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未完世界のリライト ーシナリオクラッシュ・デイズー  作者: PRN
Chapter.1 俺の書きかけたキャラクターが唐突にストを始めた件
15/60

15話【VS.】旅の途中、冒険のはじまり 魔神将ダークマター

祈り結び

帰路につく


バグ

予想外の展開


シナリオを

ぶち壊していけ

 車輪が軋みを上げながら、馬車はのんびりと石畳を進んでいた。

 乾いた蹄音が、やけに規則正しい。そのリズムが妙にのどかで、腹立たしい。のどかすぎて、苛立つ。


「(頼む、間に合え!)」


 そう思っている自分が滑稽で、苛立ちはなお募る。

 時間が流れるのではない、削れているような感覚だった。

 俺の焦りに煽られるよう、勇者ちゃんの表情がぴたりと止まる。

 さっきまでの笑顔がすっと影を帯び、俺もまた自然と歩みを止めていた。


「ナギ様……」


 祈り手を胸元に押さえてか細く呟く。

 旅の風情も情緒もモリシアに置いてきた。乗りこんだ商隊の荷馬車に紛れて街道に揺られる。

 自分たちが旅を楽しんでいたこの一方で、誰かが命の危機にさらされ、今も苦しんでいるかもしれない。


「おっとぉ? こりゃあずいぶん雲行きが良くねぇなぁ?」


 御者の声に合わせ、馬車がぎしりと音を立てて止まった。

 揺れる荷台の上で身を支えた俺は、視線の先に広がる異様な光景に、思わず身を乗りだす。


「あれは、冒険者たちか……?」


 道を横切るように、ぼろぼろの冒険者たちが歩いていた。

 中規模な一団。その姿は、まるで戦場から這い戻ってきた敗軍そのものだった。

 御者のおっさんがあんぐりと開いた口から吐息を零す。


 「……ありゃあひでぇや。どう見たって勝者の凱旋じゃねぇ……」


 誰かの肩を借り、引きずるように脚を動かしている者。

 腕をだらりと垂らし、血の滲む包帯で応急処置をした者。

 衣服は裂け、鎧は泥と返り血に汚れ、顔には疲労と後悔が色濃く貼りついていた。

 互いに傷を庇い合うように身を寄せ合って、ただ一歩ずつを踏みしめて進んでいる。

 そしてそのなかに見覚えのある姿があった。俺はたまらず荷馬車から転げるように飛びだす。


「ッ、シセル!!」


 敗軍のなかに、比較的まともな状態で、彼女がいた。

 どうやら周囲警戒をしていたようで、駆け寄る俺の存在にいち早く気づく。


「あっれぇ~? こんなとこで合うなんて超奇遇じゃ~ん? できればこんな恥ずかしい状態で合いたくなかったかなぁ~?」


 シセルはいつも通りの明るい口調だった。

 しかし、その裏に隠れた疲れが、いまは逆に胸に刺さる。

 彼女なりにいつも元気でいるのだろうけれど、目の下に疲れが溜まっている。髪は乱れ、鎧の表面には数カ所の汚れが塗られている。モブの割りに美しい整った顔にだって返り血の痕跡が残っていた。

 傷ついた仲間たちのなかで、シセルはなんとか自分を保っているようだった。だが、なにか大きな失敗があったのだと察することは容易だった。

 俺は、ぼろぼろの冒険者たちにどう声をかけたらいいのかわからない。おそらく俺の与えた情報が彼彼女たちをこのような事態に追いこんでしまっている。


「すまない! 俺が斡旋所(ギルド)を通して与えた情報が曖昧だったばっかりに!」


 哀れな冒険者たちに俺は、頭を垂れ許しを請うことしかできなかった。

 俺の謝罪を受けて冒険者たち一党らがなにを思ったのか定かではない。ただ俺は、シセルの眼すら見ることができなかった。

 すると俺の頭の上にそっ、と。硬い籠手の感触が添えられる。


「な~に言っちゃってんのさ~♪ ここにいる連中全員が無事だったのはナエナエっちが事前に情報を入れてくれてたからだっての~♪」


 俺は恐る恐る顔を上げた。

 視界のなかに映ったのは、返り血に濡れ、煤け、埃まみれの顔がある。

 そのはずなのに、そこに浮かぶ笑みは、なぜかやけに美しいと思えた。


「最初の情報ですでに私らは超絶警戒モードに入ってたわけ。普通ゴブリン退治ていどなら欠伸のひとつも漏らすところだけど、今回の私たちは50倍は気を引き締めてたんよ。そんで結果的にこの仕事は想定を大きく上回るヤバい仕事ってことにいち早く気づけたってわけ」


