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未完世界のリライト ーシナリオクラッシュ・デイズー  作者: PRN
Chapter.1 俺の書きかけたキャラクターが唐突にストを始めた件
2/25

2話 まず最高のとっておきを……アナタに


リスポン位置

設定不明


装備

一糸まとわぬ


未来計画

堂々の頓挫

 墜ちる、てかいまナウ落ちている。

 身を引き裂くような暴風が、紙を丸めるような雑音が、全身を余すことなく撫でていく。

 生まれ変わった俺の身体に大自然のすべてが生という命を伝え教えてくれている。


「リスポン位置!!!!


 上空とか!!!!


 頭イカれてんのかアアアアアアアアアアアアアアアアアア!?!?!」


 広大かつ青々と茂る草原が、いまは敵。

 唐突な実感だった。思考できるほどの余裕はなく、恐怖のみが身体を支配している。

 このままでは生まれ変わるどころの騒ぎではない。もう足は地に着くことはなく、時間も、希望も、やがて迎える衝撃によってすべて断ち切られるのだ。


「そろそろ死ぬけどなああああああああああああああ!!! ふうううざけんなあああああああああああああああ!!!」


 だが同時に、これまで見過ごしてきたものたちが、まざまざと瞼の裏に浮かび上がる。

 家族の顔、友人たちの笑い声、モテたいと言いながらモテようと行動しなかった後悔の数々。まるで最後の帳尻合わせのように、俺の内側を駆け巡った。

 そして、ただひとつの思いが胸に残る。


「空って、青いんだなぁ」


 しかし次の瞬間、世界は裏返った。


「――GYAッッ!!?」


「……?」


 衝撃を想像していたはずのその瞬間は、こなかった。

 耳をつんざく風音が急に止み、目の前に広がったのは、意外にもやわらかな地面だった。

 身体は地に直撃した。だというのに置かれたと言ってもいいほどに、優しく、静かに。霞む視界と思考をよそに、痛みはどこにもなかった。


「おれ、いきてる? なんで、あんな高いところから落ちたはずだぞ?」


 問いかけて見るも、視線を落とした手が返すことはない。

 ただ、尻の下になにか生暖かいものが敷かれている。


「なんだこれ!? この生き物……なんだコイツ!?」


 俺は異変に気づき慌てて飛び退く。

 尻の下には、なんとも形容しがたい、どの辞書でも見たことのない、生き物なのかも定かではない、なにかがいた。


「まさかコイツが落下の衝撃を吸収してくれたおかげで生きてる――……って、臭っ!? 加齢臭を10倍にまとめたくらい臭っ!?」


 それは、ひと目で人ではないと、わかる存在だった。

 緑がかった皮膚は、まるで腐りかけた果実のように斑にただれる。湿り気を帯びた異様な艶がてらてらと皮脂を際立たせる。

 細い身体は骨と皮だけでできているように痩せ細って、醜い。不釣り合いなほど膨れた腹部もまた形容しがたい不快感を与えてくる。


「まさかこれ、よく物語とかにでてくる魔物っていうやつか?」


 俺は立ち昇ってくる腐臭に眉をしかめた。

 その人ではないなにかは、まさに魔物、あるいは悪そのもの。決して味方ではないことのみが確信に至っている。

 しかしいまだけ彼は、俺にとってのヒーローだった。

 落下速度で体重約55kgを受け止めた首は、明後日の方角にへし折れている。いままで生きていたという証のように口端から涎を流し、全身を痙攣させながら無様に横たえていた。


「ありがとう名も知らぬ魔物よ。呪うならあの位置に俺をスポーンさせた理不尽な神を呪ってくれ」


 晴れ時々ところにより人間。

 不運にも直撃を喰らった魔物は、静かにその生を終えようとしていた。

 俺は、消えゆく灯火に両手を合わせ黙祷を捧ぐ。


「ふざけんなよなんでいきなりベリーハードスタートなんだよ。モブ子助けに行くどころかオープニング迎える前にエンドロール流すところだった――ぶえっしゅ!?」


 くしゃみがでるのと同時に世界の過酷さが身に沁みた。

 あろうことかいま現在この身は布1枚すらまとっていないではないか。


「最強の装備どころか服すら与えられてないってどういうこと!? じゃあこれヒノキの棒以下の最弱スタートじゃねぇかあ!?」 


 転生した俺は、まさに裸一貫だった。

 生まれたての姿というやつか。ふざけんな。


「ていうか、この魔物ですら腰布すら巻いてんじゃん!? なんで俺だけ!? どういう基準で衣類が支給されてんのこの異世界!? 衣服ガチャでハズレ引いたってのか!?」


 叫びながら手で必死に大事な部分を隠す俺の姿は、ただの変態だった

 悲壮感と羞恥心と怒りと絶望が混ざり合う。ある種の完成された悪質さが近い未来に絶望の暗雲を広げている。


「これじゃあまともに冒険するどころかそこらの村にも入れねぇ! 見つかれば捕まるか石投げられるか変態で討伐対象だろうがあああ!」


 平原に立ち尽くす。俺と魔物の死骸。、

 さっきまで生きていたであろう魔物の死体と、俺だけ。


「くっそ……コイツの装備、人間から奪ったのか? ちょっとサイズ合いそうなのが余計に腹立つな」


 すでに息絶えた魔物は、ピクリとも動かない。

 しかもその身には革のチュニックと金属の肩当てを装備したまま転がっている。

 文明の片鱗を視界の横に、じろり。俺は、そっと魔物の死骸に高い位置から見下げた。


「……よし、脱がすか」


 これは決心だ。

 俺は生きるという責務を果たさねばならない。

 生きてモブ子を助けなくてはせっかく生き返った意味がないじゃないか。


「とりあえず俺自身はソロで穏便にすごすために粛々としておこう。間違っても問題の中心になるような危険なマネはNGだ。あとは早めにストーリーのプロットを思いだせさえすれば危険なイベントは回避できるはず。俺は目立たない脇役になりメインキャラクターのあとにそっとついていけば流れとして完璧だな」


