陽暦1475年6月某日〜寝返りが出来るまで?
ほのぼのと(?)ちょっとずつ時間が経っていきます。
セキサイ達が住むのは、ウルシオ大陸の中央に位置するヤーマス王国である。
ヤーマスは建国150年、他所からは現国王の統治は安定して見える。
国の人口は約800万人と多く、周辺国の中では栄えている方だ。
しかし、国内では貴族の腐敗が横行しており、貧富の差は拡大しているため、国民の不満は低くない。
国王はまだまだ壮健ではあるが、様々な問題解決に向けた積極的な政治を行なってはおらず、お世辞にも名君とは言い難い。
地理的にはヤーマス王国の北側は、世界の屋根とも称されるドルガ山脈が、北のオーロ帝国と東西に国境を形成している。
国土は、標高の高い場所と平地と半々くらいの割合で、国の真ん中に「テリス海」という大きな湖が有る。
そのほか東にリア国、西にタジ国、南にケドニア国が位置している。
なお、ヤーマス王国には、中央に東西の重要な交易路「文化の道」が通っており、他国は地政学的そこを通らざるを得ないことから、表向きどの国もヤーマスとは仲良くしているという状況だ。
ドルガ山脈の西側の中腹、標高約2000メートルの辺りにセキサイはポツンと小屋を建てて住んでいる。
6月、リョウと暮らし始めて3ヶ月が過ぎた。
今、朝晩はまだ気温が10度を下回る事があるが、日中は涼しくてとても過ごしやすい季節だ。
セキサイの小屋の周りには丈の低い牧草が生えており、ヤギと羊達がのんびりと食んでいる。
セキサイは今は芋を植えており、畑仕事をしながらリョウを育てている。
村の狩人アルも、狩りのついでに様子見がてら、獲物持参で小屋を訪れてくれている。
セキサイは月に一、二度リョウ連れでテオの村に降りて、必要なものを購入していくようになった。
そのときは毎回マギーからリョウにもらい乳を頂いている。
テオ村民の間でもセキサイは既に、孫連れの山の爺いとして認識されている。
そんな中、リョウはすくすくと成長し、しっかりと意思表示や手遊びをするようになってた。
3日前から、リョウは、小屋の中でずっと寝返りの練習をしている。
まだ見た感じ時期尚早のような感じだが、とにかくずっと挑戦を続けている。
最初、リョウが「むー」と唸り声を上げていたのでおしめ交換かと思い、セキサイが見てみると、寝返りには全然無理そうな体勢のリョウが、手を宙に伸ばし、体を捻っているところだった。
寝返りはまだ無理だろう。
セキサイはそう思って作業を続け、外で家畜の世話をしたり、食事の準備をしたりして過ごしながらもちょくちょく様子を見ていた。
その間ずっとリョウは腕を上げたり首をもたげたりして寝返りに挑戦している。
その間一切寝ない。
赤ちゃんの仕事とも言うべき昼寝を全くしない。
ひたすら手足をじたばた動かしている。
どこまでやるかしばらく見ていたら、いきなりバタリと寝た。
いや、気絶したかのように見えた。
おかしな子だ、とセキサイは思った。
翌日も同じように挑戦し始めた。
セキサイは体の使い方を導いてやろうとリョウの首元に手を差し出したが、リョウはセキサイを凝視し、その直後、火の着いたように泣き叫び始めた。
「ぬおっ、余計な世話じゃったか」
セキサイが手を放すと、リョウはしばらくグズっていたが、落ち着くと再び寝返りを挑戦し始めた。
セキサイがほっといて外で体の鍛錬を始め、数時間経って夕方に戻ると、まだリョウは寝返りの練習中だった。
明らかに昨日より体の捻った角度が上がり、成長の後が見える。
赤子はみんなそんなもんなのか?と思うが、リョウの成長はセキサイにとっても嬉しいことだ。
セキサイが寝返りの練習を見守っているうちに、2日目もリョウはばたりと寝てしまった。
3日目の今日も、セキサイが注目していると、リョウは寝返りの練習をし始めた。
今日はいきなり調子が良い。
リョウは挑戦1回目、一気に右腕を上げ、首をのけぞらせ、体を捻る。
それぞれの動きの連動は完璧だった。
体半分くらい捻り、寝返り成功まであと少しのところでリョウは止まった。
しかし全く諦めず、プルプルしながら重力と戦っている!
セキサイは心の中で「そこだ!捻れ!体の下から左腕を抜け!」と応援するが、リョウは力尽きて戻ってしまった。
すぐに2回目をトライする。
しかし疲れが残っているのか、さっきより残念な角度で失敗した。
3回、4回、5回とリョウは立て続けに失敗しても、疲れても、何度でも挑戦を続ける。
赤子というやつはあなどれんな、とセキサイは思ったが、見ているうちにちょっと異常ではないかと思い始める。
リョウから精神力の発露を感じる。
赤子というのは、もっと、どちらかと言えば動物のようなものだったと思ったが……?
またリョウは力尽きてばたりと寝てしまったが、次、目を覚まして乳を飲み、しばらく後にまた寝返りの挑戦をした。
今回は一回で成功した。
リョウは満足げにセキサイに微笑みかけ、その後はグルグルと寝返りを繰り返してその日のうちに完璧に習得した。
セキサイは赤子の成長力に感動していた。
しかし、リョウは見ると今度は、腹ばった後に短い手足で地面を掴んだり、蹴ったりし始める。
どうやら這って進みたがっているようだ。
「それはさすがにまだ早かろう」
セキサイがこの子は様子がおかしいぞ、と思って見ていたところ、案の定、リョウは首をもたげ、地面を掴みながら、地面を足で捉えて押そうとしながら、プルプル固まっていたが、しばらく耐えた後に、気絶したように寝てしまった。
「なんじゃこの子は!」
一回書いたやつ保存しないまま消えたんです……間抜け過ぎる……。
でも諦めないで何回も書くさ!




