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未完世界のリライト ーシナリオクラッシュ・デイズー  作者: PRN
Chapter.1 俺の書きかけたキャラクターが唐突にストを始めた件
21/24

21話 次の頁へ《Next page》

未知の能力

未踏世界


手を離れた

三千大千世界


次の頁

めくるめく

 朝の斡旋所は、もはや阿鼻叫喚の戦場だった。


「おい! 結局、誰だったんだよ!? あんなスキル、見たことねぇぞ!!」


「平原ごと吹っ飛んでたんだぞ!? ギルドには説明の義務ってモンがあるだろ!?」


「ねぇってば! 受付さん、もう情報出た!? いったいなにがゴブリンの群れ殲滅したのかって!!」


 冒険者たちの怒号と興奮が天井を揺らす。

 彼彼女たちもシセルと同じだろう。騒動の顛末と情報を求めて群がっている。

 当然知りたがっているのは、村の外れで発生した異常個体を含むゴブリン群との大規模交戦のこと。


 「ま、待ってください皆さんっ! お、落ち着いてっ、わ、私も詳細は……いま、上からの正式な報告が!」


 受付嬢はもみくちゃにされながら半泣きだった。

 なだめても押され、説明しようとしても遮られる。メモは飛び、書類はぐしゃぐしゃになって眼を回す。

 明らかに昨日までのあるいていど穏やかな斡旋所とは空気が一変している。


 「(ま、そりゃあ、こうなるよな……)」


 俺は、壁際の影でそれを静かに眺めていた。

 混乱の中心にいるのは、真実がわからないという空白だ。

 誰が、いつ、どこで、どうやって、あの異常発生したゴブリンを殲滅したのか。

 現場には、黒焦げになった草原。炭と化した残骸。赤黒く焦げた地面に、焦土と灰の臭いを残すのみ。

 それ以外、目撃者はゼロ。あの悪鬼羅刹を生き抜いた冒険者たちでさえ、なにひとつ証言できる材料はないらしい。

 勇者ちゃんは、両手を結んでふん、ふん鼻息を荒げる。


「なんだか凄いことになってますねっ! いったいどれほど手練れな大魔法使い様がいらっしゃったのでしょうっ!」


 違うよー、君がやったんだよー。

 好奇心満々といったその顔は、むしろワクワクを隠しきれていない幼子のよう。

 どうやら勇者ちゃんは本当に昨日のことを覚えていないらしい。

 

「1度でいいから私もそんなふうにすごい魔法をバァンって撃ってみたいですっ!」

 

 だから君がやったんだってば。

 そんなハツラツとした目で俺を見られても困る。


「(こんな無害そうな子だからこそ目撃者もいないんだろうなぁ。もし万が一あの瞬間を見てたとしてもそもそも信じられない)」


 受付嬢には悪いが、円満な結末だった。

 平和。助かった命。救われた村。奇跡のように軽微だった被害。結果だけを見れば、これ以上ないくらいの幸福な終わりだった。

 シセルも助かった。勇者ちゃんも無事だった。冒険者たちのほとんどが重傷どころか軽傷で済んでいるのも奇跡に近い。

 アークフェンの村は、今日も空が高く、小麦と花の香を乗せた涼やかな風が吹き抜ける。


「なあレーシャちゃん」


「……? どうかしました?」


 幸福な最後(ハッピーエンド)

