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未完世界のリライト ーシナリオクラッシュ・デイズー  作者: PRN
Chapter.4 大ギルドで生きそびれた大学生活をリライトできるわけがない

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80話 精霊の力《Spiritforce》

挿絵(By みてみん)


湧き上がる

勇ましき力


戦う覚悟

掛け替えのない願い


少女の

凄惨な死


捻じ曲げるなら

 呪われた運命を、ぶっ壊す。


 そう願ったとき、俺のなかで変化が起こった。


「(心が、熱い! 力と覚悟が胸の中心からあふれてくる!)」


 精霊の剣からもなにかが流れこんでくる。

 全身の毛穴が広がるほど、奮い立つ。


「(感覚に基礎が組みこまれるようだ! いままで知らなかったことすら信じられないほど未知エネルギーが湧いてくる!)」


 この瞬間に俺が勇者なのだと理解した。

 否。させられたというべきか。これはいわばアップデートに等しい。

 昨日までの俺ではない。ここに立っているは朝倉苗のVer.2だ。


「レーシャちゃんは冒険者たちの警護と周囲警戒を頼む」


「……な、ナエ様?」


 レーシャちゃんも俺の変化に気付いたらしい。

 こちらへ伸ばしかけた手を胸元に引き寄せる。


「精霊の剣をお使いになるんですね!?」


「ああ。アイツは俺が仕留める。だからあとのことはよろしく頼む」


 左手に苦無、右手に剣を。

 なんとも不格好だがこれでいいじゃないか。背中に守るべき者たちがいさえすれば。

 剣は羽のように軽い。まるで己の身体の一部になったかのよう。羽衣をまとうが如く体表面が緑色に発光している。


「さあ、こい毛玉。やられた仲間の仇は討たせてもらうぞ」


「Garuuuuuuuuuuu!」


 かなり警戒心の高い個体のようだ。

 魔物は俺の周囲を巡るように一定の距離を保って外れない。

 殺意を剥きだしにする姿は、まさに獰猛な獣のもの。このまま逃がせば2次災害も起こしかねない事態となる。


「Gyaoooooooo!!」


「(コイツも歴戦か。しかも人の弱点まで良く学んでいる。つまり犠牲になった人間も多いんだろう)」


 しかもこちらの一挙手一投足を観察しながら移動していた。

 群れをなさずに生きたことで数多くの窮地を己の感覚で生き延びたのだろう。

 レーシャちゃんも武器を手にしながら固唾を飲んで見守っている。


「すごい……まるで達人の間合いです! いったいどちらが先に仕掛けるんでしょう!」


 油断できる相手ではない。

 だがあまり長く時間をかけるわけにもいかない。


「Garuuuuuuuuuuu!!」


 おそらくコイツは獲物を仕留めるためならば1晩でも待ちつづけるだろう。

 虎視眈々と。確実に相手の息の根を止めるために。

 だが、しょせんは魔物。コイツは人の戦いかたを知らない。

 俺には秘策があった。確実に不意を打てるだけの妙技が。


「っ!?」


 ふと剣を構えようとした瞬間だった。


「(身体が、動かない!? まさかこいつ?!)」


 俺の足が草原に張りついたままピクリとも動かなくなっている。

 しかも身体全体が時を止められたかの如く、動作を停止した。


「(これは、《影縫い(シャドウバインド)》か!? おいおい序盤過ぎたくらいの敵のくせにえげつないスキル使いやがる!?)」


 俺の身体はピンを刺された虫の如く制止させられてしまう。

 どうやら敵は草原の草に沿って俺へと影を伸ばしているようだ。


「(あの瞬間モブ女は動けなかったんじゃない! 動けないまま首を捉えられたんだ!)」


 だとすればこの個体はマズい。

 俺がやられれば確実にパーティー全員を食い殺す。

 明らかな異様に一瞬だけ心が乱される。その隙を待っていたとばかり。


「Wooooooooooooooo!!!」


 尾の長い遠吠えを発し、一直線に駆けた。

 草原の草を泳ぐように姿勢は低く、爪で掻く。獲物とする俺へと凄まじい速度で接近する。


「ナエ様どうしたんですか!? 早く構えてください!?」


