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誠実ライアー



シエルの部屋をノックすると、鍵は開いていた。

しかし、部屋の中は暗いままだ。


「シエル?」


部屋を歩くと、座り込んでいる。


(……落ち込んでるのかな)


返事がないけれど、こちらと目があった。

一人にして欲しいかもしれない。

しかし、私は隣に座る。


「…なんだ」


力無くそう言った彼に、何を言えばいいか思案する。


「…シエルは、復讐を半分終えたんだよね。納得はできないかもしれないけど。残るは夜の神を倒して、それで全部……」


なるべく穏やかに言葉を選んだけれど、シエルは思ったよりも消沈していない目で、こちらをギロリと見た。


「……お前は……何者なんだ?」


「えっ……?」


黒い、モヤが体を拘束する。

それだけではなく、扉のドアノブも闇の力に包まれている。


(閉じ込め、られた……?)


「正直に答えろ」


睨む目には、強い意志がある。

落ち込んでいたのではなく、怒っていたのだろうか。


「夜の神にも詳しく…俺の行く先をコントロールして…最初は何かはめるためなのかと思ったが…そうではない。それならなんだ?何が目的だ?」


「私は…シエルに復讐を遂げて欲しくて…」


「嘘を言うなッ!!」


嘘なんかじゃないのに。

それでも裏切られてきたシエルからすれば、信じられないのだろうか。


「本当の事を言え!お前は何者で、何が目的なんだ!どうして……っ、どうして()()()()!?」


「お前は…俺を裏切るな………」


捨て台詞に、私は呆然とする。


私は馬鹿だ。

シエルに生きて欲しくてこれまでやってきたのに。

こんなことを言わせてしまうなんて。


ずっと裏切られてきたシエルがやっと信用してくれたのに、私まで彼の心を傷つけてきていたのか。



「ごめんシエル………全部話すよ……」



ーー


転生者であること。

シエルが復讐後に死ぬ未来を防ぎたいこと。

私もアトラスも別の世界でシエルに憧れていた存在であること。

荒唐無稽な話だけど、シエルは黙って聞いてくれた。



「……信じられない、よね…嘘ではないんだけど……それに先のことを知っているのに黙っててごめん。でも少しずつ違ってもいるから、役に立つ知識とも限らないんだけど…」


ーー


シエルの拘束から解放されたかと思えば、部屋から追い出されてしまう。

私はトボトボと廊下を歩く。

教会の2階フロアには、個室がいくつかある。

私も別の部屋を充てがわれているものの、シエルが気になって帰りにくい。


「ねえ…あなた…」


緩いウェーブの茶髪の女性に話しかけられる。

大きな胸が大胆に開いている。

私服とはいえ、ここに居るからには教会の元聖女だろうか。


「は、はい!えっと…あなたは…」


「ふふ、私はセーラ。聖女よ。そんなことよりあなた!彼の知り合い?白い髪の…イケメンの彼!」


思わぬ声かけに、驚く。

聖女として良いのか分からないけれど、まあ元聖女だから良いのか。


「シエルですか……?はい、旅を同行しています」


「じゃあ彼女ではないのよね!?ねえ、紹介してくれなぁい?ここの男にはない…強引そうな雰囲気が素敵!」


シエルが烈火の如く怒る姿が目に浮かぶ。



「あはは…嫌がると思いますよ…」


私がそう返すと、セーラはむすりと口を膨らませる。


「イケメンの独り占めする気!?そうはさせないわ!私の大人な魅力でオトしてみせるわ。ふふ、それに…」


いやらしくこちらの上から下までを見て、挑発的に笑われる。


「あなたみたいなお子様には勿体無いわよぉ?」


(が、ガーーン……。)


シンプルに傷つく。

しかしセーラのバインボインな胸を前に、私の慎ましすぎる胸では何も言い返せない。

コールド負けだ。


シエルの部屋に走り去ったセーラを見て、私は心のハンカチを噛む。

シエルといえども、あのバインボインの前には負けてしまうのかもしれない。


(うう…男なんて…男なんて……胸ばっかり好きなやつばっかり!おっぱい星人!おっぱい星に帰っちゃえ!)


トボトボと自室に帰り、私は目を閉じた。


ーー



「起きなさい!」


「ひぃう!?」



ヒステリックな声で、目を覚ます。

そこには、メイク壊れ過ぎなヤケ酒お姉さんが立っていた。


「え、えっと……セーラさん……?」


「アンタ、どうなってるのよ!部屋に入ったら闇魔法でゴミ箱に落とされたわ!?アンタの入れ知恵ね!?姿を見てももらえなかったじゃない!」


私は頭にはてなを浮かべながら、寝起きの頭で考える。


「えっと……なんでですか?」


私が聞き返すと、セーラはぷりぷり怒りながら部屋を出て、盛大に扉を閉めていく。


「ひ、ひぃ……!」


最後まで怖い人だ。

私がしぶしぶ起き上がると、誰かが入ってきた。


「あ、あの…淑女の部屋に入るのは良くないと思いつつ……どうしてもこっそり伝えたいことが……」


「ウィルさん!どうぞ、どうかしました?」


「すみません、先程元聖女の方が見えたので…あの方には気をつけてください。何年も前に聖女としてクビになったのに…白教会が解散したのを良いことにまた出入りしているんです。近寄らないほうがいいです…」


