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未完世界のリライト ーシナリオクラッシュ・デイズー  作者: PRN
Chapter.4 大ギルドで生きそびれた大学生活をリライトできるわけがない

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89話 人生再構築デイズ《Remake Days》

挿絵(By みてみん)

落ちこぼれを

1週間で


叩き直す


折れた心を

より強く


破れた夢を

描き直す

 決意を固めてからというもの、花の隊指導による徹底した毎日が待っていた。


「イチに筋力、ニに柔軟だ! 鍛えるだけが能じゃないぞ!」


 教官役の女性が声を張り上げる。

 そうすれば俺たちは傀儡の如く彼女の指示に従う。


「見て見てナエ様! 私の身体は地面にぺったりつきますよ!」


「(すごいぞレーシャちゃん! とくに地面に押しつけられてふにゅりとつぶされた胸が本当にすごい! あとミニスカートで開脚前屈をやる勇気もすごい!)」


 いっぽうで俺も己を高めるために努力していた。

 とはいえ怒られもしなければ褒められることもない。つまり成績はおおよそ平凡である。


「んっ、んっ。キツい筋トレのあとにやる柔軟も慣れてくるとキモチがいいな」


「身体を伸ばすのって楽しいですよねっ! 私も寝る前の日課として体操するんですっ!」


 さほど運動が苦手というわけではなかった。

 だから鬼の指導つきでもそこそこついて行けている。

 そうやって俺が前屈をしていると、背後から影が迫っていた。


「さあナエ様。ワタクシが後ろから押して差し上げますわね」


 むにゅり。背中で危険な感触が潰れる。

 アフロディーテが俺の背にのしかかってきた。


「お、おい! 練習の邪魔をするんじゃありません!」


「いえいえそんなまさか。柔軟には負荷をかけるのが常識なのですよ」


 しかも彼女のまとうのは、鎧を脱いだ白衣装だった。

 甘くたおやかで熱のある鞠がそのまま伝わってくるほど。


「それ。いちに、いちに、いちに」


 吐息が耳をかすめるたび、脳が焼けそうになる。

 体重がかけられるたび、背中いっぱいに彼女の体重と胸が押しつけられる。


「ほおら、集中してくださいな。ちぁゃんと柔らかくなるまで止めてあげませんからね」


「(別のところに意識がいきすぎてまったく集中ができん!? これは逆にものすごい上位の精神修行なのかもしれない!?)」


 ちなみに教官役は止めようともしない。

 だって自分の隊の隊長が暴走しているんだもん。見て見ぬ振りを決めこんでいた。

 俺がされるがままになっていると、暴風が舞いこんでくる。


「エッチな気配は成敗ですっ!! どうしてすぐアフロディーテ様はナエ様にくっつこうとするんですかぁ!!」


「あら、いやですわ。ワタクシはナエ様に強くなっていただくため身を粉にしているだけですよ」


「じゃあ私もお手伝いします!! 2人でやれば2倍の効果です!!」


 違う、そうじゃない。

 助けてほしかっただけで協力は望んでいない。

 ずっしり。2人分の体重によって俺の身体が容赦なく潰されていく。


「ぐぇぇ……感触とかどうでもよくなるくらい超痛いんだけど……」


 これくらいの試練ならばまだまだ序の口だった。

 花の隊は精鋭たる理屈をもっている。彼女たちの訓練は初心者にとって地獄そのもの。

 筋力、瞬発力、柔軟性、連動性。短時間であらゆる技術が叩きこまれていった。

 当然、リーファとエリンも死ぬ気でついてきている。


「セイヤアアアアアアア!!」


「――い”!? っでぇぇぇぇ!?」


 無籠手に強烈な木剣が強襲した。

 リーファは涙目になって木剣を手放す。


「このていどを避けられないのならば貴様は死んだも同然だァ! 武器を手放すことは命を手放すことと知れェ!」


 剣術指南役は日を追うごとに厳しさを増していく。

 だからか彼の身体は常にあざだらけになっている。


