究明ディスカッション
祭壇に前法皇の血を捧げることで、ラスダンに繋がる門を開くことができる。
しかし辺境の街のボス・偽の太陽がそれを阻んでいる。
ストーリー的にも、次は偽の太陽を倒すのが順路だ。
灼熱に照らされた辺境の街を歩く。
ひたすら発展していた聖都と対象的に、この街は歴史的な雰囲気だ。
具体的には、マヤ文明やアステカ文明をベースにしているのだろうと思う。
「シエルは何を調べていたんですか?」
歩きながら、雑談をする。
別行動をしていた間、何を調べていたのだろうか。
「大聖女が悪魔に傾倒したきっかけを調べていた。あの影への手がかりがあるかもしれないからな。だが特に進展は無い」
「そうなんですか…。」
完全に空振りという感じなのか。
ストーリー的には、シエルの復讐相手としてラスボスが居るものの、過去については私も知らないところが多い。
とはいえ、法皇の口ぶりからして、大聖女周りはこのステージのボスが原因という感じなのだろう。
「…このクソ広い中ではぐれたら探さないからな」
キョロキョロとしていたからか、わざわざ立ち止まって釘を刺された。
私は頷く。
シエルの言うことは正しい。
ゲームでもこのステージは厄介だった。
街の至る所に罠や呪いがあって、即死級のものまである。
ここは邪教徒を徹底的に弾圧する恐ろしい街なのだ。
それにラスダンも近いここらの街では、今の私はかなり足手まといだ。
こっそり魔法の練習はしているけれど、流石に終盤の適性レベルには全く追いついていない。
シエルから離れないように気をつけないと。
ーー
そんな風に考えた3分後には、私は頭を抱えることになった。
「はぐれた…!?な、なんで…?」
おかしい。
さっきまで確かに一緒にいた。
気を抜いていたわけでもない。
(…偽の太陽の力なのかな…)
この街に入ってから、照り付ける太陽が異様なまでに眩しい。
辺境のボスはあの太陽だ。
この街全体がボスの支配下ということでもある。
偽の太陽は邪神のような存在で、ボスとしても大量の呪いやデバフを掛けてくるタイプだ。
シエルとはぐれたのも、偽の太陽の認識阻害によるものかもしれない。
「異教徒ケス、異教徒イラナイ…」
(しまった…!)
街の人たちと鉢合わせてしまった。
どこを向いているのかも分からない狂った人々が次々にこちらに向かってくる。
街の人たちは皆、偽の太陽に支配されている。
「異教徒ニガサナイ」
走って逃げるけれど、すぐに囲まれてしまう。
相手は人間だから多少戦えるけれど、ゾロゾロと湧いてきてきりがない。
「こっちだ!」
誰かに腕を掴まれ、どこかにワープする。
そしてそのまま手を引かれ、無我夢中で走る。
階段を飛び降り、梯子を駆け降り、誰かの家の中を走り、地下へ地下へと降りていく。
地下の避難場所のようなスペースだろうか。
まるでアリの巣のように、地下が続いている。
どこまでも走った後、男が立ち止まった。
「相変わらず元気そうだな。策もなしに地上に出るのはやめといた方がいいぞ」
「アトラス…!」
見知った黒髪だ。
まさかこの街で会うとは思わなかった。
「どうしてここに…?」
この街に何か用があったのだろうか。
地下の場所もアトラスが用意したのか、他に人の気配は無い。
「…あれからアンタに言われたことを考えた。」
アトラスは、自虐的に笑う。
「俺だって…シエルに生きて欲しいよ。人生で一番好きなゲームの主人公なんだぜ。何かシエルの力になれないか調べまわってたらここに辿り着いた」
自信がなさそうな目だ。
一度は敵対したし、拒絶されるかもって思っているのかもしれない。
「ありがとう。おかげで助かったわ。」
優しくそう返すと、アトラスはもう一度謝罪してから、話し始める。
「…前は本当に悪いことをした。すまない。詫びと言ってはなんだが、調べた情報を聞いてくれ。何かの役に立てばいいんだが」
ーー
「…アンタはこのゲームの考察を読んだことがあるか?」
ブラメアの考察には明るくないけれど、少しくらいはある。
「えっと…ラスボスは偽の太陽に穢された元神様…とかってやつ?」
ラスボスが元神様という考察は、多くの人に支持されていたから、その手のものに詳しくない私でも知っている。
