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未完世界のリライト ーシナリオクラッシュ・デイズー  作者: PRN
Chapter.4 大ギルドで生きそびれた大学生活をリライトできるわけがない

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85話 絶対的実力主義のギルド《The absolute Merit Guild》

挿絵(By みてみん)

大ギルドの朝


思い知る

実力主義の支配


階級の統率

落ちこぼれの末路


謳う花と

なんでか再会

 事件勃発から1晩開けて爽快な朝。


「(そんなわけあるかよ……頭のなかで攻略ロードマップ作ってたらぜんぜん眠れなかったぜ)」


 両肩に気怠さが重りの如くのしかかっていた。

 しかも中途半端に睡眠をとったせいでよけいに眠いときた。

 俺は大ギルドの廊下を屍のような足どりで歩いている。


「(リーファとエリンのモブ連中を大ギルドから叩きだすか決めろってか? なんだって俺がそんなちゃちい問題をこなさなきゃならん?)」


 これ絶対に落第組を救えってミッションだよな。

 俺の首には昨日受けとったソブリンクラスの認識票が下げられていた。

 下位ランカーならば鉄という安っぽいもの。しかし俺はいきなり飛び級して銀を授かっている。


「(生前はお金なかったしアクセとか買う習慣なかったからなぁ。朝起きて首につけるときヒヤッとするのもなんかイヤだ))」


 認識票を下げていないとまず冒険者にみなされないとか。

 とくに大ギルド内においては明確な棲み分けがあるらしい。

 下位ランカーは4人部屋だが中位上位ランカーは個室とか、そういうやつ。

 他にもギルド内でいろいろと待遇が変わるらしい。そのせいで認識票の所持は必要不可欠だった。


「(とりあえずそのうちレーシャちゃんとの2人部屋を申請せねば。こんな新天地で一服の清涼剤なくして気がもたん)」


 寝ぼけた頭で考えを巡らせていると、ようやく目的地が見えてくる。

 開け放たれた大きな2枚扉。奥からはなんとも鼻腔をくすぐる匂いが漏れてきていた。

 こここそが大ギルドの大食堂。冒険者たちの朝を彩る1日の補給所となる。

 そしてその入り口の横辺りにちょこんと、見覚えのある姿があった。


「あっ! なえさまー! おーいここですよー!」


 見つけるなりぱぁ、と表情が明るくなる。

 レーシャちゃんは両手をぶんぶん振りながら俺を迎えてくれた。

 気怠かくて霞掛かっていた思考が一気に晴れ晴れとして、快晴になる。


「おや? あんまり眠れなかったんですか?」


「逆にレーシャちゃんはよく眠れたようだね。新しい布団と部屋は寝心地良かったかい?」


「私は枕が変わっても眠れるタイプなんでっ! というかどこでも眠れちゃいますっ!」


 腰に手を当て胸を張ってのどや顔だった。

 なんの自慢だ。とはいえレーシャちゃんが元気ならばそれはそれで良し。

 別に気負ってはいない。しかし見慣れた存在が隣にいるだけで不思議と勇気が湧いてくる。


「それじゃあ空っぽの胃に栄養を詰めてからこれから先のことを話し合おうか」


「はいっ! 私の家はパン屋さんで強制パン派だったからお米を食べてみたいですっ!」


「(そういやそうだったな。俺もひさしく米食べてなかったし少し恋しいぞ)」