「武器をとり膝を伸ばせ! 痛むのなら集中してしっかりと避けてみろ! ダンジョン攻略中にゴブリンを前にして同じことを繰り返さぬよう身体に叩きこめ!」


「お……押忍ッ!!」


 まるでのろまな亀だ。

 しかし火のついたリーファの根性だけは認めざるを得ない。

 さらにエリンのほうも負けてはいない。とうに座禅の工程はクリア済みだった。


「………………」


 彼女の周囲には訓練所の砂玉が複数個ほど浮いていた。

 杖を手に瞳を閉ざし、汗だくになって砂玉の持続を行っている。


「その調子よ、なかなか線がいいわ。そうやって魔力を持続させることだけを考えましょうね」


「………………」


 ローブ姿のおっとりとした騎士がつきっきりで彼女を指導していた。

 しかし語りかけられてもリーファは集中を乱すことはない。

 よもや訓練成功か。そう思わせて女性は静かに彼女へ歩み寄る。


「……ふぅぅ~」


「――ひんっ!?」


 短く鳴くと、砂玉が落ちて砂になってしまう。

 耳に息を吹きかけた女性は、楽しそうに目を細める。


「はい、やり直しぃ。目を閉じる癖がつくと周囲に気を配れなくなっちゃうから注意しましょうねぇ」


「あーん! またはじめからやり直しなのー! もうローブのなか汗でびしょびしょだからお風呂入りたかったのにー!」


 たゆまない努力だった。

 2人には、いっときとして無駄にはしない信念があった。

 しかし俺の剣の修行だって決して負けてはいない。


「うおおおおおおおおお!!」


「クッ!? 剣技は素人なのに堅さでごり押してくるだと!?」


 リーファ相手なら楽だった指導役を、俺は圧倒する。


「せいせいせいせいせいせいぃぃ!!」


「30本は痛打を打ちこんでいるのにまったく引かないとは!? どうなってるこの男の身体の堅牢さは!?」


 レーシャちゃんだって、そう。

 元より勇者の資質もち。さらに類いまれなる身体能力で騎士たちを相手に、タッチ鬼で翻弄していた。


「なんて身軽なの!? しかも動体視力が異常よ!?」


「ではここからは、分身します!」


「しかも増えるのぉ!?」


 濃密な時間が凄まじい速度で過ぎ去っていく。

 ただの7日間。だがこの7日は確実な力という自信に繋がっているのも事実だった。

 リーファとエリンはときおり口げんかもするし、寝坊をするし、相変わらずテキトー。


『おっせぇよ! なんで自分から起きてこねぇんだ!』


『そうやって昔からすぐ揚げ足とるんだから! 昨日遅刻したのはそっちでしょー!』


『花の隊が待っててくれてんだ! とっとと顔洗ってこい!』


『今日は防御技をみっちり鍛錬してやる! それでもう2度と不意打ちなんて喰らわないんだから!』


 だが、いやいやながらも鍛錬に入ると自然に集中する。

 そうやって2人が己を高め合っていると、日に日に周囲の見る目が変わっていった。

 はじめはバカにしていた冒険者たちだった。だがもはや嘲笑する口を閉ざして見守っている。


「(他の冒険者たちも2人に感化されつつあるな。お荷物だったリーファとエリンががんばる姿は起爆剤になりつつある)」


 明らかに訓練場の空気が変化していた。

 追いつこうとする者、負けじと上を目指す者。大ギルドに集う冒険者たちの目の色が本気だった。


「もしここまでが筋書き通りだとすると、恐れいる。2人にやる気をださせることで大ギルド全体の底上げってか」


 ちら、と。俺は《遠視(フォルティサイト)》スキルを唱えた。

 指で四角く区切って大ギルドの最上階に視点を合わせる。

 するとそこには窓越しに数名の人影が立っていた。


「(ありゃギルド長と六冠だな。表情まではわからないが数人ほど、こっちを見下ろしている)」


 王都の精鋭、花の隊まで巻きこんだ大波乱。

 仕掛ける側だったとして、まさかここまでやるとは思いもよらなかったはず。

 さすがの上位ランカーにも一見の価値はあるらしい。


「よお? アンタが花の隊をここに引きこんだっていう新米だな?」