「そうだ。偽の太陽はラスボス…つまり夜の神の力を食らった邪神だ。本来は神ですらない。本物の悪魔だ。」
アトラスは巻物のようなものや様々なメモ書きを取り出す。
たくさんの本や資料が部屋の中にある。
相当調べていたのだろう。
「1から調べてみた。実際に紀元前、この街には夜の神が居た。けれど人々は朝に憧れて偽の太陽に入れ込み、夜の神の代わりに偽の太陽が新しい神になったらしい。」
どうしても、釈然としないことがある。
「でも夜の神は神様なんでしょう?どうして偽の太陽に負けちゃったの?」
スターゲイザーもそうだが、このゲームの神様は基本的に現実の物を依代にして異界から顕現する。
だから作中に祭壇や血、儀式なんかが出てくる。
依代を壊すだけでは本体は死なない。
だから偽の太陽に完全に負けたわけではないにしても、そうは言ってもそもそも負けるものだろうか。
「信者に騙されたんだ。夜の神は人間好きな神様だから、信じていた信者に騙されると考えていなかった。偽の太陽はただの悪魔だが…人の心の隙間に介入することは長けていた。そして神の力を奪われた。」
酷いことをするものだ。
大切な信者に騙されてしまったのか。
「夜の神が奪われた神の力ってどういうものなのかしら?なんだかややこしいわ」
いまいち、神様本体と人工の器に宿った神様の違いも分からない。
「人工衛星としてのスターゲイザーやこの街にいた夜の神ってのは、人の作った器に神様の一部が宿ってる。その器に宿った力を奪われたんだ。本体からすると半分くらいじゃないかな」
「どうして夜の神の本体は、偽の太陽に復讐しないのかしら?」
自分の一部を奪われたままなんて、嫌じゃないのだろうか。
それに神の力を奪ってきた不届き者を野放しにするなんて。
「できないんだ。神様が人の世界に干渉するには、依代と触媒と祭壇が必要になる。星の監獄には全てあっただろう?」
スターゲイザーを呼ぶ人工衛星の器、罪人達の血や命という触媒、矯正監の部屋という祭壇。
夜の神は器を失い、触媒もなく、祭壇も封じられている。
「それに何より、心が折れてしまっているんだろう。ボスとしても、幽鬼みたいな物悲しい存在だしな」
アトラスが調べた資料には、確かに信者を使って偽の太陽が夜の神を穢した話が書かれている。
絵本みたいなものもあれば、誰かの研究なのか日記みたいな資料もある。
「…それにしてもよくそんな情報が残っていたわね。偽の太陽の陣営にとっては都合が悪いでしょ?すぐ破棄しそうなのに…」
偽の太陽の監視が効かない、地下に保管されていたとかなのだろうか。
「からくりがある。夜の神が倒された後、この街では偽の太陽が支配力を得た。当然夜の神の信徒たちは殺されるか、命からがらこの街を出た。そしてその一部が、他の国で新しい宗教を始めたんだ。」
偽の太陽が恨みそうな存在。
私が知る限り、一つしかない。
「それってまさか…白教会…?」
「そういうことだ。偽の太陽にとって都合の悪い情報は大体白教会に残ってた。」
だから白教会は滅ぼされかけるほど狙われ、白教会もまた偽の太陽に強い恨みがあるのか。
今の法皇よりもずっと昔から、両者には因縁があるということになる。
そういえば、白教会は青の騎士が最強の称号だ。
青という色は、夜の神を指しているのだろうか。
「門を開くには法皇の血が必要ってのも意味深ね」
法皇は夜の神の信徒の末裔ということになる。
夜の神は今も、信徒を求めているのだろうか。
(相当人間好きな神様なのね…)
「ルキアは身代わり石があれば呪いは問題ないと言ったよな。だが違う。夜の神がシエルを呪うとは考えにくい。俺は、呪いの原因は偽の太陽だと考えてる」
「…確かにそうかも。偽の太陽は呪い系のボスだしね。」
「…根拠もある。少しずるい視点だが…ゲームを解析した海外のファンによれば、あの呪いデバフはイカロスの翼と書かれていた。それだけじゃない。偽の太陽戦後のシエルには夸父逐日という永続デバフも掛かっている。」
夸父は知らないけれど、イカロスといえば、太陽に関する逸話だ。
太陽に近づき過ぎたことで命を落とす、というような。
確かにそれが本当なら、呪いは偽の太陽を倒したことで発動しているのかもしれない。
