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陽暦1487年12月〜リョウvsヤナ

ヤナも騎士になりたいのでしょうか。

 年の瀬も近づいて来た頃、今年最後のセキサイ先生の授業となった。


 生徒同士の模擬戦は時々行われているが、数ヶ月前に賊の襲撃という実戦があったことから、セキサイは生徒たちの心情に配慮して戦闘訓練を避けてきた。


 しかし、最近、将来リョウとジンが騎士団に入りたいという意志を持ち始めたため、対人訓練を再開することにしたのだ。


 ただ、その中で、ヤナはなんとなく浮かない顔であった。

 幼馴染たちがうっすら将来へのビジョンを持ち始めたことに、少し焦りを覚えていたからだ。

 もちろん、自分も強くなりたいという熱意はあるし、そのための努力も人の何倍もしてきた自信がある。

 しかし、そのヤナの強さへの渇望は、主に、リョウに影響されて得たものだ。


 リョウは出会った当初から不思議な感じだった。

 キツいことを全く厭わず、ニコニコしながら毎日えげつない訓練をこなしていき、その強さへのモチベーションは枯れることは全く無かった。


 ヤナは最初は「あんたおかしいんじゃない」等と揶揄していたが、リョウを見ていると、こちらも勇気が湧いてくるし、自分もこのままじゃ駄目だと思い知らされる。

 

 いつしかその思いは、尊敬へと変わり、また、リョウを身近で理解したいと思うようになってきた。

 そのためには、自分も努力するしかなかったし、努力し続けている間は、あの凄いヤツと対等で身近にいられる気がしていた。


 いつしか幼馴染3人の特性はそれぞれ分かれ始めたが、ヤナは、先般、リョウとジンの模擬戦を見ていたとき、特性などあまり関係なく、皆で切磋琢磨していけば、自分もどこまでもいける、という気持ちになった。

 

 その中で、サイ先生やスミス騎士、トール騎士などとの対話を通じて、自分も騎士団に入るかも知れない、入ってもいい、とは考えたことはあったが、それは、自分の本心から出た気持ちなのか、いまいち自信がないし、まだ将来への覚悟が決まらない。


 ヤナは、今日、リョウと戦って、そんな複雑な思いをふっ切りたいと思っている。



 よく晴れた午前中、リョウとヤナは、学校前の広場で向かい合っていた。

 ヤナは身長はリョウとほぼ変わらない。

 すらっとした均整のとれたスタイルで、切れ長だが目力が強く、鼻筋の通った、小顔の、超絶美少女だ。

 野生の狼のようなしなやかさを感じる凛とした立ち居振る舞い。

 村の中でもファンが多い。


 赤髪を三つ編みにし、それをくるくると頭の後ろに巻き付けている。


 セキサイが真ん中に立ち、今日のルールを説明する。


 リョウは布を被せた竹刀の棒、ヤナは刃を潰した小剣を持っている。

 何でもありで、致命的な有効打を一撃入れた方が勝ちだ。


 ヤナはこれまで、リョウに一度も勝ったことはない。

 努力しても、努力しても、その努力でリョウに先をいかれている気がしている。

 

 セキサイ先生やサイ先生は、「競うな」と言っている。

 これは、つい剣技や体力で勝負しようとしてしまうヤナに対して、同じ土俵で勝負する必要はないという戒めの意味の言葉だ。


 今日は、自分にしか出来ないこと、自分がこれまでやってきた事、その持ち味を活かして戦おうとヤナは思っている。



「始めぃ」

 セキサイの合図で、2人は武器を構えながら近づく。


「おーっ、気合い入ってんじゃない?」

 リョウがヤナの目つきの違いに気づく。


「油断してくれていいわよ。あと、怪我しても治してあげるから安心して」


「ふーん」

 よく見ると、ヤナはいつもと違う雰囲気を纏っている。


 足の運びや、体幹がいつもより安定している。


 実は、これはヤナの魔力操作によるもので、魔力を血液に流すイメージで、自らの筋力等を向上させることが出来るようになっている。

 これはヤナは一人では辿り着けず、サイ先生が極意を丁寧に教えてくれたから出来るようになったものだ。


 もしリョウにシマーが見えるのなら、この時ヤナの全身を纏っている赤い揺らぎが見えただろう。

 また、その赤いシマーは、ヤナの小剣にもうっすら纏っていた。


「なんかいやな感じ」

 リョウも魔力こそ見えないが今日はヤナに妙な迫力を感じて迂闊に近づけない。


「そっちが来ないなら」

 ヤナはリョウにスタスタっと近寄って、間合いに入らず、小剣を両手で持ち、平たく目の横あたりに「雄牛」の構えで静止する。

 その直後、起こりのない膝抜きの身体操作で近寄り、リョウに向かって鋭く何度も突き出す。


 リョウは、その無数の突きを、ひらりひらりと舞うように躱すが、反撃するスペースがないのでヤナの周りをサークリングで回るしかない。

 

