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未完世界のリライト ーシナリオクラッシュ・デイズー  作者: PRN
Chapter.3 勇者不在で冒険物語がはじまるもんか
60/61

60話 鬼のヤバゲな提案《B to B》

挿絵(By みてみん)


窓に張りつく

執着心


濡れそぼった

シスター服


涙目の懇願

闇の取引

 日が昇るにつれて雨脚が強くなる。太陽が雲を連れてきたように雨が本降りとなっていた。

 屋根を叩く雨音が、静まり返った宿の中にぽつぽつと響く。

 木の壁越しに感じる雨の冷たさとは対照的に、灯火が灯る食堂は穏やかな温もりに包まれている。


「ひゃぁ~……冷えた身体に染み渡るぅ~……」


 濡れて張りついた修道服が豊満なバストに添って隆起していた。

 毛布にくるまったティラは、両手で湯気の立つカップを抱える。


「血のように真っ赤なワインが五臓六腑を温めていきますわぁ~」


 温めた葡萄酒と香草のあいまった芳香が鼻先をくすぐった。

 この濡れ鼠こそが窓にべったりと張りついていた化け物の正体。

 さすがにあのまま放置というわけにもいくまい。しぶしぶ宿に迎え入れ、毛布とホットワインを与えてやった。


「で、なにこの子?」


 カイハの疑問は、もっともだ。

 だが、その問いに答えるための答えをもっていない。なぜこの女がこの場にいるのかさえ天を多う暗雲以上に霞の向こう。


「さー? 巡礼とかそういうのやってたんじゃないかぁ?」


「お外は大雨ですし、ご休憩できるところ探していたとかじゃないですかねぇ?」


 俺と勇者ちゃんは、カイハからほぼ同時に視線を逸らした。

 だって知らないんだもん。窓に豊満な乳を押しつけながら鼻息荒く宿内を監視する意味がわからない。

 こちらが戸惑っているのをよそに、ティラはすぴすぴとワインを啜る。


「これは久々の本降りねぇ~。山道とかで土砂崩れが起こったりしないか心配よぉ~」


 それからくちゅんっ、と。可愛らしいくしゃみをひとつ。

 濡れた髪先から滴がしぶいて木床を濡らす。

 呑気か。その有り様に思わす声が漏れかけた。


「(昨夜は暗かったからあんまり気にしてなかったが……明るいところで見るとやっぱりものすごい美少女だな)」


 明るいランプの灯りが、修道女の姿をはっきりと浮かび上がらせる。

 濡れた肌は滑らかで、まるで月光を吸いこんだかのように白く透明。雨粒が首筋を伝うたび、光がそこに細く筋を描いて流れ落ちる。

 輪郭は驚くほどくっきりとしていて、鼻梁は高く、顔立ちは整いすぎているほど整っていた。

 その清らかさと妖しさの同居が、見る者に奇妙な錯覚を与える。


「へぇ~……」


 これほどの美少女を前に黙っていられるはずがない。

 カイハは品定めするようにティラをじろじろと見物する。


「ねえキミ名前なんてーの? 良かったら年とか教えてよ? その格好してるってことはどっかのシスター?」


 口からチャラ男3種の神器がつらつらと飛びだした。

 反射的にナンパaワードでてくるって逆にすごいぞ。

 しかしティラは毛先ほども気にかけた様子はない。


「察してぇ~」


「うーわっ、ガチこっちに興味示さないのエグぅ……」


 椅子に浅く腰掛けスリットから覗く美しい脚を回し組む。

 どうやら目の前にいる男よりも手指の爪が気になるらしい。

 とはいえ急に現れてこの始末は厄介すぎるし、ふてぶてしいにもほどがある。


「(よしここは1発かましてやるとするか)」


 俺は意気込んで前へと踊りでた。

 メインキャラなだけあって美少女である。しかし好き放題させるとは言っていない。

 なにより昨夜、俺の後頭部に鈍器で1撃を食らわせているのだ。勇者ちゃんは許したが、俺はそういうわけにはいかない。


「おい」


「……はぁい?」


 返事がダルさマックス。

 しかしいちおうカイハのときとは違って目はこっちを見ていた。


「自由人気どるのもそのへんにしておけ。それ以上好き勝手するのならこっちだって考えがあるぞ」


 大いなる創始者を見くびるなよ。

 こっちは好きなもの、嫌いなもの、バストとヒップサイズまでETC(えとせとら)……網羅している。

 もちろんそのなかで地雷になりそうなことや知られたくないことだって。


「そ・ん・な・こ・と・よ・りっ」


 突如ティラは椅子の背から身を起こす。

 まるで舞台女優のような滑らかさで立ち上がった。

 濡れたローブの裾がふわりと翻り、光を弾く水滴が空気に散る。


「ねえちょっとお兄さんにお願いがあるんだけどさ」


「(うおっ、近いっ……!?)」


 囁くような声とともに一瞬で間合いが詰められる。

 気づけば彼女の顔が俺の耳元にあった。息づかいが肌をかすめるほどの近距離。


「ちょっとツラぁ、かしなさい」


「な、なんだ!? やめてヒドいコトするつもりでしょ!? なに同人みたいに!?」


 ティラは有無を言わさず俺の手首を掴んだ。

 そのままぐい、ぐいと食堂の端のほうへと無理矢理に導かれてしまう。

 そして壁際まで追いこまれて、ダァン。低い位置からの壁ドンだった。


「レーシャとアタシの間をいい感じにとりもつのよ」


 ティラは、ふふんと得意げに唇の端を上げた。

