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未完世界のリライト ーシナリオクラッシュ・デイズー  作者: PRN
Chapter.1 俺の書きかけたキャラクターが唐突にストを始めた件
5/26

5話 修正、正規ルートより良いルート、再構築

襲撃予定

破壊


予定死亡数

急下降


秘策

ここにあり

「北東の山間部にゴブリンの巣がありましたよ」


「~~っっ!? けほっ、けほっ!? 唐突になんなんですかアナタはぁ!?」


 暇そうに茶を啜っていた眼鏡の受付嬢から飛沫が飛んだ。

 ギィィ、と。少し重たい扉を開けると、そこはまるで毎日がお祭りのような賑やかさが広がる。

 剣士、剣豪、聖職者。半妖、半獣、混血など。ここは冒険者の寄り合い場所。剣も魔法も、笑い声さえ切れ間なく飛び交う。

 そんな腑抜けた低能力ギルドに容赦のない緊急事項が提出されようとしている。


「ちなみに色違いの3倍速く動く上位ゴブリンも数体穴の中に入っていくのを見たらしいです。なので多少手練れた冒険者さんをグループで向かわせたほうが得策かと」


「じょ、上位ゴブリンですって!? なんでこんなところに王都周辺の魔物が!?」


 受付嬢が声を裏返した。

 すると緩んでいた冒険者たちも「なんだなんだ?」とこちらに興味を示す。


「規模は50以上と見積もっていいでしょうね。信じられないならマップのここに斥候をやってください、大至急」


「ご、50以上って!? もしそれが本当なら巣穴どころか――中規模のダンジョンになってるってことじゃないですかぁ!?」


 秘技、チクる。

 もし襲撃を予知しているのならば、される前にこちらから出向いて潰してしまえば良い。

 この方法はあらかじめ情報を把握している俺だからこそとれる手段だった。

 唐突に入った悪法にカウンターの向こう側は大慌てである。


「信憑性は皆無ですがその規模で村を襲われたら壊滅的打撃は避けられません! ギルド長にいますぐ連絡を入れてポイントへ早馬を送ってください!」


 こんな魔物も少ない村の斡旋所では、危機感も欠如してしまうらしい。

 冒険者たちも「ゴブリン?」「ダンジョン?」と把握さえ追いついていない。

 田舎の村の斡旋所は、俺という異物の混入によって、平穏を忘れ大わらわだった。

 ひと仕事終えた俺は、カウンターから踵を返す。


「よし。これで不幸な事件は回避できたな」


 対して冒険者たちにとってはこれからが大仕事だった。

 なぜなら先ほど教えたポイントには、本物の中規模ダンジョンがあるのだから。

 そして最低限ではなく、的確な情報をくれてやった。これで油断して各個撃破される可能性も減る、はず。


「いまのお話し本当なんです!? ゴブリンの巣に、上位ゴブリン、しかも中規模ダンジョンまで!?」


「ほんとほんと。この間、友だちに聞いたから」


 連れてこられた勇者ちゃんにとっては、寝耳に水もいいところ。

 安穏と暮らしていたところに大災害の予告。愛らしい顔は蒼白めいて、手も小刻みに震えていた。


「そんな情報を前もって知っているということは……――まさかっ!? ナエ様はその危機を知らせるためにわざわざ村へといらっしゃったのですか!?」


 おっとっと。なんか予定と違う膨らみかたをしてしまった。

 しかし俺のとったギルド直行という流れは、勇者ちゃんから見て使命感を覚えて当たり前。

 せっかくだし点数でも稼いでおくとするか。


「あくまで風の噂を耳にしたていどだから旅行ついでにちょっと確認に行ってみたんだよ。そうしたら山間にゴブリンを見つけて、跡を付けてみたらビンゴ。悪い予感っていうのは当たるもんだ」


 ぜんぶ嘘だが、嘘でない。

 なぜならぜんぶ知っているのだから。

 アークフェンは大量のゴブリンによる襲撃に合う。勇者ちゃんの活躍でなんとか追い返すことに成功するが、冒険者の多くは致命的だった。

 そこで力を手に入れた勇者ちゃんが村の復讐を誓って討伐を名乗りでる。そのときに旅の流浪人からゴブリンダンジョンの噂を訊いて初めて場所が明らかになる。


「私だけではなく、はじめからこの村を救うために動いてくださっていたのですね……! 私はそんなナエ様のお声に異を発し、あまつさえお怪我までさせてしまうなんて……!」


