陽暦1490年2月〜入団試験
初日は筆記試験で、ヤーマス大学の講堂で行われた。
試験時間は3時間。
基礎的な学力や法律、社会の知識などを網羅した1000点満点の筆記試験となっている。
テオ村の3人はこれまで1年以上、特にリョウはジンからみっちり教わりながら一緒に勉強してきたので、頭を悩ませつつもなんとか全問記述して回答を終える。
なお、試験会場でジンは誰よりも早くペンを置いていた。
そのときジンは、自分で作った模擬試験の方が難しかったと思っていた。
翌日には、体力試験と実技試験が騎士団の訓練場で行われた。
なお、試験上の注意事項として、魔力持ちの者がいた場合、魔力を自由に使っていいと言う。
体力試験ではまず長距離走が行われた。
100人ずつ、一周400メートルの運動場を5周走らせられる。
テオ村の3人はそれぞれ別のグループで走ったが、本気を出さなくても全員ぶっちぎりの1番だった。
特にヤナのグループには以前騎士団の資料室で顔を合わせたカーミラ伯爵の令嬢エステルがおり、最初の3周まで美女2人がトップ争いをしてざわついた。
以前、このエステル嬢に田舎臭いとバカにされたのをヤナは忘れていなかった。
ヤナは出来ればずっと実力を隠しておこうと思っていたが、並走されているのがイヤだったのて、最後の800メートルをちょっとだけ本気で走ったところ大差をつけてしまった。
屈辱に震えるエステル嬢には誰もかける言葉がない。
また、見ていた他の受験生はゴールしたヤナの美貌に見惚れつつ、2000メートルを走ってもヤナが全く息を切らしていないことに気づいて驚愕していた。
そもそも標高の高いテオ村で生活するのは高地トレーニングしているようなもので、その上毎日無茶な訓練を続けていたため、3人の心肺機能は常人を遥かに凌駕していた。
他のグループを見ても、ときどきぶっちぎりの速さの者達が何人かいる。
ヤナにはその者たちが大体魔力持ちだと分かるが、ヤナ本人はまだ魔力を使う程ではないと思っており、魔力を隠蔽していた。
おそらく彼ら魔力持ちは合格するだろう。
5人くらいいるようだ。
リョウとジンはヤナからそれとなく誰が魔力持ちか教えて貰う。
その中にリョウは以前騎士団の資料室で見た金髪のやつがいたのに気づいた。
殺気を飛ばしたのに気付いて、敢えて無視した隙のないヤツ。
あれからさらに腕を上げているように見える。
彼はゼルダン・クレストという名前だが、リョウはまだ知らない。
他にも懸垂や立ち幅跳びなどが行われたが、リョウなどは全部満点の規定を軽々超えて測定不能になってしまうので拍子抜けだ。
立ち幅跳びで5メートルの測定範囲を遥かに飛び越えたリョウに対して、試験官や他の受験生は開いた口がふさがらない。
最後に、実技試験が行われた。
これは、参加者を8つの集団に分け、それぞれの頭にはちまきを付けさせる。
その中で5分という制限時間内に人のはちまきをいくつ奪えるか、といったバトルロワイヤル形式の模擬集団戦闘だった。
禁止事項は武器使用、目突き、金的攻撃、噛みつき、戦意喪失している者への過度な攻撃などである。
はちまきを奪われた者は戦闘の範囲外に出なければならない。
この時は採点官が周囲に複数おり、特筆すべき動きをしている者にはどんどん加点がなされていく。
この集団戦闘においてもテオ村の3人の動きは群を抜いていた。
なにしろ動きが速すぎて、普通の受験生では触れることすらできない。
3人とも見かけた小競り合いの隙を見て当事者の背後から掠め取る戦法で、制限時間内に自分の周囲の人間全てのはちまきを奪い取ってしまい、誰も近付かなくなってしまった。
またアイツらか、という沈黙。
リョウたち3人を含め、明らかにレベルの違うものがテストをしていくうちに浮かび上がってくる。
3人が受験科目全てを終えて出張所に帰ろうと正門付近に集まっていると、以前騎士団を訪問した時に隊舎内を案内してくれたビスタ騎士が駆け寄ってきた。
「ハァハァ、見つけた。久しぶりだねみんな。騎士団長がお呼びだよ」
リョウたち3人は顔を見合わせる。
「なんだろうね」
騎士団長室に行くと、騎士団長アイザッツ・バルガンその人が出迎えてくれた。
「おう、呼び立てて悪かったな。お前達3人、とても目立っていたぞ。春からよろしくな」
「えっ!」
「お前達3人とも合格させといた。ホレ、合格通知。さっき作ったが効力は本物だ」
「ええっ!」
「善は急げというだろう。事務所に行って後の手続きを聞いてくるといい」
「もう答案の採点も済んでいるんですか?」
ジンが気になって尋ねる。
「実はな、俺が見て実技試験で特筆すべき点があったらそいつぁ有無を言わさず合格なんだよ。筆記試験はおまけで、5割取れなきゃ足切りくらいの意味だ。だが、お前らは全員8割以上取れてたな。特にジン、ほぼ満点だったぞ。いずれ軍略科に推薦してやるからな。また、ヤナお前、まだまだ実力を隠してるな。王族の護衛騎士候補として鍛えてやる」
そう一息に言うと、バルガン団長はリョウを見つめる。
「リョウ、お前はウーツァン指南役がなぁ……まあ、うん。まだ言わないでおこう」
「えっ、そりゃないよ」
リョウはあのウーツァンの豪快な笑い顔を思い出していた。
「ははは。お前ら田舎から出てきて王都は勝手が分からんだろう。貴族どもや大商人たちが接触してくることもあろう。各王位継承候補の子弟たちの派閥争いなどに巻き込まれるだろうが、自分を見失わず、国民のために頑張ってくれよ」
「いきなり大変そう」
リョウは思ったことを口にする。
「まあ、これも時代の流れよ。そうそう、それぞれ班編成するけど……まあ楽しみにしておけ。じゃあな」
そう言って騎士団長は去って行く。
途中で別の集団に声をかけたりしているので、同じようにサプライズで合格を伝えたりしているのだろう。
「なんだか、まだ実感わかないね。お父さんになんて言おう」
ジンにも予想外のタイミングだった。
「とりあえず、帰ってみんなでご飯食べに行きましょ。気疲れしちゃったわ。」
ヤナは少しホッとしている様子だ。
「なんでオレだけなんも言ってくんないのかねぇ」
リョウはちょっとだけモヤっとしている。
ウーツァンの名前が出た以上、武術に特化した何かをさせられるのだろうか。
3人はまさか試験終了直後、すぐに合格を言い渡されるなどと思っていなかったので、予想外のタイミングに戸惑いを隠せない。
3人が騎士団の正門を出ると、建物の影に沈みゆく夕陽がやけに眩しかった。
2カ月後、自分たちはこの広い街で暮らし、騎士見習いとして働き始めるのだ。
リョウは、セキサイとの山小屋の生活を思い出し、寂しい気持ちが抑えられなくなってきて、少しだけ、2人に気付かれないように泣いた。




