陽暦1485年10月〜事件の結末
テオ村に、もうすぐ長い冬が訪れようとしている。
村人は皆、小麦や牧草を刈り込んだり、ジャガイモやタマネギを収穫したりと、慌ただしく生活していた。
駐在騎士トールも出張捜査から戻り、2カ月が経った。
トールは、1ヶ月ほどサンマイ市に寝泊まりしながら、主犯格の取調べの補助をしたり、裏付けの報告書類を作成したりして、忙しく過ごしていた。
あの事件は、主犯格の「ダンナ」が逃亡したが、その部下たち4人を捕らえることが出来たので、少なからず状況が判明した。
まず、「ダンナ」の正体は、元王都騎士団の「シャザン」という名前の37歳の男であった。
また、残り4人はいずれも不祥事を起こして、各地で騎士を辞めさせられた元騎士たちで、いずれもシャザンに声を掛けられ、落ちぶれていたところから悪党の道に落ちていった者たちであった。
4人とも、シャザンについての共通証言としては、元王都騎士団に所属していたこと、自分たちの名前や住所、やらかした事件の内容などの情報を予め握っていたこと、岩塩窟襲撃も予め計画していたこと、資金を潤沢に準備していたこと等を供述していた。
だが、元騎士らは誰もシャザンの背後関係については、聞かされていなかったため、分からない。
なお、シャザンは頭が回る上、執念深い性格なので、今回逃げおおせたが、必ず逆恨みでいつか、何らかの行動を起こすだろうという。
サンマイ領主の次男ギデオンは、他人の目から見ると、「最初の段階から計画を知っていた」ようであり、多数の前で、「このままサンマイ県の実権を握ってやる」等とうそぶいていたようである。
ギデオンについては、頭のたんこぶを痛そうにしながら取調べを受けていたが、事件について直接の関与を完全に否認しており、「シャザンがたまたま手に入れた岩塩を密輸するので、仲介して小遣いを稼ごうと思っただけだ」等と無理のある曖昧な供述に終始していた。
ギデオンが直接認めない状況下において、ドレル侯爵は、実子ギデオンに対して、これまでの父への反抗、兄との不仲、放蕩三昧の生活、反社会的勢力とのつながりに併せて、今回の件を国家への叛逆と認定し、廃嫡を決定してしまった。
これは、ドレル侯爵にとっては、いずれ来たる王位継承の戦いにおいて、サンマイ県を守るために必要な措置として、苦渋の決断だった。
ギデオンは廃嫡され、財産を没収され、国外追放の措置となった。
ここサンマイ侯爵領でレオニード派のギデオンがいなくなった事で、ヤーマス王家の後継者争いに関しては、国全体として次男レオニードの影響力が若干削がれたと言える。
そのため、世間では、すぐすぐに内戦が起こる可能性は低下したというのが、大方の見方だ。
そういった情報は、テオ村内で共有され、村民の中で、セオドール県が陰謀の渦中にあるといった危機意識がさらに醸成された。
なお、駐在騎士トールは、セオドール伯爵から今回の働きを高く評価され、県都への異動の意思を確認されたが、トールはテオ村が好きなので、謝辞している。
そのように皆が暮らしていたところ、県都から来客があった。
県都騎士団副官サイ・ハグーダだった。
サイは一人で騎乗して来たが、馬を降りて門衛をしているトールに声をかける。
「やあ、遠いねぇこの村」
「サイさん!本当に来られるとは!驚きました」
「たまには県都から出て、見聞を広めないといけないからね。まずは、村長さんに挨拶だな」
サイを伴ってトールが学校に行くと、今は薬師サイラー先生の授業中だった。
サイ・ハグーダは、窓の外から教室内を一見しようとして、ひっくり返りそうになった。
いきなり強力な幻獣が窓から顔を出して来たからだ。
「な、なんだ?ユキヒョウのマギア種だと!?」
距離をとったサイを、ハクヤはじっと見つめている。
リョウがそのハクヤの横から顔を出して見る。
「おにーさん、だれ?ハクヤは下がってな」
ハクヤが引っ込む。
サイはまた驚く。
なんだこの少年は!
青く光輝くシマーが体から立ち上っている。
そして動きや目線に隙がなさ過ぎる。
「サイさん、とりあえず中に入りましょうか」
サイの動揺を見て取り、トールは落ち着いてサイを促した。
サイは、ここではこれが日常なのだなと一応納得する。
表に回り、教室内に入って声をかける。
「県の騎士、サイです。ちょっと見に来ただけですので、気にしない……おぉ?」
サイがそう言いながら先生と生徒たちを見回すと、先生、生徒3人、幻獣とそれぞれ色鮮やかなシマーが輝いていた。
「なんだ?ここ国の秘密実験場なの?」
サイはめったなことで動揺はしないが、不意を打たれた感は否めない。
サイラーが、笑いながら言う。
「いえ、たまたまなんです」
「えぇー……」
とサイの力が抜けたとき、サイのうなじあたりに、強烈にビリッとした緊張が走る。
サイが慌てて振り向くと、そこにはセキサイが立っていた。
圧倒的強者の風格に、赤黒い不気味なシマー。
体に暴風を内包しているかの如き圧力。
サイは、額から汗がにじみ、呼吸が少し荒くなる。
「おや、客人とは珍しい」
「サイと言います」
サイはなんとか言葉を絞り出す。
「ワシはセキサイという。騎士サイ、トールから聞いておるよ。よろしく頼む」
セキサイが引っ込むと、サイはため息をつく。
「何なんですこの村は?」
「たまたまなんです」
サイラーも魔力持ち同士、サイの気持ちが分かるので笑うしかなかった。
サイが村に来ました。
すぐには帰りません。