 そんなわけあるか。まだ片がついていない問題が渋滞している。


「なんか、俺に隠して黙ってるコトってない?」


「へ? いったいなんのことです?」


 違和感。上手くいきすぎている。

 無意識下で羅列された点と点が繋がるような、不快感を覚えて仕方がない。

 俺は、改めて勇者ちゃんに問う。


「なんで行きの馬車であんなに周囲を警戒していたんだ? まるで周囲にゴブリンの大群が身を潜めているのを知っているかのようだったじゃないか?」


 モリシアの町へ行く道中、この子は気づいていた。

 気づいていてなお、それを黙っていた。

 結果として俺が彼女の異変に気づいたため、こうしてアークフェンが無事という帰結に辿り着いている。


「別に君を責めているわけじゃないんだ。だけどどうしても腑に落ちないんだよ。だって君は、ゴブリン1匹にすら怯えるくらい外に慣れてないはず」


 レーシャちゃんにはっきりとわかる動揺の色が走った。

 まるで見つかってはいけない日記帳を覗かれたよう。


「そ、それは……っ、あの、えっと……」


 ぎこちなく両手を合わせて、指をもじもじと絡める。

 いつもの明朗な彼女からは想像できないほどの挙動不審さだった。


「べ、別に、わたしだって、なんでわかったのかとか……わかんないんですっ……!」


 ふいに、震える声が漏れた。


「でもなんでか、胸の奥がギュッてなるんです。怖いっていうか、悪寒がするというか……その選択をしたらだめ、って気配がするんです」


「(危機回避のスキル? 勇者ならそれくらいあっても不思議じゃないけど……)」


「本当に、ちっちゃいときからなんです。誰にも言ってないし、言ったら……怖がられるかと思って……。ただの直感って言っても、信じてもらえない気がして……」


 まるで小動物のような恐れが瞳に滲んでいた。

 特別だと思われることへの拒絶と、嫌われることへの怯え。


「……ゴメンなさい、ナエ様。ずっと、隠してました。言えませんでした……」


 そんな彼女を、俺はじっと見つめた。

 少し震えて、俯き、唇を噛みしめている。

 だから俺もなるべく語気を強めないように繊細に言葉を紡ぐ。


「じゃあ俺が降ってきたあの日はどうだったんだい?」


「あ、あの日は全然嫌な感じがしなかったんです。だから……急にゴブリンが現れたことにびっくりしちゃったんです」


 うーん。正直、要領を得ない。

 ゴブリンの群れが事前に察知できて、俺が落ちてくる未来は特に感じとれなかった。どういう仕組みなんだそれは。


「(危険察知じゃなく、選択のミスがわかるってことか? でもそうなると、俺が降ってきたことは正しい選択肢として受けとられていたってことになる……?)」


 考えれば考えるほど、ピースが足りない。気がしてならない。

 そもそも台座の形すらわかっていないのに、パズルを組もうとするようなもの。


「……ごめんなさい」


 ちら、と視線を向ける。

 するとレーシャちゃんがいまにも泣きそうな顔になっていた。

 上目づかいに俺を見つめ、潤沢な瞳がうるうると揺れている。


「よしよし! よくそんな大切な隠し事、教えてくれた! おかげでやるべきコトの輪郭がなんとなく見えてきたよ!」


 少しだけ叱咤するくらいの強さで栗色の頭に手を置く。

 はじめは華奢な肩がぴくんと跳ねた。だが、嫌がる素振りはなくなすがまま。


「ナエ、様……?」


「色々騒ぎが済んだらもう1度、今度はノンビリするくらいの気楽な気分でモリシアの才能屋さんに行こう! 邪魔が入らないタイミングで楽しい旅行をやり直すんだ!」


 堰を切ったように、彼女はぐすっと鼻を鳴らす。


「っ……は、はいっ!」


 耳と尾を立てる子犬のように元気な返事だった。

 小さく、「えへへ……」と、照れたような笑いを漏らす姿は、どう考えても可愛い。

 手のひらを通して伝わってくる温もりが、儚くも尊かった。この子を守れたのだという充足感がじんわりと胸が満ちていく。


「ふぃ~~っ♪ っと、邪魔するわよぉ~~ん☆」


 幸せ空間クラッシュ。

 部外者が俺と勇者ちゃんの幸せ空間へ滑りこんできた。

 そういえばここまで一緒にやってきたのだった。勝手にいなくなったため気にしてはいなかったが。


「……なに? なんすか?」


「わーお、露骨ぅ! 愛情の欠片もない視線にめげちゃいそう!」


 飄々と現れたのは、言うまでもなくシセルだった。

 あられもない格好をしているというのに意に介する素振りすらない。

 周囲の男や男子から好奇やら色めく視線が針のように突きつけられている。というのに気にした様子もなく、むしろ自慢げに胸を張る胆力は、尊敬に値しない。


「……おまえ、もうちょっと周囲の視線ってもんをだな」


「え~? なにぃ? 私の魅力にアテられちゃったぁ?」


「誰がだ!! 己がサキュバスみたいな格好をしている自覚をもてって言ってんだ!!」


 憤慨する俺をシセルはけらけらと一笑した。

 そして近くの椅子に幅広の腰を下とす。


「で、ここからが本題なんだけどさ」


 シセルは目尻を細めて口角を微かに鋭角へもちあげた。

 声を潜めるでもない。しかし明らかに彼女をまとう空気が変貌する。


「ゴブリンの大規模ダンジョン攻略のために王都が本腰入れて掃討戦を展開するらしいんよね」


 俺と「ほう?」勇者ちゃんが「へぇぇ~」揃って眉を上げる。


「しかもアフロディーテ騎士団が旗本になって殲滅にくるってさ」


「(アフロディーテ?)」


 知ってるような、知らないような。

 否、知っている。だいぶ喉まででかかっている気さえする。 


「知らない? 神に選ばれし美貌の姫騎士、花の君アフロディーテ様よ。魔物をも魅了し、味方につけるって噂の……」


 シセルの話を聞いてようやく脳に血が通う。

 この世界には生まれながにして検知不可な魅了魔法が身体から吹きだしている姫騎士がいる。

 思いだしたのだから当然結末も知っていた。彼女の最後は魅了しすぎた魔物に一生愛されつづけるという過酷な結末を迎える。


「神に加護された姫騎士の率いるヤバい連中よ。彼女の隊、変人も天才も揃ってるって有名。ま、私の元同僚でもあるけどね~?」


「おい、そんな爆弾をさらっと混ぜんな」


「でね?」


 無視すんなコラ。

 シセルはすっと立ち上がり、朝の光に映える銀髪をひとつかきあげる。


「私、そっちの討伐に参加する予定。やっぱり現場じゃないと真実ってわかんないからさ♪」


 その瞳に、さきほどまでの軽さはなかった。

 だけども瞳には光が宿っていて、信頼のようなものが秘められている。


「ねえ、ナエナエっち! 私と一緒に冒険しよっ!」


 それは、冗談交じりの誘いじゃなかった。

 冒険者の目をした彼女が、真っ直ぐに俺を見ている。

 正直に言えば、不安はあった。

 バグったこの世界。俺が創ったはずの世界で、俺の知らないルートが構築されつつある。

 創造主の俺でさえ、完全に制御不能な領域へと突入している。


「(でも)」


 なんとかなる気がしていた。

 勇者ちゃんが、無垢なまま覚醒しない、この世界で。

 シセルのような厄介なモブ冒険者に背を押されて。

 俺も、前に進める気がした。


「……しょうがないなぁ」


 気づけば笑っていた。

 そして勇者ちゃんも、ぴょこっと跳ねるようにして、元気に手をあげる。


「私も! わたしもナエ様と一緒にいきますっ! ぜったいっ!」


 わくわくしていた。

 そう。たしかにいま、俺たちの冒険が、はじまろうとしている。


 そんな気がした。




………………

Chapter.1 俺の書きかけたキャラクターが唐突にストを始めた件  END

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