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未完世界のリライト ーシナリオクラッシュ・デイズー  作者: PRN
Chapter.3 勇者不在で冒険物語がはじまるもんか
67/69

67話【VS.】緑翠の宮殿 神譚遺物の守護者 アルカディア 2

挿絵(By みてみん)


結束の合流

最高の仲間たち


対するは


堅牢なる

守護者


シナリオリペア

デイズ

 声を張りあげた。焼けた肺が悲鳴を上げる。

 それでも叫ぶ。息の代わりに命を吐き出すように、雄叫びを上げた。

 突拍子もない事態に対処するのは至難の業。だがヤツらにとっては、それだけでお釣りがくる。


「散開よ。私はレーシャちゃん含め味方の警護に回る」


「りょーっ。んじゃ俺ちゃんは安全確保まで敵勢戦力の見定めねぇ」


 互いに目すら合わせない、まさに阿吽(あうん)だった。

 呼吸ひとつで戦場の秩序をつくりす。まるで長年の連れ添った相棒を見ているかのよう。

 だがきっとそれは冒険者にとっての常なのだ。緊急の事態でも即座に対応することで生き延びている。


「ナエナエっち! とりま武器もないなら下がっといて!」


 シセルがこちらに駆け寄ってくる。

 濡れた床を叩く靴底の音が、焦燥の色を帯びて響く。


「いろいろ聞きたいことはあるけど、報告はあと回し! いまはこの場を切り抜けることだけ考えること優先ね!」


 彼女は素早くしゃがみこむ。

 俺の腕をとり、肩を貸して立たせようとする。

 だが俺は首を振って叫んだ。


「待て! 俺は大丈夫だからティラの介助を頼む!」


 ん? と、シセルはその場で動きを止め、目を丸くした。

 視線の先で、ティラがぐったりと倒れている。

 赤い髪を床に散らし、羽は半ば開いたまま、尾が力なく横たわっていた。


「この子って……吸血鬼? それともエッチなサキュバスさん?」


 ティラは目を回しながら完全に伸びていた。

 背からは蝙蝠の羽が、腰からは艶のある尻尾が生えたまま。どうやら羽と尾を隠す暇もなく意識を手放したらしい。


「もろもろの説明はあるけどエッチじゃないほう! レーシャちゃんを連れて後方に待機させてやってくれ!」


 シセルは一瞬ぽかんとしたが、すぐに苦笑いを浮かべて息を吐いた。


「了解。でもまだ立てるなら介助役はそっちに任せる。私はあっちのデカいのをなんとかしなきゃ」


 確かに俺が行くより懸命か。

 俺は親指を立ててハンドサインを送ってからティラを抱え上げた。


「はっはぁ! なになにこのデッカいのぉ! 古代人の作った兵器かなんかなら王都の守衛に選抜したいくらいだねぇ!」


 カイハはすでに最前線にでている。

 片手に長剣を構え、滑るような足を運び。その動きは軽やかで、まるで風そのものだった。

 守護者アルカディアの巨体から繰りだされる攻撃をいなしていく。

 時として攻撃に転じ、そのたび鉄と鉄が打ち合うように火花が散った。


「しっかし硬いねぇ! こっちの攻撃が通らないとなれば長期戦の覚悟しとかなきゃだわ!」


「《目標ト別個体カラノ反撃ヲ確認。討滅処理ヲ続行スル》」


 守護者の拳が、雷鳴のような衝撃を伴って振り下ろされる。

 床が砕け、石片が飛び散る。その一撃を、カイハは身を沈めて紙一重で潜り抜けた。


「いいねぇこの血がほとばしっていくこの感じぃ! やっぱ闘いは命すり減らしながら楽しまないとさぁ!」


 彼の体捌きは止まらない。

 敵の脇を抜けざま、流れるように剣を横薙ぎに走らせる。

 火花が散り、刃は巨体の装甲を浅く切り裂いた。


「《継承者デハナイ、継承者デハナイ、継承者デハナイ》」


「《敵――敵――敵》」


「《抹消セヨ、抹消セヨ、抹消抹消抹消》」


 だが守護者も生命とは異なる速度で反応する。

 背面の装甲が変形し、機械的な駆動音だった。それから新たに2本の副腕が展開された。

 両腕だけでなく、まるで自律機械のよう。独立して動く補助アームが、カイハの進路を遮る。


「おほっ! まるでびっくり箱だ! デカブツのくせに反応だけは一丁前よォ!」


 これを一進一退と呼べるものか。

 小さき人が巨大な兵器と(ガチ)1対1(タイマン)を演出していた。

 さすがは若きホープというべきか。カイハは獰猛な笑みを貼りつけながら虎のように戦場を狩る。


「駆動系と間接部は試した!?」


 そこさらにシセルが疾風の如く馳せ参じた。

 すでに投擲された球状のものが守護者の頭上で橙色に発破する。


「まだだっつーの! それにまずは全体の把握からっしょ!」