 シセルはくしゃっと目元を細めて、まるでからかうように笑う。

 籠手を置いた手がぽんぽん、と。軽く俺の頭を叩いてから、そっと離れる。


「誰1人として死なせずにこうして安全圏まで撤退できたのはナエナエっちの功績だよん♪」


 くるりと華麗に回るシセルの後ろで同意の声が相次ぐ。

 幾人かの冒険者たちが「おうよ」とか「まったくだ」、なんて。笑いながらこちらを見ていた。

 肩を貸し合っていた2人が、ぎこちなくではあるが親指を立てて見せる。顔には疲労とと苦痛が刻まれているというのに、やけに晴れやかだった。

 そのなかでもいちだんと血の香る男がいる。剣鞘を杖代わりに真っ直ぐ立っていることさえ覚束ない。


「……情報に感謝してる。マジで、マジで、命拾いしたんだ」


 ベテランの貫禄が漂う年配の冒険者だった。

 片目に布を巻き、鎖帷子の上から雑多な装備を纏っている。

 ぼやくような口調だったが、その声には確かな命の重みがあった。

 まさに冒険者たちは九死に一生を得たのだ。あわや全滅といったところでぎりぎり逃げおおせている。


「私らの見立てによれば、あのダンジョンはすでに大規模レベルにまで育っちゃってた。そうなるともう村の斡旋所がどうとかって話じゃなく、国や英雄が動くレベルね」


 しかしこんな事態であってもシセルは、まるで普段話をするようなテンションだった。


「おいおい待ってくれよ。そんないつも通りみたいに言われてもついていけないぞ」


「さすがにこの規模をいつも通りとは口が裂けても言えないよぉ? でもこうなっちゃったんだから受け止める意外にないっしょ?」


「……まあ、そうなんだけどさ」


 俺は思わず頭を掻く。

 心のどこかでまだ現実を飲み込めていない自分がいた。

 冒険者たちの一団は、再びゆっくりと歩を進めはじめていた。お互いを支え合い、誰も置いていかず、1人ひとりを守るように列を成している。


「なあ、俺の情報……もっと早くだせてたら、もっと具体的に、危険の度合いを示せてたら……こんな事態にはなってなかったんだよな?」


「ナエナエっち、それは違うよ」


「……違う?」


 シセルは進みかけた足をぴたりと止めた。

 結い髪を振るみたいに振り返り、俺の目を真正面から見据える。


「あたしら冒険者はね、情報の質だけで動いてるわけじゃないんだよ。結局のところ、現場でどう動けるかがすべて。どんなに完璧な地図があっても、最初の1撃を避けられなきゃ意味ないでしょ?」