 ヤナの小剣は、やや軽いとはいえ1キロ以上の重さがあり、何度も突き出すには相当な腕力と持久力が必要だが、魔力でブーストしているのと、疲れた端から回復魔法で体力を回復させていっているので、ヤナは突いても突いても、ほとんど疲れない。


「お、おま、ちょっとズルくない?」

 

 息が全然上がらないヤナを見て、さすがのリョウも少し動揺する。

 

 また、ヤナの突きを避けるたび、目の前が霞むような違和感を覚える。


 リョウは、試しに反撃として、ヤナの足元にしゃがみ込んで、かなりの速度で棒で足元を払ったが、ヤナは完全に見切っており、棒を足で踏まれてしまった。

 ヤナは、魔力で視力も集中力もブーストしているのだ。


「えーっ!」


 リョウは、同世代にここまであしらわれるのは初めてだ。

 

 本気を出すしかない。

 踏まれた棒を無理やり引っこ抜く。


 丹田に力を入れ、その場でどっしり構える。

 こうなった状態のリョウは、大きなクマでも両手で転がすことが出来る。


 棒を両手で持ち、ヤナの乱れ突きを前に、全集中する。

 

 やられる!という視覚的な刺激を受け、リョウの脳内が過集中に入り、いわゆるゾーンに入った状態になる。

 ヤナの無数の突きが、一個一個ゆっくりと見え始める。

 

 それを棒の先端や棒の尻で弾き、ヤナの体勢を崩す糸口を探す。

 

 しかし、ヤナの体幹は凄まじく安定している。

 リョウの方が速度が速いが、弾いても弾いても、決定打を打ち込む前には向こうの体勢が整ってしまい、攻められない。


 それにしても、ヤナの攻撃は続く。


 ヤナは「今しかない」と思って技を繰り出している。

 なぜかフェイントは一切ない。


 今度は突きではなく、斬撃に切り替えてきた。

 体を旋回させながら、2回上下に切ってきた。


 突きからのヒヤッとするほどのスムーズな変化で、髪の毛をかするくらいの距離で避けた。


 そのとき、なぜか、リョウは急に目の前が暗くなった。

 剣がどこにも当たってもいないのに、膝が崩れる。

 リョウは、パンチがアゴに掠ったときのようにめまいがした。


「なんっ!?」


 リョウの過集中が途切れる。

 これも異常なことだ。

 ゾーンに入った状態は疲れるとはいえ、これまで、その切り替えは任意のタイミングまで保っていたのだが、急にとてつもない疲労感がきて解除されてしまった。


 リョウがしゃがみ込んだその絶好の隙に、ヤナの突きがリョウの眼前で寸止めされる。


「勝負あり!」


 相変わらず村人たちの衆人環視で行われた模擬戦だったが、一同どよめく。

「山っこが負けたぞ!」


 

 この結果には、セキサイも驚いた。

 重い鎧を着て動きが若干鈍いとは言え、リョウはゾーンに入って本気で戦っていた。

 おそらくはヤナの魔力となんらかの関係があるが、セキサイには魔力がないので原理は分からない。


「か、勝てた……」

 ヤナは呆然として自分でも信じられない様子だ。

 今、自分が出来ることを全部出し切った。


 魔力で身体能力全般を強化、体力を回復、集中力を向上と実力を底上げした上で、魔力を剣に纏わせた。

 

 そして、その剣で相手のシマーを少しずつ削った。

 無数の突きは、リョウの体には当たらなかったが、確実に少しずつリョウの輝く全身のシマーを削り取っていったのだった。

 生物の魂の形とでもいうべきシマーは、削られてもいずれ元に戻るが、一度に大量に削られると精神にとてつもない負担がかかる。

 ヤナは、過酷な訓練の最中にそれに自分で気付いていたので、どうにか魔法剣に応用できないか、これまでサイ先生と一緒に模索していたのだった。


 リョウは、もともと過集中で疲労しているところ、精神力を削られるなど分かっていなかったので、ヤナの攻撃はどうしようもなかったのである。


「くっそ、スッキリした顔しちゃってさ」


「ふっふーん、しばらくそこで疲れてなさい」


「ちぇっ」


 これまで、心のどこかで「絶対に勝てない」と思い込んでいたリョウに勝てたことは、ヤナにとって本物の自信につながった。

 目頭がじわじわっと熱くなってくる。


「なんだ、泣いてんのか」


「ばーか、泣いてないわよ。アタシも王都で騎士になるわ。弱い子は守ってあげるから安心してね」


「調子乗んなよ!次は悔し泣きさせちゃるわ!」



 ジンは2人のやり取りを嬉しそうに、しかし少しだけヤナに置いていかれたような、そしてリョウとヤナの関係性の変化の予感に、微かな胸の痛みを感じながら聞いていた。






 

 


 


 

3人とも心が決まったようです。

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