 食堂で食事を受けとり卓に着く。

 なんだか学生が通る当たり前のことでさえ、いまはほんの少し懐かしかった。


 本来なら俺も。もしかしたら。


 いや、考えるのは止めておこう。


 あの日、朝倉苗という人間は、死んだのだ。


 呪いに近い親子という懸念を振り払って未練なく。


「あ、おーい! こっちのテーブル空いてるぜー!」


「レーシャちゃん! ナエザクラー!」


 食事を受けとり食堂を見渡していると、こちらに手を振る2人がいた。

 その軽さたるや言わずもがな、リーファとエリンだった。

 特徴が薄いため背景と同化している。目を凝らさねば見過ごしてしまいそう。

 俺とレーシャちゃんは目配せしてから2人の席を目指した。


「ようよう! 晴れて大ギルドの一員になれたみてーだな!」


「げげっ!? ナエザクラの配膳だけ豪華でフルーツまでついてる!?」


 相変わらず騒がしいというか賑やかというか。

 まあこういうのは正直嫌いじゃない。どころかけっこう好きだ。


「俺だけ階級がプライムだからな。でもスタンダードの料理だって美味そうだし手抜きじゃないだろ」


「見てくださいこのご飯! 米と麦がナナサンでどっちも入ってる健康ブレンドですよ!」


 ここですでにランク格差があった。

 着席し、周囲を見渡す。いい香りに包まれた空間には献立に多少の差が見受けられる。


「俺のは煮こみのスープ、ハンバーグ2つと5種の野菜、それにフルーツか」


「スタンダードは野菜とベーコンの入ったオムレツだ。米かパンは選べっけどプライムより品質が低いんだぜ」


「ちなみに新人(イニシエイト)とかだと乾パン、干し肉、ゆで卵、出涸らし肉のスープよ」


 けっこうな格差があるな。ランク1つでこうも違うとは。

 良く周りを見てみると朝からステーキを喰らう大男や、グラタンを慎ましく食べている女性なんかもいる。

 その特別な食事をとっている者たちに共通して、首に銀や金が下げられていた。

 

「ところでレーシャちゃんフルーツ欲しい?」


「私欲しい! 私食べたい!」


「ふふっ! とのことなのでエリンさんに譲ってあげてください!」


「女って甘いもん好きだよなぁ」


 ちぐはぐな面子ではあるが、賑やかな朝食のはじまりだった。

 味はひとまず普通である。見た目も悪くないし文句もない。

 日本食によって舌が肥えているためだ。この世界の大体の食事は普通か不味いの2択しかない。

 だがそれでも人と一緒に卓を囲うことに安堵を覚えてしまう。あらためて人もまた群れなす生き物だと自覚させられた。


「で、俺たちはこれからなにをどうしたらいいのか先輩たち教えてくれよ」


 ハンバーグを咀嚼しながら米を口に詰めこむ。

 こうすることでソースの絡んだ肉の脂で米がほろりと溶ける。美味い。


「おういいぜ! そっちの2人はいま仮雇用って形だから講義と実技を受けるんだ! そこできっちりと実力を示さなければ依頼が受けらんねぇぞ!」


「実は階級だけじゃなくて依頼にもランク分けがあるのよ! 受けられない仕事はないけど適正というのを大ギルドが審査してくれているの!」


「自信があんならいきなりBランクとかAランクを選んでも構わねぇってことだ! だが適正Eの冒険者がBやAを受けるのは死にに行くのと変わんねぇって大ギルドが警告してくれてんだよ!」


