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陽暦1490年2月〜入団試験まで

 セキサイとリョウは、昨年の夏から山小屋を解体し、家畜たちとともにテオ村の中に完全に引っ越していた。

 

 これは、セキサイが高齢者であることを自覚し始めたからで、この先また大病を患ったら困るという理由からである。

 今は家畜を村の農家たちに譲渡し、前村長の家を改築して住んでいる。



 セキサイは、リョウに家伝体術の皆伝を与えた後、しばらくの間何事もなかったように日常を送っていたが、数日後の夜、神妙な顔つきをしてリョウを居間に正座させ話し始めた。


「なに、改まっちゃって」


「リョウ、よく聞け。お前は、実はワシとの血のつながりはない」


「お、前言ってたオレの出生について?複雑な家庭の事情ってやつ?」


「お前はある晩いきなりワシの小屋におったんじゃ。礼神ルファという女神に夢で託された形でな。不思議な話だろうが、本当じゃ」


「……そうか」


「驚かんのか」


「うん。誰に聞いてもオレの両親の話、一切出ないから親は死んだか何かでいないんだろなって。まさか女神サマに託されたなんて思ってなかったけどね」


「嘘くさかろう?」


「爺ちゃん嘘つかんし。オレ前も言ったと思うけど、以前からちょいちょい見覚えのない風景や聞いたことのないはずのメロディがハッキリと頭に浮かんだり、食べたことのないはずの物を食べたとき、異常に懐かしく感じたりして、どっか別の世界の記憶でもあるんじゃないかって」


「……ふむ」


「で、ジンに聞いたらそれは前世の記憶かもしれないって。建国王アルフレッド・ヤーマスがそんな人だったって。そんなの考えてたら、オレ、以前は別のところで生きてた人間なんじゃないかなって思ってた」


「そのようじゃな」


「でも、親がいないとか自分に前世があるとか、今が充実してるんでなんも気にしてないよ。それより、爺ちゃんの家族の話を聞きたいね。まだ、娘さんが居るんだろ」


「なんで知っとるんじゃ」


「王都でウーツァンさんがちらっと言ってたよ。娘さんも元気かなって。そんで家の中に大事にしまってある外国からの手紙思い出してさ」


「あやつめ」


「セイさんって言うんだろ。元気なうちに会いに行きなよ」


「……そうじゃな。お前と会わせんとな」

 セキサイは不意を打たれて少し目頭が熱くなったが堪えていた。



 そのあと、セキサイは自分が呪われたり山に引っ越した経緯などをリョウに説明したが、リョウは全く興味なさそうだった。



 その日、続けて秘伝奥義「無間(むげん)」のやり方を伝承する。


 この技は身体操作とは違う類いの技で、その本質は、シマーを使って肉体のブーストを行うものである。

 ヤナのように魔力持ちであれば、訓練により自然にできることではあるのだが、それは10万人1人の逸材の話。


 「無間」は、魔力持ちでない者でも、極限までの肉体修行によって無理矢理シマーを活用できるようにするという、いわば脳筋魔法とも言うべきものであった。


 なお、そのレベルまで至れる者自体は10万人に1人どころではない。


 そのためには、魔力持ち以外では見えないシマーをまず感覚でとらえる必要があるが、これを武術家たちは以前から”気“という概念で捉え、説明してきた。


 その“気”を完全に掌握し、体に巡らせることが出来れば「無間(むげん)」は発動するとセキサイはリョウに教えた。

 

 今、リョウは“気”を発することが出来る状態だが、この先はそれを掌握してコントロール出来るようにしていかなければならないという。


「そのためには、シマーが見える嬢ちゃんに修行を手伝って貰え。そうすればきっと早くコツが掴めるはずじゃ」


「ヤナめんどくさがりそう。のんびりやるよ」

 リョウは、今では乳幼児のころから発露していた病的なまでの強さに対する憧れという特性が薄れている。

 それでも人並み以上の向上心は残っているので、新たな技の修得に関してはワクワクしていた。



 ここ半年ほど、テオ村では、リョウ、ヤナ、ジンの王都騎士団受験ムードを全員で見守っていた。

 サイ先生にお願いして、ジンの作った模擬試験問題を確認してもらい、内容にお墨付きをいただいた。


 皆で集まって勉強をし、模擬戦などをひたすら繰り返した。


 3人は、やれることは全部やった、と言えるほど対策し清々しさすらあった。

 

 なお、合間で、リョウはヤナに厳しく指導されながら、己から発されるシマーの制御方法の基礎を教わっていた。

 

 まずは立って腰を落として両手を前に出し、水瓶を抱っこしているイメージをする。

 その後、その水瓶を腕の体温で温めるイメージを行う。

 するとリョウのシマーは腕に集中し始める。


 次にイメージの水瓶を手先で冷やすイメージを行う。

 今度は、腕に集まったシマーは手に集中していく。


 リョウは、ヤナからこの感覚を覚えるまで、一日中イメージトレーニングを行わせられた。

 

 手と腕のシマー移動のコツが掴めるようになると、次はその移動の部位を徐々に足や頭、腹、背中に広げていく。


 とにかくこれまで全身で垂れ流していたリョウのシマーを、見えないまでも感覚で認識できるようになるまで、ひたすらヤナ先生による厳しい反復指導が行われた。


 後にリョウはその時のヤナについて「ある意味で爺ちゃんより厳しかった」と述べている。


 その甲斐あってリョウは、みっちり半年かけて、シマーの感覚を少しずつ掴み始めた。

 

 これまで魔力持ちの者が見たら眩しいばかりのリョウの青いシマーだったが、今ではうっすら明るいといった程度まで抑えることが出来るようになっている。


 

 いよいよ一行は村人一同に送り出され、王都に向けて受験のため出発した。

 今回の引率はジンの父、バン1人である。

 

 3人と1匹は、5日かけ王都に到着した。

 今回も王都ではセオドール県の出張所に宿泊する。


 事前に連絡を受けていたハリス審議員が歓迎する。

「セオドール県から王都の騎士団を受験するのはあなた達だけでしたよ。頑張ってくださいね」


 騎士団事務所に到着報告して必要書類を提出し、試験会場に向かう。


 今年の受験人数は約2000人。

 いずれも15歳から25歳までの者だ。


 合格予定人数は30人程度であり、倍率は60倍超。


 試験は明日から2日間にわたって行われる。


 3人は騎士団の周りをランニングして明日に備えることにした。

 


 

 

 


 

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