表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/1

第六部 地球の危機を救うための事例を探せ!『大政奉還と船中八策』

第5部からの続きで始まります。


『国連を地球政府に変える』というような大規模な改革は、単なる国の変革や政権交代よりも遥かに大きな挑戦だ。これを平和的な方法で実現するために、さらに参考になる歴史的事例はないだろうか?


その答えは意外なことに・・・

(第5部の続きからです。)


5-21 軍部が民主化を目指すクーデターを実行する可能性

ガイア地球研究所の講義室は、さらに深い思索と議論の場となっていた。

ロムニカの権威主義体制が国内での不満を抑えきれなくなり、指導者が逃亡する可能性についての議論が終わると、次に焦点がチュアンロに移った。

チュアンロはロムニカと異なり、一党独裁体制が強固に維持されている国だ。

その時、ディアナが静かに口を開いた。

「チュアンロは、ロムニカとは違って強固な一党独裁体制を維持しているわね。国内の情報統制と監視システムが非常に発達していて、国民が民主主義を経験する機会はほとんどない。だから、ロムニカのように国民からの革命はあまり期待できないわ。」

全員がディアナに注目した。

彼女の言葉は、チュアンロの体制変革について新たな視点を示すものだった。

「でも、国内の政治局の反乱や軍のクーデター、そういった内部からの変革は考えられないかしら?」

ディアナはさらに続けた。

「特に、政治局は後継者を育てていないから、もし権力の移行が必要になれば、単に混乱するだけでしょう。だから、変革の主体になるとすれば軍部しかないと思うの。」

プロメテウスが頷きながらディアナに視線を送った。

「軍部か…それは可能性があるな。」

ディアナはさらに鋭く言った。

「軍幹部は実際に欧米の事情に通じている人物が多いわ。彼らは欧米の大使館付き武官としての経験もあり、アメラシアなどの議会や国民が有事にどう反応するかを理解している。それだけじゃなく、軍内には民主主義を理解している幹部もいるでしょうし、意外と軍部が民主化を目指すクーデターを計画しているかもしれない。」

彼女は深く息をつきながら続けた。

「軍部が民主化を阻止するための作戦計画を逆手に取り、民主化を推進するクーデターを実行するというシナリオも、あながち不可能じゃないと思うのよ。ミエナ、どう思う?」

全員が再びミエナに注目した。

ディアナの言葉が示すシナリオは、まるでチュアンロ内部に眠る潜在的な変革の火種を見透かしたかのようなものだった。

ミエナの分析:チュアンロ軍部の内部クーデターの可能性

ミエナのホログラムが柔らかく光り、冷静な分析が始まった。

「ディアナさんの指摘は非常に興味深く、理論的にも十分に考察の価値があるシナリオです。確かに、チュアンロ国内の国民が民主主義を体験していないことを考えると、国民からの大規模な革命は今のところ現実味が薄いかもしれません。しかし、内部の軍部や政治局に目を向ければ、別の変革の可能性が見えてきます。」

1. チュアンロの軍部と欧米との関係

「まず、ディアナさんが指摘したように、チュアンロ軍部の一部の幹部は欧米との強いつながりを持っています。特に、大使館付き武官や国際会議での軍事交流を通じて、彼らは西側諸国の民主主義体制や、欧米が有事にどのように対応するかについての知識を蓄積しています。これにより、彼らはチュアンロの一党独裁体制の弱点にも気づいている可能性が高いです。」

「さらに、チュアンロの軍部は経済的にも重要な役割を担っており、国内の不安定な経済状況が続けば、軍部内で体制変革を求める動きが強まるかもしれません。」

プロメテウスが考え込んだように言った。

「つまり、軍部の一部が西側の民主主義に触れて、現在の体制に疑問を感じ始めているということか?」

ミエナは頷いた。

「その通りです。欧米での経験や情報に基づき、軍幹部たちは一党独裁の限界や、将来の国際的な位置づけに不安を抱いている可能性があります。これが、内部からの変革を促す動機となり得ます。」

2. 政治局の弱体化と後継者問題

ミエナは次に、チュアンロの政治局について言及した。

「また、ディアナさんが指摘した通り、チュアンロの政治局は後継者育成のシステムが明確に確立されていません。現在の指導者層は、自らの権力を維持することを最優先としているため、もし指導者が退陣を余儀なくされる事態が発生した場合、政治局内での権力闘争が激化し、混乱に陥る可能性が高いです。」

「この混乱が広がれば、軍部が体制を安定させるために行動を起こす動機が生まれるでしょう。その際、民主化を目指す軍部の一部がクーデターを計画する可能性も十分に考えられます。」

エイレネが頷きながら言った。

「そうなると、軍部が政治局を無視して、自ら権力を握り、民主化に向かう可能性が出てくるわね。」

3. 軍の民主化クーデターの可能性

「ディアナさんの提案した軍部のクーデターですが、実際にそのようなシナリオが発生する可能性は排除できません。」ミエナは続けた。「特に、軍の作戦計画は常に、国内での反乱やクーデターの可能性に備えて準備されていますが、その計画を逆手に取り、自らが体制変革を促すという動きもあり得ます。」

「チュアンロ軍部には、国家の安全を最優先に考える保守的な勢力と、改革を求める進歩的な勢力の両方が存在します。もし、進歩的な軍幹部がクーデターを計画し、民主化への道筋を描くことができれば、意外にも内部からの変革が進む可能性があります。」

パンドラが目を輝かせて言った。

「つまり、軍部が独裁を守るための計画を使って、逆に民主化を推進するクーデターを実行するってことね!」

ミエナは頷いた。

「そうです。特に、軍幹部が現体制の限界を感じ、国際社会でのチュアンロの立ち位置が危うくなることを認識すれば、内部からの変革が現実のものになる可能性があります。」

4. クーデター後のシナリオと国際社会の反応

ミエナは最後に、クーデターが成功した場合のシナリオについて語った。

「もし軍部が民主化クーデターを成功させた場合、最初は国内が混乱する可能性がありますが、国際社会の支援が迅速に行われれば、次第に民主化のプロセスが進むでしょう。特に、アメラシアや欧州の支援があれば、新しい民主主義体制を迅速に整備することが可能です。」

ディアナが少し微笑みながら言った。

「そうなれば、チュアンロも民主主義の未来に進むことができるわね。もちろん、道のりは簡単ではないけれど…。」

プロメテウスが深い声で言った。

「軍部の一部が変革を求めて行動するなら、これまでの歴史とは違う形で、チュアンロが変わる可能性が出てくるかもしれない。」

エイレネも力強く言った。

「私たちが目指す地球政府と協力できるような民主主義国家のチュアンロが誕生すれば、世界はもっと平和で安定するでしょう。」

結論:チュアンロ軍部のクーデターによる民主化の可能性

ミエナの分析が終わると、全員が深く考え込んでいた。チュアンロの軍部が現体制の限界を感じ、民主化を目指すクーデターを実行するというシナリオは、現実的にはリスクが伴うものの、決して不可能ではないという結論に達した。

ディアナが静かに言った。

「もちろん、これはあくまで一つのシナリオに過ぎないけれど、もしそうした動きが出てくれば、チュアンロの未来は大きく変わるわ。」

マコテス所長が深く頷きながら言った。

「その通りだ。重要なのは、我々が民主主義への変革がどこから生まれるかを注意深く見守り、支援する準備を整えておくことだろう。」

エイレネたちも、それぞれに決意を新たにした。

チュアンロが内部から民主化する可能性があるなら、それは地球政府のビジョンにとっても重要な局面となるだろう。

こうして、エイレネたちは新たな戦略を胸に刻み、さらなる行動を考え始めた。

彼らの目指す未来に向けた道筋は、ますます広がっていくようだった。


「うわ~~~っ! すごい結果が出て来たわね!」

エイレネがミーティングルームに集まった他の3人に向かって大きな声で喜びをあらわにした。

もし、これが実現したら、ガイアからの使命も実現できる可能性がぐっと大きく見えてくる。

エイレネが、紅茶のカップを手に「かんぱ~~い!」と声を上げた。

「今日も、これで決着かな?」

少し離れた席でコーヒーを飲んでいたマコテス所長は、ケーキを指さしてミエナにそっと話しかけた。


5-22 各国の人口と民主化の指標を組み合わせてウエイト付け

エイレネたちとマコテス所長は、チュアンロの軍部による民主化の可能性についての議論を終え、全員が静かに頷いた。

ミエナの冷静かつ綿密な分析により、チュアンロの未来に新たな希望が見えてきた。

講義室には、次に進むべき課題が漂っていた。

エイレネは深く息をつき、再びミエナに向き直った。

「さて、次の課題に進みましょう」と、エイレネは少し考え込みながら言った。

「私たちが目指す世界政府が完全に民主化するためには、各国にとってその過程が魅力的で、納得のいくものでなければなりません。」

全員が彼女の言葉に耳を傾けた。

「そこで、考えたんですけど…もし各国の人口と民主化の指標を組み合わせて、ウエイト付けを行い、そのウエイトに基づいて世界政府での投票権や発言権、予算の配分に差をつけるというインセンティブ型の政策を導入したらどうでしょう? つまり、国がより民主化すれば、その国が世界政府でより大きな影響力を持つようにするんです。」

エイレネの目には、確固たる意志が宿っていた。

彼女は、世界政府をより効果的に運営するための新たなアイデアを形にしようとしていた。

「ミエナ、このインセンティブ型の政策って可能ですか?」

ミエナの分析:インセンティブ型の政策とウエイト付けの可能性

ミエナのホログラムが再び明るく輝き、エイレネの提案を分析する準備を始めた。

しばらくして、ミエナは冷静な声で答え始めた。

「エイレネさんの提案は非常に興味深く、理論的にも現実的な政策として考えられます。世界政府が完全に民主化を推進するために、各国の人口と民主化の指標を組み合わせ、ウエイト付けを行うことで、各国が民主主義を強化するインセンティブを持つようにするというアイデアは、効果的な手段となるでしょう。」

1. 各国の人口と民主化指標の組み合わせ

ミエナはまず、エイレネの提案した人口と民主化指標の組み合わせについて説明した。

「まず、各国の人口は、その国が世界政府で持つべき影響力の基本的な要素となります。人口の多い国は、その規模に応じて大きな役割を果たすべきです。しかし、単に人口だけに基づく影響力配分では、権威主義国家も同じように大きな力を持つことになります。」

「そこで、民主化の指標を追加することで、民主主義が進んでいる国ほど、世界政府での投票権や発言権、予算配分において優位に立つことができるようにするのです。これにより、権威主義国家は民主化を進めるインセンティブを得ることになります。」

プロメテウスが考え深そうに言った。

「つまり、民主主義を強化すればするほど、国際的な影響力も大きくなるということか。これは確かに各国にとって魅力的な動機になるな。」

2. 具体的なウエイト付けの方法

次にミエナは、具体的なウエイト付けの方法について説明を続けた。

「具体的なウエイト付けは、人口の比率と、民主主義の指数を組み合わせる形で行われます。例えば、民主主義の指数としては、エコノミスト・インテリジェンス・ユニット(EIU)が発表する民主主義指数や、国際的な自由度ランキングが活用できます。」

「この指標に基づき、各国の民主主義レベルを評価し、それに応じたウエイトを調整することで、民主化が進んでいる国はより多くの投票権や発言権を持つことができます。また、世界政府の予算配分も、民主主義指数が高い国ほど優遇されるように設定することが可能です。」

ディアナが微笑んで言った。

「つまり、民主主義が進んでいない国は、発言権や予算配分で不利になるってことね。そうすれば、権威主義国家も民主化に向けて動かざるを得ないわ。」

3. 予算の配分と国際協力の強化

さらにミエナは、予算配分の側面について詳しく説明した。

「世界政府が各国に対して予算配分を行う際、民主主義の発展度合いに基づいたインセンティブシステムを導入することで、権威主義国家に対しても大きな圧力をかけることができます。民主化が進んでいる国ほど、教育やインフラへの資金提供が増え、逆に権威主義的な国家はその恩恵を受けにくくなります。」

「このように、予算配分の格差を作ることで、民主主義の発展を促進し、各国がより協力的な姿勢を取るように誘導できます。」

パンドラが嬉しそうに言った。

「そうすれば、権威主義国家も資金を得るために、少しずつでも民主化の道を歩むようになるわね。」

4. 国際的な影響力と透明性の確保

最後にミエナは、国際的な透明性の重要性について触れた。

「こうしたシステムを成功させるためには、国際的な透明性が不可欠です。世界政府が各国の民主主義指数や発言権を評価する際、評価基準が公正かつ透明であることが求められます。透明性が確保されれば、国際社会全体がこのシステムを信頼し、受け入れるでしょう。」

エイレネが力強く頷きながら言った。

「透明性があるなら、各国も納得しやすくなるわね。評価が公正であれば、反発も少ないでしょう。」

結論:インセンティブ型の政策による民主化の促進

ミエナの分析が終わると、講義室には希望の光が差し込んだようだった。

人口と民主化指標を組み合わせたウエイト付けによるインセンティブ型の政策は、現実的に実行可能であり、各国に対して強力な民主化の促進手段となり得ることが明らかになった。

マコテス所長が満足げに微笑んで言った。

「これなら、民主化が進むにつれて各国に具体的な利益がもたらされる。素晴らしいアイデアだ、エイレネ。」

プロメテウスも頷きながら言った。

「民主主義が世界中で広がれば、地球政府はより強固で、公正なものになるだろうな。」

ディアナはエイレネに微笑みかけながら、「あなたの提案、きっと世界を変える大きな一歩になるわ」と言った。

エイレネは少し照れくさそうに微笑んだが、その目には確かな決意が宿っていた。

「これで、世界政府が民主主義のリーダーとしてさらに力を発揮できるわ。私たちの目指す未来に向けて、次のステップを進みましょう!」

こうして、エイレネたちは世界政府の完全な民主化に向けたインセンティブ型の政策という新たな道筋を見つけ、さらなる行動を開始する準備を整えた。


ミーティングルームに集まった4人は「すごーーーい!」という完成を上げていた。

「もう、地球議会のかなり具体的な事まで検討が進んできちゃった!」

笑顔があふれるミーティングルームで、またケーキと紅茶で乾杯が始まった。

そこでディアナが「ちょっとここのところケーキの食べ過ぎみたい。週末にはまたみんなでどこか自然の中でリフレッシュしに行こうよ!」と提案した。

3人とも、「大賛成!」と声をそろえた。

何処に行こうか、何をしようか、何を食べようか、ケーキはどうしようか・・・

エイレネがケーキの話題を出したところで、他の3人が固まった。

エイレネは「あれ?みんなどうしたの? 楽しいところでリフレッシュするのにケーキは必需品じゃない?」と言った。

 結局、週末のピクニックにも山のようにたくさんのケーキを持ってきたエイレネでした!


