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未完世界のリライト ーシナリオクラッシュ・デイズー  作者: PRN
Chapter.3 勇者不在で冒険物語がはじまるもんか
70/70

70話 潮騒と賑わいの交差点《Arkgranz》

挿絵(By みてみん)


緑翠の宮殿

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神譚遺物

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継承の謎


冒険者たちの港

大陸冒険者統一協約機構

「ガチこれが神譚遺物(アーティファクト)なわけぇ〜?」


 相変わらず、湿度と密度がやたら高い馬車なか。

 馬車の床には精霊の剣(ヴァルキュリアハート) が転がっている。

 素のままでは危険ということで剣には布が幾重にも巻かれていた。


 あれから一夜明けて、昨日の空模様は嘘のよう。

 空色シーツをいっぱいに広げた快晴のシャワーが心地よい。

 緑翠の迷宮を攻略した俺たちは、再び大ギルドへの旅路へと戻っている。


「触っていい? ねえ、これ俺も触っていいよね?」


 カイハは先ほどからずっと剣に興味津々だった。

 剣を見る瞳は冒険者じゃなくて、ただの男の子。ロマンたっぷりの剣に焦れてたまらないらしい。

 俺は彼の横顔に一瞥くれてから眉を渋く寄せる。


「いいぞ。なんならそれ持ち上がったら俺の代わりに継承してくれよ」


「マジマジ、マジで言ってんの!? そんなこと言ってあとから惜しくなっても知んないかんね!?」


 カイハは年相応に少年のような笑顔をぱあ、と広げた。

 そしてその手は迷いなく精霊の剣の柄を掴む。


「あ、あれ? なにさこれ?」


 もつ、とか以前の問題だった。

 だって剣は彼が押しても引いてもピクリとも動きやしない。


「ちょぉっ!? これバカみたいにめっちゃくちゃっ重いんですけどぉぉ!?」


 両足で踏ん張って躍起になっても、無駄。

 カイハがどれだけ頑張ったところでカブ、もとい剣はまったく抜けません。


「もしかしてナエっちさん超筋力タイプだったりするぅ!? たまに100才超えてぴっちぴちの魔法使いいるけど、そういうタイプの魔法使ってんじゃないのぉ!?」


 バカをいうな。俺は、30越えてないから魔法使いの資格はない。

 でもその100才超えてぴちぴちの魔法使いには是非会ってみたいモノだ。

 意地でも対抗する必死のカイハ。それを嘲笑するみたいにシセルが口角を上げる。


「よく考えてみなさいな? そんなに重かったらこんな馬車の床なんて簡単に抜けちゃうでしょ?」


「……うっ。確かに言われてみればそうよね。ならこんな物理法則無視する剣とか神譚遺物で確定だわ」


 諭されてようやく、カイハは剣から手を離す。

 それから力なく元の席に腰を据えた。


 ひとまず目的の神譚遺物回収は成功だった。

 しかも全員無事という点を讃えるべきだろう。打撃を受けたティラも打ち身ていどの軽傷で事なきを得ている。


「ってことはナエっちさんがガチであのクソデカ守護者をタイマンでぶっ倒したことになるよね? 正直俺らは守護者の後ろできばってたからまったく見えてなかったんだけど?」


「急に光ったと思ったらデッカい腕が吹っ飛んだのよね。で、膝から崩れ落ちたかと思えばそのまま横にドシーン……」


 カイハとシセルの視線が俺に向いた。

 なんと答えたモノか。両側から向けられる怪訝な目つきがかなり刺さる。

 ドヤってもいい。しかし実感がない。本来であればこの功績もまた勇者ちゃんの伝説となるべき偉業なのだ。

 俺が答えあぐねていると、静観していた勇者ちゃんが白い膝を打つ。


「ほんとのほんとです! ナエ様は私とティラさんを守るため勇敢にも巨大な敵と対峙してくださったんですから!」


 ちょっと怒った風にぷっくりと頬を膨らます。

 たまらずといった感じで両拳を強く握りしている。


「もし信じていただけなくとも私とティラさんはちゃんと見てました! 美しく輝く剣を握ったナエ様がずばばばーって成し遂げたんです!」


 ね、そうですよね!