「でも倒しても呪いが消えないなら、どうしようもないわ…」
倒さないわけにも行かないし、倒せば呪いを受ける。
それとも他の神のように外側を倒しても本体がどこかで生きているという感じなのだろうか。
「偽の太陽は本物の神じゃないから、本体は異界ではなくこの街のどこかにあるんだと思う。そしてそれはきっと奪った夜の神の力で守られている。夜の神の力を引き離すことができれば…もしかするかもしれない」
「アトラス…!」
それが本当なら、倒すだけでなく、呪いを解くことができる。
私一人なら絶対に見つけられなかった。
「…大した役には立たないが同行させてくれ。肉壁くらいにはなる」
「ありがとう…!本当に。まずはシエルを探しましょ。偽の太陽の認識阻害は恐ろしいけど、一度地上に出る必要があるわよね」
「俺のゲートなら街の中を自在に移動してすぐ捜索できるから安心していい。」
私たちは外に出ることにする。
偽の太陽は祭壇の道を塞ぐため、決まった場所に居る。
シエルがどこにいるかは分からないけれど、もう辿り着いているかもしれない。
シエルならあっさり勝ってしまうかもしれない。
そんなことを考えつつ向かった私は、思わず悲鳴をあげた。
ーー
偽の太陽の腕が、シエルを掴んでいる。
掴まれたシエルは意識を失っていて、呼びかけにも応じそうにない。
「い、生きてる…!?シエルを助けなくちゃ、早く、早くしなきゃ…!」
取り乱す私に、アトラスが手と手を叩く。
ばしん、という音で、私は我に返る。
「落ち着け。シエルなら生きてる。魔力を吸われているだけだ」
そう言われてシエルを見れば、確かに息をしている。
魔力を奪われているものの、眠っているだけらしい。
「無策やまぐれで偽の太陽からシエルを取り戻す手はない。確実に助ける方法を編み出さないと。」
アトラスの言う通りだ。
ただ突っ込んでも、私達では勝てない。
「…ごめん。冷静さを失ってた。」
「ああ。俺達では偽の太陽は倒せない。だからシエルの救出はどの道必要だ。作戦を立てよう」
偽の太陽の目的がシエルの力を吸うことなら、すぐに殺されはしない。
とはいえ、シエルの力を全て奪われれば、偽の太陽に勝てなくなる。
時間的な猶予はそう多くない。
「夜の神の力を奪う方法、何か無いのかな…」
必ず無理に力を繋ぎ止めているはずだから、糸口はあるはずだ。
「聖属性魔法の回復や修復なら元に戻す力があるだろうが…あいにく持ってないな。」
「強力な聖属性魔法使いなら、効くのかな。聖女とか。」
ボスとしてシエルのダメージが通る以上は、その可能性はある。
「…誰か居るか?」
「私の知り合いではユリエラが居るけど…あ、そういえば白の騎士はどうなのかな?」
「確かに白の騎士なら…いやどうだろうな。聖属性でも攻撃魔法に長けていそうだ」
確かに、単純に同じ属性でも色んな魔法がありそうだ。
回復なら、やはり騎士より聖女だろうか。
「…ユリエラに聞くのが早いかも。ゲートで呼び出せる?」
「教会の聖女の間になら。よし、繋ぐ。」
アトラスのワープゲートで、ユリエラとコンタクトを取る。
「わ、わあ!?ルキア!?びっくりした…」
ユリエラは私服を着ている。
聖女の間なのに、珍しい。
「ってあれ?今日はお休み?」
「……ええと、実は白教会は解散になったの。でも、することもないし…民の苦しみを少しでも晴らせるように…少人数だけど続けてるの。もう聖女じゃないけどね。」
(……そんな)
ついに崩壊してしまったんだ。
白教会も、水の聖都も。
「…ゲームよりは緩やかな最後だったな」
アトラスは穏やかに呟く。
ユリエラも悲しそうに、しかし優しく微笑む。
確かに、殺し合いの後に狂って終わる末路よりは、平和な終わりだ。
とはいえ、滅びを止められなかったのは切ない。
「それで今日はどうしたの?」
ユリエラの言葉に、気を取り直す。
(早くシエルを助けなくちゃ。)
「説明が難しいんだけど…無理にくっつけてあるものを引き離す…みたいな…間違って接着したものを外して、元の形に戻すみたいな魔法を使える人を知らないかな」
「元に戻す…?」
いまいち分かりやすい説明ができない。