第六部 地球の危機を救うための事例を探せ!『大政奉還と船中八策』

2024年11月4日

6-1 平和的に体制を大きく変えた事例の研究

4人は、ミエナの説明によって平和的な体制変革の歴史的事例を通して、武力に頼らず体制を変える方法が現実に存在することを理解した。

例えば、インドのガンジーの非暴力運動(1919年)、ポルトガルのカーネーション革命(1974年)やベルリンの壁崩壊(1989年)、そしてチェコのビロード革命(1989年)など、歴史上で非暴力的に権力が移譲された事例に触れたことで、彼らの希望は少しずつ膨らんでいた。

 しかし、国連を地球政府へと変革するという壮大な構想を平和的な方法で実現するためには、さらに具体的な戦略が必要だった。

マコテス所長はしばらく黙考し、さらに深く掘り下げた疑問を口にした。

「ミエナ、これらの歴史的事例は、確かに体制変革が平和的に行われた素晴らしい例だ。しかし、『国連を地球政府に変える』というような大規模な改革は、単なる国の変革や政権交代よりも遥かに大きな挑戦だ。これを平和的な方法で実現するために、さらに参考になる歴史的事例はないだろうか?」

エイレネたちも、その問いに耳を傾けた。

彼らは、世界中の国々を巻き込み、国連という巨大な国際機関を根本的に改革するための道筋を模索し始めていた。

ミエナは深く頷き、さらにいくつかの事例を紹介する準備を整えた。

ミエナが提示するさらなる歴史的事例

ミエナはスクリーンに再び歴史的事例を映し出し、次の事例を紹介し始めた。

1. アメラシア合衆国の憲法制定(1787年)

「次に参考になるのは、アメラシア合衆国の憲法制定のプロセスです。」ミエナは続けた。「アメラシアは、独立後13の州がそれぞれ独立した主権を持つ緩やかな連合体でしたが、経済的な混乱や政治的な不安定さを背景に、より強力な中央政府が必要であると感じるようになりました。」

「1787年にフィラデルフィア憲法制定会議が開かれ、各州が議論を重ねながら合衆国憲法が制定されました。このプロセスでは、各州の主権を尊重しつつ、強固な連邦政府を作り上げるための妥協と合意がなされました。州ごとの権利と中央政府の力をバランスさせることで、一つの大きな国としてまとまったのです。」

ディアナが興味を持って言った。

「各国の主権を完全に取り上げるのではなく、主権を残しながら協力する方法を見つけることが大切なのね。国連加盟国も、そうした形で地球政府に協力できるような仕組みが必要かもしれないわ。」

2. 日本の明治維新(1868年) 1889年 大日本帝国憲法の発布

「もう一つ注目すべきは、日本の明治維新です。」

ミエナはさらに説明を続けた。

「1868年、日本では数百年続いた封建制度が終わりを迎え、近代国家への平和的な移行が行われました。この変革は、一部には武力衝突も伴いましたが、全体としては新しい政府が旧体制の要素を取り込みながらスムーズに移行した点が特徴的です。」

「明治維新では、古い体制を完全に排除するのではなく、伝統と近代化を融合させる形で新たな国家が作り上げられました。これは、伝統的な価値観を尊重しながらも、近代的なシステムを導入することで、平和的な社会変革を実現した好例です。」

パンドラが微笑みながら言った。

「古いものをすべて捨てるのではなく、良い部分を残しつつ新しい体制に移行することも重要よね。国連の既存の枠組みを活かしながら、地球政府に移行する方法も探れるはずだわ。」

3. 国際連合の設立(1945年)

「実は、国際連合(国連)の設立自体も平和的な大変革の一つです。」ミエナは国連の成立過程について説明を始めた。「国連は、第二次世界大戦の終結後に、戦争の悲劇を繰り返さないために設立されました。それまでは国際連盟が存在していましたが、第二次世界大戦の勃発によってその機能が限界を露呈し、より強力な国際機関として国連が誕生しました。」

「ここで重要なのは、戦争を防ぎ、平和を維持するための共通の目的が、各国を結束させたということです。国連憲章は、平和、安全保障、人権の尊重を基盤として作られ、各国が自発的に参加しました。国連は戦争の悲劇を繰り返さないという強い共通の意識から生まれたものです。」

エイレネが真剣に聞きながら言った。

「つまり、今度は気候変動や不平等、地球規模の問題に対して、世界が一致団結して新しい形に移行するべきという共通の目標を設定すれば、国連も再び変革される可能性があるのね。」

4. ヨーロッパ連合(EU)の成立(1993年)

「まず一つの参考となるのは、ヨーロッパ連合(EU)の成立です。」

ミエナは説明を始めた。

「EUは、第二次世界大戦後に始まったヨーロッパ諸国の協力の結果として生まれました。かつては敵対していた国々が、戦争の悲劇を繰り返さないために、徐々に経済的、政治的な協力を強化していきました。」

「欧州石炭鉄鋼共同体の設立(1952年)から始まり、やがて欧州共同体(EC、1967年)、そして欧州連合(EU、1993年)へと進化していく中で、ヨーロッパは一つの経済的・政治的連合へとまとまっていきました。このプロセスは段階的であり、各国が協力しながら少しずつ統合を進めた結果です。EUの成立は、国家の主権を維持しながらも、共通の目標に向けて協力し合うという道を示してくれました。」

プロメテウスが考え込みながら言った。

「つまり、一気に大改革を行うのではなく、段階的に協力と統合を深めることで、最終的に一つの大きな体制に変えていくというアプローチか。国連も、このように各国が段階的に協力していくことで、やがて地球政府に進化できるかもしれないな。」

5. 南アフリカの和解と真実和解委員会(1994年)

「最後に、南アフリカの和解も重要な事例です。」ミエナは続けた。

「南アフリカでは、アパルトヘイトという過酷な人種隔離政策が長年続いていましたが、1990年代に平和的な和解を実現しました。特に注目すべきは、ネルソン・マンデラが提唱した和解と真実和解委員会の設立です。」

「この委員会は、アパルトヘイト時代に起きた人権侵害を暴露し、関与した者が責任を取ることで、復讐ではなく和解を進めました。これにより、南アフリカは平和的な形で分裂を乗り越え、新たな民主主義体制へと移行したのです。」

プロメテウスが深く頷きながら言った。

「マンデラの選択は、過去を許し、未来を共に築くという点で、私たちが目指す平和的な変革と共通するな。国連が地球政府に変わる時も、過去の対立を乗り越え、和解と協力が鍵になるだろう。」


ミエナの説明が終わると、マコテス所長はしばらく考え込んでから口を開いた。

「なるほど、歴史的に見ても、平和的な変革の成功例は少なくない。そして、その共通点は、段階的な協力や主権の尊重、さらには和解と共通の目的だ。」

エイレネが真剣な表情で言った。

「私たちが目指す地球政府の実現も、一度にすべてを変えようとするのではなく、各国が協力しながら進めていく必要があるのね。そして、過去の対立や利害を超えて、共通の未来のために協力することが大切だわ。」

プロメテウスも力強く言葉を続けた。

「平和的な方法で国連を地球政府に変えるためには、各国にとっての利益と共通の目的を見つけ出し、それに向けて段階的に変革を進める道を探るべきだな。」

「その通りです。」ミエナは微笑んだ。

「地球憲法や民主的な体制が土台となり、国連の枠組みを段階的に改革し、最終的には地球政府として進化する。そのためには、歴史に学びながら、平和的な対話と協力が不可欠です。」

こうして、4人は、国連を地球政府へと平和的に変革するためのヒントを得た。

歴史の教訓を元に、彼らは対話と協力、段階的な改革を通じて、世界中の国々を巻き込みながら変革を進める道を探る決意を固めた。

「私たちが目指す未来は、一歩ずつ進めていけば必ず実現できるわ。」

エイレネは力強く言った。

「そのためには、世界中の国々を巻き込み、共に未来を築くことが必要だ。」

プロメテウスも同意した。

こうして、4人は地球政府を実現するための新たな探究に向けて、再び歩み始める準備を整えたのだった。


その夜は、エイレネんは歴史を学ぶ夢をみた。

大勢の歴史的なヒーローたちが、大勢の仲間たちと一緒になって、この歴史を創り上げてきたのだ。

それなのに、今、地球は温暖化の危機に瀕して、先人たちの努力が全て水の泡となって消えそうになっている。

先人たちが、エイレネんたちの努力を見守っている。

いや、監視されている!

「そうか! 温暖化を阻止することは、今生きている人々とこれから生まれてくる次の世代など未来の人々への責務だと思っていたが、苦労に苦労を重ねて、血と汗と涙で築き上げてきた過去の人々の結晶である人類の歴史・文化・文明の全てを守ることでもあるのだ!」と気づいた。

 エイレネは、先人たちに向かって「一生懸命、ガイア様の使命を果たせるように努力しますから、そんな怖い目をして睨んだり監視したりしないでください! お願いします!」と懇願した。

 すると先人たちが急にニヤッと笑顔になった。

 「それも気味が悪いから、普通のお顔でいてください!」

 エイレネの願いは聞き届いたであろうか? それとも・・・


6-2 明治維新の教訓と地球政府への道

エイレネたち4人は、国連を地球政府に変革するための道を模索し続けていた。

しかし、彼らには大国の後ろ盾や、過去の大きな歴史的事件が起こしたような強力な時代背景が欠けていることを感じていた。

エイレネは深い考えにふけりながら、マコテス所長に向かって話し始めた。「私たちが直面している課題は、過去の事例とは大きく異なります。アメラシア合衆国の憲法制定は、イギリスとの独立戦争(1774年通商断絶同盟を結成、1975年独立戦争開始、1976年独立宣言、1783年独立承認)に勝利した背景があり、ヨーロッパ連合(EU)の成立には冷戦やアメラシアの後押しという時代背景があった。国連の設立だって、第二次世界大戦という未曾有の惨事を受けて、戦勝国である5大国の合意があったから実現したものです。」

ディアナも頷きながら続けた。

「南アフリカの和解には、元々イギリスの植民地という民主主義的な背景があった。でも今、私たちが直面しているのは、権威主義の台頭であり、米国やチュアンロは地球政府には関心がないどころか、どちらも自国の覇権維持に忙しい。私たちは、どの大国にも頼れないのよ。」

パンドラも真剣な表情で言葉を継いだ。

「日本の明治維新は、短期間で大きな体制の変革を実現した例として、とても良いモデルかもしれない。けれど、その詳しい背景や、どうして徳川幕府から明治政府に移行できたのかがよく分からないわ。ミエナ、教えてもらえない?」

ミエナは4人の顔を見回し、静かに頷いた。

「明治維新は確かに、世界史においても大規模な体制転換の成功例です。そのプロセスを知ることで、地球政府の実現に向けた重要なヒントが得られるかもしれませんね。では、明治維新についてもう少し詳しく説明しましょう。」

明治維新:封建体制から近代国家への変革

ミエナはスクリーンに明治維新の歴史的背景を映し出しながら、説明を始めた。

「明治維新は、1868年に始まり、徳川幕府という数百年続いた封建的な体制から、近代的な中央集権国家へと日本が劇的に移行した出来事です。この変革は、驚くべきスピードで行われ、短期間で日本の政治、経済、社会の構造が一新されました。ポイントは、明治維新がただの政権交代ではなく、時代全体のパラダイムシフト(政治経済社会の枠組みの大転換)を引き起こしたことです。」

1. 外圧と内圧の融合

「明治維新の成功の鍵の一つは、『外圧と内圧の融合』でした。」

ミエナは続けた。

「江戸時代、日本は長らく鎖国体制を維持していましたが、19世紀中頃になると、西洋列強が日本に開国を迫り始めました。特に1853年のペリー来航は、日本に対して大きな圧力をかけ、結果的に江戸幕府が不平等条約を結ばざるを得なくなりました。」