 ふむ、コイツらわりと情報集めの役にたつぞ。

 やたらと説明が丁寧というか、チュートリアルキャラというか。やっぱモブじゃねぇか。

 あと微妙に食べかたが粗暴というか、汚い。俺とレーシャちゃんが上品なのに対して2人は頬に食べカスをつけていた。


「ちなみにおふたりの適正ランクはいくつなんです? 昨日たしかサーファさんが護衛はCランクの依頼って言ってましたよね?」


 レーシャちゃんの指摘は意外と鋭い。

 これは俺でも気づいていなかったこと。たしかに昨日サーファは嫌がらせのようにCランクと口にしていた。

 すると食事を掻きこんでいた2人の手がピタリと止まる。


「お、おれらはぁ……その、なんつーか、なぁ?」


「でぃ~、とか……かな?」


 衝撃の事実だった。

 俺は思わず卓を叩いて立ち上がっている。


「Cですらねぇのかよォォ!? どーりで道中俺らががんばらにゃならんわけだァァ!?」


 まさかの適正外とは。

 DなのにCを受けてあの始末なら納得もいく。

 しかもエリンに至っては死にかけている。これはさすがに黙っていられない。


「オマエら自分の実力も見極められないで俺たちの護衛を買ってでたってことだよなぁ!?」


「わ、悪かったとは思ってんだよ! でもCランクの仕事をこなせなかったら俺らもう大ギルドから追いだされちまってたんだよ!」


「ひぃぃ~ごめんなさいごめんなさい! もう崖っぷちぎりぎりだったからちょうがなかったのぉ!」


 なんたることか。

 見栄を張って死にかけるとか、言語道断の極み。

 追い詰められていたとはいえさすがにヒドすぎる。


「今回は俺らの護衛だったからなんとかなったんだからな! だがこれがもし非力な村人の護衛だったらオマエらだけじゃなくて依頼人まで死なせてたかも知れないんだぞ!」


「う”っ!? それは……そうなんだどよぉ」


「ご、ごめんなひゃぃ……」


 なんたる無責任。

 なんたる自分勝手。

 己の地位を優先しあわよくば居残ろうとする浅ましさ。

 いつしか俺は食堂内で声を張り上げ怒気を飛ばしていた。

 だが、どうやらそれは火口だったらしい。別の卓からもぞろに野次が飛びはじめてしまう。


「まだテストも終わってない新人に言われてるねぇ。まったくギルドの依頼にアイツらの食いぶちまで入ってるとか仕事する気失せるっての」


「なんだよ上手くこなせたんじゃなくて依頼人に助けられのか? それじゃあ同じスタンダードクラスの連中以下だろうに?」


「アイツらいっつも一緒に居るけど傷の舐め合いしてるんだろ? だったら誰もアイツらとなんかパーティーを組みたくないわな?」


 俺が不満という薪に火をくべてしまったらしい。

 露骨に聞こえる下品な感じではない。それでもそこらじゅうからひそひそと潜め声が漏れてくる。

 さらにリーファとエリンもどうやら反論すらできないらしい。


「……ケッ」


「……うぅ」


 2人は身を縮めながら俯いていた。

 実のところ食堂内にはサーファやドラカシアの六冠も食事している。

 しかし六冠でさえ止めに入る素振りすら見せない。察するにコケにされても当然という評価なのだろう。


「(まったくコイツらは大ギルドの面汚しってところかぁ? これもうここでさっぱり切ってやったほうがコイツらのためじゃね?)」


「つか、あそこで一緒に飯食べてる2人も怪しいよな?」


 おっと、風向きが変わりつつあるぞ。

 なぜか悪口の方向が2人から俺とレーシャちゃんに流れつつある。


「あの安そうな剣見てみろよ。格好も胸当てだけとかただの田舎者じゃん」


「装備もマトモに買えないのに新人でしょ? なのになんでプライムなのかしら?」


「あっちの子も頼りなさそー。そのへんの村でお花でも売ってるほうがむいてるって」


 俺とレーシャにも野次の牙が剥く。


「(クソ! 俺のことはいいがレーシャちゃんのことは許さん! あとついでに俺のこといったヤツも許さん!)」


 俺の手が精霊の剣へと伸びかけた。

 そのとき1人の男がこちらに向かって向かってくる。


「朝食中にすまない。が、この場にいるみなを代表して伝えたいことがある」


 ローブを羽織った長身だった。

 見たところ品もあって姿勢も背に鉄筋でも入れたかのように正しい。神経質そうな眉が気難しさを想起させる。

 しかも首には金の認識票を下げているではないか。ということはプライムの俺より上の階級で間違いない。


「……ヒルドルド」


「…………」


 どうやらリーファとエリンの知り合いのようだ。

 良い知り合いではなく、悪いほうかもしれないが。

 男は俺たちの卓の横に佇むと踵を揃えて眼鏡に指を添える。


「オマエたちみたいなグズがいると大ギルドの品格と冒険者のモチベーションが下がる。同じスタンダードたちにだって悪影響がでているのだからな」


 一切口を挟ませない断固とした物言いだった。

 当然2人に言い返せるだけの功績も気力もありはしない。

 それから男の眼鏡がこちらに向かって鋭く光る。


「キミたちもまだ新米のようだが……もしここで実力を示せないのであれば早々にでていってもらいたい」


「で、でも私たち今日からお世話になっているんです! そんないきなりな物言いってないんじゃないですか!」


 2人に見かねてか、レーシャちゃんも怯えながら言い返す。


「あくまでキミたちには例えばの話をしているだけにすぎない。しかしここではつるむ相手もよく考えたほうが良い。落ちぶれた連中とつるんでいたらキミたちまで評価を落とすことになりかねないからな」


