『※新イラスト有り』81話 万年スタンダード《Classic Cursed》
「大ギルド長じきじきのぉ!?」
「推薦をもらってる新米冒険者ぁ!?」
うるせぇ。真実を打ち明けられてする反応すらモブ臭い。
2人の名は男がリーファ、女がエリンというらしい。遅くなったがあらためて自己紹介をしたことで判明した。
「どうりで大ギルドの依頼にしては気が抜ける仕事だと思ったぜ」
「でもまさかそんなVipさまのお出迎えなんて思わないわよねぇ」
軽い。本当になにからなにまでノリが軽い。
俺の足どりは年老いたロバと同じくらいたどたどしい。
「でもさっきの魔物だってすげぇ強かったのにいつの間にか倒しちまってたもんなぁ」
「私の怪我だって、見てこれ! 傷痕ひとつ残ってないもん!」
「くぅぅ~、やっぱ上級スキルって夢があるぜぇ! 俺もいつか山を斬るようなスキル手に入れてぇ!」
エリンの首筋には滑らかで健康的な肌だけ広がっていた。
俺の使った回復スキルによって咬傷は見事に完治している。
しかしさすがに血の染みまではどうにもならない。なので、いったん着替えて旅の再開となっていた。
「(あんな出血したのにもう元気になってるんだから回復魔法って不思議だよなぁ)」
回復魔砲を使用した疲労が双肩に重くのしかかっている。
だが手のひらに目を落とすと、本当に成し遂げたという実感もあった。
「なんだか出発前より身体の調子がいいかもっ! さっきの回復に美肌効果まで入ってたりしてっ!」
「俺の二日酔いも治してほしいくらいだぜ! ホッとしたらまた頭が痛くなってきやがったしさ!」
なんとも気が抜ける会話だった。
先ほどまでの緊迫感はどこへ行ったのか。
それでも早急に旅を開始できている。ある意味では雑な頭の2人だからこその強メンタルと言えるだろう。
「良かったですねっ! ナエ様のお力でエリンさんはすっかり元気みたいですっ!」
「元気すぎるけどねぇ。でもナーバスになられるよりはマシかぁ」
レーシャちゃんは俺の疲労を労うように背中をポンポンしてくれた。
さすがにあれほどの大立ち回りをして秘密というわけにもいくまい。質問攻めを喰らう前にエリンとリーファには最低限の説明はしてある。
「それにしてもいきなりプライムの推薦を受けられるなんてすごいよねぇ」
「俺たちなんてイニシエイトからスタンダードになってからというもの伸び悩みまくりだしなぁ」
こんな連中でも大ギルドには入れてしまうのか。
言いかけて喉からでかけた言葉を呑みこむ。
しかしそんな気遣いはレーシャちゃんによって見事に打ち砕かれる。
「大ギルドに合格しているだけでもすごいことじゃないんですか?」
きっと純粋な疑問だったのだろう。
ピュアな瞳で酷なことをさらりと尋ねてしまう。
すると活気づいていた2人の足どりが見てわかるほどに重くなる。
「私たち……もうそろ大ギルドから干されちゃうかもしれないんだぁ」
「そう、俺たちゃ万年スタンダード……パンピー冒険者が一生留まるといわれる壁がぜんっぜん破れねぇのよ……」
「特別な才能がない冒険者は一生を賭けても上には上がれない。だからだいそれたことをして死ぬ人が多い魔境のランク、それがスタンダードなの」
一気にお通夜ムードだった。
先ほど死にかけていただけに言葉の重圧が凄まじい。
落ちこむ背中を見つめながら俺は、ふと思う。
「でも合格したってことはそれだけの才能があるってことだろ? あの厳格な大ギルドがそんなヘマするとは思えないんだが?」
しかも聞くところによると、2人は村生まれ。
実力成果主義の大ギルドに入れるだけで相応の実力があるということ。
なのになぜこの2人はモブなのか。モブという影の薄いオーラをまとっているのか。
「いや、俺たちだってさ、はじめのころはけっこうやれてたんだよ。くる日もくる日も依頼をこなして自分がめきめき強くなってると信じながら生きてたんだ」
「そうねぇ~。駆けだしのころは上に行ってやろうって気概があってさぁ~……毎日すごいがんばれてた気がするんだよねぇ~」
「(心なしか2人ともめっちゃ遠い目をしている! まるで過去の栄光でも虚空に描くかのような寒々しさ!)」
できないなりにがんばってはいたようだ。
じっさいに大ギルドに入ることが認められているのだから無能ではないはず。
「(……? もしかして上を目指せなくなった切っ掛けでもあったのか?)」
ふと燃え尽き症候群という単語が脳裏によぎった。
大きな夢を追いつつ努力した結果、心身が耐えきれず活力を失ってしまう。そして無気力となり夢破れることを指す。