 半強制的な導入にティラは、悩ましげな吐息を零した。


「混乱してていろいろ見逃したかも……だけど、レーシャの言ってることは間違いないと思う。じゃなかったらアタシたちは絶対にあそこで死んでいたもの」


 指で毛先を弄びながらどこかアンニュイに目を伏せる。

 やむを得なかったとはいえ吸血鬼である姿を晒したことが気になっているようだ。

 なにより今回のは彼女が提案した任務でもある。全員を危険に貶めたことを悔いているのかもしれない。


「継承者以外には持ち上げられない剣ねぇ。しかも継承者に選ばれたナエっちさんだけが剣を扱えるって運命的な気がするしぃ」


「そういえばさ、宮殿の入り口でナエナエっちだけを狙ったように地面が崩れたっけ?」


「だから実はあの宮殿そのものがナエっちさんのことを待っていた……とか?」


 いやいやいやいや。カイハとシセルは自分たちの証言を互いに否定した。

 冒険者と言うだけあってなかなか鋭い考察だった。

 そもそもあの場にたまたま転移魔法が組まれていることも怪しい。本筋ではそんなもの用意される描写はない。


「(それ以外に説明のつく証拠がないんだよなぁ。守護者も勇者ちゃんじゃなくて俺のことを待ってたわけだし……)」


 あれから守護者アルカディアは機能を停止し、語らずじまい。

 悠久の時を生きた証人から真意を正そうにも、すでに手遅れだった。


「(ダメだ全然わからん! こういうときは勇者ちゃんとティラでも眺めて目の保養でもしておくか!)」


 対面へ目を細めると、しっとりしたおみ足が4本もある。

 短丈のスカートと腰まで入ったきわどいスリット。それぞれ趣は違えど健康的な足がすらりと伸びる。


「あっ! ティラさんあんパンのあまりありますけど、食べます?」


「いいのっ! 朝ごはん抜いたからちょうどお腹空いてるんだよねっ!」


「そろそろ食べきらないとかさかさになっちゃう頃合いです! なので、みなさんもどうぞ食べてください!」


 勇者ちゃんの手からせっせとあんパンが配られていく。

 ほどよく焦げ色のついた小麦の香ばしさが馬車のなかを満たした。


「(この子……鞄のなかにどんだけのあんパン詰めてきたんだ)」


「ん? なにこれパン? 俺こういうの水分がないと苦手なんだよねぇ?」


「ラッキー♪ 私このパン大好物なのよぉ♪ そのうち製法とか斡旋所に下ろして冒険糧食に進めてほしいくらいだわ♪」


 勇者ちゃんからパンを受けとると、反応は様々だった。

 昨日までの悪天候は嘘のよう。地平を目指す馬車の車輪は軋みながら快速模様。

 もうあと幾ほどもなくこの波乱があった冒険にもピリオドが打たれることだろう。


「うまっ!? これヤバぁ!? レーシャちゃんって料理の天才!?」


「あはは。それ作ったの私じゃなくてパン屋を営んでいる母です」


「え!? レーシャの家ってパン屋さんなの!? その情報はかなり熱いからセーブしなくっちゃ!?」


「なんかみんなすっかり打ち解けたわねぇ。おねーさんもついてきた甲斐があったってもんだわぁ」


 開け放たれた馬車の後ろ扉から陽気がそっと流れこむ。

 柔らかな風がささやかな団らんを撫でるように吹き抜けていった。


 けっきょく勇者ちゃんは覚醒せず、普通の女の子止まり。

 ティラはなんか流れで同行している。だがこの冒険の終わりはもう近い。

 とりあえずはだが、ティラの正体はバレず、こうして精霊の剣を手元に引き寄せられた。

 大きな流れに変更はなく、とにかく平穏無事という結末へと世界は収束している。


「(裏勇者ちゃんにも冒険にでたことを褒められたし、今回の冒険はこんなもんでいっかぁ……)」


 そう思ったら急に、全身の力がふっと抜けた。


 がたがた、ごとごと。


 馬車の揺れはやさしく、ぬるい風が頬を撫でる。

 みんなの会話は遠くなり、意識は水底へ沈むようにゆっくりと落ちていった。