 レーシャちゃんの悲痛な叫びが耳を打った。

 しかし俺の身体は縛られ、まるで動こうとはしない。


「Gaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!」


 そして4足が地から離れた。

 魔物は俺の首へ目掛けて顎を開き牙を剥く。


「ナエ様あああああああああああああ!!」


 あわや終局。

 そう誰しもが思う展開に俺は確信している。



 ドス。


 ドスドス。



 鈍い音だった。

 空を裂いた槍が毛皮を貫通し肉すらも貫いた。


「――Kya!?」


 裂かれたのは俺の首ではない。

 横腹に透明な槍が3つほど。魔物は衝撃で体勢を崩し、無残にもんどりを打つ。


「勝ったと思ったか? 今回も同じ方法でやれると思ったか?」


「Gya!? Go!? Gyawaaaaaaa!?」


 縛りから解放された俺は、無感情に振りかざす。

 魔物は倒れ伏したまま均整がとれず両足をばたばたと荒れている。貫かれた傷は深く内臓を破られ、傷口から血が噴きだすほど。

 俺は、そんなあわれな敵に精霊を宿す剣を突きつけた。


「死ぬ前に教えてやる、この剣は水を操るんだ。お前は草原の影を使ったようだが、俺も草原の露を固めて攻撃させてもらった」


 魔物とはいえこのまま苦しませるのは本望ではない。

 俺は、心臓を目掛けてひと思いの銀閃を差しこむ。


「g……gg……」


「…………」


 柄を伝って生命が抜けていくのが実感できた。

 やがて4足の魔物は、目を閉じることなく早々に生を終えた。


「初見相手だったらそれで勝ち誇れただろうな。だけどこっちは――この世界の原点なんだよ」


 知識はときとして力をも凌駕する。

 この魔物の欠点は、勝負を仕掛ける相手を間違えてことだ。

 埋めてやる義理もないし、涙を流せるほど心を許していない


「……安らかに、眠ってくれ」


 だが、1礼をもって供養とする。

 俺は生涯この手に残る肉を貫く感覚を忘れることはないだろう。


「死ぬなあああああああ!! あああああああああああ誰かコイツを助けてやってくれよおおおお!!」


 と、おセンチなことをやっている場合ではなかった。

 一刻も早く勝負をつけたかった理由は別にある。

 凄惨な悲鳴が平坦な草原を駆け巡るように広がっていった。

 すでにレーシャちゃんも討伐を終えた俺のほうではなく、そちらに立っている。


「もぶ――冒険者の状態はどうだ!? まだ息はあるのか!?」


 俺も慌てて負傷したモブ女のところへと合流した。

 そして現場を目にしてはじめて絶句する。


「こ、これは……」


 声にならなかった。

 流血に染まる紅の草原。モブ男が必死に押さえているというのに流れる血は、とめどない。

 モブ女の状態は、すでに手遅れだった。胸も上下していなければ瞳からも生が失われていた。


「大量出血によるショックじょうたい、です。もう……町に運んでも間に合いません」


 レーシャちゃんは顔を伏せ下唇を噛み締める。

 辛そうに肩を震わせながらも、死から目を逸らすことはない。


「イヤだ、イヤだあああああ!! こんなところで死ぬとか聞いてねえよおおおお!!」


 慟哭に濡れながらモブ男は、決して手を離そうとはしなかった。

 まるで縋り付くよう。顔中を涙や鼻水でぐちゃぐちゃにしながらモブ女の首に両手を宛がいつづけている。


「せっかく夢の大ギルドに入れたのにこんなところでオシマイかよ!! 村からでたときいっぱしの冒険者を目指すって2人で約束しただろうが!!」


 そうだ、この世界にモブなんて呼べるキャラクターはいない。

 生きている。すべてのキャラクターが筋書きに沿って芽吹いている。

 息づいている。たとえ想定しないないキャラクターでも、彼ら世界では彼らが主人公なのだ。

 俺は精霊の剣を鞘におさめると、女冒険者の隣に膝をつく。


「(蜘蛛姫が言ったことが真実なら俺のなかには慈愛以外の才能もあるはずだ)」


 やりかたはわからない。

 しかしここでやらねば1つどころか多くの未来が代わってしまう。

 それは物語の根幹ではない。ここにいる少年と少女の歩むべき道だった。