 まずい、ちょっと効き過ぎた感じがする。

 勇者ちゃんは感銘に眼を滲ませていた。両手で頬を押さえながらうっとりと俺を見つめる眦を垂らす。


「不詳レーシャこのままでは終われませんっ!」


 勇者ちゃんは両拳を握りしめ、ぐっと胸を張った。

 豊かな胸元が揺れ、ひらりとスカートの裾が風に舞う。


「だからなんでもおっしゃってくださいねっ! ナエ様のためなら火のなかでも水のなかでも、なんでもがんばりますからっ!」


「なにが!? 1番大事なぶぶんが暗礁に乗り上げてるからね!?」


 初手で大きく躓いたためもはや軌道修正は不可能となっていた。

 勇者ちゃんは覚醒せず、必須イベントのゴブリンさえ討伐済み。これではもう既定ルートが破壊されたのと同義である。

 だったらもういっそのことこのまま思い切りぶっ壊してやればいいじゃないか。


「(そうなるとアークフェンは通常ルートより平和になるってことになる。村人やここにいる冒険者さえ数人は死ぬ運命を回避する)」


 俺は躍起になる勇者ちゃんから目を逸らす。

 先ほどから賑わう斡旋所のなかへと、ぐぅるりのんびり視線を巡らせた。

 なかに入るとまず目に飛び込んでくるのは、広いホールにずらりと並んだテーブルと椅子。革の鎧に身を包んだ戦士が腕相撲をしていたり、魔法使いの少女がスイーツ片手に読書をしていたり。獣人の兄ちゃんが新人に怪物との戦い方を熱く語っていたり。

 種族も年齢も職業もバラバラ。でも、全員が冒険者という共通点で繋がり、集っている。


「ずいぶんと人の出入りが多いんだね? 田舎だからもっと閑散としているのかと思っていたけど?」


「ここは王都や魔物の出現が激しい地域じゃないですから。それに近辺の商隊と一緒にアークフェンへやってきた冒険者さんがほとんどです」


「なるほど、田舎だけど畑や森荒らす魔物も少ないから交易品が多く商業が盛んなのか。そう考えると魔物がいるせいで土地が限られる生活ってかなり厄介だな」


「私のお家で作っている染め物なども交易品として出荷するものがほとんどです。アークフェンでは自営業だけではなくそういった副業をこなしているお家が多いんですよ」


 中2のころの俺が、そんな経済のことまで考えているわけがない。

 つまりこのアークフェンという村は、ストーリーの流れに沿うよう独自に進化したといえる。

 どこか穏やかな静けさに包まれながらも、足元にはいつ砕けるとも知れぬ薄氷が張る。緊張と美しさを孕んだ繊細な状態だった。


「(客観的に見ても素敵な村だ。ストーリーに描かれないぶぶんがこんなにも濃密だったなんて)」


 誰にも語られなかった風景が、作者である俺を置いて息づいている。

 まるで物語の影に隠れた、もうひとつの真実のように。


「やほやほぉ♪ そこの犯罪1歩手前の格好をしたキミぃ♪ ちょっとゴブリンちゃんたちのことでお話ししようよぉ♪」


 金擦れの音を引き連れて女性がこちらに向かってくる。

 エグい角度のハイレグから伸びる足はすらりと伸びて長い。さらには龍鱗の鎧を模した軽装鎧を各部にまとう。

 周囲の冒険者たちと比べて装備も、軽薄さから漂う余裕も、格が違っていた。


「(コイツは……)」


 しかも俺は、この女性のことを知っていた。覚えている。

 彼女は、襲撃発生時のモブ、モブ子2だった。

 この子は、新米冒険者の身代わりとなって大勢のゴブリンに組み付かれてしまうのだ。

 しかし新米冒険者たちは怯えるばかりで手すらだせず。全力で抵抗するも数の暴力に力は及ばずに自慢の鎧を毟りとられる。さらにそこへ上位ゴブリンがやってきて裸の彼女は無抵抗のまま、巣へと連れ去られてしまう。