「…おっかないですけど…勝手に来るんですよね…」


来て欲しくないけれど、どうも粘着質そうだ。

でも昨日のことがあったし、流石にシエルのことは諦めるのだろうか。



ーー




「うふぅん…シエルくぅん……」


「……………」


「……………」


地獄のような空気だ。

朝食を支給され、3人で食べる。

本来ならセーラは入らないけれど、どういう流れか彼女が食べ物を運んでくれた。

シエルの空気は過去最高にブリザードで、気づかないのか気づかないふりしているのか意地なのか、セーラはめげない。

シエルを恨むよりはいいんだろうけれど。


「さあ、たくさん食べてぇん……」


猫撫で声が、全然似合っていない。

もっとクールな方が、いつもの高圧的な方が、刺さる人居そうなのに。

いやでも、スタイルがあれだけいいと問題でもないのかもしれない。


(おっぱい星人を許さない……)


前世への社会への毒電波を送りつつ、私は食事を終えた。


ーー



事件というのは、起きるものだ。


セーラの食事を食べてから、1時間後。

教会で爆発の音がした。


「な、な、な、何!?」


丁度今ここには3人しかいない。

シエルに何かあったら大変だ。


爆発の音に向かうと、シエルが闇の力を放ち、セーラがどこかに飛ばされたらしい。

教会の天井に穴が開いている。


(し、死んでないよね………?)


星屑になったのか、セーラの姿は近くにはないらしい。

こんな使い道はどうかと思うけれど、以前貰った青の騎士宛の手紙を出しておく。


(えっと…やらかし元聖女がシエルに吹き飛ばされて消えました、なんかいい感じに処理してください、と)


青の騎士に頼む要件でなさすぎるしやってくれるかはわからないけれど、とりあえず今はシエルだ。


「シエル、大丈夫!?落ち着いて……何があったの?」


肩で息をしているシエルは、大分興奮した怒り状態だ。

セーラが何か侮辱的なことを言ったのだろうか。

家族を馬鹿にしたとか。


「………お前…どういうことだ!髪飾り、誰に貰った!他のやつの前でもああやって…くそ、それに朝出入りしていた黒の騎士…いやそれだけじゃない、お前はいつもいつも…!アトラスとも本当に何もないのか…!?大体、何だ憧れって……!」


怒りながらゆらゆらとこちらに向かってくるシエルの様子は、明らかにおかしい。

まるで操られているかのように。


(……あれ、)


よく見るとシエルの頬は上気している。

闇魔法ができては消え、魔力が不安定だ。


「まさか…!セーラに何かされたの!?だ、大丈夫!?」


ペタペタとシエルの体に触れると、熱い。

それに。


(あれ…少し酒臭い………?)


僅かだ。

気のせいかもしれない。

けれどそれで確信した。


(あの女!!酒を盛ったのねーーー!??)


何てことをしてくれるんだ。

シエルが本気を出したら、誰も止められない。

幸い今は暴れてないからいいけれど、それでも酔って怪しげな動きをしているシエルは心配だ。


「つ、疲れてるんだよね!寝よう、シエル」


「寝ねぇ。俺は眠く……眠くねえ……」


酒に弱くなさそうなシエルのことだ。

それにあのセーラのやり口だし、ただの酒ではないのだろう。


「ど、どうしよう媚薬とかだったら。いや流石に…平気だよ…ね。シエルだし。シエル、しっかり意識を持って!お願い!」


「なんだ?媚薬…?なんの話だ」


ぐ、と顔を近づけられる。

赤くなった頬は、白い肌に良く映える。


(ってそんな場合じゃなくて……ち、近い……)


柔らかそうな唇に、吸い込まれそうになる。

酔っているシエルにそんなの駄目だって。


私は役得をぐっとこらえて、目を瞑ってシエルを抱きしめる。


「ダークスリープ!」


ーー



「……………」


「……………」



さらに不機嫌、極まれり。

同じベッドに座り込み、かれこれ1時間経った。

ようやく口を開いたシエルは、溜め息を吐いた。



「……大体誰なんだよあのクソ女は。ちっ。頭がガンガンする……おい、お前……さっきのは忘れろ。」


「そ、そうだよね。酔ってただけだし。本音じゃなっ…」


まるで嫉妬みたいなこと、シエルが言うなんて。

ちょっと嬉しかったけど。


「………はあ。本音だよ。今更取り繕うのもダサい話だ。お前、その髪飾りはなんなんだよ?貰い物か?」


思わぬ言葉に、驚く。

さっきも思ったけれど、ポッケの髪飾りがそんなに気になるだろうか。


「…シエルには見えるの?髪飾りつけてないのに」


「…そんなでかいオーラなら誰だって気づく。そりゃなんだ?相当古い宝石か…もしくは力を込めまくった魔石か?」


そんなに力が篭っているのだろうか。

お守りとか言っていたっけ。


「普通のアクセサリーみたい。青の騎士に貰ったの。」


「……んなの普通渡すかよ……くそ、まあいい。お前が何とも思ってないなら。……それは俺も同じか。」


しどろもどろな言い方だ。


「シエルが何も思ってないってどういうこと?」


セーラのこととかだろうか。

いや、それだと話の流れがおかしいか。

はぐらかされるかと思いきや、今日のシエルはすごく素直だった。


「お前…アトラスとかいうやつもだけど…俺のこと憧れ、てたんだろ。俺は……お前に好かれてるんだろうと勝手に思っていた。っていうと俺が好かれてなかったことを落ち込んでるみたいになるから嫌だったんだよ!クソ!やっぱりこの話は終わりだ。お前出て…」


(シ、シエル……シエルって………)



「私のこと、好きなの?」




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