陽暦1488年4月〜王都への旅①
王都騎士団がどういうものか分からない子供達に、そんなら見せた方が早いってことで社会見学回です。
あれから、リョウたちは王都騎士団の入団試験合格を目指し、勉強を始めた。
しかし、どのような対策を取ればいいのか、テオ村の駐在騎士たちに聞いてもよく分からないので、3人はたまに村に来るサイ先生に頼るしかない。
なお、リョウもジンもヤナも、王都に行ったことなどなく、リョウに至っては、テオ村より遠くの人里に行ったことなど一度もない。
その話を聞いて、サイ先生は、ちょうど王都に行こうと考えていたところだったので、試験対策は自分が受け持つが、その前に子供達を一度、王都まで連れて行こうかと保護者たちに提案した。
テオ村はあまりに田舎すぎて、リョウたちは話で聞かされても、世界有数の先進都市である王都ヤーマの生活が全くイメージ出来ない。
このままでは、リョウたちは例え入団試験をパスしたとしても、王都で騎士職に就くに当たって少なからず支障を来すだろう。
また、テオ村には基本的に犯罪は無いので、この前の賊以外に、悪人など存在しなかったから、リョウたちは王都における常識的な治安感覚を知っておく必要があった。
そこでサイは今回、それぞれの保護者に了承してもらい、皆を王都見学に連れて行くことにしたのである。
なお、サイ・ハグーダはセオドール県都ドルスの騎士団副官という身分であるが、それ以外に同騎士団長にも隠している秘密の肩書きがあり、今回の王都行は、その別の肩書きの方の任務を兼ねている。
なお、県都騎士団員としては、サイは今回王都での武術研修として行くことになっているので、業務上の問題はない。
ただ、子供たちを王都に連れて行くだけではあまり意味がないと思われたので、サイの提案により、王都に二週間ほど滞在し、王都の各所を見学させてもらうことにしている。
3人の子供を引率しながら約1ヶ月間旅をし、その途中で都会で生活させるには、結構な手間と費用がかかるが、それぞれの保護者が持ち寄ってサイに金貨20枚を預けた。
一般的な家庭の年収の半分以上にも相当する金額に、サイは「そんなに要らない」と固辞しようとしたが、セキサイによって物理的に、文字通りの意味で握り込まされてしまった。
朝、テオ村の門の前で、村人一同で見送ってくれる。
「リョウ、拾い食いして腹壊すんじゃないぞ」
トールがリョウに言う。
「オレをなんだと思ってんの?」
「王都騎士と路上で手合わせしてくるとよい」
セキサイが無茶を言う。
「それってオレ捕まんないかなぁ」
「あんた超可愛いんだから、誰かに声をかけられてもついていっちゃダメよ」
母マギーがヤナに言う。
父フリードは泣いていて言葉が出ない。
「大丈夫、変なヤツは見たら分かるから」
人の魂のあり方を知覚できるヤナは、その辺は大丈夫だ。
「都会でモンスター素材の相場を見て調べてきてくれよ」
バンが息子のジンに頼む。
「分かった。あと、ためになりそうな毒があったら買ってきて良い?」
我が子ながらどこを目指しているのか、バンは少し心配だ。
「では、サイよ。頼んだぞ」
セキサイが、旅立つ一行を前に声をかける。
「任せてください。みんなにいろんな経験をさせてきます」
サイが、そう言うと、セキサイはサイの顔に近づいて、小声で囁いた。
「……お主の本来の雇い主にもよろしく伝えてくれよ」
「!?」
「さあ、行った行った」
サイは度肝を抜かれて一瞬放心したが、気を取り直して馬車に向かう。
あの爺様ばかりは。本当に底が知れない。
サイが御者になり、子供たちはその馬に引かれた馬車に乗って旅に出た。
これはフリードが行商に使っているものだ。
皆、13歳になり、骨格も以前より少し大人っぽくなっている。
リョウはいつもの革鎧、白っぽい木綿の長袖、長ズボン、重いブーツ。体格は年齢の割にガチっとしており、一見してヤンチャな武芸者見習いという風体だ。
ここらには珍しい顔立ちで、彫りは深くないが目がくりくりっとしていて整った童顔で、太めの眉毛、黒髪の緩い天パで短髪。
素直にコロコロ変わる表情と、愛嬌ある動き、力強い眼差しと、たまに吐く生意気でユーモラスな発言で、人を惹きつける魅力的な少年に育っている。
村内では特におばちゃんたちから人気で、ハクヤと一緒にいつも食べ物を貰って得をしている。
ヤナは草木染めのチュニックにベージュのパンツ、頑丈なブーツ。
スラリとした長身、色白で顎が少し尖った小顔、切れ長だが大きい瞳で、鼻筋も通って小振り、唇は薄いピンク。緩いウェーブががかかった赤髪の美しいロングヘアーを三つ編みにして後ろで束ねている。
