陽暦1488年4月〜王都への旅②
はい。社会見学や修学旅行の感じです。
「いらっしゃい、あ、サイちゃん!て、どうしたのこんなに可愛い子たち連れて!」
テンションの高い野太い男が出迎えてくれた。
他にもお客さんが数組、給仕の女の子が一人、みんな一斉に一行を見て目が釘付けになってしまっている。
「ネイさん、こんちは。王都に向かう前に腹ごしらえに寄ったとこ。こっちは、我々の後輩候補。テオ村から連れてきたんですよ」
ネイさんと呼ばれたのは、側頭部を剃り上げ、黒髪を綺麗に固めた固太りした40代の男性で、白い長袖シャツと黒いエプロン姿。顎髭を綺麗に短く整えている。
鍛え上げた大胸筋でシャツがピチッと張り付いている。
「まあ、それはそれは遠方からよくお越しだねぇ。え。まった、本当に全員可愛いんだけどー、奇跡の村なのかい?特にキミ、素敵だねぇ……」
ネイさんはリョウの手を握ろうとしてきたが、体捌きで避けた。
サイ先生もネイさんの襟首を引っ張って止めている。
「あらいい動き」
「ネイ元騎士、ステイ!」
「はっ、ごめんねぇ。フゥ、冷静に冷静に。まずはおかけください。メニューはこちら。ゆっくりしていってね。はい、お水」
元騎士と呼ばれて少し落ち着きを取り戻したネイさんは、厨房に引っ込んだ。
「サイ先生、オレ、ちょっとさっき怖かった」
リョウはいつもの調子より少し元気が落ちた。
「ごめんな、悪い人じゃないんだけど。でもここの料理は美味いから」
「もしかしなくても男の人が恋愛対象なんですよね?」
ヤナは興味深々な様子だ。
「世の中にはいろんな人がいるんだよ」
ジンが口を挟む。
「そういうもんか。腹減ったナァ」
リョウたちは、しかしメニューを見てもよく分からない。
サイもいちいち説明するのは面倒だ。
「ネイさん!おまかせで4人前ね」
「はーい!おまかせ4人前!」
しばらくすると、てんこ盛りの肉中心メニューが大皿で幾つも運ばれてきた。
「こっちが鴨のロースト、こっちはウォーディアのモモのソテー、こっちはフェザーバットの唐揚げです。白米おかわり自由だから、たくさん召し上がれ!」
白米も一人一皿山盛りだ。
「ここは、ネイさんのポリシーで、絶対に客を腹一杯にさせる店なんだよ。これで一人銅貨8枚」
「え、安くない!?」
物の値段には多少覚えがあるヤナが驚いている。
「コスパ的には安いね。王都だとこれなら銅貨15枚以上は間違いない」
リョウは、外食もしたことがないし、白米のご飯自体ほぼ見たことがないが、とても懐かしい感じがする。
なんだかこの昼ごはんをガヤガヤした店で食べる感じ、既視感があるようなないような……。
「ボーっとして、珍しいわね」
「ん、そうか。いっただっきまーす!」
おまけにデザートまで出して貰って、皆大満足の食事を終えた。
村では体験できないようなことが世の中に溢れていることが少し分かった気がする。
「騎士の世界もドロドロしてていろいろあるけど、やり甲斐ある仕事なんで、みんな、頑張ってね。僕は辞めちゃった側だけど。応援してる」
ネイさんがリョウの目を見つめながら言う。
「ありがとうネイさん。いつも通り美味しかった。帰りにまた寄らせてもらいますね」
サイ先生がネイさんと握手して店を出る。
「美味しかった!フェザーバット初めて食べたけど柔らかかった。主食が果物だと書いてあったから、あんな味になるのかな」
「インパクトの強い店だったわね」
「就職すると、昼飯は店で食べたりするんだろうね……」
「あんたちょっとさっきから暗いわね」
「なんだか白ご飯や外での昼ごはんの感じに、懐かしく、さびしい気持ちがしちゃってね。自分でもよく分からんけど」
「フーン」
ヤナも、リョウの出自には何か普通じゃない点があるとはうっすら思っているので、そういった類のことはあまり気にしないようにしている。
一行は騎士団詰所に戻り、団長たちに挨拶した後、ドルスの役所でハクヤの従魔登録などの必要な手続きを行った。
ハクヤには首輪が着けられたが、意外に気に入ってそうだ。
それから馬車に戻って、夕方までにサンマイ県のサンマイ市到着を目指す。
サンマイ県はドレル・サンマイ侯爵が治める土地で、以前サイやトールが賊を捕らえたところになる。
昼過ぎの街道は、隊商や馬車、旅人や冒険者などがちょくちょく行き交う。
この道をひたすら行けば王都に着くという重要な道なので、モンスターなどは出没情報が入る度に冒険者や騎士団が出向き、討伐されている。
よって、かなり安全に通行できるようになっている。
街道沿いには緑の芽が出て間も無い小麦の畑が一面に広がっており、畑には作業中の農家をたくさん見かける。
リョウは突然荷台からぴょんと飛び降りると、なかなかの速度で走っている馬車と並走を始めた。
「ちょっとオレ腹ごなししないと」
リョウの後にハクヤも続く。
「あんた……旅先まで。まあいいわ」
「しょうがないね」
ヤナもジンもわざわざ重い革鎧を着込み、荷台から飛び降りて一緒に走り始めた。
サイは子供達の好きなようにやらせている。
ときどきすれ違う騎士団や冒険者がハクヤを見てギョッとなるが「猫でーす」などと挨拶され、当惑させられていた。
日も落ちて、そろそろ夜になるかという頃、一行はサンマイ市に到着した。
子供達は4時間ほど走って汗だくだが、ケロッとしている。
「ドルス市よりデカいねぇ」
リョウが灯りの灯り始めた街の大通りを見ながら言う。
「今日はいい宿に泊まるよ」
子供達は宿になぞ泊まったことがないので、ピンとこない。
ただ、明るく篝火が灯された大きな建物に「金獅子亭」の看板を見ると、みんなテンションが上がってきた。
高級ホテル、テンション上がりますよね。