しかしユリエラは懸命に考えてくれる。
「医療系では似たような縫合魔法はあるかもしれないわ。…でも元に戻すってよりは新しく繋ぐって感じだから違うか。元に戻すならどちらかというと歴史遺物や美術品の修復魔法が近いかな」
「そんなことまで教会はやってるんだ?」
「たまに、かな。担当してたのは白か黒のお抱えだけど…白はどちらかというと治癒の仕事を優先することが多いから、担当は黒の方かも」
ウィルの管轄になるのか。
「なるほど。それならデバフの一種になるのか。強化の解除や強化無効化みたいな」
「ええ。変化したものを古い状態に戻す、って感じね。あるいは古い状態で固定して強化できないようにするとか。」
ーー
ウィルに聞いたものの、教会の解散で該当者が居ないという。
またウィルも今は忙しく、法皇から離れられないのだとか。
しかし、方法はあるという。
「すみません。そういう術師が在籍していたことは確かなのですが…案内できそうにはなく…自分が行くにも時間的な余裕が…」
「そうですよね…」
「ですが。スクロールならあります。ルキアさんなら…もしかしたら…」
スクロールを渡される。
可能なのだろうか。
「…ずっとルキアさんが誰かに似ていると思っていたのですが…大丈夫です。貴方には魔法の才能があります。すみません、そろそろ戻りますね」
本当に忙しそうだ。
黒の騎士のお墨付きを貰いつつ、その背を見送る。
やれるのか?というアトラスの視線に、私は頷く。
手元のスクロールは、これまで使ったものとは書き込みが違う。
でも、やるしかない。
シエルを救うためなのだから。
ーー
何度もスクロールの魔法陣を脳裏に焼き付ける。
チャンスは一度だ。
ワープゲートができる。
アトラスと決めた移動先は、高台の上。
「うおおおおお!!」
力いっぱい叫んで、高台から偽の太陽にダイブする。
偽の太陽は避ける。
しかし、目的はこっちだ。
私はシエルに抱きつき、目を閉じる。
思い浮かべるのは、魔法陣だけ。
「闇の回帰!」
これまで試してきたどの魔法よりも緻密で強大な魔法陣。
少しでも計算が狂えば、違う魔法になってしまうだろう。
(戻れ、戻れ………ッ!)
祈るように、あるいは呪うように魔力を込め続ける。
「GAAA!!!!」
偽の太陽が左手を薙ぎ払い、私達は地面に打ち付けられ、しかしその寸前でワープゲートに落ちる。
移動先はアトラスの置いた着地用の布の上だ。
私はすぐに起き上がり、偽の太陽を見る。
(どうなった!?魔法は……)
照りつける朝を背後に、空を割く黒い点が現れる。
そこから闇が差し込んでいる。
「GAAA…GRRRRR……?AAAAAA……ッ!」
叫びなのか唸りなのか分からない音で、偽の太陽は身を捩って抵抗している。
しかし、闇はついに偽の太陽の心臓部からも漏れ出す。
あるべき場所に戻るように、心臓は闇の中に還っていく。
「うっ……」
足元から小さな呻き声がして、私はすぐにそちらを向く。
「ここは……ルキアか」
「シエル!良かった!」
シエルの力もちゃんと戻っているらしい。
偽の太陽は神の力を奪われ、わなわなと震えながらこちらに向く。
すぐに爪で襲いかかってくるだろう。
「シエル、戦える…?」
私が心配がちに見ると、小さく笑われる。
「はっ。誰に聞いている」
シエルはすぐに起き上がり、庇うように立つ。
その大きな黒い背中に、無性に安心する。
(…もう大丈夫だ)
疑う必要もないと、心底思う。
ーー
「ルキア!大丈夫か?」
アトラスが駆けてくる。
偽の太陽が力を失い、洗脳が消えた信徒と戦う必要がないと判断したのだろう。
「ありがとう。」
空を見上げれば、一人の男が、灼熱の太陽に一直線に向かっていく。
男の持つ黒い剣から龍のような魔力の奔流が飛び出し、偽物の太陽を穿つ。
雨のように、キラキラと光が降る。
男は着地して、こちらに歩いてくる。
もう安心していいと、勝ち気な表情で。
「借りができたな、ルキア。それからアトラス」
ふっ、と綺麗に笑うシエル。
私はそれに見惚れて、言葉を失う。
ゲームでは見たことがない、仲間に微笑む姿。
見れる日が来るなんて思いもしなかった。
「うっ…うう……」
(アトラス、泣いてる!?)