 それからどれほど経ったのか。


 ふいに、車輪の軋む音が変わった。

 ごごご、と。重い地面を踏む感触へと変わり、馬車が速度を落とす。


「(あぁ? 疲れてたせいか少し寝ちまったか?)」


 薄く目蓋を開けると、馬の嘶きが耳に入ってきた。

 前方では、巨大な城壁が陽光を弾いて輝いている。厚い木製の門が、ぎぎぎと音を立てて、ゆっくりと開いていく。

 城門が完全に開ききると、御者が手綱を引く。馬車はゆっくりと歩みを再開し境界を跨いだ。


「わぁぁ~~~っ!!」


 すると勇者ちゃんが、まるで子どものように身を乗りだして目を輝かせた。

 城壁の外とはまるで別世界が広がっている。細かな石畳の道、カラフルな布地を並べた露店、走り回る子どもたち、空に舞う鳥。

 そのすべてが彼女の瞳に映り込み、反射した光がさらにきらきらと広がる。


「す、すごいですっ! こんなに賑やかな町、見たことないですっ!」


 頬がほんのり紅くなって、胸が元気に弾んで波打つ。

 馬車の揺れに合わせて色色の髪がふわりと跳ねる。まるで彼女の心がそのまま躍っているようだった。

 周囲の喧噪や雑踏がざわめきとなって歓迎の歓声に聞こえてくる。


「ここが大陸冒険者統一協約機構のある冒険者たちが集まる港! 王都の次に巨大な街――アークグランツよん!」


 まさに栄華を富むといった賑わい。

 シセルははしゃぐ勇者ちゃんを横目に街の名を読み上げた。


「まるで街が人や他種族で流れてるみたいですっ! お店もたっくさんあってぜんぶ回ったら1日がまるっとなくなってしまいそうですっ!」


「に、してもさすが大ギルド御用達の馬車ね。門を通るだけでも厳重な手続きを求められる門をまさか顔パスとは恐れいる」


 ティラは勇者ちゃんが落ちてしまわぬよう上着の裾を引く。

 それから長い足を組んで、爪先をふっ、と吹いた。


「この街の秩序は国ではなく大ギルドに任されてるかんね。憲兵でさえこの馬車を止める権利をもってないわけよ」


 カイハもとくにとり乱す様子はない。

 窓枠に肘を置きながらにこやかに街の景色を見送る。


 海に面したこの街は商売や交易の場としても非常に発展していた。

 潮風に混じって、香辛料や焼き物の香りが鼻腔をくすぐってくれる。


「見てくださいティラさんっ! あっちの市場、魚が山みたいに積んでありますよっ! わ、わあ……あっちは服……あっちは武具……あっちはお菓子……!」


 勇者ちゃんの希望に満ちた視線は、忙しない。

 あちこちへ跳ね回り、つい身を乗りだし気味になる。


「珍しいからってあんまりはしゃがないの。落っこちて迷子にでもなってみなさい。あっという間に人混みでもみくちゃなんだから」


 ティラはやれやれと眉根を寄せ、落ちそうになる肩をそっと引き寄せた。

 そんな2人の様子を見て、カイハは兄のように微笑む。


「まあまあ、せっかく大陸最大規模の街だから目を奪われるのは当然っしょ。ここアークグランツは海の玄関口でもあるし冒険者ギルドの総本部まである。だから王都と同じくらい世界中から人も物も押し寄せてくっからねぇ」


 すっかり観光気分だった。

 田舎育ちの勇者ちゃんには目に映るすべてが新鮮そのもの。

 きっと都会に慣れたティラやカイハにとっては日常なのだろう。

 多種多様に賑わう光景を流し見しながら、ふと俺は思う。


「(あ……4番目の街飛ばしたな。ここ5番目の街だわ)」



※つづく

(次話への区切りなし)

最後までご覧いただきありがとうございました!!!


挿絵(By みてみん)

間もなく章末です!!!!!

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よろしくお願い致します!!!!!

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