「なら私が横から援護して突っついてやろうじゃない! カイハはそのまま継続戦闘でヨロ!」


「なに撃ってくるかわからないから後方でも油断しないほうがいいよぉ! さっきからビュンビュンビュンビュン飛んできてるしさぁ!」


 声に混じるのは、決して恐怖ではない。

 さながら研ぎ澄まされた戦士の昂ぶり。2人の瞳には、確かな闘志が宿っていた。


「ナエ様! 大丈夫ですか! お怪我はありませんか!」


 舞台を降りた俺は、ひとまず再会に安堵する。

 ティラを部屋の端に寝かしつけ、涙目の勇者ちゃんに手を添えた。


「めっちゃこわかった」


「……はい?」


 めっちゃこわかった。

 これ以上明確な感想があるか。

 めっちゃこわかったのだから、めっちゃこわかったのだ。類義語で死ぬかと思ったと言い換えても、可。


「私、ナエ様がいなくなっちゃって……もう、どうしたらいいのか! 頭が真っ白になっちゃうくらい、わからなくてっ……ほんとに無事で、よかったです……っ!」


 勇者ちゃんの声が震えていた。

 言葉の途中で呼吸が乱れ、肩が上下する。

 安堵と混乱が一度に押し寄せてきたのだろう。

 俺は撫でる手を止めた。こんどは腰から曲がるくらい心の底から頭を下げる。


「今回の件はぜんぶ不甲斐ない俺の不注意が招いた結果だ! だから心配かけて本当にごめん!」


「そんな頭を上げてください! ナエ様が無事なら、それでいいんですっ!」


 泣いてるわけじゃない。

 でも泣きだしてもおかしくないほど、彼女がずっと張り詰めていたことだけはわかった。


「それに私だってあのときもっと動けていたらナエ様を助けることができたかもしれなかったのに……」


「それは違う。俺はキミを巻きこみたくなかったから差し伸べられた手を掴まなかったんだ。レーシャちゃんはあの瞬間、確かに俺を助けようとしてくれていたんだよ」


 俺は彼女の両肩を掴む。

 卑しい思い皆無のまま、胸のなかに優しく抱き留める。


「もう絶対に1人で置いていったりしないから」


「やくそく、ですよ?」


 んんんんんんんんんんんんんんんんんんんんん。

 柔っこい。すごいいい匂い。暖かい。あと柔っこい。


「(生きてるって最高かぁ!!)」


 死んでもおかしくない状況から一転して花園だった。

 しかし楽観視していられるような状況でもない。


「はらひららほらはららぁ~……」


 よほど極限状態にあったのか。

 ティラは、壁に背を預けたまま、ぐったりとしていた。

 もし彼女がいなかったら俺の命もあそこで尽きていたかもしれない。

 そう考えると、ティラを見つめる瞳が自然に優しくなってしまう。


「(そもそもコイツがいなかったら守護者も起動しなかったってことはいったん置いておこう……)」


 とにかく打開策を思考しなければ。

 そんななかでも未だにカイハとシセルは死線を掻い潜っている。


「ちょっち手ぇ抜きすぎじゃないっすかぁ!? こっちの負担がでかすぎんですけどぉ!?」


「そっちこそちゃんと視線誘導(ヘイト)買いなさいっての! 《看破(サーチ)》スキルの発動条件を満たすまで時間くらい稼いでみなさい!」


 どうやら相性はあまり良くないようだ。

 剣戟や発破のなかで喧々諤々と揉めていた。


「さいきん冒険サボってるって聞いてるよぉ!? おかげで育ったデカ尻が足引っ張ってんでしょぉ!?」


「いちいち突っかかってくるな青二才! こっちはこっちでいろいろやってるの知ってるでしょう!」


 喧嘩しながらも敵の攻撃を次々に掻い潜っていく。


「ど、どうしましょう……! あのままじゃおふたりの体力が……!」


「(アイツら器用に無駄な体力を使ってるなぁ……)」


 勇者ちゃんはすくむように身を震わせた。

 御者の男を呼ぶべきか。おそらく彼は表で馬車の番をしているはず。

 とはいえ1人加わったところで、あの守護者を倒しきれるかはわからない。


「(シセルとカイハで討伐可能かどうかなんて希望的楽観は、なし。たらればに頼るより脳みそを働かせろ)」


 予測するのは最悪の事態のみで十分だった。

 打てる最善手を脳内に構築する。


「(思いだせぇぇ~……本筋の勇者ちゃんはどうやってあのデカブツを片付けたぁぁ~)」


 本来ならアレは勇者ちゃんが討伐すべき相手だった。


「ど、どうにか援護をして差し上げなくっちゃ! えっと、煙玉……撒菱……あんパン……替えの下着……」


「(いっそのこと勇者ちゃんをこのまま向かわてみるか?)」


 いやソレはダメだ。

 勇者ちゃんは、いま勇者に覚醒していない。