感極まったのか、大号泣だ。
気持ちは分かるけれど、隣で自分より動揺している人がいると、なんだかほっこりしてしまう。
推しに言われて嬉しくないわけがないか。
「シエルは、痛いところとかない?」
「ああ。元気だよ。誰かさんのせいで睡眠も取れてるしな」
「たった30分じゃ足りないわよ…」
思わず吹き出す。
軽口が出るくらいには、調子が良さそうだ。
「…あとは…本体か」
アトラスが呟く。
そうだ。
偽の太陽の本体を倒さないと、呪いを解くことができない。
「…シエル、あのね、偽の太陽には本体が多分あって…それを探して倒さないといけないの。もう力も無いから、強くはないはずだけど」
「怯えて隠れてる可能性が高い…ッス」
アトラスって敬語とか使うんだ。
シエルはふむ、と呟くと、ポッケからメモを取り出す。
「あれに捕まったのは、この辺りだった」
メモに書かれた簡単な地図。
シエルが書いたのだろう。
それによると、今いる位置とはかなり違う。
「本体が祭壇から動かないのに、ここで捕まったのは何か手がかりになるかもしれない」
「…確かに、全域が支配下なら、街に入ってすぐに捉えることができるはず…ッス。だからこの辺りに何かあるのかもしれない…スよね」
(敬語下手か。)
ーー
地図の位置に向かうと、シエルが走り出す。
「えっ!?」
「見つけた…!この気配、さっき覚えた……!」
捕まっていたからだろうか。
すごい野生の勘だ。
砂埃が立つ街の中をまるで土地勘があるかのように走っていく。
ついていく私達は、子どものように目を輝かせる。
事実、子どもだ。
自分たちのヒーローを目の前にしているのだから。
「捕まえた!アトラス!」
「了解…ス!」
ワープゲートが逃げ出した男を吸い込み、男は私達の前に放り出された。
「guggg…‼‼」
やせ細った、顔色の悪い男のような体。
こんなのが、この街の神の本体なのか。
「太陽を落とそう」
刃が振り落とされる。
続いた、風を切る音。
たった、それだけだ。
長い長い信仰の主、あるいは信仰の敵。
神を貶めた悪魔は、ここに成敗された。
ーー
「…あとはあの祭壇だな」
アトラスは祭壇を見上げて呟く。
あそこに血を捧げれは、ラスダンに繋がる道が開く。
そこは悪魔の学び舎というステージで、ラスボスまで地続きになる。
「俺はここで去るよ。ルキア。今更だが、俺からも頼む。シエルを救ってくれ。俺もやっぱり、シエルに生きて欲しい。死んで欲しくないよ。…近くで見ちまったらさ。託されてくれるか?」
背中を押されたような、そんな気持ちになる。
「ええ。ありがとうアトラス。私頑張るわ!」
ーー
物言わぬ神は、祈りを捧げる。
少女の願いが叶うように。
そして神自身の願いも託すために。
今も異界の空を漂い続ける、亡霊の神。
自らの兄のようなそれが、長い悲しみから開放されるように。




