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陽暦1487年8月〜友との手合わせ

ジンとリョウが組手をします。

 セキサイとリョウが村に引っ越してきて、1ヶ月ほどたったある日。


 リョウとジンは模擬戦を行っていた。


 面と向かってお互い10メートルの距離から開始する。

 ヤナたち村人一同は、近くで観戦している。

 最近めっきり頭角を現し始めたジンが、山っこ相手にどの程度戦えるのか、関心はそこだ。


 ジンの武器は、ショートボウ、短剣。矢筒を背負っている。

 矢尻は外してあり、先に綿が巻いてある訓練用の矢だ。

  

 リョウは素手。

 

 ルールは寸止めだが、致命的な攻撃を受けた、とセキサイが判断したら勝敗が着く。


 セキサイの「はじめぃ」の掛け声とともに、ジンはショートボウを一瞬で構え、リョウに狙いを定める……がリョウはジグザグに駆け寄って来るので、狙いがつけられない。

  

 ジンは、仕方がないので、バックステップで後退しながら、連続で予測射撃をする。

 ジンは、矢筒から矢を取り出して放つまで、約1秒と凄まじい速度で放つが、牽制の意味しかない。


 だが、ちゃんとリョウの動きそうな場所に矢が飛んでくるので、リョウもうかつに近づけない。


 その間、ジンは全力で後ろ向きに走りながら林まで移動し、あっという間に木の影に隠れてしまった。


 視覚情報に頼れなくなり、リョウも警戒モードを一気に上げる。


 すると、木の裏から矢が曲がって飛んで来た。


「うぉっ!」


 まさかと思ってリョウは仰天する。


 燕のような矢羽のついたその矢はリョウの肩をかすっていった。


 リョウはわくわくし始め「やるなージンのヤツ」と呟く。


 しかし、近寄らないと話にならないので、前面に集中しながら、緩急をつけた歩法で、ジグザグに進む。

 

 しかし、リョウの研ぎ澄まされた肉食獣のような感覚でも、前方に全く気配を感じない。


 と思ったら、上から投網が降ってきた。


 ジンは隠れていた木にナイフを刺して足場にし、いつの間にか樹上にいた。


 リョウは避け損なって足先に網の一部が絡まってしまった。


 そこにジンは樹上から、人差し指から小指まで使って矢を3本同時に番えて発射した。


 もたついている暇はない、とリョウは咄嗟に網の絡まった足で真上に蹴りを放ち、網で矢を防ぐ。

 そのうち一本が網をすり抜けてリョウの頭を掠めた。


「おおっと!」


 ジンはそして、上からナイフを構えて静かに降ってきた。


 リョウはジンの攻撃を連続バク転で避けながら、足に絡んだ網を外した。


 ジンはもう視界から消えて、また木の裏に隠れてしまった。


 ジンとしては、まともにリョウと格闘するなどあり得ないので、ありったけの小細工を用するしかない。


 リョウのもとに、また木の裏から曲がる矢が飛んでくる。


 だが、この矢は通常の矢より幾分か遅い。

 

 リョウは見切って躱し、矢の発射方向へダッシュする。


 しかし、何かが体にまとわりついて、動きにくく、変な具合だ。


 もう一本矢が逆方向に曲がって飛んで来て、それもリョウは身をよじって躱すが、一瞬矢の後方で光が反射した。

 もしかして?矢に糸が結んであるようだが、細くてよく見えない。


 リョウが構わず前進しようとすると、明らかに何かが引っかかってテンションがかかり、速度がグンと落ちた。

 体勢が後ろ重心に崩れてしまう。


 そこにジンが弓を構えながら突っ込んで来た。


 ヤバい!とリョウの脳は警鐘を鳴らす。


 その時、リョウは、セキサイとの組手で、追い込まれている時の精神状態になった。


 リョウは、いつもの訓練で追い込まれ続けて、危機に陥ると脳のリミッターを外せるようになってしまっている。

 セキサイにそうなるように鍛えられた結果だ。


 そのとき、リョウは、いわゆる過集中、ゾーンの状態に入り、自他の動きがとてもゆっくりに見えて、1秒がとても長く感じるようになる。


 ヤナには、そのとき、リョウのシマーが一際青く輝きを増したように見えた。



 リョウの目で見えるゆっくりとした世界では、ジンは、こちらに向かって、走りながら矢を2本同時に放ってきたが、いずれもゆっくりで、一本は避けずとも当たらないコースである事がわかり、もう一本は右胸に刺さるコースと分かる。

 

 ジンは、そのまま弓を捨て、近寄ってトドメを刺す勢いで向かって来るようだ。

 走ってきながら、ナイフを腰から抜く動作に移行している。


 リョウは、矢の回避が間に合わないと分かるので、右腕の筋肉にグッと力を入れて、腕で矢を受けた。

 そしてガツンと腕で矢を受けつつ、体勢を整えることに全力をあげ、体の軸を整えて立ち直る。


 それを見たジンは、ナイフを抜いてこちらに近づきながら、あっ、という表情に変わる。

 

 体勢が整ったリョウの動きは、ジンよりうんと速い。


 ジンがトドメの勢いで体当たりしながら、右手でナイフを突き出してきたが、リョウの目にはゆっくりとした動きである。

 リョウは、体を落として背中を向け、突き出した右手を両手で担いで、ジンの勢いを利用して前方に投げた。


 ジンは背中からドスンと地面に叩きつけられ、その上から更にリョウの肩が胸にドンと乗って、息ができなくなってしまった。


「それまで」


 セキサイの声で組手が終了する。


「ーーーーーー!」


 リョウがジンの背中をグッと曲げると、ジンはようやく息ができるようになった。


「なにあれ、急に変わったんだけど!」

 ジンは悔しそうに言う。


「追い込まれると動きがゆっくりに見えるんだ。ジンもやるなぁ、なにあの糸?ヤバかったぜ」


「スレッドキーパーっていう蜘蛛の糸だよ。頑張って集めて糸にしてる」


「そうか、めちゃくちゃ使えるな。ジン向きだと思う」



 観戦していた村人一同、やんやの喝采で盛り上がっていた。


 駐在騎士トールも、若い2人の動きの良さに言葉も出ない。


 ヤナは2人の模擬戦を見ながら、ウズウズし始めている自分に気づいていた。


 幼馴染でありながら、ライバルの2人だが、自分も努力では負けてないはずだ。


 この3人で高め合って行けたなら、どこまでも行ける、ヤナにはそんな気がしている。


 セキサイは、そんな3人を見ながら、頼もしく思っていた。

 

 

 

 


 

こんなテオ村ですが、いよいよアイツが。

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