 青ざめながら雑嚢を漁っているが、向かわせたところで悲劇になるだけ。

 轟音が鳴り響くたび頭のなかが爪でかき乱されるかのよう。疲労と焦燥感もあってか、過去の記憶に縋りたくても集中できずにいた。


「んぇ~……アタシいったいどうなったの~?」


 もぞり。視界の端で、ゆらりと影が起き上がる。

 眠たそうな目をこすり、こすり。猫みたいに首を振って、ぼさぼさの髪をばっさばっさと振りまわす。


「ティラ! 目が覚めたか!」


「ん~……って、なにこの状況!? ってか――」


 ティラの目がぱちくり、ぱちくりと開いていく。

 視線は俺の腕、そして肩。そこに寄り添う勇者ちゃんと順繰りに射貫く。


「2人の距離感が近あああああああい!!!」


 慟哭が戦場に木霊した。

 さっきまで気絶していたとは思えぬ確かな足どりでこちらに詰め寄ってくる。


「なに!? 戦場ロマンス!? 危機的状況ほど燃え上がる系なの!?」


 ティラは片手で髪をかき上げ、もう片方の翼をばっさりと広げて仁王立ち。

 寝起きのくせにうるせぇ。元気がないよりはマシか。


「ティラさん!? あの、落ち着いてください! これは違くてっ、ほんとにそういうのではなくってですねっ!!」


「レーシャちゃんまで動揺しちゃってるじゃん!? これ完全に修羅場案件でしょ!?」


「ナエ様はティラさんのこと身をもって助けたんですよっ! なら私よりティラさんのほうが近しい距離じゃないですかっ!」


 勇者ちゃんは真っ赤になって声を張り上げた。

 すると声を荒げていたはずのティラの目が点になる。


「……は、はへ?」


 唇が、かすかに開いたまま制止した。


「え、あの、その……え、ナエがアタシの手を握ったまま走りだして……最後に硬い胸板が目の前にぎゅって……」


 彼女のなかでどのような処理がされているのか。 

 フリーズしたまま、記録を読み耽るようにぶつぶつと、呟く。


「ぎゅって情熱的に抱きしめられながら羽も広げて……落ちそうになって……でもナエがアタシを支えて……」


 頭の上に湯気が立ちのぼったかのようだった。

 瞳がとろけ、頬が桜色に染まり、時さえ止まってしまう。


「そういうのはあとだ! ティラも起きたのならここからどうやって守護者を倒すか考えてくれ!」


 こんなことをしている場合ではない。

 気づいた俺は、ティラの両肩を矢や強めに掴む。


「シセルとカイハが負けたら俺たちも共倒れになる! そうなったら俺とティラどころかレーシャちゃんにまで被害が及ぶんだぞ!」


「ソレはダメ!! あんな怖い思いをレーシャにさせるなんてぜっっったいにヤダ!!」


 全身全霊と伝わってくるくらいの否定だった。

 両腕をピンと伸ばし、尾も羽も真っ直ぐに硬直している。

 好きとかではない。友だちに怖い思いをさせたくないという優しさだった。

 ティラは大鞠の下に滑りこませて腕を組む。


「んんー……アタシの見立てによればこっちの攻撃がまったく通用しないのがいけないわけだしぃぃ……」


 への字に曲げた唇の端から鋭利な牙がちょこんと顔を覗かせた。


「お前の吸血鬼的なスキルにあれをどうにかする術はないのか?」


「対人ならともかくああいうデカブツの動きを止めるのはさすがにむずかしいかも」


「そんなぁ……ナエ様を拘束した技も使えないんですかぁ~……」


 3人寄れば文殊の知恵とまではいかないか。


「(そうなると体力のあるうちに馬車へ引き返して逃げ帰るくらいしかない)」


 ここで命を落とすくらいなら。

 本当に戦略的な撤退を優先すべきになってしまう。

 時間はそう多くはない。体力のあるうちにシセルとカイハに指示を伝えねば手遅れになる。


「(そうなればこの冒険は……)」


 失敗。という2文字が浮かび、落胆しかけた。

 だが、俺の眼前には白く繊細な指が立てられている。


「ひとつ、あるっ! あの頑強な化け物を傷つけられるようなとっておきっ!」


 ああ、そうだ。

 ティラの提案を聞いて俺はようやく思いだす。


「アイツがたいそう大事そうに守ってた剣よっ! それでアイツそのものをぶった切ってやればいいじゃないっ!」


 この章のエンディングまでの道が、すべて繋がった。



  ☆   ☆   ☆   ☆   ☆

最後までご覧いただきありがとうございました!!!


新イラスト鋭意作成中です!!!!!


メインキャラは少ないですがどのキャラクターか是非想像してみてください!!!!!!!

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