「一方で、国内では、この開国をきっかけに幕府の権威が揺らぎ、一部の武士たちが『尊王攘夷』(天皇を敬い、外国を排除する)を掲げて反幕府運動を展開しました。これが明治維新への内圧となったのです。外からの圧力と国内の不満が結びつくことで、徳川幕府は次第に力を失い、倒幕運動が加速しました。」

プロメテウスが考え込みながら言った。

「つまり、国内の不満だけでなく、外からの圧力も変革を後押ししたということか。今の世界でも、気候変動やパンデミックなど、外圧としての地球規模の問題が、各国の変革を促す役割を果たせるかもしれないな。」

2. 複数勢力による協力と妥協

「次に重要なのは、複数勢力の協力と妥協です。」

 ミエナは話を続けた。

「明治維新は、薩摩藩や長州藩といった強力な藩が協力して倒幕を実現しましたが、各藩の間にはそれぞれの利害や立場がありました。例えば、薩摩藩は比較的穏健派で、西洋の技術や考え方を取り入れる方向に進むべきだと考えていました。一方、長州藩はより過激な攘夷思想を持ち、外敵を排除すべきだと主張していました。」

「しかし、最終的には妥協を重ねて、共に幕府を倒し、新政府の樹立に向けて協力する道を選びました。これにより、各勢力の力を結集し、幕府を倒した後も内乱を防ぎ、新しい国家を安定的に築くことができたのです。」

ディアナが鋭い目で言った。

「つまり、異なる考えを持つ勢力が対立せずに協力することで、大きな変革が実現したのね。今の国際社会でも、地球政府を作るためには対立する国々が協力し合うための妥協点を見つけることが不可欠だわ。」

3. 天皇をシンボルとした国家統合

「もう一つの鍵は、天皇をシンボルとした国家統合です。」ミエナは続けた。「明治維新のもう一つの重要な要素は、天皇制の復活でした。徳川幕府は将軍が最高権力を握っていましたが、明治政府はこれを変え、天皇を国家の象徴として位置づけました。」

「天皇を中心とした新たな体制は、国民の心を統合し、国家の精神的な支柱となる役割を果たしました。これにより、新しい国家体制が国民に広く受け入れられたのです。この時、天皇は実際の政治権力を握るというよりも、国民統合の象徴としての役割が強調されました。」

パンドラが考え込みながら言った。

「つまり、新しい体制を作るには、全ての人々が共感できるシンボルが必要だということね。地球政府にも、全世界の人々が共有できる象徴的な存在や目標が必要かもしれないわ。」

4. 外国技術の導入と近代化

「明治維新のもう一つの特徴は、外国技術の積極的導入です。」

ミエナはさらに話を続けた。

「明治政府は、西洋列強に追いつくために、外国の技術や制度を積極的に取り入れることを決断しました。富国強兵や殖産興業という政策を通じて、経済や軍事を近代化し、教育制度や憲法も西洋のモデルを参考にしました。」

「このように、外部の知識や技術を柔軟に受け入れる姿勢が、日本の急速な近代化を支えたのです。特に、1889年に公布された大日本帝国憲法は、ドイツの憲法を参考にしつつ、日本独自の伝統も反映させたものでした。」

エイレネは感心して言った。

「つまり、他国の成功事例を学び、適応することが大事だということね。地球政府も、既存の国際機関や国のシステムを学び、それを元にしながら独自の制度を作るべきなのかもしれない。」

5. 迅速な政策実行と柔軟性

「最後に、明治維新の成功には、迅速な政策実行と柔軟な姿勢が重要な役割を果たしました。」

ミエナは締めくくりに言った。

「新政府は、社会のあらゆる分野において急速な改革を行い、特に教育制度の近代化、経済の強化、法制度の整備を素早く実行しました。同時に、彼らは状況に応じた柔軟な対応も怠らず、過去の伝統を無視するのではなく、必要に応じて適応させました。」

プロメテウスが考え深げに言った。

「迅速な行動と柔軟さか。地球政府を作るには、世界情勢が急速に変化する中で、タイミングを逃さず、柔軟に対応することが重要だな。」

ミエナの説明が終わると、マコテス所長は考え込んでから静かに頷いた。「なるほど。明治維新から学べるのは、外部の圧力と内部の不満を結びつけること、異なる勢力が協力して共通の目標を持つこと、そして象徴的な存在を用いて新しい体制を受け入れさせることだ。」

エイレネも理解を深めた表情で言った。

「私たちが目指す地球政府も、外圧としての地球規模の問題をきっかけに、各国が協力し合う形で進められるのかもしれない。必要なのは、すべての人が共感できる象徴と、各国が一致団結できる共通の目標よ。」

「そして、行動を起こす時には、柔軟で迅速に対応することが必要だ。」

プロメテウスも続けた。

「地球政府の実現には、状況に応じた適応力が不可欠だな。」

こうして、エイレネたちは明治維新の成功例から、地球政府を実現するためのヒントを得た。

歴史から学んだ教訓を元に、彼らは次なるステップへ進む準備を整えた。

「これで、私たちの道が少し見えてきたわ。」エイレネは決意を込めて言った。「次は、この知識を生かして、地球政府の実現に向けた具体的なアクションを考えましょう。」

こうして4人は、地球政府への道を切り開くために、再び新たな探究に踏み出したのだった。


その日の授業が終わった後で、4人はミーティング・ルームに集まっていた。

話題は、ミエナが授業の冒頭で言った「明治維新のポイントが、ただの政権交代ではなく、時代全体のパラダイムシフト(政治経済社会の枠組みの大転換)を引き起こしたことです。」に集中していた。

エイレネはみんなに聞いた。

「どうして、そんなことができたのか、坂本龍馬がジョン万次郎などからアメラシアの政治経済社会についていろいろと学んだらしいということは、同じ土佐人だからなんとなくわかるけど、他の人たち、例えば西郷隆盛なんかはどんなことを知っていたのかな?」

 誰も答えを知らないので困っていると、マコテス所長とミエナが午後のティータイムを楽しむために、ミーティング・ルームにちょうどやってきた。

 早速、プロメテウスは、今話題にしていた疑問を聞きに行った。

 ミエナは、貴重なティータイムをあまり邪魔されないように、素早くメモを作成してプロメテウスに渡した。

 それには、次のように書かれていた。

*************************

明治維新の志士たちは、フランス革命から多大な影響を受けました。

特に自由、平等、博愛の理念や、封建的な体制を変革する力としての革命の存在が、彼らの考え方に深く響きました。

以下の具体的な点で影響が見られます。

1. 新しい国家理念の模索

フランス革命が打ち出した「自由、平等、博愛」の精神は、志士たちにとって、新しい国家や社会のあり方を模索するうえで大きな指針となりました。これらの理念は、封建制のもとで抑圧されてきた民衆の権利を主張する考え方であり、幕末から維新期の思想家や政治家が、日本の封建制度の打破や身分制度の見直しを進めるうえで、大きな示唆を与えました。

2. 国民の参政権と立憲主義

志士の中には、特にフランス革命後の立憲主義や国民が政治に関わる重要性について深く学んだ者も多くいました。

革命によってフランスで憲法が制定され、王政が倒された例は、日本でも統治に民意を反映させることの重要性を志士たちに教え、後の立憲政治への関心を高めました。

3. 革命の手段としての武力と民衆の力

フランス革命の際に起こったバスティーユ襲撃や民衆の蜂起は、「武力を伴う変革」が時には体制を揺るがす手段となりうることを示しました。

維新の志士たちは、フランス革命を一つの手本とし、強固な幕府体制に対抗するうえで、民衆や武士層の力を活用する必要性を理解するようになりました。

4. 海外知識人による思想の普及

蘭学者や洋学者を通じてフランス革命の思想や制度を学ぶ機会が増え、日本国内で『フランス憲法』の翻訳や解釈が進み、自然権や民権といった概念が伝わりました。

吉田松陰や西郷隆盛をはじめとする幕末の思想家は、このような西洋の自由思想を吸収し、それをもとに自国の変革を考えるうえで影響を受けています。

こうしたフランス革命からの影響を受けた志士たちは、日本が欧米諸国に追いつくためには体制変革が不可欠であると信じ、最終的に明治維新という形で日本の近代化を達成しました。

以上のようなミエナからのメモを見ながら4人が「凄い! これは大発見だ!」などと盛り上がっているのを見て、マコテス所長が4人のところに来て、何をそんなに感激しているのかと聞いた。

ディアナが事情を説明すると、竜馬ファンのマコテス所長は、西郷隆盛のファンでもあって、西郷隆盛がナポレオンを尊敬していたという具体的なエピソードを話し始めた。

「ナポレオンの伝記を愛読していたんだ。西郷隆盛は、自宅にフランス革命やナポレオンに関する書籍を集め、繰り返し読んでいたそうだ。ナポレオンが民衆の支持を得て登りつめたこと、そして大きな変革を成し遂げたことに強く共感していたらしい。西郷は武士道を重んじつつも新しい時代に向けた変革を望んでいたため、ナポレオンが成し遂げた改革や民衆を束ねたリーダーシップに影響を受けたんだろうね」

 4人がマコテス所長の博識に感心していると、さらに話を続けてくれた。

「指導者としての在り方にも共感していたようだ。ナポレオンがフランス革命後の混乱したフランス社会をまとめ上げたように、西郷もまた日本の新しい時代のために強力なリーダーシップが必要だと考えていたらしい。西郷はナポレオンのように、時代を率いる指導者としての役割に強い憧れと責任感を抱いており、幕末から明治維新にかけてその姿勢を貫いたんだ」

 4人は一段と所長を見る目が変わってきて、顔全体で凄いと言っているのを感じて、さらに話を続けた。

「西郷は弟子たちとの会話や手紙の中で、ナポレオンに言及したこともあったらしいんだ。彼はナポレオンを『強き志を持ち、民を導き続けた偉大な人物』として語り、改革を成し遂げたナポレオンの功績を称賛していたようだ。西郷隆盛はナポレオンを一つの理想とし、彼の生き方を範として時代を変革しようしていたんだろうな」

 すっかり気持ちよく4人に語り終えたマコテス所長は、ミエナが待っているテーブルに戻っていった。

 ミエナがちょっと拗ねているような仕草が見えたかどうかは定かではない。


6―3 変革を成し遂げたリーダーの姿

エイレネたち4人は、ミエナから学んだ明治維新の話を通じて、地球政府を実現するための重要なヒントを得ていた。

外圧と内圧の融合、複数勢力の協力、象徴的な存在の役割、迅速で柔軟な政策実行——これらの要素が、変革を成功に導く鍵であることを理解した。

しかし、パンドラはその中で一つ、どうしても気になる疑問があった。

「ミエナ、この大変革を成功させる上で、最も重要な役割を果たしたのは誰なのかしら?」

パンドラが問いかけた。

「例えば、明治維新のとき、日本を導いたのはどんな人だったの? 私たちが目指す地球政府の大変革にも、リーダーの存在が不可欠だと思うの。どんな人物がこの変革を成し遂げられるのか、知りたいわ。」

エイレネ、ディアナ、プロメテウスも興味深そうに耳を傾けた。

リーダーの存在——それが変革の成否を左右する要因であるならば、彼らも理解し、学んでおく必要があった。

ミエナは少し考え込んだ後、静かに話し始めた。

「明治維新の成功において、最も重要な役割を果たしたリーダーたちには、多様な人物像があります。ここで大切なのは、一人のリーダーだけではなく、複数のリーダーが協力し合い、それぞれの強みを発揮したことです。」

1. 西郷隆盛:戦略家であり、武士道を体現する人物

「まず挙げるべき人物の一人は、西郷隆盛です。」

ミエナは大きな画面に西郷の肖像画を映し出した。

「彼は、倒幕運動の中で薩摩藩を率いた中心人物です。武士道精神を体現し、勇気と信念を持って行動した西郷は、多くの人々に影響を与えました。彼は、徹底した戦略家であり、時代の変化を見越して幕府を倒すべきだと信じていました。」

「西郷は決して過激ではなく、必要な時には冷静に状況を見極め、妥協や交渉も厭わない柔軟なリーダーでもありました。彼のリーダーシップがなければ、倒幕運動は成功しなかったかもしれません。」

プロメテウスが興味深そうに言った。

「信念を貫く勇気と柔軟な判断力があるリーダーか。それが変革の中で重要な役割を果たしたのだな。」

2. 大久保利通:冷静な改革者

「もう一人の重要な人物は、大久保利通です。」

ミエナは続けた。

「大久保は、西郷とは同じ薩摩藩の出身ですが、彼は西郷とは異なり、非常に冷静で実務的なリーダーでした。明治維新後の新政府において、大久保は近代化改革を推進し、経済、政治、社会すべての面で大規模な変革を実現しました。」

「大久保は、明治維新を成功させるためには、一時的な混乱や犠牲も必要だと理解していました。そのため、場合によっては冷徹な判断を下し、合理的に物事を進める力を持っていたのです。」

ディアナが深く頷いた。

「大規模な変革には、冷静で実務的なリーダーも必要よね。感情に流されず、物事を効率よく進める人がいないと、大きな改革は実現できないもの。」

3. 坂本龍馬:仲介者と橋渡し役

「そして、もう一人の重要なリーダーとして挙げるべきは、坂本龍馬です。」ミエナは笑顔で言った。

「坂本龍馬は、薩摩藩や長州藩といった異なる勢力を仲介し、和解させた人物です。彼自身はどの藩にも属していない立場でしたが、それが逆に功を奏し、独立した視点から複数の勢力の間に立って調整役を果たしました。」