 完全に弄ばれている。だが、抗うにはあまりにも絵になる距離感だった。


「……なんで?」


「なんでって……はぁぁ、察しなさいっての。これだから鈍感な男はモテないのよ」


 鉛を煮詰めたような重いため息だった。

 まずお前、人にものを頼める立場じゃねぇだろ。

 俺が眉をしかめたまま佇んでいると、ティラが痺れを切らしたように睨みつけてくる。


「アタシは昨夜の一件以降で、あの子のことがめちゃくちゃ気に入ったの! だからいい感じの関係になれるよう協力しろって言ってんの!」


 苛立たしげに歯がみする。

 人より鋭利な犬歯が部分が鋭く光った。

 なんで俺、急に出汁(ダシ)にされてんのぉ。俺だって勇者ちゃんともっと仲良くなりたいのにさぁ。

 とりあえず言いたいことは呑みこんでおこう。


「言いたいこと勝手に言ってるけど、いちおう理由くらい聞かせろよ。協力するかしないかはそれを聞いてからでもいいだろ」


「うぐっ!? それはそう、だけど……」


 逆に問い詰めると、ティラは急にしおらしくなった。

 遠くでは勇者ちゃんとカイハが目を丸くしながらこちらを見つめている。

 あるていど距離があるため声を張り上げさえしなければあちらに聞こえることもない。

 

「す……だから」


 は? よく聞こえなかったが。

 しかしティラの顔は猛火の如く真っ赤っか。耳の先まで紅葉した葉っぱみたいになっている。


「好きになっちゃったからぁ! だからどうしてもレーシャの血が呑みたいのぉ!」


「バカか! お前いますぐ黙れ!」


 心の籠もった慟哭だった。

 俺は慌ててティラの首をロックして口を塞ぐ。

 しかしあちらは呆然としているばかり。どうやらいまのを聞かれていないようだ。


「なんで血なんだよ!? 普通に仲良くなりゃいいだけじゃないのかよ!?」


「それだけだとアタシら種族としての本能が満たされないの! 親しい間柄で噛みっこしたりしないと絆が結ばれないの!」


 面倒くせぇ、この種族。


「気分的に歯が生えかけた未成熟児みたいにムズムズしてる感じか」


「そんなのどうだっていいわ。アンタってあの子と一緒に旅するくらい仲がいいんでしょ。とにかくアタシに協力するのかしないのかどっちか選びなさい」


 鼻先に指を突きつけられてしまう。

 異常に偉そうなのだが、どうしたものか。

 とはいえメインキャラクターからきっての頼み。聞いてやるのもやぶさかではない。

 しかもつい目移りするくらい胸は大きいし、加えて美少女ときている。


「……?」


 いやちょっと待て。

 一考してやったけどマジで待て。

 一瞬支配されかかった俺は、我に返った。


「それ協力するメリットが俺にないじゃん?」


「た、確かに……頼んでるアタシでもわかるくらいなにもない」


 どうやらティラも理解したらしい。

 ぎくりと華奢な肩を跳ねさせた。


「(友好値を稼いで仲間にするという選択肢もあるにはある。でも現状旅をしているわけではないし、吸血鬼問題も昨夜のうちに解決済み。コイツをこのまま大ギルドに連れていくのもリスクが大きい)」


 美少女枠を置いておくのは苦渋の決断だった。

 しかしイベントを先んじて発生させてしまうのも未来予測に関わってくる。

 やはりティラを仲間にするのは、来たるべきタイミングのほうが望ましいだろう。


「な、なに真剣な顔で黙りこんじゃってんの? ま、まさかアタシのお願いを聞かないつもり?」


 俺が黙りこんでいるのを拒絶と捉えたようだ。

 自信満々だった紅い瞳に焦りと涙が滲みつつある。

 あれだけ鋭く人を見下げていたというのに立場が変われば年相応の少女だった。


「じゃ、じゃあ誰も知らないアタシのひみつを教えたげるっ!」


「お尻に星形のほくろがあること?」


「はあ!!? なんでそんなこと知ってんのよ!?! ちょっ、ちょっと待っていま確認してくる!!?」


 ティラは、ばたばたと埃を立てながら柱の陰に駆けていってしまう。

 間もなくして陰から「ほんとにあるぅぅ!?」という悲鳴が薄く響いてくる。

 昨日の戦闘シーンでしっかり目視していたし、なにを隠そう設定を考えたのは俺だもの。


「な、なんなのよアンタわぁっ! あんなお尻の下のほうにほくろがあるとか生まれて初めて知ったんだけどぉっ!」


 怒り照れ顔可愛いかよ。

 戻ってくるなり怒鳴られてしまった。

 正直なところこの子のためならば無償でも全然いい。

 いいのだが、ほらやっぱりなんか役得あってもバチは当たらないじゃないか。


「そうだな……じゃあレーシャちゃんと仲良くなるために取引をしよう」


「っ! ほ、ほんと!?」


 途端にティラの表情がぱあと明るくなった。

 ちょろい。しかし俺は悪魔でもなければ鬼や魔物でもない。

 ここは真っ当な取引といこうじゃないか


「ただし条件がある」


「じょ……じょうけん……?」


 こくり。ティラの生唾を飲む音が鼓膜をかすめた。

 ティラは勇者ちゃんと仲良くなりたい。俺は相応のご褒美が欲しい。この取引は対等に機能している。


「それはズバリ!!!!!!!!!」


「そ、それは!?」



(区切りなし)

最後までご覧いただきありがとうございました!!!

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