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陽暦1488年5月〜世界の屋根①

 王都から戻った子供たちは、王都騎士団への入団を目指すが、準備することが明確になり、より一層勉学に、武術鍛錬に励むこととなった。


そんな中、夕刻、セキサイの小屋の前では、リョウとセキサイのいつも通りのトレーニングが行われている。


「そうか、ウーツァンと会ったか」

 セキサイはリョウの風を切る左後ろ回し蹴りを避けながら、世間話のテンションで言う。


「うん、従兄弟だって。初めて聞いたけど爺ちゃんに似てたよ」

 後ろ回し蹴りの回った勢いを利用して右の追い突きを放ちながらリョウも世間話を続ける。


 セキサイは半身にずれてリョウの追い突きを左の前手で逸らしながら、その腕を掴みにかかる。

 セキサイは鬼胡桃を軽く人差し指と親指2本でかち割る握力があるが、リョウは力が入る前に袖を切って離れた。


「爺ちゃん、ちょっと痩せたか」


「お前が育っただけじゃ」

 その後も世間話交じりに凄まじい速さの突き蹴りの攻防がつづくが、お互いに有効打はない。


 毎日の手合わせとは言え、セキサイはリョウの上達振りには敢えて口には出さないが感動しっぱなしだ。

  

 また、ここ数日最近食が細くなってきて痩せたのは間違いなく、リョウの目は侮れない。


「あやつも出世したものよ。ふむ。では、今からあやつの得意スタイルを真似してみるからな」


 セキサイは両手を高く掲げ、猛獣が2本足で立ち上がって威嚇するような構えを取る。


 ウォーベア以上の圧力を感じる大きな構えに、リョウはその狙いを打撃からの掴み投げスタイルだと見抜く。

 おそらく密着してからも急所を攻撃する手段が有りそうだった。


 近寄らないのが最善手だが、それでは勝てないので、イメージで何十通りかのシミュレーションを行い、あとは体の反射速度にかけることとする。


「爺ちゃんと自分のどっちが強いって聞いてきたよ」


 セキサイはリョウのその言葉に思わず笑ってしまった。

「ワハハハハ!そんなことに拘っておるなど、あやつもまだまだよの」

 リョウは、やはりセキサイもウーツァンも笑った感じが似ていると思った。


 リョウはずかずかと近づく。

 すでに脳は全力モードでお互いの動きはゆっくりした世界になっている。


 セキサイは間合いに入った瞬間、猛虎が襲い掛かる勢いで右手をリョウの左肩めがけて振り下ろす。

 可能なら肩の筋肉まで切り裂き、骨折か脱臼させてやろうという程の威力だが、単純な動きに見えるのでミートポイントに入る前に上段受けで弾く姿勢に入る。

 同時にセキサイの左手はリョウの右腰を目掛けて振りかかってきた。

 

 これもリョウは左肘を打ち込んで打ち落とす姿勢だ。

 そこでセキサイの両手を弾いて空いた隙に肩で体当たりすれば、有利な体勢になるはずだ。

 

 しかし、リョウがセキサイの右、左の剛腕を弾いたと思った刹那、リョウの身体は背中を地面にしたたかに打ちつけられていた。

 直後、横から押さえ込まれて身動きが出来なくなってしまった。

  

「グッは……!!」

 