 どうやら俺がぼんやり空でも仰いでいるように見えたらしい。

 恵まれた体躯の男が大剣を片手に佇んでいた。

 俺が振り返ると、男は微かに口端をもちあげる。


「ちっと打ちこみを申しこんでもかまわんか? 周りの連中もアンタに興味津々のようなんでな?」


 その歴戦の笑みに悪意は感じなかった。

 新人いびりというわけでもないようだ。若い衆を連れ立って代表でもしにきたか。

 俺は男が実の剣を構えるのを見て、背負った剣に手を伸ばす。


「見くびるなよ、俺はあんまり強くないぜ」


「……自分で言うやつがあるかよ」


 首から提げた認識票は互いに同じ。

 つまり同等級として俺の実力を見定めたいらしい。

 俺は無数の好奇心にさらされながら精霊の剣を引き抜いた。


「でも弱くもないから負けても恥にはならないぞ」


「ジョートーだ。ヒョロガキに見えたがわりかし楽しめそうなヤツじゃねぇか」


 そして歓声とともに火蓋が切って落とされる。

 正直、骨身を削るくらいにかなり辛い毎日だった。しかしその反面、楽しくもあった。

 なぜだか生きていたころよりも生きているという実感があるほど。


 まるで古びたテープレコーダーだ。


 きゅらきゅらと、巻き戻る。


 それは体験できなかった青春をリピートするかのような。


 それは、もう1つの書き終えられなかった物語の思い出だった。



……   ……   ……



 日が山間に落ちると、一気に冷が広がっていく。

 喧噪と熱気に満ちた訓練場の空気が幕を閉じるように静まる。


「かぁ~……もう1歩も動けねぇ」


「ひぃっ、ひぃっ……お腹が空いて目がチカチカするぅ~」


 今日を終えたリーファとエリンは大の字になって砂の上へとヘソ天した。

 俺は、上がろうとする花の騎士たちに礼を伝えてから、2人の元へと戻る。


「もうあと2日だ。最終日に風邪とか元も子もないから体調管理はしっかりしろ」


 くたびれてるくせに満足そうな顔だった。

 初日であれだけ嫌がってたくせに、チョロい連中だ。


「体調管理もなにもないぜぇ。だって花の隊の騎士ときたら毎日クソマズい薬草汁飲ましてくるしよぉ」


「でもアレを飲んでるおかげか、次の日になると疲れが吹っ飛んじゃうのよね。やっぱりプロの精鋭って生活からしっかりしてるねぇ」


 あれ、たぶんただの強烈な眠気覚ましだろ。

 だって花の騎士が飲んでるところ見たことがない。あと俺とレーシャちゃんにも進めてこない。

 2人が毎朝、アホみたいな寝ぼけ面で訓練所にやってくる。それを見かねて教える側も強硬手段にでたのだろう。

 俺が脳天気さに呆れていると、あちらからレーシャちゃんが走ってくる。


「みなさーん! お夕飯まで時間がありますしあんパンで耐え忍びましょー!」


 小兎の如くちょろまか駈ける姿に、まったく疲労を感じさせない。

 さすがは生まれついての勇者資格保有者。ある意味でこの過酷な修練は彼女のスキルアップを考慮したものとなっていた。


「(大ギルド編に入ってからというものレーシャちゃんは花の隊にひけをとらないレベルで強くなっている。やっと物語の進行に実力が追いついた感じで安心した)」


 やっと、物語の動きはじめる金音を実感した気がした。

 大ギルド編は成長を促進させる、いわば必須パート。レーシャちゃんが勇者に目覚めずとも実力が伴えば進行に問題はない。

 さらにメインクエストのリーファとエリン確実に実を結んでいる。


「うめぇ! なんだこのパン! こんなもん喰ったことねぇぞ!」


「あまぁい! 疲れた脳と身体に糖分が染みこむぅ!」


「ふふふ! お夕飯があるので1つだけですよっ!」


 上手くいってる。

 そう、想定していたよりもかなり円滑に進めていた。

 このまま課題をクリアすれば大ギルドの信頼だって得られる。

 そして信頼できる仲間を少しずつ増やす。1人ではどうにもならない事態を結託して乗りこえる。


「(わかってる……物語の進行上、連中は必ず近いうちに俺たちの前へ現れる)」


