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陽暦1488年5月〜世界の屋根⑥エピローグ

「セキサイや」


 セキサイは女性の声に呼びかけられて目を開けた。


 暗闇の空間の中、宙に浮いた自分。


 そして見覚えある神々しい女性。


「お主か。久しぶりよのぅ、詐欺女神ルファ」


「うっ、13年ぶりに会ったというのにいきなり詐欺師扱いはヒドいです……」


「フフフ、冗談じゃ。もう許しておるどころか、お主には感謝しておるのじゃ。ワシの人生、お主がリョウを使わしてくれたお陰で充実しておるよ。して、何用か。ワシはいよいよ死ぬのか?」


「はい、死にそうです。私が今回あなたの夢に出ているのは、ちょっとした言い訳の為です」


「なんじゃそりゃ。説明せい」


「あなたは今、内炎という症状で苦しんでいます。その原因ですが、リョウの魂に根ざしていた前世からの悪しき想念が、リョウのひたむきさによって魂の中から追い出され、近くにいたあなたの体に乗り移ってしまったからです」


「わからん」


「風邪ひきさんの子供と一緒にいたら子供は治ったけど自分にうつったみたいな話です」


「わかった」


「この可能性を予見できなかったのはワタクシの不徳の致すところ……神として想定外の出来事で、あなたはここで死ぬ予定ではなかったのに、まさに今死にそうでごめんなさい」


「意味は分からんが、要するにお主の手違いのせいでワシは死にかけておるのじゃな」


「実は、リョウもあなたの体を治すため、薬草を採りに凶悪なドラゴンの寝床付近まで行き、戦って死にかけて」


「お主も死にかけてみるか?」


「ちょ、ちょっと待ってプリーズ!殴らないで!さすがにほっとくと寝覚め悪くてリョウに神託の武器を持たせたから!」


「神託の武器とは、いわゆる聖剣なんちゃらのたぐいか?」


「壊れやすい石の剣……てあ痛ァ!」


「お主なかなか頑丈だな」


「暴力ダメ!絶対!女神の頭は三度まで!」


「リョウはどうなっておる?」


「構えないで!生きてる、生きてます!」


「それなら良かった。お主とワシ、互いのためにな」


「怖……この人。そうそう。リョウくん。今回の出来事のせいで、人生が大波乱万丈モードの分岐に突入しちゃったけど、大目に見てくださいね」


「今、聞き捨てならんこと言うたな?」


「関係ない。だってもうあなたは今死んだもの……死んだもの……」


 女神ルファは言い訳終了とばかりに闇の中、叩かれた腹いせの捨てゼリフのエコーとともに遠ざかっていく。

 


「ちょっと待てぃ!」

 セキサイは診療台のベッドの上で手を伸ばし、叫びながら目を覚ました。


「爺ちゃんが生き返った!」

 セキサイが周りを見回すと、リョウたちがいた。


 リョウは寝台に横たわるセキサイにすがりついて泣いていたようだ。


 リョウとジン、ハクヤはあちこち焦げており、3者いずれもどこかしら重症の患者だ。

 特にリョウの左肩の傷は生死に関わるような重大な怪我だったはず。


「ワシは……死んでいたのか。心配をかけたようだな……。おや、皆戦士の顔つきになっておる」


 セキサイは病み上がりで体が怠いが、あの夜よりすっかり良くなっている。

 内炎とやらはすっかり治ったようだ。


「……いろいろあってハクヤの母ちゃんの仇を討ったよ」

 そう言うリョウの手には鋭利な角のような物が握られている。


「なんと、あの時のバケモノをか。ワシはあれが雷鳴竜ジンライだと思っておったが。ところでそれは何じゃ?」


「そのジンライの角。雷を呼ぶよ」

 リョウが持つその角はうっすら青く光っている。


「そりゃとんでもない代物よ。人類史に残るお宝じゃ」


「これ、どうしよう」


「ジンライにとどめを刺したのは誰じゃ?」


「オレ」


「雷は他の者も呼べるのか?」


「試したけどヤナもサイラー先生も無理で、オレしか呼べないみたい」


「ならお前のじゃろな」


「ボクはその方がいい。ジンライを討伐したのも黙っていよう。噂が広まるときっと良くないことが起こる」

 ジンが言う。


 セキサイたち村の大人はジンの判断に任せることにする。


 

 とりあえず、満身創痍のリョウとジン、ハクヤを安静にさせている数日の間、セキサイ、アル、バンの3人でアルの家の工房に籠り、ジンライの角を剣として使えるよう研いだり鍔をつけたりして加工した。

 

 調べているうちに分かったが、まずこの角は普通の鉄などより余程軽くて丈夫だ。


 試しにセキサイが炙ってみたが焦げたりいい匂いなどもしなかった上、アル親子から怒られた。


 さらに、ヤナに魔力を込めさせてみたところ、欠けていた部分が生き物のように自己修復したのがとんでもなかった。


 その他、リョウが持つと刀身が青く発光し、切れ味がうんと上がった。

 どんな仕組みがあるのか誰も分からなかったが、軽く突いただけで大木に半分ほどまで刺さってしまった。


 なお、リョウが剣を持って全力で集中すると、周囲の空気が震え始め、刀身から雷が迸り始めた。

 3メートル離れた場所でスキットルをあおりながら眺めていたアルは、唇がビリっと感電して悲鳴を上げた。

 この雷の招来については、加減の仕方が分からないので迂闊に試すことすらできない。


 この剣は「蒼雷剣ジンライ」と名付けられ、リョウに持たせることになった。


「リョウ、その剣の雷の力、大事な人を守る時以外は使うなよ。秘伝の技以上の秘密と心得よ。まこと、人の身で使うには過ぎたる力よ」


「分かってる」


 セキサイには分かっていた。


 あと数年で達人の域に手が届きそうなリョウがこのような武器を手にすることの意味が。


 この子は世界に出ていくことになる。



 

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