 彼女の声は、普段の飄々としたものではなく、凛としていた。


「それにさ。あの情報があったから、ウチらは早めに気づけたし、撤退ルートも想定できた。生き残れたのは偶然じゃない。ナエナエっちが命の種をまいてくれてたからだよ」


 そう言って、シセルは再びふにゃりとした笑顔を浮かべる。

 けれど、その笑顔は芯が強く、迷いのないものだった。


「……ありがとな」


 ようやく、言えた。

 心の底からの感謝の言葉を。生きていてくれてありがとう、と。

 しかしその瞬間――


「ナエ様あああ!!!」


「ナ――くッッ!!」


 勇者ちゃんは悲鳴を上げ、シセルは青ざめ息を呑む。

 同時に、耳障りな甲高い笑い声と思わしき音が木立の陰から響き渡る。


「Gehehehehe!! Kiiiiiiii!!」


 ゴブリンの手には、粗末な弓がもたれていた。

 しかもすでに矢が空を裂き終えている。隠密して放たれた矢は、俺の側頭部にクリーンヒットしていた。

 俺の身体は唐突すぎる衝撃によろめき、目の前がぐらりと揺れ、横に倒れ伏す。


「いやあああああ!! ナエ様ああああああ!!」


 勇者ちゃんが荷馬車から転げ落ちるようにして駆け寄ってくる。


「テメッ……! なにしてくれてんだコラァァァ!!」


 シセルの声が一転、怒りに満ちた吠え声と化す。

 さらにぼろぼろだった冒険者たちが、瞬時に武器を構え、戦士としての気迫をとり戻していく。


「まさか、つけてきやがったのか!?」


「こんだけいて襲ってくるんだ、野良のわけがねぇ!」


「陣形を固めろ! 前衛は右から回り込め!」


 彼らの叫びが一斉に飛び交う。

 危険の匂いを感じ取った御者のおっさんは馬を下がらせ馬車を盾にしようとする。


「ドクソガアアアアアアアアア!!!」


「――GRYA!?」


 シセルは咆吼とともに投げナイフを投擲した。

 矢の命中を祝う踊りのさなか、その1投がゴブリンの額を捉えた。


「ナエ様!! ナエ様あああああああ!!」


 勇者ちゃんは崩れ落ちるように俺の肩に縋りつく。

 震える手で俺の胸元をぎゅっと掴んだ。


「どうして……っ! こんなのイヤああああああああ!」


 矢に貫かれた俺を見て彼女は慟哭を上げた。

 その様子を横目に見たシセルが、舌打ち混じりに声を荒げる。


「泣いてる場合じゃない!! こうなったらもう動くか死ぬかの2択しかないのよ!!」


 冒険者としての教訓、鋭い言葉だった。

 しかしシセルは彼女を見捨てようとせず合間に割って入る。

 戦場は、唐突に姿をあらわす。木々のざわめきが不自然に止む。そして闇の中からぬらり、と奴らは現れた。

 勇者ちゃんが、俺の胸元に縋ったまま、全身を震わせる。


「ご、ゴブリンっ!」


 ゴブリンたちがいた。

 1匹2匹ではない。もっと大量に。

 奴らの目は光っていた。理性をもたない捕食者が獲物を見つけたのだ。

 口の端からは唾液を撒き散らしながら、ぎぎぎと骨が鳴るような声で笑っている。


「彼氏のことは置いていますぐ逃げなさい」


「そんな!? このままナエ様を置き去りにしろっていうんですか!? あと彼氏じゃないです!?」


「その骸と同じ状況よりもっと悲惨な目に合いたいのならそのまま震えていれば良い」


 骸? 誰のことだ。

 ごろり、と。地面に寝転がっていた俺は、状態を起こす。


「……ん? いてっ。あれ……草ついちゃったよ、も~」


 勇者ちゃんの顔が引きつったまま固まった。

 中腰のシセルがこちらを見つめながら凄まじい形相をしていた。

 そしてベテランあるまじき叫びが繰りだされる。


「ちょくげっ、ええええええええええええ!!?」


「うるさっ。さっきまでのちょっとできる冒険者のお姉さん感どこに捨ててきたんだよ」


「だって頭の横にモロ、えええええええええ!!?」

 

 もう無視だ。話が通じん。

 俺は、固まったままの勇者ちゃんをひとまず荷馬に導いて匿っておく。

 それから御者のおっさんに目配せすると、景気の良いグッドサインが返ってきた。


「選別だ、兄ちゃんもってけ」


「さんきゅう、男前のおっちゃん」


「ここが正念場だ。グッドラックだぜ」


 荷に載った剣を手渡され、拝借する。

 通常であればベテラン冒険者たちだけでゴブリンくらいやってのけるだろう。

 しかしいまは死に体ぎりぎりのくたばり損ない。片足を墓に突っ込んでいるようなもの。

 俺は、すら、と鞘から銀色の閃光を剥き身に代えた。こんなもの現代世界でもっていたら銃刀法違反まっしぐら。

 だがここはヴェル=エグゾディア。俺の創った満たされぬ物語のなかであれば話は違う。


「さあ冒険の時間だ」





※つづく

(次回への区切りなし)

最後までご覧いただきありがとうございました!!!








勇者ちゃんのイラストを作ろうか考え中です(遅かれ早かれ作りますが

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