 そこからは語る口さえいらないだろう。勇者ちゃんが助けるまでゴブリンたちの慰み者として永遠を過ごすのみ。助けられて以降は、姿さえ描かれない。


「私ってば王都のほうでそこそこ成り上がってる冒険者なのよねぇ♪ たまにこうして若い子の摘まみ食、もとい後進の育成に出向いてきてるってわけ♪」


 女性の表情は、にへら、と緩んでいた。

 かと思えば、次の瞬間、表情がすっと引き締まる。声も、わずかに低く、乾いた響きに変化する。


「客観的な意見でいいんだけど、キミの見てきた巣って――」


「シャーマンとレッドゴブリンが中心の群れとみて間違いない。それとなかにはおそらく繁殖用の人間が数人はいるだろうな」


 俺は彼女の知りたいであろう情報を淡々と述べた。

 一瞬、場の空気が重たく沈む。だが――


「んふっ♪」


 と、さっきまでの真顔が嘘のように裏返る。

 とろけるような笑みを浮かべて彼女はくるりと身を翻す。


「おっけおっけぇ♪ 言いにくいこと聞いちゃってごめんねぇ♪ 新米くんたちの修行に同行させようか迷ったけどやめとくわぁ♪」


「えぇ~! 俺たちも連れていってくれよぉ~! 俺らだってゴブリンくらい討伐したことあるんだぜぇ~!」


「ぶぶー、ダメでーす♪ 実力も疎かなのに精神まで削られてまともにダンジョンクリアできるわけないっしょ♪ 私が討伐任務から帰ってくるまでちゃんと修行してなさい♪ もしがんばったらお土産話くらいしてあげるから♪」


「相変わらずデカいケツしてるくせにケチだなぁ! いつか絶対強くなってパーティの尻にしいてやるぁ!」

 

 女性は、焦れる新米たちに責められながらも飄々としていた。

 くびれから大きな半円を描く尻を色っぽく振りながら去って行ってしまう。

 彼女も唐突なミッションに参加するつもりなのだろう。そして手練れのみの討伐隊で確実にコトを成し遂げようとしている。


「モブ子もこんな感じで助けられれば楽なんだがなぁ……っ!」


 唐突にひやり、という感覚を覚えた。

 それはまるで首筋に銀のナイフでも突きつけられているような。鋭利で冷たい感覚だった。

 しかも切っ先が向けられているのは俺へ、ではない。別の方角に向けられている、ナニカヨクワカラナイモノ。


「……………………」


「ゆ、じゃなくて。レーシャちゃん? 目が据わってるけど、どうかしたの?」


「あっ――いえいえ別になんでもないですよっ! 冒険者さんたちをこんなに近くでまじまじと見るのは初めてなものでっ! ついつい目を細めてよぉーく見てしまっただけですっ!」


 こんな無頼の集う粗暴な場所でさえ、1輪の花。

 急に声をかけられてわたわたする勇者ちゃんの姿も愛らしい。


「(なんだろういまのは? モブ子2を睨んでたような?)」


「かぁぁぁ! また外れたぁぁぁ!」


 ……今度はなんだ?

 失望めいた悲鳴が室内に木霊し、耳を打たれる。

 

「やったぁ! まだ覚えてないスキルを手に入れたわよっ!」


「僕なんかもう3連続も取得済みだぁ! また魔物を狩って……タ……ルを集めてこなきゃぁ!」


 とくに若い一団が、斡旋所のとある一部に群がっていた。

 大きな装置のようなものを囲んで一喜一憂しながら盛り上がっている。

 

「(あれってたしか……)」


 俺の記憶は微妙に曖昧だった。

 そんなものもあった気がする、ていど。あの装置の詳細を正確に認識できていない。


「そんなことより難しいお話しはもうすんだんですよねっ! でしたら予定通り是非私のお家にきてくださいっ!」


 今度は引く側ではなく、引かれる側だった。

 勇者ちゃんは俺の腕に絡みつく。猫のように目を細めて笑みを広げる。


「お母さんにも紹介したいですし、ナエ様もきっとお腹が空いているはずですっ! それとお風呂にも入っていただいて、服もお父さんのを代わりを差し上げますからねっ!」


 ぐいぐい、ふにふに。

 ぐいぐい、ふにふに。


「ちょっとヤダわこの子っ!? 見かけによらず大胆っ!?」


 俺は、ふわりととろけるような甘い感触と香りに、豪打だった。

 抱きつかれ、押しつけられると、丸い柔和な部分があっさり肘を呑みこむ。俺の脳はこの1撃で容易にぐらりと侵食されてしまう。

 温もりと幸福に浮かれながら冒険者たちのたまり場をあとにするのだった。




   〇    〇    〇    〇    〇

最後までご覧いただきありがとうございました!!!!

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