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陽暦1483年8月〜友の来訪①

有朋自遠方来、というお話です。前後編です。

 8月中旬、暑くもない夏が訪れているその日、リョウとセキサイはジャガイモ畑の雑草を一本一本鎌で、その草の息の根を止めるつもりで刈り取っていた。


 これは、命を奪う、という行動をためらわず行うための訓練の一環である。


 リョウは素直で優しい子供だから、この訓練は最初精神的に苦痛であった。

 精魂込めて育てる作物も、その辺の雑草も同じく日々成長していく。

 毎日畑を見ていることでそのことがわかっているので、雑草も一つの命と捉えることが出来るのだ。

 命を奪うことを自覚すると、目の前が暗く、ふらっとなることがあった。


 目の前の命を、一本一本、自分の行動で殺す。


 そのために、行動の際に自分の心を殺生モードに切り替える。


 その積み重ねにより、リョウはいつの間にか、まるで熟練の戦士のように、心と体を切り離して行動が出来るようになってきている。



 今や、ヤギや羊たちも増えて総勢20匹ほどになっているが、最近ではデカくなったハクヤが放牧の手伝いをしてくれるようになって、群れはハクヤの誘導に従って動かされている。


 なお、最近ハクヤのサイズは、体長2.5メートル、と言っても1メートル以上は尻尾だが、体重180キロの巨大なもので、一見するとトラの成獣くらいデカい。

 家畜たちは、ハクヤと一緒に育ってきたので別に恐れたりしない。


 ハクヤを知らない人はそのど迫力に恐怖するだろうが、本人?の中身は、ずっと大人しい、とても賢いネコちゃんといった感じである。



 昼前、ハクヤが急に駆け出して、街道の方面に向かって行った。


 セキサイとリョウは、あれっ?と思ったが、ハクヤに警戒している雰囲気がなかったため、そのまま作業に戻る。


 

 しばらくすると、ハクヤが、ヤナ、ジン、ジンの父である狩人バンの3人を伴って帰ってきた。


 リョウはびっくりして喜んだ。


「なーにー!びっくりしたあ。どうしたの」


 ヤナとジンは汗だくで、疲労感満載の顔をしている。


 もちろん修行のため、いつもの重い革鎧を身につけている。

 さすがに慣れている重さとは言え、遠方まで歩くうちに、それがどんどんずっしり重く感じて、2人とも途中で脱ぎ捨てようかと思った。


「あんた、いつもこんな遠くから来てたの、正直距離感をナメてたわ」


 テオの村からマンジェ山の山映は、ぼやけながらも毎日見えていたし、何でも無いかのようにリョウが学校に通ってくるので、ちょっと遠いピクニック感覚で、ジンの父である狩人バンに連れてきてもらったのだった。


「登りでキツいとは思っていたけど、まさか半日かかるとは思ってなかった……」


 ジンも少し後悔しているようだ。


 バンは、父親のアルから「結構遠いぞ」と聞かされていたので、子供達からせがまれた時は、ちょっと嫌かもと思ったが、何事も経験かと思い、子供たちのために引率してやっている。


「遠方までようきた。お疲れさまじゃったな。メシはまだじゃな。そこらで待て」


 セキサイは、外のレンガ積みの窯に炭を入れ始め、火を起こす。


 その後、小屋の裏の氷室から、デカい肉の塊を出してきて、大量に薄切りにし始めた。

 肉はくすんだ赤紫色をしているが、腐敗や発酵とは違うようだ。


 そして、トウモロコシの粉を水で溶いて、薄く伸ばし、鉄板の上で丸く焼き始める。

 大量に、薄く焼いた香ばしい生地が出来ていく。


 バンは気がきく大人なので、すぐにセキサイを手伝い始める。


 バンは、薄切り肉を軽く炙り、棒に刺して積み上げて、そのまま火の上で転がしながら焼き始める。


 セキサイは、そこに潰したトマト、たっぷりのみじん切りニンニク、みじん切り玉ねぎ、唐辛子を混ぜたソースを持って来て、ヤギのチーズを炙って溶かし始めた。


 子供達は、3人で他愛無い雑談をしていたが、すぐに肉の焼ける匂いに興味深々となって覗き始める。


「リョウ、あっちの畑からあの葉っぱ取って来てくれ」


「いいよー」


 リョウはすぐに行って、オレガノの葉を両手に抱えて戻って来た。


 セキサイは、薄い生地の上に削ぎ切りにした肉を乗せて、そこに赤いソースと溶けたチーズ、洗ったオレガノの葉っぱをかけて半分に折る。


 そして熱々のうちにヤナとジンに手渡した。


「熱いうちに召し上がれ」


 ヤナとジンは、目を輝かせてパクつく。


「うーーーん!美味しい!肉汁が、こぼれっ、もったいないー!」


「熱々!すっごい肉を感じる!でもソースめちゃうまぁ」


「おかわりもあるぞ」


「やったー!」


 バンも食べる。


 味蕾に衝撃が走る。いつも食べている肉よりずいぶん美味いと思う。


「この肉は……まさか……?」


「やはり分かるか。バイオレント・ムースの背肉(ロース)じゃ。低温熟成と言うべきか、氷室の奥に長期間入れておくと、特に旨味が増すようじゃな」


 巨大で凶暴、かつ警戒心が強く、なかなか狩ることの出来ない化け物ヘラジカ。

 

 ウォーベアすら敬遠していく山の王者。


 山の肉の食材では最高峰だが、入手難易度も最高峰で、数年に一度口にできるかというレアもの。


 かつてセキサイも逃してしまったことのある、ハンターなら誰しも憧れる獲物だ。

 それの熟成肉。


「おお!やはり。では、ツノも!」


 肉もさることながら、バイオレント・ムースの1番貴重な素材は、その巨大なツノである。

 硬度もあり、粘りも弾力もあるが加工しやすく、折れないという実に万能素材。


 上級者の弓の素材として最高級の物であるが、貴重なためなかなか出回らず、高額で取引されている。


「もちろんあるぞ」


 バンは、さっきより目を輝かせてセキサイに擦り寄る。


「ぜひ譲ってください!弓を作りたいのです!」


 ジンは、留守がちな父が、そんなにテンションを上げているのを初めて見た気がする。


「いくらでも持っていくが良い。お代は、そうさなぁ、リョウに弓の秘伝技を教えてくれたら嬉しいがのう?」


「えっ、そんなんで良いなら!」


 ジンはまた「えっ」という顔をする。

 秘伝技ってなに?そんなのあったの!?


「じゃあ、食後に頼むぞ」


 セキサイはニヤリと笑う。


 この集まったメンツを見て、元々後から武術交流をするつもりだったのだ。




 

 


 


 


長くなるので、分けました。

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