酒はずっと飲まなくっていいとすら思っている。

 しかし、みんなが酒を飲んで楽しそうにしているのを見るのはとても楽しい時間だった。

 だが、この時間もあと数日で終わる。

 

 後は、爺ちゃんといつものように過ごしたい、とリョウは思った。



 旅立ちの前日、リョウとセキサイは早朝から家の前の広場で、動作のゆっくりとした組手を行っていた。

 お互いに全身のシマーを体内に循環、移動させながら、極力ゆっくりと相手の隙めがけて突いたり蹴ったりしている。

 当たればシマーの分が痛いが、それはシマーで防げる。


 他人の目から見ればなぜそんなにゆっくり動いているのか不思議なくらいだが、2人とも至って真剣にやっている、最高難易度の鍛錬の一つだ。


 この鍛錬を通じてセキサイにはいかにリョウがひたむきに武術に取り組んでいるか、言葉無くとも否応なしに分かってしまう。


 “昔からがむしゃらでひたむきだったが、今も変わらんな。ずっと変わらんじゃろ“

 “ほら、この突きの真っ直ぐさよ、惚れ惚れするわい”



 日が高くなるまでお互いに無言の技の応酬が続いてやっと終わった。

 2人とも汗だくだ。


「よし」


「押忍!ありがとうございました」


「毎日稽古するのじゃぞ。騎士の仕事のことはよく知らんが、普通の者が経験出来ないことを経験するのじゃろう。お前は体は強くなったが、精神修養にはとても良い仕事だと思う」


「うん。でもちょっと不安もある」


「人々のためを思って働くんじゃ。そしたら間違わん」


「分かった」


「お前は武人として強い。そしてまだまだ強くなる。これからは弱きを助けよ」


 リョウはこのとき生まれて初めてセキサイから「強い」と言われた。

 いつかセキサイに認められる日が来るのを心のどこかで願っていた。


 しかし、意外にもそこまで嬉しくなかった。


 むしろ義務感のようなものが芽生えてきた。


「おう。この拳と爺ちゃんの拳に誓うよ」


「よし、もう行け」

 セキサイはうつむきながら出来る限り平静を装った声で言った。


 赤子の頃から手探りで精一杯育ててきた孫が、明日旅立つ。

 思えば、赤子の頃から寝返りの稽古をしたり気を失うまで走り回ったりと変な子供だった。

 しかしただひたすらに真っ直ぐだった。

 その真っ直ぐさにこちらも心を打たれてきた。

 思い出すリョウとの日々。


 想像していた以上の喪失感がセキサイの心を浸す。


 リョウが走り去った広場が妙に静かだ。


 ハクヤが擦り寄ってきた。


「ハクヤ、お主もついていけ。いずれリョウを助けてやってくれ」


「ニャア」





 


 

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