 セキサイは抑え込みを解いた。

「術理が分かるか?」


「打撃に見せかけた崩し技だった」


 セキサイはニヤリと笑う。

「その通りじゃ。目に頼る者の動きを誘導して絶妙な加減で崩し投げる”虎咬伏地"という技よ。あやつ、顔と体に似合わず繊細なヤツなのじゃ……グッ、グフッ」


 セキサイは突然口を押さえ膝をつく。


「どうした爺ちゃん」


「何でもない。むせただけじゃ。ま、年じゃな」

 そう言って手元を隠しながら笑うセキサイの口の端には血が着いている。


「いやいや、年だからって口から血は出ないっしょ。爺ちゃん病気だろ、明日村でサイラー先生に診てもらおうよ」

 今まで無病息災を絵に描いたような無敵超人セキサイの弱った姿を初めて見て、リョウは戸惑う。


 セキサイは少し思案したが頷く。


「そうじゃな。強がっても仕方ないわい。明日行くとするか」

 そう言うとセキサイはいつもの日課のトレーニングを早々と切り上げて、早めに床についた。


 リョウはその姿を珍しいものを見る目で見ていたが、すぐに自分の鍛錬に戻って、ひたすら追い込んで、そのあと勉強してから寝た。



 夜中、セキサイが苦しそうな寝息を立て始めたので、リョウは目が覚めた。

 見てみるとセキサイは脂汗を流しながら、歯を食いしばっている。


「爺ちゃん!大丈夫か!?」

 リョウが問いかけると、セキサイはうっすら目を開けて返事した。


「大事ないわい……」

 弱々しげな呟き。

 体温が少し高い。

 ハクヤが心配そうに寄り添っている。

 

 セキサイが大病を患っているのではないかと感じ、リョウはいてもたっても居られなくなってきた。


 家畜に餌をやっておき、すぐに村に行く決意をする。


「爺ちゃん、今から村に行くよ」


「……支度するから待っておれ」

 と気丈に言いつつもセキサイは寝たまま動けない。


「大丈夫。寝てて」


 リョウはセキサイを布団ごと荷車に載せ、引いて行くことにした。

 セキサイは意識朦朧としており、されるがままだ。


 

 月明かりの中、あまり揺れないように荷車を慎重に引きながら、ハクヤを連れてリョウは街道を下り続ける。

 今のところセキサイは荒い息をしながら目をつぶったままだ。


 途中にモンスターの気配がする時もあったが、リョウとハクヤには近寄って来なかった。


 夜がうっすらと明け始めた頃、村に着いた。


 ちょうどトールが村の門扉を開けるところだった。


 トールは荷車のセキサイの弱った姿を見て驚くが、リョウを見て頷く。

 そして村の中に駆け出して行った。


 リョウがサイラーの店に着いたとき、サイラーは既にトールによって起こされており、室内にセキサイが運び込まれる。

 セキサイの容態は悪化しており、体温は異常に高く、意識も無くなっている。


 トールはすぐにヤナを呼びに行った。


 

 寝台に寝かせられたセキサイを、サイラーが診察する。

 魔力を込めた目で診ながら、文献を開いたり触診したりして慎重に調べている。


「先生、爺ちゃん大丈夫?」


「十中八九、内炎という症状が出ているわ」


「えっ?なにそれ」


「病気……かどうかも分からない症例数の少ない謎の異変よ。放っておくと自分のシマーに体の中を焼かれた感じになり、死ぬ。このままじゃ2日もたないわ」


「どうしたら助かるの!?」


「……この文献によると内炎を鎮める特効の薬草“雪息草”が存在するけど、ドルガ山脈の高峰にしか生えないみたい。いわゆる幻の薬草で世間に流通してないし、ここにも無いわ」


 サイラー先生はリョウに文献の雪息草のイラストを見せてくれた。


「良かった!ドルガ山脈ってことは、マンジェ山にあるかもしれないんだね!すぐに取りに行ってくるよ!」


「ちょっと待って!但し書きが書いてあるわ!雪息草の自生地付近にはとても危険なモンスターがいるって!」


「どんな?」


「名前だけしかわからないけど、“雷鳴竜ジンライ”というネームドモンスターだそうよ」


 そのときヤナが診察室に入って来て、セキサイを見ると、セキサイの胸の中に赤黒く渦巻くシマーが見えた。

 その赤黒いシマーの渦は、じわじわと外向きにセキサイの体を焦がしながら、少しずつ広がっていっている。


「セキサイ先生!」

 ヤナは、両手に治癒魔力を込めて、セキサイの胸の渦の広がりを抑え始めた。


「だめ、時間稼ぎにしかならないわ!」


「ヤナ、ごめん。すぐに戻るから、爺ちゃん看てて」

 リョウはそう言うと、ハクヤと一緒に診察室を飛び出した。


 “緊急時には無闇に動くよりまず一呼吸おいて頭を使え”


 セキサイの教えがリョウの脳裏をよぎる。


 狩りの専門家に話を聞いてからでも遅くはない、と考えてリョウはジンの家を目指して走った。



 




 


 

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