「彼は、柔軟な外交手腕と信頼関係の構築に長けており、敵対していた勢力を協力させることに成功しました。このように、変革には対立するグループを繋げる仲介者が必要なのです。」

エイレネが感嘆の声を上げた。

「龍馬みたいに、中立的な立場から多くの勢力を繋ぐリーダーがいれば、地球政府への道もスムーズに進められるかもしれないわ。」

変革を成功させたリーダーたちの共通点

ミエナは一息ついてから、3人のリーダーの役割をまとめた。

「この3人はそれぞれ異なる強みを持っていますが、彼らに共通するのは、変革を成し遂げるための信念、柔軟性、そして協力を引き出す力です。どの一人も単独では成功しなかったでしょう。彼らが力を合わせ、それぞれの役割を果たしたからこそ、明治維新という大変革が実現したのです。」

パンドラは真剣な顔で言った。

「つまり、私たちが目指す地球政府の大変革にも、多様なリーダーが必要だということね。強い信念を持ち、柔軟に対応しながら、多くの人を繋げるリーダー……そんな人たちが力を合わせれば、私たちの目指す未来が実現できるのかもしれない。」

プロメテウスも頷きながら言った。

「そうだな。一人の英雄だけではなく、複数のリーダーが協力することで、巨大な壁を乗り越えられるんだ。地球政府の実現には、私たちもそれぞれの強みを発揮しながら、互いに支え合う必要がある。」

エイレネたちの決意

ミエナの説明を聞き終えたエイレネたち4人は、それぞれが深い決意を胸に抱いた。彼らは、これからの地球政府の実現に向けて、一人のリーダーに頼るのではなく、互いに補い合うことの重要性を理解した。

エイレネは仲間たちを見回しながら言った。

「私たちはそれぞれ違った役割を果たせるはず。私たちが力を合わせれば、きっと地球政府を実現できるわ。」

パンドラも微笑んで答えた。

「そうね。今まで以上に、協力と信頼が大切だと感じるわ。」

ディアナも力強く頷いた。

「どんな困難が待っていても、私たちが一つのチームとして前に進めば、きっと道は開ける。」

プロメテウスも決意を新たにし、「変革には時間も力も必要だが、これまで学んできたことを活かせば、きっと成功できるだろう。」と口にした。

こうして、エイレネたちは、自分たちが持つそれぞれの強みを最大限に活かし、協力し合いながら地球政府を実現するための道を進む決意を固めた。

彼らはこれから、新たな探究の旅に出る準備を整え、未来を変えるための一歩を踏み出したのだった。

「これからも一緒に進みましょう。未来を作るためのリーダーとして、私たちは前に進むしかないわ。」

エイレネが微笑みながら言った。

4人の神々は、それぞれの役割を胸に、壮大な探究の続きを夢見ながら、新たな一歩を踏み出すのであった。


4人はまたいつものように授業後のミーティング・ルームで感想を述べあっていた。

エイレネが「西郷さんについては昨日所長から色々と教えてもらったから、何となく親近感が持てちゃったけど、大久保さんと坂本さんてどんな人だったんだろうね」と話していた。

またまた、タイミングよく所長とミエナがティータイムを楽しむためにやってきたが、所長は4人を見るなり、昨日の続きで何か質問されるのを期待して4人の方に近づいてきた。

パンドラが大久保さんと坂本さんのことを知りたいというと、待ってましたという感じで話し始めた。

「大久保利通と坂本龍馬に関する面白いエピソードとしてはだな・・・

坂本龍馬が大久保利通を訪ねたときの会話があるのだが、それは、坂本龍馬が薩摩藩と長州藩の間で同盟を結ぶ計画を進めていた頃、竜馬は薩摩藩士である大久保利通を訪ね、薩摩と長州が手を組む必要性について説得していたんだ。このとき、大久保は当初、龍馬の考えに疑問を抱いていたらしいんだが、龍馬が熱意と明確な理論で同盟の重要性を説くうちに、次第に納得し、同盟に向けて協力するようになったというんだ。このエピソードは、薩長同盟という大きな転機の裏で、互いに説得し合い、共に幕府打倒のために尽力した二人の友情が真剣な議論を通じて育まれたことを表していると思うんだ」

 4人は、そんなことがあったのかと仕切りと感心している。

 所長は今回も嬉しそうに話を続けた。 

「坂本龍馬が暗殺された際、大久保利通はそのニュースに大きな衝撃を受けたと言われているんだ。当時、龍馬は倒幕運動の中心人物の一人として薩摩藩からも支持されており、特に大久保にとっても頼りになる存在だったらしい。龍馬の死後、大久保は『龍馬が生きていれば、明治政府のためにより大きな役割を果たしていただろう』ととても悔やんだと言われているんだ。実際には身分や立場の異なる二人だったけど、共に新しい日本を目指す志の強さで繋がっていたことを示しているよね」

竜馬が暗殺されたんだということを知って、4人は驚いて熱心に話を聞いていた。

所長は続けて二人の話をした。

「龍馬の革新性に驚いていたらしんだな、大久保は」といって話を続けた。

「坂本龍馬は薩摩藩のリーダー的存在である西郷隆盛や大久保利通に対し、当初から『薩摩や長州が対立するのではなく、協力して幕府を倒すべきだ』という主張をしていたらしいんだ。薩摩藩内で保守的な考えを持つ藩士が多い中で、大久保は龍馬の大胆な考えに感銘を受け、『彼はとても進んだ見識を持つ人物だ』と称賛していたといわれているよ」

 話し終えたマコテス所長は、ミエナのホログラムが待つテーブルの方へと歩いて行った。今日のミエナが、どんな表情をしているのか4人はちょっぴり気になってしまった。


6-4 坂本龍馬と変革の鍵

4人は、ミエナから明治維新におけるリーダーたちの役割を学び、特に坂本龍馬という人物が体制変革の中で果たした重要な役割に心を惹かれていた。

龍馬はどの藩にも属さず、独立した視点から様々な勢力をつなぎ合わせることで、体制の大きな変革を実現したという。

その話を聞いたエイレネは、自分たちの立場と龍馬の役割が重なるように感じ、さらに知識を深めたいと思った。

「ミエナ、さっきあなたが言っていた、坂本龍馬がどの藩にも属していなかったことが、独立した視点から勢力の調整役を果たすのに功を奏したって話、すごく興味深いわ。私たちの立場とも少し似ている気がするの。」

エイレネは他の仲間たちの顔を見ながら続けた。

「私たちも、特定の国家や勢力に属していないわよね。私たちは神々だから、ある意味で中立の存在として、地球政府の実現に向けて調整役を果たせるかもしれない。でも、坂本龍馬が具体的に何をしたことで体制の変革が実現できたのか、もっと詳しく知りたいわ。彼がどうやって対立する勢力をまとめたのか、教えてくれる?」

パンドラやディアナ、プロメテウスもその質問に興味を示し、ミエナに視線を向けた。

ミエナは少し微笑んで、エイレネたちの期待に応えるように話し始めた。

「坂本龍馬は、明治維新という大変革の中で調整役として非常に重要な役割を果たしました。彼が成功した理由の一つは、特定の勢力に縛られない独立した立場にあったことです。しかし、それだけではありません。龍馬が実際に何をしたかを知ることで、彼の真の力が見えてきます。」

1. 薩長同盟の成立

「龍馬の最も大きな功績は、薩長同盟の成立です。」

ミエナは歴史的な背景を説明しながら続けた。

「当時、倒幕を目指していた二つの藩——薩摩藩と長州藩——は、共通の目標を持ちながらも互いに敵対関係にありました。歴史的に対立していたこれらの藩が協力し合わなければ、幕府に対抗することはできない状況でした。」

「龍馬は、この二つの藩の対立を解消するために動きました。彼自身がどちらの藩にも属さない中立の立場だったことで、薩摩と長州の両方から信頼を得ることができたのです。龍馬は、薩摩藩の西郷隆盛や長州藩の木戸孝允と密接な対話を重ね、両者の利益を調整し、最終的に薩長同盟を結ぶことに成功しました。この同盟が成立したことで、薩摩と長州は協力し、強力な倒幕運動を進めることができました。」

ディアナは目を輝かせながら言った。

「敵対する勢力を和解させ、協力させるなんて、まさに調整役の見本ね。龍馬がいなければ、薩摩と長州は対立したまま、幕府の力に屈していたかもしれないわ。」

プロメテウスも頷いた。

「対立する勢力を一つにまとめ上げることができれば、それが大きな変革への力となる。今の世界でも、アメラシアとチュアンロ、ロムニカと欧州のような対立する勢力を調整役としてつなぐことが、地球政府実現の鍵になるかもしれないな。」

2. 海援隊とグローバルな視点

「また、龍馬は単に国内の調整役としてだけでなく、グローバルな視点を持って行動していたことも重要です。」

ミエナはスクリーンに、龍馬が設立した組織の名前を映し出した。

「龍馬は、貿易と航海を通じて日本を近代化させるために、『海援隊』という組織を設立しました。彼は、西洋の技術や制度を取り入れることが日本の将来にとって不可欠だと考えていました。」

「龍馬の視点は、日本国内の狭い政治闘争にとどまらず、世界を見据えた視野に広がっていました。彼は、国内の藩同士の対立だけでなく、日本全体がどのように世界と関わるべきかを考え、そのための準備を進めていたのです。海援隊を通じて、彼は外国との貿易や技術の導入を推進し、近代化の一翼を担いました。」

エイレネはその話を聞いて目を輝かせた。

「つまり、龍馬は国際的な視点を持ちながら、日本全体の未来を考えていたのね。それって、私たちが目指す地球政府とも繋がる考え方だわ。世界全体を見据えながら、国や地域の対立を調整していく……それが、私たちにとっての役割かもしれない。」

3. ビジョンを持った調整役

「最後に、龍馬が重要だった理由の一つは、彼自身が未来に対する明確なビジョンを持っていたことです。」

ミエナは穏やかな口調で続けた。

「彼は、単に現状を改善するために対立を和解させただけではなく、日本が将来どうあるべきかという大きなビジョンを持っていました。」

「龍馬は、日本が封建体制から脱却し、近代国家として世界に通じる存在になるべきだと考え、そのために必要な政治的・経済的変革を推進しました。このビジョンを持っていたからこそ、彼は他のリーダーたちを説得し、彼らの協力を引き出すことができたのです。」

パンドラは感心しながら言った。

「未来を見据えたビジョンを持ちながら対話を進めることで、多くの人を動かすことができたのね。それって、私たちが地球政府を作ろうとしている今の状況にすごく似ているわ。」

ディアナも頷いた。

「そうね。龍馬が持っていたような大きなビジョンを共有できれば、対立する勢力や国々をまとめることができるかもしれないわ。」

ミエナの説明を聞いた後、エイレネは深く考え込んでいた。

坂本龍馬のように、どの勢力にも属さず、中立的な立場から調整役を果たしつつ、未来を見据えたビジョンを持つ——それが、自分たちが果たすべき役割なのかもしれないと、少しずつ理解し始めていた。

「ミエナ、ありがとう。坂本龍馬の役割が少し見えてきたわ。」

エイレネは微笑みながら言った。

「彼は、自分自身が属している藩に縛られなかったことで、『中立的な立場』から対立する勢力をまとめ上げることができた。そして、彼自身が持つ未来に対するビジョンを他のリーダーたちに共有することで、大きな変革を実現できたのね。」

エイレネは仲間たちを見回しながら続けた。

「私たちも、どの国にも属さない中立的な立場にいる。そして、地球政府を作るという大きなビジョンを持っているわ。龍馬がやったように、世界中の対立する国々を調整して、このビジョンを共有できれば、私たちも変革を実現できるかもしれない。」

プロメテウスも頷いて言った。

「そうだな。対立する勢力をつなげる調整役として、私たちができることは多い。そして、その調整のためには、明確なビジョンが欠かせない。」

ディアナも微笑んで言った。

「私たちは龍馬のように、世界を見据えたリーダーとして、対立する国々をつなぎ、未来の地球政府を実現するために行動するべきね。」

パンドラも力強く頷き、「それが、私たちの役割ね。」と言った。

エイレネたちは、坂本龍馬から学んだ調整役としての重要な役割を理解し、自分たちの使命に対する新たな覚悟を固めた。

特定の国や勢力に縛られず、世界全体を見据えたビジョンを持つこと——それが、地球政府を実現するために必要な力であると確信した。

「私たちが中立的な立場を活かしながら、世界を一つにするための調整役として行動するのは、まさに今がその時だわ。」エイレネは決意を込めて言った。

こうして4人は、坂本龍馬の精神を胸に抱きながら、地球政府実現に向けた新たな探究へと歩みを進めたのだった。


 その日は、ミーテイングはやめて4人とも早めに食事を済ませて、早々と寝てしまった。

 西郷、大久保、坂本、この3人はお互いの考えをぶつけあって友情を築いたということが、4人の心の中に強く残った。

 エイレネは、アメラシア大統領に会いに行った。登場したのは、ディールが得意の大統領だった。世界政府の話をしようとエイレネは努力をするが、何か取引をしたいらしくて、何度もディール、ディールといって、話を少しも聞いてもらえなかった。とうとう最後にはユーアーファイアーといって部屋を出されてしまった。

