陽暦1488年4月〜王都への旅⑤
「おっ、先客が」
資料室内の先客は、リョウたちと同年代に見える「生意気そうな金髪の美少女」、「ガッチリした体格のいい茶髪の男」、「雰囲気のある落ち着いた金髪の美少年」の3人。
いずれも身なりが良く、貴族の子弟に見える。
皆佇まいが落ち着いており、油断のない目配りだ。
「お邪魔します」
ビスタが挨拶すると、金髪の美少女が口を開く。
「今の時間、私たちの貸切りって聞いていたのだけど」
「え、聞いていないよ。こっちは団長の許可で来たんだ」
「……そう。田舎者くさくて勉強できないし、もう帰るとするわ」
金髪美少女が捨て台詞をいうと、残りの2人は肩をすくめて立ち上がり、部屋から出て行った。
「なにあれ?!なに様?田舎者で悪かったわねぇ?」
ヤナは肩を震わせながら短気を起こすのを耐えていた。
「カーミラ伯爵家のご令嬢だよ。エステル・フォン・カーミラ。いずれ騎士団に入るつもりで、ときどき騎士団に見学に来てるんだ」
「取り巻きの2人も騎士団候補生ですね」
「そう、ヘルムートくんと、ゼルダンくん。2人とも優秀な騎士志望者だ」
「金髪男、あいつかなりやるね。殺気飛ばしたら反応してた」
「アンタまたいらんことして……。でもまぁ、強いわね」
「ヤナ、やっぱりそう?」
「そうよ」
ビスタの前だから言葉を濁すが、リョウは先の金髪男「ゼルダン」が魔力持ちでないか疑っていたのだ。
ヤナはいつも自分の魔力が外に出ないよう制御しているので、最近では人から魔力持ちだと見破られることは無くなっている。
「戦ってみてえな」
「入団出来たらいくらでも機会あるでしょ」
「まずは、目的を果たすとしよう。さて、入団試験の要領は……」
ジンはマイペースに資料を漁り始める。
テキパキと資料を分類しながら、ビスタに的確な質問をして、優先順位をつけていく。
「分かった。この辺りを全部覚えたら学科で落ちることはないね。建国史、憲法、騎士団礼法に訴訟法がキモだなぁ」
ジンは1時間かけて出題傾向を押さえ、資料を全部集めてしまった。
リョウは待っている間にうたた寝してしまっている。
「ジン君凄いね、なんかもう合格しそう」
ビスタから見てもジンは飛び抜けて優秀な人間に見える。
「そんなことはありません。これから数日かけて必要な分を書き写していいですか?」
「良いと思うよ。団長に言っておく」
「リョウたちは、どこか見学にでも行ってていいよ」
「おう。学科はジンに任せた」
「頼りにしてるわ」
ジンは紙と文房具を必要な分だけもらい、資料を一心不乱に書き写し始めた。
「キミたち、訓練の見学にでも行くかい?」
やることが無くなってビスタが提案する。
「行きます!」
リョウとヤナは一も二もなく賛成する。
訓練場に着くと、ちょうど武術指導者同士の模擬戦が行われているところだった。
王都騎士団員たちの見学者も多く、注目を集めている。
「サイ先生だ。盾を持ったデカい戦士と戦ってる」
「相手の人かなり強いわね!」
「エグバルド・クラウス師範だね!通称“鉄壁”」
2人は互い模擬刀を持ち、ものすごい勢いで撃ち合っている。
サイは盾を持たずに、機動性重視。
エグバルドは大楯を前面に出して、打たせて隙を窺うスタイル。
サイの動きは相当に素早く、幻惑歩法まで用いているが、エグバルドの盾に阻まれて有効な攻撃が通らない。
「味方だと心強いのにねぇ」
「無駄口叩く余裕はないぞ、そらっ!」
エグバルドはサイの右手突きに向け、大楯を突き出した。
ガツンという手応え。
大楯の質量に、サイの突きは後方に戻されてしまう。
「デヤァッ!」
「おおっ!?」
サイの目の前に大楯がいきなり立ったままの形で飛んできた。
咄嗟に左後方に飛び退く。
その時、盾の影からエグバルドの両手突きが現れて、サイは肩の辺りにそれを食らってしまった。
「勝負有り!」
審判役が勝負を止める。
観客の一般騎士たちもどよめいている。
「貴様の突きは軽すぎだ」
エグバルドはサイを見おろしながら言う。
「くそっ」
王国の武術指導者たちの攻防に、リョウとヤナは興奮していた。
少なくともサイ先生の動きは本気だった。
しかし、影魔法を使わなかったのはどういう縛りか。
しばらくすると、次の模擬戦が始まった。
サイ先生はリョウとヤナが見学していることに気づき、近寄ってきた。
「いやあ、あいつ強いね。負けちゃった」
「先生なんで魔法使わなかったの?」
リョウが率直に聞く。
「しぃーっ。奥の手は隠しとくもんでしょ。特に、彼、レオニード派だから」
サイは小声で言う。
「なるほど」
ヤナも出来れば魔法の存在は隠しておきたいので、それは良くわかる。
「各派閥から猛者が集まるこの機会、情報を集めるために利用しないとね。そのためには負けて油断させるくらいでちょうどいいのさ」
「でも先生、本気で動いていたよね」
「ぐっ。いやいや、演技派だからボク」
3人は次の模擬戦をあれこれ言いながら見ている。
「どうだい?王国の精鋭たちの戦いは」
「みんな自分の強みを利用して戦っていて、すごいね……って、えっ?」
その時、訓練場に一人の背の高い老人が現れた。
訓練場の空気が、ピリッと一変する。
リョウは、その立ち姿が祖父セキサイとダブって戸惑ってしまった。
一才の隙が無く、油断のない眼光。
周りの空気が歪んで見えるような気さえする。
「あの人、何……怖い」
ヤナの目には、その男が赤黒い不気味なシマーを垂れ流しているように見える。
「王都騎士団、武技指南役のお出ましか……」