だがエリンとリーファは――テキトーだけど――不調だと思えない。任務には忠実だし――テキトーだけど――やる気がないわけではなかった。
「チックショウ! 俺にも《刻印の円環》で使えるスキルの1つでもでればなぁ!」
まるで空に投じるような虚勢だった。
リーファは頭の上に腕を組みつつ唾を吐くようにつづける。
「魔物を倒してクォンタムセルせこせこ溜めて刻印の円環を引いても雑魚スキルばっかでやがるしよぉ!」
「あれさぁ……マジで甲斐がないよね。……作った人は地獄に落ちてほしいレベルで嫌い……」
ごめんね。どうやらエリンも相当試行したようだ。
でも俺もあのスキルガチャはクソ文化だと思うからノーカンということで許して。
まず求めるスキル内容の断片か、あるいは刻印の存在を知らないとでてこないんです。なにも考えずぶん回しても上位スキルなんてでてこないんです。
懺悔していると、レーシャちゃんが俺の裾を摘まむ。
「そういえばナエ様の先ほど使った能力っていつからもっていたんです?」
「そうだよなんなんだあの超ヤバい能力! まるで上級神官なみの回復だったじゃねぇか!」
「私は見られなかったけど! けっこーヤバい状態だったことだけは覚えてる!」
レーシャちゃん含め全員が俺を見つめていた。
そうだよね。あんなすごいスキル使ったんだからこうなるよね。
でもすでにとっておきの言い訳が用意してある。
「あの能力って実はおじいちゃんからもらった刻印なんだよ。おじいちゃんが若いころ運良く引いたけど使わずにとっておいたのを孫の俺にくれたんだ」
懐かしそうに目を細めながら語るも、口からでまかせだった。
最近この世界に生まれたのだ、おじいちゃんなんているわけがないだろ。
「はあ!? なんだそれ自分で使わなかったってことかよ!?」
「じいちゃんは根っからの前衛タイプだったらしくて精神力を削る刻印に特性がなかったらしい。だからどうせ腐らせるならオマエにやるってさ」
「むむむ。確かにあのレベルの回復を使うなら相応の鍛錬がいるわね。動物嫌いがサモナー系の刻印を覚えても使えないことあるらしいし」
前に俺が姫騎士にやったのと同じで、刻印は譲渡可能である。
口が裂けても再創世をばらすわけにはいかない。だから形見としてもらった家宝という線ならば尾ひれも最小限ですむ。
さすがにレーシャちゃんまで騙すのは気が引ける。しかしこうでもしないと俺の正体がバレかねない。
「つまりナエ様はおじいさんの願いを託されそれに応えられるよう努力をしたということなんですねっ!」
そしてだいたいこういうとき、この子は信じてしまう。
星を散らしたように目が爛々と輝いている。
「一子相伝の刻印を託され、その意志を継いで応える! なんて素敵な家族愛のお話しなんでしょう!」
レーシャちゃんは、まるで演劇でも見るようにその場でくるくる回りはじめてしまう。
可憐なミニスカートが回転に合わせて花びらのように広がる。白く長い足が軽やかに交差してスカートの下まで見えてしまうそうになる。
それに応じるよう、エリンとリーファも目に滲んだ涙を拭った。
「しかもそれを人を助けるために使ったってことだろぉ! おじいちゃんの思いはちゃんと誰かを救うために生きつづけてやがるんだなぁ!」
「おじいちゃんがいてくれなかったら私は死んじゃってたかかもしれないんだよね! ありがとう見知らぬところの優しいおじいちゃん!」
どうなってやがる。架空のおじいちゃんがどんどん誇張されていくではないか。
心が痛い。嘘を信じる相手が純粋であるだけに激痛だった。
「(そういえば俺、刻印なしでスキル使ったんだよな)」
これはさすがにオカシイ。
バグってるというより狂ってるレベルでオカシイ。
俺は回復魔法のスキルを習得していない。なのに使えてしまった。
「(もしかして……再創世って実はヤバい才能だったり?)」
ロバの足に導かれながら旅はつづいていく。
一抹の不安を滾らせながらも、まだ旅ははじまったばかり。
「ナエ様! もう少し進んだらお昼にしましょう!」
「ん? ああ、そうだね。ホッとしたことだし安全な場所を見つけたら食事にしようか」
精霊の剣を携えた俺の冒険は、未だ道半ば。
「(もしこの道すがらに心残りがあるとするなら……)」
あの日以降、裏勇者ちゃんは俺の前に現れなくなっていた。
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