 冷静に考えを整理しながら草原に膝をついた。

 おそらく魔物のまとう衣服には、耐え難い腐臭がこびりついている。

 だが、背に腹は変えられない。全裸で留置なんてされようものなら犯罪者のレッテルが貼られて初手詰みは、確実。

 俺は、深呼吸を深く刻んでから生唾を呑み、死骸へ向かって手を伸ばす。


「ひっ――ッ!」


 いつからそこにいたのか。

 1人の少女が、青草にへたりこんで、身をすくめている。


「ひ、ぁ……あああっ!!」


 たぶん気づかなかっただけで、はじめからいたのだ。

 その瞬間。俺の脳内で色々な説明が組み上がっていく。

 このゴブリンらしき魔物が、なぜここにいるのか。少女の怯え具合から見て、理由もなんとなく想像に易い。


「ひ、やっ……やだッ! はだか、こっち、こないでぇっ!!」


 叫ぼうとするも恐怖で言葉を喉奥に絡ませている。

 かすれた息とともに悲鳴がこぼれ落ちる。声にならない声で喘ぐ。

 そして真っ青になって見つめる先に全裸の俺と魔物が倒れている。


「ふぅぅ……すぅぅ~~~」


 これは堂々たる誤解だ。

 4階でも3階でもない、誤解だ。

 いまこの子は、これほどまでに紳士な俺を大変な変態だと勘違いしている。


「お嬢さん、この危険なゴブリンは俺の尻が倒しましたからご安心ください」


「あっ、あっ!? きゃあああああっ!!」


 あ、パンツ見えた。

 断じてそんなことを喜んでいる場合ではない。このままでは初期プランのすべてが瓦解してしまう。

 いまここで勘違いをとかなければ。アレでも待て、なんかこの子見覚えが……


「ちょっと待っておくれ可憐で愛らしい頬っ被りのお嬢さん? 君の目からは空から降ってきた全裸の変態が魔物を裸に剥こうとしてるようにみえているね? 1度そのこびりついた妄想をフラットに伸ばして別の方向からアプローチしてみようか?」


「な、なにが違うんですか……? いまゴブリンを裸にしようとしてましたよね……?」


 おっと一言一句正しいぞ、どうすんだこれ。

 全裸の紳士と、怯えて泣く直前の少女が、睨み合って駆け引きを行う状態と化す。

 少女は、まるで面を隠すように顔の大半を布きれで覆っている。上背もさほどあるわけではない、成熟とはいえぬ未熟さが際立つ。

 さらには腰が砕けてへたりこんでいる。俺から逃げようと、もがくたびめくれ上がったスカートから伸びる白い足が麗しい。

 ふと俺は怯える少女を眺めながら訝しみ、目を細める。


「あれ? きみ……なんか既視感が?」


「な、なんですか? わたし、アナタのような変態さん、知りません!」


 忍者。くノ一。

 脳内で不穏なワードが渦を巻いては繋がっていく。

 彼女の成りと装いが俺の記憶になにかを囁きつづけている。


「たしかヴェル=エグゾディアの主人公の種族って普通の人間じゃなかった気が……?」


「――ひっ!? やっぱりただの変態さんじゃないですかぁっ!!」


 俺が不用意に接近すると、少女の顔が真っ赤になった。

 恐怖と怒りと羞恥の入り混じった叫びが飛ぶ。そして彼女の手が音速で動いた。


 ごそ、ごそ、ごそっ。


 腰のポーチから次々になにかよくわからない硬いものを投げつけてくる。

 棘だったソレは容赦なく俺の生身にぶつかっては青草のなかへと落ちていく。


「ちょっ、ちょっと待て! 俺はただ、キミのことを前世で……って、痛ぁっ!? これ、植物のまきびしか!?」


 あまりの勢いに一歩退きながら、俺は腕をクロスして防御した。

 だが容赦ない攻撃はつづく。


「全裸の変態さん! 性癖ゴブリン! ナンパ詐欺師っ!!」


「おいおい、最後のやつ意味わかんねぇぞ!? やっぱ2番目のヤツも許せんわ!?」


 俺は、痛みと羞恥のなかで、かすかな確信を深めていた。

 間違いない。この子、俺が書いたラノベの主人公――勇者ちゃんだ。

 あの頃は奇をてらっていた。忍者設定が好きということもある。さらに勇者で忍びなんて超新しいではないか。


「じゃあもしかして!?」


 その1。勇者ちゃんは、物語序盤で覚醒することによって冒険がはじまる。

 その2。死を眼前に突き詰められ、覚醒する。

 その3。覚醒ルートは、ゴブリンと鉢合わせ、敗北すること。巣穴に連れこまれる寸前で勇者の血が目覚める。

 その4。つまりいま俺のすぐ横で泡を吹いて倒れているコイツが、フラグの鍵。


「俺の尻で勇者ちゃんの覚醒イベント潰したアアアアアアアアアアア!!!!」


「きゃああああああああああ!!? 全部見えてますううううううう!!?」


 初期計画は、音を立てて瓦解した。

 もっとも最悪で、手間のかかる形で、頓挫した。



  ☆   ☆   ☆   ☆   ☆

勇者ちゃん 職業:くノ一

主人公   職業:変態

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― 新着の感想 ―
スタートからストーリーが破綻しちゃったw 勇者覚醒イベントは一体どうなってしまうんでしょうw 勇者が忍者は確かに見た事ないです(*´∇`*)
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