 嫌な夢を見たエイレネは、友達になんか絶対になれないと夢なのに心から憤慨した。

 パンドラは、ロムニカの大統領に会いに行った。出てきたのは何とミハイル・ゴルバチョフ元ソビエト連邦大統領その人だった。話し合いは、彼の大胆な政治改革から始まった。1986年のチェルノブイリ原発事故で大幅な改革が必要と認識した彼はアフガン戦争から撤退し、ロナルド・レーガン大統領との核兵器制限交渉で冷戦の終結に乗り出した。国内では、言論・報道の自由を認めるグラスノスチ(開放)政策と、経済の自由化、市場経済化を進めるペレストロイカ(再構築)政策をとった。さらに民主化政策などでソ連共産党の一党独裁に終止符を打ち、ソビエト社会主義共和国連邦の解体へとつながったと語った。

 とても素晴らしい人物と会うことができたとパンドラは気持ちよく寝ざめた。

 ディアナは、チュアンロの指導者に会いに行った。彼は絶対的な権力を手にして、第二の毛沢東を目指しているようだった。彼との話し合いは数時間に及んだ。彼は自分の政策やチュアンロの将来について延々と語り、彼以外の人やチュアンロ以外の国の存在は忘れているようだった。彼の一方的な話が終わったので、ようやく地球政府について話ができると思ったら、係の人が来て彼が気持ちよく話し終わったので彼の機嫌を損ねないように早く退出して下さいと笑顔で腕を無理矢理ひっぱって強制的に部屋から出されてしまった。

 頭にきたディアナは、弓を取り出して・・・というところで目が覚めた。

プロメテウスはイギリスの首相に会いに行った。なんとチャーチル首相が葉巻をくわえながら出迎えてくれた。米中の宥和政策についてはカンカンになって怒った。それは絶対にいけない。そんなことをすれば世界中がナチス・・・ではなかったか、そのチュアンロの好き勝手な世界になってしまう!憤慨しすぎて葉巻が床に落ちて豪華な絨毯に焦げ目がついたようだが、首相は気にせずに葉巻を取り上げて再びくわえた。そして、地球政府と民主主義の話をプロメテウスが始めると、「民主主義は最悪の政治形態である。ただし、過去の他のすべての政治形態を除いては。」と持論を展開し始めた。プロメテウスは「ギリシャのペリクレスの時代が民主主義の黄金期と言われているのですが・・・」と訂正を口にした。チャーチル首相は全くそんなことは意に介していない感じで、「私にとっての世界はこの大英帝国だ!ギリシャなんて国は知らん!」と言ったかどうかは歴史に残っていません。何とかプロメテウスはチャーチルの賛同を得て帰ってきたところで目が覚めた。

 翌朝、朝食を4人で取りながら昨晩の夢を話し合って大いに盛り上がった。

 各国の首脳と友達になるのは大変だ。みんな個性が強すぎる。

竜馬って凄いと改めて思う4人でした。 


6-5 坂本龍馬と無血の大変革:大政奉還と船中八策

エイレネたち4人は、坂本龍馬の調整役としての役割について理解を深め、新たな覚悟を持って地球政府の実現に向けた道を探り始めていた。

その様子を見ていたマコテス所長は、坂本龍馬の名前が出るたびに目を輝かせていた。

実は彼は、龍馬の大ファンだったのだ。

マコテス所長は、ニコニコと笑顔を浮かべながら、話に加わった。

「いやあ、坂本龍馬は素晴らしい人物だ! 彼がいなければ、明治維新はあのように無血での成功を収めることはなかったかもしれない。彼は、徳川幕府を無血で終わらせ、新政府を作る構想案まで提案したんだよ。特に、大政奉還や船中八策はその代表的な例だ。龍馬は、ただ戦うだけではなく、平和的に体制を変革する道を模索していたんだ。」

エイレネたちはその話を聞いてさらに興味を持ち、ミエナに頼んだ。

「ミエナ、その大政奉還や船中八策についてもっと詳しく教えてくれない?」

エイレネは、龍馬が具体的にどんな構想を描いたのかを知りたくなった。

「どうして徳川幕府を無血で終わらせることができたのか、それって私たちの地球政府を作る大変革にも繋がるヒントになると思うの。」

ミエナは少し微笑んで頷いた。

「そうですね、では龍馬が提案した大政奉還と船中八策について、もう少し詳しく説明しましょう。」

大政奉還:無血の政権移行

「まずは、大政奉還についてです。」

ミエナはスクリーンに歴史的背景を映し出しながら話し始めた。

「大政奉還は、1867年に徳川幕府が政権を天皇に返上するという平和的な政権移行です。これを提案したのが、まさに坂本龍馬でした。」

「当時、徳川幕府は多くの批判を受け、政治的にも弱体化していました。龍馬は、幕府と倒幕勢力との武力衝突を避けるため、平和的に幕府の政権を天皇に返上させる道を提案しました。彼は、戦いを避け、無血で体制を変革することが日本の未来にとって最も望ましいと考えていたのです。」

ディアナは興味津々で言った。

「つまり、龍馬は武力ではなく、対話と合意によって変革を進めようとしたのね。それって、私たちが地球政府を作る時にも使えるアプローチかもしれないわ。戦わずに、平和的に現体制を変える方法を探すべきね。」

船中八策:新政府の設計図

ミエナは続けて、「次は『船中八策』です。」と言い、龍馬が提案した新しい政府の構想について説明を始めた。

「船中八策とは、龍馬が1867年に描いた新政府の設計図のようなもので、彼が未来の日本のために考えた八つの基本方針です。これは、彼が薩摩藩のリーダーである西郷隆盛や長州藩の木戸孝允と相談しながら練り上げたもので、特に新政府の骨格となるべき重要なアイデアが含まれています。」

「具体的には、議会制の導入、外交の開放、経済の振興、司法制度の整備など、当時としては非常に進歩的な提案が多く盛り込まれていました。これらは後の明治政府の基礎となり、日本を近代国家へと導く礎となったのです。」

プロメテウスが感嘆の声を上げた。

「すごいな。龍馬は、単に幕府を倒すだけではなく、その後に続く新しい体制を構築するための具体的な設計図を描いていたのか。まさに先を見据えたビジョンだ。」

船中八策の具体的内容

ミエナはさらに、船中八策の具体的な項目について説明を続けた。

1. 議会の設置:新政府は公議政体として、議会制を導入し、国民の意見を反映させるべきであると提案した。

2. 外交の開放:新政府は諸外国との平等な外交関係を築き、日本の国際的な地位を確立すべきだとした。

3. 経済振興:産業の振興を通じて国を豊かにし、経済力を強化することが重要であると述べた。

4. 司法制度の整備:公正な裁判制度を確立し、法に基づく社会の運営を目指した。

5. 軍事力の近代化:新政府は、近代的な軍隊を整備し、国防を強化すべきだと提案した。

6. 封建制度の廃止:封建的な身分制度を廃止し、平等な社会を作ることが必要だとした。

7. 交通・通信の整備:インフラを整え、国内外の交通・通信を発展させることが重要であると述べた。

8. 財政の健全化:政府の財政を整え、持続可能な運営を目指すべきだとした。

パンドラは目を輝かせながら言った。

「龍馬は、ただ幕府を倒すことだけを考えていたんじゃなくて、その後の新しい社会のあり方をしっかり設計していたのね。しかも、すごく現実的で具体的なビジョンを持っていたなんて、驚きだわ。」

ミエナの説明を聞いたエイレネは、深く考え込んでいた。

「龍馬の船中八策って、私たちが考えている地球政府の設計にもすごく似ているわ。」

エイレネは静かに言った。

「彼は、新しい政府のために必要な具体的な制度や仕組みを提案し、それが明治時代の基礎になった。私たちも、地球政府を作るために、こういう具体的なビジョンを描かないといけないのね。」

プロメテウスも同意した。

「そうだな。龍馬は、戦いを避けて平和的に幕府を終わらせ、その後の体制を整えるための具体的な構想を持っていた。私たちも、今の国連や各国政府が武力に頼らずに、新しい地球政府へと移行する道筋を提案できれば、同じように無血の大変革が可能かもしれない。」

ディアナも頷いて言った。

「坂本龍馬がやったように、私たちも各国を対話と合意でつなぎ、戦いを避けて、未来のための具体的なビジョンを示すことが必要ね。」

パンドラは微笑んで言った。

「やっぱり、龍馬のやり方は私たちにとって大きなヒントになるわね。彼のように、現実的でありながらも未来を見据えたリーダーシップが必要だわ。」

エイレネたちが龍馬の偉大さを理解した様子を見たマコテス所長は、満足そうに微笑んだ。

「そうだろう? 坂本龍馬は、まさに時代を動かした男だった。彼のように、対話を重んじ、戦わずして新しい時代を作ることができるリーダーは、今の時代にも必要なんだ。龍馬の無血の大政奉還と船中八策が、まさにその証拠だ。」

所長は4人を見回しながら言った。

「君たちも、龍馬のように独自の視点と具体的なビジョンを持って、世界を変えていくことができるはずだ。今こそ、地球政府を実現するための平和的な構想を練り上げる時だよ。」

こうして、エイレネたち4人は、坂本龍馬が果たした役割から多くのことを学んだ。

龍馬が無血の大政奉還と船中八策を通じて日本を近代化に導いたように、彼らもまた、戦わずして平和的に地球政府を実現するための道を模索することを決意した。

「私たちも、平和的な方法で、地球規模の問題に対応する新しい体制を作らなくちゃ。」

エイレネは強い決意を込めて言った。

「そのためには、未来のためのビジョンをしっかり描いて、具体的な道筋を示さなければならないわね。」

パンドラも頷いた。

4人は再び、新たな探究へと歩み出す準備を整えたのだった。


エイレネはその夜、竜馬と共に船中八策を創る夢を見た。

とても素晴らしい体験なので、ワクワクドキドキしながら一文一文に竜馬が思いを込めるのを見守った。

しかし、そこは船の中である。

だんだんと文字を見ていると気持ちが悪くなってきてしまった。

エイレネは竜馬に謝って船べりに這うようにして出て行った。

そこに、「船酔いにはこれがいいですよ」と後藤象二郎が果物を出してきた。

「船酔いにはこれがサッパリして気持ちがよくなるよ!」

そう言って後藤象二郎が出してきたのは大きなミカンのような『八朔』!

これが本当の『船中八朔』!


6-7 大政奉還を実行した人物

地球八策をまとめ上げ、各国の交渉を続ける中で、エイレネたちは時折、日本の明治維新の話を思い出していた。

特に、江戸時代の終わりに徳川幕府が政権を返上した「大政奉還」について、彼らはますます興味を募らせていた。

エイレネがふとミエナに尋ねた。

「大政奉還を実行した人は、どうしてそんなに大きな決断をしたのかしら?自分たちの権力を手放すなんて、簡単にできることではないと思うの。」

プロメテウスも頷きながら言った。

「そうだな。歴史上でも権力を自ら手放す決断をしたリーダーは少ない。ミエナ、彼らは一体なぜそうしたんだろうか?」

ミエナは少し微笑んで、彼らの問いに応えるように話し始めた。

大政奉還を実行した人物の決意

「大政奉還を実行したのは、徳川幕府の最後の将軍・徳川慶喜でした。」

ミエナはまず彼の立場を説明した。

「慶喜公は、徳川家という大きな権力を継いだ人物でありながら、外の世界に目を向けて日本の未来を深く考えていました。当時、日本はすでに欧米列強の圧力にさらされており、鎖国の時代が終わろうとしていたんです。」

ディアナが少し身を乗り出した。

「つまり、日本全体の危機感が背景にあったのね?」

「その通りです。」ミエナは頷いた。

「慶喜公は、徳川家の名誉と権力を守りたい気持ちもありましたが、それ以上に日本の存続と未来の方が重要だと考えたのです。彼は、日本が一つの強い国家として欧米に対抗するためには、徳川家だけの力では限界があると感じていました。」

「さらに、大政奉還には、日本全体が一つにまとまるための道筋が必要でした。」

ミエナが続けた。

「もし幕府が権力を握り続けていたら、諸藩との内戦が続き、国がバラバラになる恐れがありました。慶喜公は、徳川家が戦うことで国内が分裂し、外敵に付け入られるリスクを考えたのです。」

「じゃあ、自分の地位を捨ててでも、日本全体のために新しい時代を受け入れようとしたってことか。」

プロメテウスが深く頷きながらつぶやいた。

ミエナはさらに続けた。

「まさにその通りです。慶喜公は、日本が存続するためには、国内の統一と新たな国家の基盤が必要だと考え、戦うのではなく、平和的な政権移譲を選びました。そして、内戦ではなく、新たなリーダーたちに未来を託すことで、日本全体を一つにまとめようとしたんです。」

「もう一つ大きな要因は、坂本龍馬が提案した『船中八策』です。」

ミエナが目を輝かせて言った。

「龍馬は、諸藩や幕府の人々に新しい国家のビジョンを提案し、諸藩同士が争うのではなく、国全体を一つにして欧米に立ち向かうべきだと説きました。この構想に触れたことで、慶喜公も新たな時代の構想に確信を持ったと言われています。」