「(博愛の賢者の力がもし宿っているのなら!!)」


「……へ?」


 そっと、男冒険者の手に触れる。

 彼は呆けるような声をだしたが、そうではない。彼の押さえる手の向こう側には咬傷がある。

 だから俺は、血濡れて真っ赤に染まった彼の手に狙いを定め、意味を紡ぐ。


「《再創世(リライト)……――スカーレット・デディケーション》」


 手元に緋色の光があふれた。

 本来ならばこれは吸血鬼ティラ・マムマムの使用する治癒術である。

 しかし彼女の冠すべき才能をもし俺が再創世しているならば、使えぬ通りはない。


「な……なんだ? この……温かくて優しい光は?」


「もう少し押さえてろ! 正直いまの状態で戻せるかは賭けでしかない!」


「お、おう? まさか治るのか!? エリンのこと治してくれるのか!?」


 この子の名前エリンっていうんだ、へぇ。

 使えているかすら賭けだった。だが、感覚的にスキルは確実に発動している。

 だが1つだけ問題があった。


「(キッッッッッッツゥゥゥ!! 回復魔法使うのってこんな神経すり減らすような感じなんだなァ!!)」


 全然、舐めてた。

 一瞬で全身がバケツをひっくり返したみたいに汗だく。まるで精神力そのものを流しこむ行為に等しい。

 なにしろこれはだいぶ後半に覚える上位魔法だ。蘇生ほどではないにしろ超高等スキルに他ならない。


「(あ”あ"あ”あ”あ”あ”あ”!! こんなにキッツいんだからガチで治ってお願い!! これで不発とかだったら今夜俺は涙で枕を濡らす用意ができている!!)」


 たぶん俺はいま目が血走って鬼の形相をしているだろう。

 清廉な白い乙女が優しく治療する光景とはまるで逆。ただ一心に治ってほしいという願望器となっていた。


「そ、そろそろ、いいかな?」


「あ? い、いや俺にきかれてもわかんねーよ? だってこれアンタのスキルかなんかだろ?」


 そりゃそうだ。だがじっさい治ったかなんてわかるものか。

 女冒険者もといエリンの容態は安定している、ように見える。顔色も悪くない。痙攣も止まっている。押さえられた指の隙間から噴きだす血もおさまっていた。


「じゃあせーので手を離すぞ! 男ならここで覚悟を決めておけよな!」


「なんでそんな一か八かみたいなこと言うんだよ!? 治してくれたんじゃねーのかよぉ!?」


「いやだって万が一ってこともあり得るだろ!? もし手を離してまたぶしゃーってなったら怖いじゃん!?」


「だからぶしゃーってならねーように治してくれたんだろ!? なんで張本人がそんなに自信ねーんだ!?」


 だってはじめて使ったんだもんしょうがないじゃないか。

 しかも男冒険者にも、俺にも、手を離す勇気がなかった。もし手を離して同じ惨劇になれば今度こそこの子は死んでしまう。


「せーのでいくからな!? わざと遅れたりとかフェイントいれたらヒドいぞ!?」


「なんなんだよオマエはぁ!? 治ったんだろ、治してくれたんだろぉ!? 治療のあとに脅しをかけてくるヒーラーとか聞いたことねぇよぉ!?」


 男2名、意気地がない。

 そうやって手を重ねながら怒鳴り合っていると、俺の肩が優しく叩かれる。

 振り返るとレーシャちゃんがすごく微妙そうな表情でこちらを見下ろしていた。


「あの、もう起きてますよ?」


「……はい?」


「……誰が?」


 彼女の視線を俺たちは沿うように追う。

 するとそこにはやっぱり微妙そうな表情があった。


「え、と~ぉ……これってどういう状況に巻きこまれてる感じ? なんで男2人して私の首を押さえながら必死な形相で怒鳴り合ってんの?」


 目覚めたエリンが複雑そうな微笑で眉寄せながら頬を掻く。

 どうやら状況が飲みこめていないようで、ただ呆れていた。

 

「生きてるううううううううううううううううう!!!」


「やったああああああああああああああ!!!」


 すかさず俺たちは熱い抱擁で互いを確かめ合ったのだった。



…   …   …   …   …   …

最後までご覧いただきありがとうございました!!!

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