 少し喧嘩腰だが、男の言う話の筋は通っている。

 なにしろこれが大ギルドとしての当然なのだ。

 だってここは階級制。食事の質も、部屋の待遇も、すべて成した者にこそ与えられる。


「弱者が喰われて強者が抜きんでる。あのギルド長のおっさんが言ってた天外魔境ってのはこのことか」


 初日にしてシステムが理解できた。

 大ギルド内部では、明らかに意図的な競争社会が構築されている。

 そして成せぬものは躊躇なく排他されるのだ。一貫して弱きを挫き強きが育つ実力制度。


「そうだそうだ! 俺たちだって努力してようやく認められたんだ!」


「私たちのクラスまで貶めないで! 毎日上に行くためにチームメイトと切磋琢磨してるんだから!」


「オマエらと同じに見られてたまるもんか!」


「止めたまえ諸君! 僕が代表して彼らに伝えたんだ! これ以上追いこむのはただのイジメだぞ!」


 朝食の場に似合わぬ騒々しさ。

 これこそ律されたルールのなかにある絶対を意味していた。


「(ふぅん……)」


 ちょっと面白いと思ってる俺がいる。

 ハンバーグを最後のひとくちで頬張ってから水を飲み下す。

 つまり認められるだけの功績、そして力さえあればどんな人間にも上に上がるチャンスがある。

 これこそ平等というやつ。決して弱きものだけ不幸になるシスデムではないという証明だ。


「あら? そこにいらっしゃるのはナエ様とレーシャ様ではなくって?」


 ぽとりと落ちるような声だった。

 騒音のなかでも絶対に聞き逃さない。それほどまでに美しく透き通った音色。

 いつしか喧々囂々とした喧噪は止んでいる。それどころか冒険者たちの食事をする手さえ止まる。

 しなり、しなり。鎧をまとう彼女の歩みには音さえなく、ただそこにいるという気配のみがある。


「まあ! まさかこのようなところで再会できるなんて思いもしませんでした!」


 微笑めば、見る者すべてが目をとめる。

 頬を染め、憧れ、憂い、そして彼女を瞳に閉じこめようとする。

 しかし花は触れれば散りかねない。彼女に触れる権利を求めればそれは不敬に値することをみなが本能で知っているのだ。


「ああ! あなたは!」


 レーシャちゃんはたまらずといった様子で立ち上がった。

 一目散に彼女目掛けて小走りに駆け寄る。


「アフロディーテ様じゃないですかぁ! ご健勝のようでなによりですぅ!」


「ふふふ。ご無沙汰しております、レーシャ様。そちらもお元気そうで安心しましたわ」


 食堂内のすべてのギルド員たちの顔に「マジかよ」とだけ書いてあった。

 例外はない。金冒険者も、六冠だって、ただただこの事態に呆けるしかない。

 そう、なんでか唐突に現れたのは、それほどまでにとてつもない女だった。

 そんな崇高なる女性を人は敬愛を籠めて《花の君》と呼ぶ。


「そして……ああ、ナエ様! くる夜もくる夜も毎晩貴方様のことを考えていましたのよ!」


 女性のみで形成された花の隊を率いる。

 王都直属の精鋭隊の長。


「ワタクシ! アナタのことをお慕い申し上げております!」


 衆目が注目するなか、乙女の堂々たる宣言だった。


「前置きとかぜんぜんないのになんでいきなりそんなフルスロットルなんだよ……」


「再会のインパクトは強いほうが記憶に残りやすいかと思いましてっ」


 しかも舌をだしてウィンクするくらいお茶目だった。

 これによって大ギルドの食堂は朝から騒然する。

 大ギルドにアフロディーテ・エロイーズ・サクラミアが顕現した。



   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆


最後までご覧いただきありがとうございました!!!

それではよいお年をお迎えください!!!

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