混沌セスプール
悪魔の学び舎に入る。
ここには、巣食う闇というボスがある。
相変わらずレベルの上がりすぎたシエルであれば、敵ではない。
「…そういえば。お前、あいつとはどういう関係なんだ?」
シエルの呟きに、私は首を傾げる。
「あいつって?」
「…アトラスだよ。会ったばかりにしては妙に親しくないか?元々知り合いか?」
ああ、とつぶやく。
そういえば転生者同士だから気を許しているけれど、傍から見たら妙に仲良く見えるかもしれない。
「そうですね。昔から仲良かったとかではないですけど知っている感じです」
嘘ではないものの、なんだか説明が難しい。
「ふーん……」
シエルはあまり興味が無さそうにそう言うと、思わぬことを言う。
「お前の過去ってあまり知らないな」
思わず、瞬きする。
「えっ興味あるんですか……?」
シエルは私の言葉に眉を顰めると、目を逸らす。
「ない。別にない。世間話だろ」
その仕草がなんだか可愛らしくて、私は素直に話すことにする。
「それがあまり覚えてないんですよね。教会の呪術師だったっぽいですけど…どうやら呪術師は大聖女に操られてたようなので。記憶がないみたいです」
言いにくいことを言わせたと思ったのか、シエルはこちらを見ると、ポッケから何かを投げて寄越した。
「なんですか?これ……あれ」
それは、アクセサリーだ。
愛らしい宝石、などではなく。
「風魔法の腕輪だ。攻撃を避ける。ダークミストよりはよほど安全だ」
「こんなの…いつ……」
「ちっ……眠らせてきただろ。…おかげで久々に休めたから。礼くらい……くそ、笑えよ!らしくねぇって」
私はアクセサリーをぼんやりと見つめる。
シエルの言葉が入ってこないくらい、見入ってしまう。
(シエルが……私のために…………)
現実味がなくて、でも嬉しくて。
思考が停止してしまう。
「……お前、何で泣きそうなんだよ」
ポンポン、と優しい手の感覚に、ハッとして目を上げる。
不器用そうな、兄のような手つき。
シエルは、優しい。
それはもう、私の思い込みなんかではないと思う。
私は微笑んで、アクセサリーを腕に早速付ける。
「ふふふ、シエル、大好き」
「……はあ!?お前現金だな…」
ーー
(し、視線に困る……)
拾った装備がようやく元より良さそうだったらしく、シエルは衣装を変えている。
しかし、なんだか衣装が変わって妙な色気がある。
これまではいかにもなダークファンタジーな衣装だったけれど、今回のはDLCとかで出てくる少しラフな衣装で、腕とか首元が開いている。
(お色気シエル……)
本人が知ったら殺されそうなことを思いつつ、私ははぐれないようについていく。
ちなみに私は、教会から貰った教会の呪術師装備を着ている。
可愛らしいシスターのようだけど、とにかく防御率が高い。
男版だけどシエルの装備にも教会の呪術師装備はあった。
そちらもすごくステータスの高い装備だけど、今ならシエルが着そうにはないなと思う。
「これがボスか……」
順路の先に、ドロドロした黒い液体みたいなのが固まった巨体が出現する。
巣食う闇というボスだ。
ちなみに光ではなく火にとにかく弱い。
「あ、あれには触れないでください。きっと危険です!」
巣食う闇のドロに触れると、体が拘束されて動かなくなる。
シエルは一応ドロを見てから頷くと、剣を仕舞ったまま走り出す。
(……えっ?)
そうして走りながら、手の中に黒い炎を作り出し、ボスに叩きつける。
叩きつけた火は、拡大して巣食う闇を覆っていく。
(ダークイグニス…しかも詠唱も無し…すごい…)
黒炎の最上位魔法の1つだ。
シエルは主人公だけあり、闇に関するものであればどんな魔法も使えるのだろう。
ドロドロが火によって焦げ落ちていく。
巣食う闇は進むことも戻ることもなく、チリチリと火の中に消えた。
ーー
「全員殴るが…本当にここのボスが、俺の復讐相手なのか…もう少し調べたい。」
悪魔城に踏み入る前に、シエルが口に出す。
確かに、実際のところ誰が黒幕なのだろうか。
「教会に一度戻ろう。法皇様なら知ってるかも」
ーー
「よく戻られました。勇者、そして巫女。感謝します。結論から言うと…おそらくは…その家族を奪った悪魔は、大聖女の使役していた悪魔です。復讐すべき相手は偽の太陽と…あれを野放しにした夜の神かもしれませんね」
教会にとっての信仰の対象だろうに、法皇はこちらに正直に告げてくれる。
「…そうか……。もう一つ聞きたいことがある。俺が本来倒したかった大聖女の使役した悪魔はどうなったんだ」
クロムがぐっと顔を顰める。
しかし、法皇は小さく笑い、それを制する。
「…嘘は吐けん。恩人故、な。青の騎士が討伐しました。…奪われたと思うかもしれませんが……」
「…………」
ーー
シエルは部屋にこもってしまった。
複雑だろう。
本来一番復讐したかった相手は、旅を始める前から存在していなかった。
ゲームでは知ることがなかった、真実だ。
私はぼんやりと廃れた教会を歩く。
ふと、ステンドグラスが目に入る。
色とりどりの、騎士を象ったデザイン。
剣は、青くて綺麗だ。
「……お好きですか?青の騎士」
「…どうも」
青の騎士、ルーンが歩いてくる。
金の髪が風に揺れる。
背負った大きな剣は聖剣だ。
「ふふ、私もこのステンドグラスが好きで…昔からよく見ていました。憧れですね。」
「…あの、何か?」
用があるのだろうか。
しかしルーンは意味ありげに微笑んで、それから何かを手渡してきた。
「これ、あげます。お守りになるかどうか、そんなアクセサリーです。大切なものなのですが…もういらないものなので」
差し出されたのは、金色の髪飾りだ。
確かにゲームで見たことはないし、おそらくは本当のアクセサリーで、効果があるアイテムとは違うのだろう。
「いらないって…どういう…」
「家族に買ってきたんですけど…受け取ってもらえなくて。使ってもらえたら嬉しいです。何かの役には立つかもしれません。ほら、気になる人のために着飾るとか。売ってお金にするのもいいでしょう」
「そ、そんなことできませんよ!貰い物ですから」
ルーンはふふ、と笑うと、目を閉じる。
「…本当に大切なものは、近くにあるものです。探し物もそうですね。あなたの探し物が、ちゃんと見つかることを祈っておきます」
私にとっての探し物は、たった一つだ。
シエルが生きる、明日。
あの墓前より先の未来に辿り着くこと。
「ありがとうございます。大切に持っておきます。」