 この大ギルド編の終幕は、人類にとって大打撃を被るという結末だった。

 進行によって大ギルド長が殺害されてしまう。その結果、人類と魔王軍の均衡が崩れるというもの。

 先日アフロディーテの話した通り、大ギルドと王都は密接な関係にある。


「(現状、魔王軍と人類の力は平行線のはず。だが冒険者と王都の騎士、どちらかのバランスが崩されれば押し負ける。だから大ギルド長カール・ギールリトンの生存は、バッドエンドまでの時間を引き延ばすために有効手だ)」


 未来を予測しろ。

 最善で最良の1手を脳内に描きだせ。

 俺だけ知っているというアドバンテージがある。

 これを活かせれば、あるいは。

 

「(とにかく可能な限り最高ボルテージで備えつづけるしかない。たとえこの身が朽ち果てようともレーシャちゃんのために全力でバッドエンドを回避してやる)」


 しかし現状の実力では圧倒的に足りていなかった。

 襲撃者に立ち向かうことはベリーハードどころの難易度ではない。

 叶わないのは、明らか。だからこそ備えなければ、この新ルートへ進むことは難しい。


「はぁー……なんかこうしてっと村でがむしゃらに冒険者していたころを思いだすなぁ」


「あのころは冒険なら誰にも負けないって信じて生きてたもんねぇ」


 急に回想がはじまりそうな気配だった。

 こっちが信念に燃えているというのに、リーファとエリンはどこか老けこんでいる。


「俺らの活躍を知ったギルド長が迎えにきてくれたんだよなぁ」


「辺境の村へ急に偉い人がきたから大騒ぎだったねぇ」


 2人は遠い空を見つめるように目を細めた。

 まるで縁側で茶でも啜る老夫婦のよう。過去の功績を思い巡らすさまは、はっきり言ってダサい。

 

「(ん? ……迎えだと?)」


 ぞくり、と。2人のぼやきに不審を察知した。

 それとほぼどうじ。レーシャちゃんが丸い目を瞬かせる。


「おふたりもギルド長さん直々のスカウトだったんですか!?」


 彼女の驚きは、俺の覚えた悪寒とまったく同じものだった。

 よく考えてみれば、この依頼自体が容量を得ない。そもそも大ギルド編のはじまりはレーシャちゃんが勇者であると認められることがフラグになっている。

 なのに現在は、いったいどういうことだろうか。まったく物語に関与しないモブを鍛えるというパートにすげ変わっているではないか。


「1年くらい前に俺らはカールさんに拾われたんだよ。あの人がたまたま村にやってきたタイミングで、これまたたまたまお眼鏡にかなったんだぜ」


「いまはこんなだけど、村の冒険者のなかではかなり成績よかったんだっ。村からでるときだってみんなからめちゃくちゃ祝福されたんだよっ」


「わぁっ! そんな素敵な出会いがあって大ギルドに入ったんですねっ! とても誇らしいじゃないですかぁ!」


 オカシイ。そんな物語分岐を俺は知らない。

 だいいちこの2人だって、いったいどこから発生したというんだ。


「(いままでにもあった物語の修正力が働いている? いやしかし……これは修正というより改変に近くないか?)」


 全身を駆け巡るような気色悪さによって冷や汗と寒気が止まらない。

 よく考えてみると、リーファとエリンという新キャラの登場は異端でしかなかった

 しかもそのせいで物語のルートが、まるで別の方角へ向かおうとしている。


「(……っ。ダメだ、ここで考えても答えがでるとは思えない。とにかくいまできることを全力でこなすことに集中しよう)」


 だが、いまのところたいした捻れではない。

 それより優先すべきは、大ギルド長の殺害を回避することに全振りすべきだった。


 空が陰り、月を示す。


 苦いコーヒーに甘いミルクを浮かべたような星空が天を満たす。

 広大な大ギルドいっぱいに食事の香りがあふれるころ。俺たちは、ほうほうの体で食道へと向かうのだった。



  ◎  ◎  ◎  ◎  ◎

最後までご覧いただきありがとうございました!!!

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