知らない人がすれ違えば、皆はっとして振り向くほどの超美少女だ。
しかし人形のような可愛さではなく、勝気な雰囲気が漂っており、どことなく野性的なしなやかさを感じる。
本人は、顔が可愛いのはよく言われるので自覚があるが、それはたまたま生まれついただけの些末なことだと思っており、今は自分がどこまで強くなれるか、が一番の関心事である。
いつも、走るか、素振りか、魔力のトレーニングか誰かと手合わせをしているので、村人は少し心配している。
ジンは黒のタートルネックセーターに伸縮生地のタイトめな黒いパンツ、足首まである黒い革靴。
すでに180センチを超えた、細身だが無駄のない筋肉が付いたしなやかな体つきで、こちらも小顔かつ手足が長い。
もともと中性的な、顔のパーツにクセのない整った顔立ちの、睫毛の長い美少年だったが、奇跡的にそのまま大人っぽくなってしまって、今では一見して男女分からないほどの絶世の美青年になってしまった。
よく見ると右目が茶色、左目が黒と違っており、少し違和感があるので皆、ジンの目を見つめてしまう。
茶色のサラサラヘアを耳が隠れるくらいの長さにしている。
口を開くと声が深く低いので、男性だとすぐ分かるのだが、その声が息たっぷりの声なので、村の妙齢の女性たちは、密かに彼にメロメロになっている。
しかし本人は、いつも本を読んだり、走ったり、狩りに行ったり、モンスターや特殊な虫などを収集したりしているので、みな遠巻きに見ているだけで、モテている自覚はゼロだ。
「あっ、ハクヤ!」
街道に差し掛かった頃、見ると、ユキヒョウのハクヤが風のように駆け寄ってきており、馬車の荷台に飛び乗った。
「お前、ついてきちゃダメだろ」
リョウが言い聞かせる。
ハクヤが村から着いてこなかったのは、きっとその場で皆に止められると思っていたからだろうから、ハクヤは確信犯的にここにいる。
リョウが言っている意味は分かっている。
ハクヤは、リョウの目を上目遣いで見ながら、ザラザラした舌で手を舐めてきた。
「もう、仕方ないなー。爺ちゃんは……心配するわけないな」
「リョウ、あんたなんなん、チョロすぎない?」
「大丈夫だよヤナ。ハクヤさんはとても賢いから、きっと迷惑はかけないよ」
ジンはハクヤのことをリスペクトしているふしがある。
ハクヤはジンにも頭をなすりつけてきた。
そしてゴロンと荷台に横になる。
「どうなろうと知らないわよ」
ハクヤは背を向けて横になったまま長い尻尾でヤナの体をペシペシと叩いた。
「あ痛!」
サイは後ろの騒ぎを見ながら溜め息を吐く。
「リョウ、街に着いたら、ハクヤに馬車の外に出ないよう、よく言い聞かせておいてくれよ。従魔登録するまではモンスターとみなされちゃうからね」
「分かったー」
ハクヤは荷台から上半身を乗り出し、急にサイの背中に顔を押し当ててきた。
「うひぃっ!」
そしてゴロゴロ鳴いた後、また荷台に戻った。
ハクヤのデカさには未だ慣れないサイ先生だったが、まあ、この賢さなら、大丈夫かなと思った。
一行は、まず県都ドルスを目指す。
半日の旅程だ。
のどかな街道をわいわい言いながら馬車に揺られていると、あっという間にドルス市の壁が見えてきた。
「うぉー!でかい!壁がたけぇ!」
「田舎モン丸出しね」
と言いながら、ヤナも街の規模に釘付けだ。
ジンは、本を読んでいる時は周りが目に入ってこない。
「お疲れ様です!」
門衛は、サイを見ると向こうから挨拶する。
「ご苦労さん」
県都ドルスは人口約15万人。
セオドール県の中心都市として、交易で栄えている。
今昼過ぎで、皆食事前だったので、一旦馬車を騎士団詰め所に預けて、一行は大通りに向かった。
ハクヤは詰め所で肉を食べさせて貰いながら留守番でいない、とはいえ、一行は一際目立つ集団なので、道ですれ違う市民たちの注目を浴びてしまう。
「こんなに人が多いの、初めてみたぜ」
「キョロキョロしないでよ。恥ずかしいじゃない」
「サイ先生、何を食べますか?」
「僕の馴染みの店でいいかな?」
「もっちろん!」
子供たちは、お金を出してご飯を食べる経験などほとんどない、特にリョウは皆無だったので、本物の初体験になる。
一行がしばらく歩くと、「カマド亭」という看板が見えた。
昼過ぎだが、中からワイワイ聞こえてくる中々の盛況ぶりだ。
「来たよ!」
サイは店の中に声をかけて店内に入った。
長くなったので一旦この辺で。