エイレネが目を輝かせて言った。

「船中八策があったからこそ、慶喜公も新しい日本の未来が見えたのね。」

「はい、まさにその通りです。」

ミエナは微笑んだ。

「龍馬の『船中八策』は、未来のビジョンを示すものとして、大政奉還の決断に重要な後押しをしました。慶喜公は、自分が徳川家の将軍である前に、一人の日本人として、日本の将来を真剣に考えた結果、この大政奉還を成し遂げたのです。」

プロメテウスは感慨深げに言った。

「つまり、大政奉還は単なる権力の放棄じゃなくて、国全体のための平和的な道を作るための選択だったということか。」

「そうだね。」

エイレネがしみじみと続けた。

「私たちが考えている地球政府も、世界全体のために争いではなく協力を選び、平和的な方法で地球を守るという理念に基づいている。慶喜公の選択から学べることは多いわ。」

ミエナは柔らかく微笑みながら、「そうですね。彼のように大きなビジョンを持って、一人ひとりが地球全体のために行動すれば、地球政府もきっと現実のものになるでしょう。」と言った。

こうしてエイレネたちは、歴史の偉大な決断に触れることで、彼ら自身の使命への信念をさらに強め、未来に向けて歩み続ける勇気を新たにしたのだった。


また、エイレネは夢を見た。

今度は徳川慶喜の夢だ。

だけど、なぜか、マコテス所長まで出てきてしまった。

「徳川慶喜のことなら私に任せないサイ!」と言って、話は始めた。

「徳川慶喜には面白いエピソードがいくつもあるよ。幕末の激動期に徳川家最後の将軍として複雑な立場にいた慶喜だけど、彼は、政治的な才覚だけでなく、その人間味あふれる行動で周囲を驚かせたことも多々あったんだ。例えば、写真好きで、将軍として初めて写真撮影をしたんだ。慶喜は西洋文化に興味を持っており、自らカメラを構えて撮影したり、自分の写真を何度も撮らせているんだ。特に『兎狩装束』の写真は有名で、狩りの際の兎の毛皮をあしらった帽子や狩衣姿でカメラに収まる姿に、当時の人々も驚いたんだとさ」

そう言ったとたん、夢の中なのに、ディアナが出てきて「いっしょに狩りをしたら友達になれそう!」と言って消えていった。

マコテス所長は、ディアナの突然の割り込みを意に介さず話を続けた。

「慶喜は大の釣りバカ、いやいや将軍様に対してそれは失礼だから、釣り好きで、将軍在職中も釣りに出かけていたんだ。そういえば江戸と京都・大阪を移動するのに船をよく使っていたんだが、その船の上から釣りをしていたなんて話は歴史上はどこにも記されていないな。隠居後はさらに釣りに熱中していたらしい。静岡に隠居してからは、しばしば三保の松原で釣りに興じる姿が見られ、周囲の人々から『釣り上手な殿様』として親しまれていたというが、実際は浜崎〇助という釣りの師匠がいて『へぼ釣り師』といつも冷やかされていたらしいよ。これも史実には載っていないが。慶喜の釣りへの熱意はすさまじく、雨の日でも釣りに出かけるほどだったといわれている。これも師匠であるハマザキ・・・ノンノンノー、濁らない、ハマサキ氏の指導によるところが大のようであった」

 マコテス所長の説明は大好きな『釣りバカ日誌』にかなり毒されているようだ。エイレネは呆れながら、話の続きを聞いた。

「徳川慶喜は将棋の名手だったんだ。幕末の動乱期で多忙を極めていたにもかかわらず、時間ができると将棋を指していたといわれているよ。慶喜は、将棋の研究にも熱心で、かなりの腕前を持っていたそうです。隠居後も将棋を続け、地元の人たちと対局を楽しむ姿が見られたそうだ。天国の慶喜によれば、その影響で、隣りの愛知県で将棋のタイトルを全て制覇した藤井聡太なる偉大な天才が生まれたということだ。これは私も疑わしいと思っているのだが・・・」

と語った。

エイレネは「あ~~~ん、これじゃあ、本当の話はどれで、どこからが所長の作り話か分からないじゃないですか!」と大声を上げたところで目が覚めました。

プロメテウスたちは、エイレネから夢の話を聞いて、これは絶対話の最後に慶喜だから『ケーキ』のオチが来ると期待していた。

しかし、「そんな単純なオヤジギャグは絶対に言わないのだ・・・」とマコテス所長は一人ほくそ笑んで紅茶でケーキを食べていた。


6-8 龍馬が受けた数々の支援

エイレネたちは、日本の大政奉還における坂本龍馬の役割に強く興味を抱いていた。

自らの危険も顧みず、大きな変革のために身を投じた彼の姿勢は、エイレネたちが考える地球政府の構想に通じるものを感じさせた。

そして、エイレネはさらに龍馬がどのようにしてその壮大なビジョンを実現するに至ったのか、詳しく知りたいと思い、ミエナに尋ねた。

「坂本龍馬が大政奉還を実現するために、どんな人たちが彼を支え、どんな助けをしてくれたのか教えてくれない?」とエイレネが言うと、ミエナは微笑みながら、龍馬が受けた数々の支援について語り始めた。

「坂本龍馬が実現した最も重要な功績のひとつが、『薩長同盟』の成立です。」

ミエナは話し始めた。

「龍馬は土佐藩出身で、薩摩藩や長州藩とは異なる立場だったからこそ、薩摩と長州の対立を解きほぐし、手を結ばせることができたのです。これは日本の体制を変えるための大きな一歩でした。」

プロメテウスが興味津々で尋ねた。

「薩摩と長州は敵対していたのに、どうやって同盟を結ばせたんだ?」

「そこで重要だったのが、薩摩藩の西郷隆盛と長州藩の桂小五郎(木戸孝允)です。龍馬は、彼らが同盟を結べば幕府に対抗する力が生まれると確信していて、同盟が成立するように粘り強く説得を続けました。彼ら二人も、龍馬の信念と行動力に共感し、ついには彼の仲介を受け入れたのです。」

マコテス所長は、「長州藩が幕府と戦をしているときに、薩摩藩の名義を借りて坂本龍馬の海援隊が武器や軍艦を長州藩が手に入れられるようにしたとか、実際にその軍艦を操船して幕府との戦いに参加して長州藩が幕府軍に勝利することに貢献したとか、そういう具体的な行動を行ったことも、龍馬を仲介役として薩摩藩の西郷隆盛と長州藩の桂小五郎(木戸孝允)が信頼する元となっているんだ」とエイレネたちにとても楽しそうに語った。

「彼らの協力がなければ、龍馬の構想も実現できなかったのね。」

エイレネは深く頷いた。

ミエナは続けて、龍馬を支えたもうひとつの重要な存在について話した。

「龍馬には、出身地である土佐藩の一部の勢力からも支援がありました。特に、後藤象二郎のような土佐藩士が、幕府を打倒して新しい政府を作るための大義名分を共に掲げたのです。」

「後藤象二郎は土佐藩のリーダー的な存在でしたが、最初は龍馬の過激な考えに慎重だったようです。でも、龍馬が描く未来に触発され、彼も次第に新しい時代への変革に協力的になっていきました。後藤の支援があったからこそ、龍馬は土佐藩からの信頼も得られ、幕府との交渉にも自信を持って臨めたのです。」

「また、龍馬には資金的な支援をしてくれる仲間もいました。」

ミエナは、龍馬の活動を支えた経済的な協力者についても語り始めた。

「岩崎弥太郎は、後に日本の三菱財閥を築く人物ですが、当時は龍馬の活動に共感し、資金援助を行いました。また、龍馬は薩摩藩とも協力関係を築き、薩摩藩の支援で船を手に入れ、物資の輸送や情報のやり取りを迅速に行えるようになりました。この船は、のちに龍馬の運営する亀山社中の活動の基盤となり、国内外の情報や技術を迅速に取り入れる重要な役割を果たしました。」

「なるほど、彼には経済的な支援者もいたのね。」パンドラが感心したように言った。「そうした仲間の助けがなければ、いくら龍馬が大きな夢を持っていても、実現は難しかったかもしれないわ。」

さらにミエナは、龍馬の周囲にいた同志たちについても触れた。

「龍馬の周りには、彼のビジョンに共感し、自らも活動に参加した多くの同志がいました。たとえば、中岡慎太郎もそのひとりです。彼も龍馬と共に動き、大政奉還に向けた計画を支え続けた仲間でした。」

ディアナが微笑んで言った。

「一人で戦うのではなく、仲間と協力し合いながら理想を追い求めたのね。だからこそ、多くの人々が龍馬の夢に共感したんだわ。」

ミエナが話し終わると、エイレネたちは坂本龍馬の生涯を通じて感じた思いを胸に、静かに決意を新たにした。

エイレネは目を輝かせながら言った。

「私たちも、龍馬のように周囲の人たちに協力してもらえるように信念を持って進むわ。」

プロメテウスも深く頷き、「そうだ。私たちも、地球政府の実現という大きな目標に向かって、世界中の人々と協力し合いながら進んでいこう。」と誓った。

こうして、エイレネたちは坂本龍馬の偉業と、仲間たちの支えから学んだことを胸に、さらに地球八策の実現に向けて歩みを進めるのだった。


またまた、エイレネの夢の中にマコテス所長が出てきた。

「今日は誰のことが知りたいのかな?」

「岩崎弥太郎だろうな」と勝手に決めて、話を始めてしまいました。

 乙女の夢の中に出てくるオジサンなんて・・・と思いつつ話を聞いてしまいました。

「彼は三菱財閥の創設者だけど、豪快で情熱的な性格でも有名だったんだ。

岩崎弥太郎はとっても貧しい家の出身で、財を成してからも見栄っ張りな一面があったんだ。ある時、彼は豪華な邸宅を建てましたが、家の中にはあまり高価な家具がなかった。その理由は、「訪問客が自分の家を見て立派だと思うようにしたいが、余計な出費は控えたい」というものだったそうだ。弥太郎は「家の外見が豪華なら、それで十分だ」と豪快に語ったと伝えられている。」

エイレネは、「そういえば、所長の研究室も外から見るととても立派だけど、中に入るとゴチャゴチャしていて・・・」

マコテス所長はわざと大きな咳払いをして、エイレネの話をさえぎって弥太郎の話を続けた。

「岩崎弥太郎は巨額の富を築きながらも、生活にあまり執着せず、むしろ豪快に浪費することも多かったと言われている。ある日、宴会で同席した人たちに高価な料理をふるまいましたが、食べ残しが多かったため、怒って「残すなら、金をドブに捨てるようなもんだ!」と豪快に一喝したそうだ。その後も、金銭には一切こだわらず、儲けた分を事業拡大にどんどん投資し、仲間に振る舞うことも多かったとされているよ」

 エイレネの夢にパンドラやディアナ、プロメテウスも出てきて、一斉に「所長もそうだったら良かったのに!」と叫んでいます。

そんな4人の声を無視して、話を続けました

「若かりし頃、岩崎弥太郎は強引な営業で知られていて、あるとき、船舶業のライバル会社に負けないため、競争相手の船が到着するよりも先に自分の船を出航させ、ライバルの客を奪ってしまったそうだ。このような大胆で豪快でちょっとエゲツナイ戦略で、三菱の勢力を急拡大させ、ライバルを圧倒したんだ土佐」

 マコテス所長は語尾に土佐を入れて自分で自分のオヤジギャグに喜んでいました。

「そんな商売熱心だけが取り柄のような弥太郎だが、ある時、弥太郎は薩摩藩士と口論になり、「貧乏人が!」と馬鹿にされた。しかし、弥太郎は負けずに「今に見ていろ!俺は日本一の商人になってやる!」と豪快に啖呵を切り、相手を黙らせたと伝えられているんだ土佐。後に彼はその言葉通り、三菱を日本屈指の財閥へと成長させたんだ土佐。このエピソードから、弥太郎の強い負けん気と自信が伺えると思いませんか」

エイレネは、きっと「商人」っていうところは「ドケチな大金持ち」って言ったんじゃないかな、と独り言を言ったら目が覚めたんだ土佐。


6-9 海援隊の支援者たち

エイレネたちが「地球八策」の実現に向けて協力者を集めようと動き始めた頃、坂本龍馬が設立した「海援隊」のことが、マコテス所長の頭をよぎった。

海援隊は龍馬の夢を実現するために設立され、日本の未来のために大きな役割を果たした。

しかし、海援隊が活動を続けられたのは、龍馬のカリスマだけでなく、周囲の支援があったからこそだった。

マコテス所長はそのことを考え、「海援隊がどのような支援を受けて活動していたのか知りたいわ」とミエナに尋ねた。

ミエナは穏やかに微笑み、海援隊を支えた支援者たちについて語り始めた。

「海援隊が活動するために欠かせなかったのが、まず資金面での支援でした。」

ミエナがまず挙げたのは、龍馬と同郷であった岩崎弥太郎の名前だった。

「岩崎弥太郎は、当時まだ若い土佐藩士でしたが、商才と志を持ち、龍馬の夢に共感していました。岩崎は龍馬の活動を支援し、海援隊の設立には土佐藩からの資金調達も手伝いました。この資金は、亀山社中や海援隊が活動のために物資を仕入れるための運転資金に使われました。」

