陽暦1488年4月〜王都への旅③
すいません、前から一週間空いてしまいました。
ぼちぼちやります。
「金獅子亭」は、古いが豪華な造りで、高い天井の広いロビーに大きなシャンデリアが掛かっており、大きなソファが幾つも置いてある。
身なりの良い紳士、淑女がそこに座りながら談笑しており、いつものリョウたちからすると、さながら別世界の様相を呈していた。
サイ先生にフロントとのやり取りを完全に任せ、子供達は言われた通り女性部屋と男性部屋の2部屋に分かれる。
このクラスの宿は冒険者が飼いならしたモンスターを連れて宿泊することもあるので、ユキヒョウのハクヤを見てもスタッフは特に驚きもしない。従魔専門の部屋が用意されているので、そこに寝ることになった。
「大浴場で汗を流したら、着替えてこのホテルのレストラン集合ね」
「えっ、ホテルでメシ食うの?」
リョウはちょっと緊張気味だ。
「そうだよ。みんなからテーブルマナーも教えてくれって言われてるんでね」
「あんまり挙動不審にしないでね」
ヤナは一応テーブルマナーの知識はあるので、そこまで不安は感じていない。
「何事も経験ってことだね」
ジンは人ごとのような顔をしている。
一行はそれぞれ大浴場に入った後、持ってきた服の中で一番上等な物に着替えてレストランに集まった。
リョウは襟の付いた白シャツに黒のスラックス。ジンは黒のタートルネックセーターに灰色のスラックス。ヤナは黒いジャケットに白いシャツ、黒のプリーツスカート姿。
サイ先生は白のピタッとした薄手のニットに黒の細身のパンツ姿だ。
「ヤナおまえ、そんなスカートなんか持ってたんだ!?」
物心ついてからというもの、ヤナはずっと丈夫な稽古着で運動ばかりしていたイメージに思わずリョウが反応する。
「バカにすんな!可愛いって言え」
ヤナ本人も多少気恥ずかしさを隠せない。
ジンもヤナのお洒落着姿が素敵でドキっとしたが、褒め慣れてないので言葉がうまく出てこなかった。
「みんな良く似合ってるよ。さあ、行こう」
一同が店内に入ると、その美貌とスタイルの良さで否応にも注目を集めてしまう。
多少の居心地の悪さを感じながら、子供たちはテーブルについた。
サイ先生にコースのメニューをある程度決めてもらい、使う食器の順番などを教えてもらいながら待つ。
リョウたちがちょっとずつしか出てこない料理に戸惑いながら、黙々と食べていたとき、奥の個室から一際身なりが上等なグループが出てきた。
中に2人、他と違和感のあるタキシード姿の厳つい中年男性と、赤いドレスの妖艶な美女がいる。
「サイくんじゃないか!来てたのかい!」
そのうちの1人の老紳士がサイに声をかける。
「えっ!侯爵閣下、これはお久しぶりです。失礼しております。こちらはボクの教え子たちです」
サイは、ドレル・サンマイ侯爵と岩塩窟事件で縁ができ、顔見知りになっていたが、事件以来会うのは2年振りとなる。
「そうか、あの時は世話になったね。今回は旅行かな?」
「この子たち皆、王都騎士を目指していますので、一度王都を見せておくことになりました。こちらはリョウ、この子はヤナ、あちらがジンでみなテオ村の出身です」
ドレル侯爵は目を細めてリョウたちを見ながら頷く。
「テオ村……そうだ、トール騎士のいるあの村だったね。サイくん自ら王都まで引率するくらいだから、皆優秀なのだね」
「それは保証します」
「そうか。民が平穏に暮らせる世の中を作るため、優秀な若者にはぜひ王都の騎士団に入ってもらいたいものだ。そうだ、子供たち、これも何かの縁だよ。困ったことが有ったら、私、ドレル・サンマイを頼ると良い。まあ、王都には友人知人もおるでな」
この言葉にはサイが一番驚いた。
「なあに、サイくんを味方につけておきたいのだよ?」
「また、ご冗談を」
「冗談では無いぞ。来たるべき日に備えておかねばならんしな」
サンマイ侯爵はそう笑いながら言うと、その場を後にした。
途中赤いドレスの妖艶な美女が振り返って一行に微笑みかける。
「なんだか食べた心地しなかったわ」
「ごめんなぁ、たまたま侯爵に会ってしまったね。先に挨拶しとくべきだったかな」
そう言いながらも、サイとしては、サンマイ侯爵にリョウたちを引き合わせたいとは思っていないので、これは本心ではなかった。
文字通り秘蔵っ子にしておきたかったのだ。
「サンマイ侯爵はなぜジェイナス王子派なんですか?」
ヤナが気になっていたことを口にする。
「サンマイ侯爵のご先祖は、建国王アルフレッド・ヤーマスの冒険者仲間だったんだ。建国時その功をもって我が国唯一の侯爵位を得た。それに恩義を感じて、サンマイ家はヤーマス王家の忠臣として、王家を長子が継ぐことにこれまで尽力し続けてきたんだよ」
「レオニード公からすると、ルールに厳しいご近所のやかまし爺さんみたいな感じなんですね」
「今はもっと明確な敵扱いだね。暗殺の恐れすらあるよ。凄腕の護衛がいたから大丈夫だと思うけど」
「さっきのオッサンら強そうだったな。騎士っぽくなかったから冒険者かなぁ」
リョウが感想を口にする。
「知らない人らだったけど、金級の実力者だと思う」
このヘリオス世界では、冒険者は希少金属の名称で7等級に分かれており、下は駆け出しの鉄級から上は星鉄級まである。
しかし、実際は星鉄級に至った者など神話の中だけで、実質上は神銀級が最高位である。
いわゆる伝説の達人と呼ばれるような者だけが、国から神銀級と認定される。
なお、建国王は神銀級の冒険者だったと伝えられている。
「そろそろキナ臭い時代になってきたねぇ、怖い怖い」
サイは思わずニヤリとしながら呟く。
「先生、セリフと表情が一致していませんよ」
ジンもニヤっとしながら突っ込む。
「二人ともいい性格してるわね」
ヤナは呆れ顔だ。
食事の後、皆で部屋に戻り、筋トレをして寝た。
明日は長男ジェイナス領に入ることになる。
次話で王都に入る予定です。