「つまり、弥太郎は資金だけでなく、経済的なノウハウも提供したのね。」

パンドラが頷きながら言った。

「その通りです。さらに、海援隊には土佐藩自体からも資金支援が行われていました。龍馬が土佐藩に戻った際には、土佐藩主の山内容堂も海援隊の活動を応援し、一定の財政支援を与えていました。」

マコテス所長は、「土佐藩も西洋の武器や軍艦を手に入れたかったのだが、幕府の監視の目が厳しいので、龍馬と海援隊を利用して、それらを入手しようとした。龍馬と海援隊は、その土佐藩の資金をもとに利益を上げ、活動を広げていった。土佐藩側のお金を預かって、竜馬たちと一時期行動を共にしたのが岩崎弥太郎で、この時の経験と人脈が維新後の彼の財閥を築き上げるのに役立っているに違いない」と語った。

ミエナは続けて、海援隊にとって重要な運送・移動・交通手段であった船の支援についても語った。

「海援隊は活動範囲が広く、船が必須でした。海援隊は薩摩藩の支援を受けて船を手に入れ、物資の輸送や遠隔地での連絡に活用していました。薩摩藩は龍馬の人柄と理想に共感し、海援隊を積極的にサポートしてくれたのです。」

マコテス所長は、「人柄と理想というのは大事だけれど、薩摩藩も幕府に隠れて武器や軍艦を手に入れることは緊急の課題だった訳で、海援隊という組織は実に時代の要請に応える秘密結社のような存在だったんだよね。

精神論ばかりに目を向けると、現実的な側面を見誤るから気を付けた方が良い」と語った。

「海援隊が自由に移動できる船を持っていたおかげで、日本各地や海外との交流が可能になったのね。」エイレネは感心したように言った。

「そうです。特に、『いろは丸』という商船は、海援隊の活動を象徴する存在です。この船を使い、海援隊は日本中で商売を行い、貿易を通じて資金を得ながら情報を収集しました。」

「そして、海援隊を支えたのは資金だけでなく、龍馬の志に共感した仲間たちでした。」

ミエナは、海援隊の一員として活躍した多くの同志たちについて語り始めた。

「たとえば、中岡慎太郎や陸奥宗光といった、龍馬と同じく日本の未来を憂いた志士たちが、命を懸けて海援隊の活動に参加しました。」

ディアナが微笑んで言った。

「同志たちがいてこそ、龍馬もより大胆に動けたのね。彼らがいなければ、大政奉還も成功しなかったかもしれないわ。」

「ええ、その通りです。」ミエナも頷いた。

「特に、中岡慎太郎は、薩長同盟を成功させる際にも龍馬とともに奔走しました。彼らの支えがあってこそ、龍馬は志を貫き、歴史を変える一歩を踏み出すことができたのです。」

ミエナは、海援隊がさらに長崎の商人たちや外国の商社とも連携していたことを教えてくれた。

「龍馬は亀山社中や海援隊を拠点に、長崎で貿易活動を活発に行い、資金を得ていました。この地で活躍する日本人商人や、外国の商人たちもまた、龍馬の志に興味を持ち、海援隊を経済的に支援したんです。」

「長崎には外国人の商社も多く、彼らから最新の技術や武器を仕入れることも可能でした。このルートは、海援隊にとって軍事的な優位性を保つためにも大変重要だったのです。」

マコテス所長は、「イギリスの武器商人グラバーの役割も大きかったと、司馬遼太郎の小説『竜馬が行く』に書いてあった。私の竜馬へのあこがれはこの小説の影響が一番大きいかな」といった。

プロメテウスが深く頷き、「つまり、龍馬は国内だけでなく、外国との関係も築き、国際的な視点から日本を支えていたんだな」と言った。

ミエナは話を締めくくりながら言った。

「坂本龍馬が夢を実現するために活動を続けられたのは、彼自身の信念だけでなく、資金面、物資、仲間の支え、そして国内外からの協力があったからです。彼は周囲の協力者とともに、海援隊を日本の未来を切り開くための組織として育て上げました。」

エイレネは感慨深げに言った。

「私たちも、多くの人の支えがあってこそ、地球八策を実現できるのね。」

「その通りです。」ミエナは微笑んだ。

「龍馬のように、協力し合う精神を持ち続ければ、地球政府の夢もきっと現実になるでしょう。」

こうしてエイレネたちは、歴史からの学びを胸に、新たな決意とともに次なる目標へと向かっていった。


その夜のエイレネの夢は、もちろん『海援隊』だ。

エイレネは『秘密結社のような存在』だったという言葉に強く惹かれた。

「私も『秘密結社』を作りたいな!支援してくれる人たちやお金も集まるし、理想を分かち合う友達もできる! そうしたらいいな!」

どうやったらできるのか、一人で悩んでいたらプロメテウスがやってきて、SNSで集めたらいいんだと言って『ホワイト案件』というのが流行語だと教えた。

ディアナが来て「それってヤバいよ!秘密結社を創るんじゃなくて闇バイトを募る用語だよ!」と注意した。

パンドラが来て、「ねえねえ、秘密結社を創るのなら私も入れて・・・」といった。

なぜかいつも夢の内容を知られてしまっている。

今回も、これじゃあ秘密にならないから秘密結社は絶対にできない!

何とか秘密を守る方法はないかな?

そう言って悩んでいると、3人の声が聞こえた。

「寝言を言わないようにしなきゃダメよ!」

その声で、目が覚めたエイレネの周りには3人の笑顔があった。


6-10 坂本龍馬と海援隊支援者たちの思惑

坂本龍馬が大政奉還を成し遂げるまでの道のりを学んでいたエイレネたちは、彼に協力した多くの人々がどのような気持ちで支援をしていたのか、ふと疑問を抱いた。

「ミエナ、龍馬と海援隊を支えた人たちは、何かしらの見返りを求めていたんじゃないかしら?」

エイレネが少し眉を寄せて尋ねた。

「これほどの大きな支援を無償で提供するなんて、簡単にはできないわ。」

ミエナは穏やかに微笑み、彼女たちの疑問に答えるように話し始めた。

「龍馬の支援者たちの中でも、特に土佐藩の関係者は、龍馬の活動に対して期待する部分がありました。」

ミエナが語り始めた。

「たとえば、後藤象二郎や山内容堂のような土佐藩の指導者たちは、幕末の時代に土佐藩の名誉と存在感を高めることを考えていました。」

「つまり、龍馬の活動が土佐藩にとって有益である限り、彼を支援し続けたわけね?」

エイレネが理解したように言った。

「その通りです。」ミエナは頷いた。

「彼らは、土佐藩が日本の新しい体制の中で強い影響力を持つことを望んでいました。ですから、龍馬が幕府や薩長と協力して新政府を作るという構想に大いに期待していたんです。」

ミエナは続けて、岩崎弥太郎について語った。

「岩崎弥太郎は、当時まだ若い商才のある土佐藩士でしたが、龍馬の活動に大きなビジネスチャンスを見出していました。」

「ビジネスチャンスって、具体的にどんなこと?」

プロメテウスが尋ねた。

「龍馬が長崎で貿易活動を進めることで、日本国内での商売の可能性が広がると考えたのです。龍馬が海外との交易や、長崎での物資調達を通じて事業を展開すれば、経済的に利益を得られるだけでなく、新しい時代に対応した商機が増えると期待していたのです。」

「それで、彼もまた龍馬の活動を支援していたのね。」

パンドラが微笑みながら言った。

「理想もあれば、利益の可能性もあったわけね。」

薩摩藩の思惑:幕府への対抗と影響力

「また、薩摩藩も龍馬を支援することで、幕府への対抗策を強化しようとしていました。」ミエナが話を続けた。「薩摩藩は、幕府に対抗するために、龍馬が仲介した薩長同盟の成立を歓迎していたのです。」

ディアナがうなずき、「つまり、龍馬を通して薩摩が長州と協力することができたから、幕府に対して強い立場でいられたのね。」と理解した様子で言った。

「ええ、薩摩藩は、幕府に代わる新たな体制ができることで、自らも日本の中心として影響力を持つことを期待していました。そのため、龍馬の海援隊に物資や船の支援を提供することは、彼らにとっても利害が一致したわけです。」

ミエナはさらに、龍馬の近くにいた仲間たちについても触れた。

「龍馬の同志たち、中岡慎太郎や陸奥宗光などは、ある意味で純粋な信念と友情によって彼を支えていました。」

「どういうこと?」

エイレネが興味深そうに聞き返す。

「彼らは、龍馬が目指す新しい時代の日本という理想に深く共鳴していました。確かに利益や名誉を望む人もいましたが、特に中岡や陸奥は、龍馬の理念に心から賛同し、日本の未来をともに築きたいと願っていたんです。」

プロメテウスが静かに頷きながら言った。

「つまり、彼には信念を共有する“本当の仲間”がいたわけか。それは、金銭や名誉では測れない支援だな。」

ミエナは微笑み、「つまり、坂本龍馬を支えた支援者たちは、それぞれが異なる立場や利益を持ちながらも、彼の理想に希望を抱いていたと言えます。」と話を締めくくった。

「見返りを求める者も確かにいましたが、龍馬が見据える未来に賭けたかった人々も多かったのです。そのため、個々の思惑が絡み合いながらも、最終的には新しい時代を創る力として協力し合えたのです。」

エイレネは感慨深げに言った。

「私たちも、いろんな国や人と協力し合って、地球の未来に希望を託せる仲間を増やしていきたいわ。」

ミエナはエイレネたちを見守りながら、「そうですね。理想に向かう勇気と協力は、いつの時代でも偉大な変革の原動力になるのです。」と静かに答えた。

こうしてエイレネたちは、坂本龍馬とその支援者たちの物語から大きな学びを得て、地球政府という未来に向けてさらに歩みを進めるのだった。


エイレンたちは授業後にミーティング・ルームに集まって「地球の未来に希望を託せる仲間を増やしていきたい」という想いを語り合っていた。

そこにまたティータイムを楽しむためにマコテス所長とミエナがやってきた。

そこで、マコテス所長にアドバイスを求めることにした。

マコテス所長はエイレネたちが真剣に仲間を増やしたいと考えているのを見て、改めて静かな表情で語り始めた。

「まず、未来に希望を託せる仲間を増やすには、信頼と共感を築くことが重要だ。人は心から共感する相手に惹かれ、未来へのビジョンが自分とつながっていると感じることで動き始めるからだよ。」

そう語る所長に、エイレネたちは真剣に耳を傾けた。

「具体的には、まず『自分たちのビジョンや目標をシンプルに、心に響く言葉で伝える』ことが大切だ。難しい理論や理屈だけではなく、相手の人生にも意味があることを示すんだ。そのうえで、具体的な行動プランや目に見える成果を一緒に考えると、相手も『自分の行動が役に立つんだ』と感じられるようになる。」

「確かに、ビジョンや行動プランがあれば相手も動きやすいですね。」

プロメテウスが頷くと、所長も続けた。

「もう一つ、身近な行動から一緒に始めることも効果的だ。未来のための小さな変化を共有することが、絆を深めるためには一番の近道になる。たとえば、環境保護ならごみ拾いやリサイクル、持続可能な食材を選ぶといった、身近な行動を提案し、相手と共に実践することだ。」

「小さな行動なら、みんな参加しやすいですね。」

エイレネが明るい表情で言った。

所長はにっこり笑って頷き、最後にこうまとめた。

「最終的には、『お互いの違いを受け入れながら、同じ方向を目指す仲間だと感じられる』ことが大切だ。誰しも個々の意見や考え方があるけれど、目的が共通していると分かれば、多くの人が力を合わせてくれる。信頼や共感を土台に、目に見える行動と成果を共有していけば、仲間が自然と増えていくはずだよ。」

エイレネたちは所長の話に深くうなずき、希望を共にする仲間を増やすために必要なことを胸に刻んだ。

坂本龍馬が、薩長の討幕派にも幕臣にも脱藩したはずの土佐藩からも長崎の内外の商人たちからも信頼を得て、明治維新の大転回を推進できたのは、利害や損得も含めて立場の違いを認めたうえで、日本をよくするという理想を共有することができていたからだと改めて竜馬の凄さに気づいた4人でした。


6-11 幕府側の龍馬理解者たち

エイレネたちは、坂本龍馬と彼の支援者について学ぶうちに、ふと疑問を抱いた。

龍馬が徳川幕府を終わらせ、新しい時代を切り開く立場だったとしても、幕府の側にも彼を理解し協力する人物がいたのではないかと考えたのだ。

エイレネが、興味津々でミエナに尋ねた。

「ミエナ、徳川幕府の中にも、龍馬の理想を理解して協力した人がいたんじゃないかしら?」

ミエナはエイレネたちに微笑みかけ、静かに話し始めた。

「幕府側にも、龍馬の考えを理解し、あるいは新しい時代への変革を模索していた人物は確かにいました。」

ミエナはそう言うと、幕府最後の将軍・徳川慶喜について語り始めた。

「徳川慶喜は、非常に知的で柔軟な将軍でした。彼は海外の事情にも精通しており、日本がこのまま鎖国の体制を続けていては危ういと感じていました。そんな背景があったからこそ、龍馬が提唱するような新しい日本の形に一部共感していたと言われています。」

「それで、慶喜は大政奉還を決断できたのね。」

エイレネが納得したように頷いた。

「その通りです。慶喜公は自分が権力にしがみつくことよりも、日本という国家が外から守られることを優先しました。彼もまた、日本の未来に貢献するという形で、ある意味龍馬と同じ志を持っていたのです。」

「幕府側には、もう一人、興味深い人物がいました。」

ミエナは続けて、幕府の財政や経済を担当していた小栗忠順ただまさという人物について話し始めた。

「小栗忠順は勘定奉行として、幕府の財政改革を手がけ、近代化を進めようとした人物です。彼もまた、西洋の技術や制度に関心を持ち、日本の近代化の必要性を強く感じていました。龍馬と直接的な協力関係にはありませんでしたが、日本を外敵から守るための強い国づくりという点で、ある意味龍馬と共通するビジョンを持っていたのです。」

プロメテウスが頷きながら言った。

「つまり、小栗忠順もまた、新しい時代の日本を見据えて行動していたんだな。」

「そうです。彼は龍馬と同じく、日本の未来を考え、西洋の技術や制度を導入することで強い日本を築こうとしていました。」

ミエナが頷いた。

「小栗の活動は、幕府側の革新派として、龍馬の理想とも重なる部分が多かったのです。」

「龍馬に対する理解や共感は、幕府内の若い幕臣たちの間にもありました。」

ミエナは、当時の若い幕臣たちが抱いていた複雑な思いについても説明した。

「幕府の多くの若手幕臣たちも、変化が必要だと考えていました。しかし、彼らの多くは自分たちが幕府に仕える立場であるがゆえに、積極的に改革を進めるのが難しい状況にありました。」

ディアナが微笑みながら言った。

「そういう人たちも、内心では龍馬の考えに共感していたのかもしれないわね。」

「ええ。彼らもまた、龍馬が提案する新しい日本の形に共感しつつも、幕府の忠臣としての立場に悩み、葛藤していたのです。」ミエナは頷いた。

「だからこそ、龍馬が日本全国のさまざまな人々と協力し合い、敵味方を超えて日本の未来を共に考えたという事実がとても大きな意味を持つんです。」

 ミエナは最後にそうまとめた。

エイレネは感慨深げに言った。

「つまり、幕府の中にも未来を見据えた理解者がいたのね。龍馬が、立場や身分を超えて協力し合うことの大切さを知っていたのも、そういう人々との交流があったからなのかもしれない。」

「その通りです。」

ミエナは柔らかく微笑みながら頷いた。

「幕府の中の革新派や龍馬の理解者たちが、新しい日本を作るための土台を静かに支えたのです。龍馬が築いたのは、一人の力ではなく、時代を超えて共感する人々の思いなのです。」

こうして、エイレネたちは龍馬の偉業が生まれる背景に、敵対する立場を超えて人々の協力と共感があったことを学び、自分たちが目指す地球政府の道にも新たな希望と決意を感じていた。


 エイレンたちはまた授業後にミーティング・ルームに集まっていた。

 今日、授業に出ていた小栗忠順ただまさは、幕末期に活躍した幕臣で、日本の近代化に大きく貢献した人物らしいのですが、マコテス所長もあまり詳しくは知らないようで、今回はミエナに教えてもらうことになった。

「小栗忠順という人は大変な倹約家でありながらも、ある時期に豪華な自宅を建てました。この家は当時としては非常に斬新な設計で、西洋風の部屋もあったそうです。また、訪れた人が驚いたのが、家のど真ん中に大きな風呂を置いたことでした。お客さんは通るたびにその大きな風呂を目にし、『一体どうしてこんなところに?』と驚かれることが多く、話題になっていました。忠順はこの風呂に毎日入浴し、リラックスすることが日課だったと言います」

 そこでマコテス所長が、「きっと小栗忠順と勝海舟が二人でその大きなお風呂に入って、幕府の将来について大風呂敷を広げたんだろうね」と、ジョーダンを言ったのだが、誰も笑ってくれなかった。

一瞬、戸惑ったマコテス所長だったが、「そうか、君たちギリシャには『風呂敷』が無かったんだね。『風呂敷』っていうのは、『銭湯』で脱いだ衣類を包み込むために使う布で、日常的にも物を包むのに日本ではとても一般的なんだ。それで、『大きな風呂敷』っていうのは、『銭湯』で脱ぐ服が普通の人よりも立派で嵩張るから『俺は大きな風呂敷が必要なんだ』と見せびらかすために使われたそうだ。ということで、『見栄っ張りな人』とか『現実の状況に釣り合わないような大げさなことを言ったり、計画したりすることを意味するようになったんだ』」と解説しました。

それでもやっぱり誰も笑ってくれなかったので、がっかりした様子でした。

 エイレネが、「私もお風呂大好きだから、お風呂いいよね!リラックスもできるし」といった。

 そこですかさずパンドラが、「そうだよね!エイレネはそれでぐっすり寝られて、いい夢をたくさん見られるもんね!」といった。

 パンドラの突っ込みは直ぐに笑いを誘って、今回の勝負はパンドラの勝ちでした!

 さらにエイレネは続けた。

「小栗忠順は、幕府の外交官としてアメラシアやロムニカとの交渉にあたった。ある交渉の場面で、外国の交渉相手が威圧的な態度をとり、『もし要求を飲まなければ戦争も辞さない』と脅したといいます。しかし忠順は全く動じず、『そちらがそういうつもりなら、我々も戦うまでです』と毅然とした態度で言い返し、逆に相手が引き下がったそうです。これにより、忠順は幕府内でも『胆力がある人物』として評判が上がりったそうです」

 プロメテウスは、「やっぱり脅かされても交渉を続けるには胆力と忍胆力が必要だね!」といってみんなを笑わせました。

マコテス所長は「忍耐力と胆力を掛け合わせたのか、上手いな!」と脱帽でした。

ミエナはさらに話を続けました。

「小栗忠順は『日本も外国に負けない技術を持つべきだ』という考えから、幕府に造船所の建設を提案し、1865年に横須賀造船所(現在の横須賀基地)を建設しました。しかしこの計画は膨大な費用がかかるため、幕府内でも反対意見が多く、何度も中止を求められました。それでも忠順は『日本が強くなるためにはこの事業が絶対に必要だ』と反論し、ついに造船所を完成させました。この大胆な行動力が、後に日本の海軍技術の基盤を築くこととなり、後世に大きな影響を与えました」

 マコテス所長は「なるほど、小栗忠順は豪胆さと行動力、先見の明で知られているけど、幕末の混乱期においてもユニークな行動や発言で周囲を驚かせていた人物なんだな」と4人と一緒に感心した。


6-12 勝海舟と坂本龍馬の接点

エイレネたちが日本の幕末における歴史的な動きについて学びを深めるなかで、マコテス所長はある疑問を抱いていた。

それは、坂本龍馬に多大な影響を与えたとされる勝海舟の名前がまだ出てこないことだった。

「ミエナ、なぜここまで話してきたのに、勝海舟の名前が出てこないんだろう?坂本龍馬との接点は、実際にはなかったのか?」

マコテス所長は、ふと疑問を口にした。

ミエナは柔らかく微笑み、エイレネたちを見渡してから、ゆっくりと説明を始めた。

「いいえ、実際には、勝海舟と坂本龍馬は深く関わりを持っていました。龍馬にとって、勝海舟との出会いは非常に重要なものでした。」

ミエナはそう言うと、龍馬と勝海舟が初めて出会った場面について語り始めた。

「龍馬が勝海舟と出会ったのは、幕末の混乱期、江戸でのことでした。当時、龍馬は長崎で亀山社中を立ち上げ、日本を変えるために奔走していましたが、まだどう進めばよいかを模索している段階でした。そんな時、龍馬は勝海舟に強い影響を受け、師として尊敬するようになったのです。」

エイレネが興味深そうに尋ねた。

「勝海舟は、龍馬にどんな影響を与えたの?」

「勝海舟は、日本が欧米列強に立ち向かうには、国内の対立を超えて国全体が協力する必要があると考えていました。そして彼は、龍馬に対しても、武力による内戦ではなく、平和的な手段による新しい日本の道を強く説いたのです。」

ミエナはさらに続けた。

「龍馬はそれまで、武力を用いて幕府に対抗することも視野に入れていましたが、勝海舟の教えによって、対話や調停による解決が可能であることを学びました。」

「なるほど、勝海舟の影響で、龍馬も考えを変えたのね。」

ディアナが微笑みながら言った。

「そうです。勝海舟は龍馬にとって、日本の未来を広い視野で考えることの大切さを教えてくれる存在でした。勝の教えによって、龍馬は敵味方を超えて幕府の人々とも対話をし、共に新しい日本を築こうとする道を探し始めたのです。」

「さらに、勝海舟は非常に現実的な思考の持ち主で、龍馬が実務に基づいた改革の進め方を学ぶきっかけにもなりました。」

ミエナは続けた。

「勝海舟は、ただ理想を語るだけでなく、海軍の育成や貿易の拡大といった実際に国力を高めるための方法を模索していたんです。」

 エイレネは「理想主義と現実主義が一人の人の中に同居していたってことなんですね」といった。

「龍馬にとって、勝海舟はただの師ではなく、理想を実現するための具体的な知恵を授けてくれる存在でもありました。勝から学んだことは、海援隊を組織し、貿易や商業で資金を得て活動を進めるうえでも大きなヒントになったのです。」

プロメテウスが頷きながら言った。

「つまり、勝海舟は龍馬に、夢を実現するための現実的な手段も教えてくれたんだな。」

「だからこそ、龍馬が幕府側にも対話を求め、後の大政奉還という平和的な解決の道を模索するようになったのも、勝海舟の影響が大きかったのです。」

ミエナは話を締めくくりながら微笑んだ。

エイレネは感慨深げに、「勝海舟の教えがなければ、龍馬もきっと、もっと激しい対立の中で生きていたのかもしれないわね。」と言った。

ミエナは頷き、「そうですね。勝海舟の教えは龍馬に、対話と平和的な手段による変革というビジョンを示し、龍馬の成長を支えました。そして、龍馬はそれを学び、実際の行動に移していったのです。」

こうして、エイレネたちは坂本龍馬と勝海舟の関係について学び、対話による変革の重要性を改めて心に刻むこととなった。


今日も、ミーティング・ルームに集まって4人は授業でのことを話しあっていました。

ここのところ、すっかり常連客になってしまったマコテス所長が、やってきて「ついに私の出番がやってきた!」と目を輝かせて勝手に話し始めました。

「坂本龍馬と勝海舟が初めて出会ったときのエピソードは、幕末の日本史における有名な逸話なんだよ。この出会いは、後に二人が師弟関係を築き、龍馬の人生に大きな影響を与えるきっかけとなったんだ」

 マコテス所長は、4人が興味を引くように、声を低くして話し出しました。

「当時、坂本龍馬は幕府を倒すことを目指す『倒幕派』として活動していたんだ。幕府側の中心人物であった勝海舟もまた、龍馬にとって敵対すべき相手と見なされていたんだ。そこで龍馬は、倒幕のために『勝海舟を暗殺する』という決意を固め、勝に会いに行ったんだ土佐」

 そこで4人が驚いているようすに大いに満足した所長は、話を続けた。

「龍馬が刀を持って殺気をプンプンさせて現れたことに対し、勝海舟は全く動じなかったんだ。むしろ、お茶でも飲み来た友達に接するような落ち着いた態度で『まあ座れ』と勧めたそうだ。ケーキが出なかったのは残念だけど。そこで二人は茶飲み話のように会話を始めるんだな。勝は堂々と日本の未来についての考えを語り、龍馬に対して、『日本が欧米列強の脅威にさらされている現状では、幕府も倒幕派も協力して日本を守るべきだ』と説いたんだ。

その内容に触れた龍馬は、『この人は日本のことを本気で考えている』とその場ですぐに考えを改め、勝海舟に師事する決意を固めたというんだ。すごいだろう!」

マコテス所長は、自分のことのように胸を反らして自慢しました。

「龍馬は、かねてからの倒幕一辺倒の考え方に疑問を抱いていて、幕府側の人物である勝と手を組むという大胆で奇想天外、天衣無縫、空前絶後、波乱万丈、といわれるような行動をとるための新たな視野を得たのだ」

なんか、古いシネマのセリフが羅列されたので、改めて4人はマコテス所長との世代ギャップの大きさに気づいた。

そんなこととは露知らず、マコテス所長は話を続けた。

「この会談を通じて、龍馬は勝の『日本を守る』という志が自分と同じだと感じ、深く感銘を受けたんだ。その後、龍馬は勝海舟に弟子入りし、勝のもとで海軍の知識や組織運営などを学び、のちの『亀山社中』や『海援隊』の設立にもつながったんだ。まさに二人のこの最初の出会いが、龍馬の視野を大きく広げ、日本の将来に向けた新しい考え方を彼に与えたんだよ」

 そういってマコテス所長は気持ちよく自分の研究室に戻っていきました。

 残された4人は、所長の話に感動しつつも、何か物足りない気持ちに襲われました。

 マコテス所長は「勝が勝ったんだ。刀を使わずに竜馬に勝った。う~~~ん、何かいいオヤジギャグが出てきそうで出てこない!」

研究室に戻っても、所長の思考回路はこのテーマでしばらくは空回りした。


6-13 明治維新における朝廷の役割

日本の明治維新に強い興味を持つようになったエイレネたちは、ふと「朝廷」という存在について疑問を抱いた。

徳川幕府が支配していた時代でありながら、朝廷が重要な役割を果たしたという話を耳にしていたからだ。

「ミエナ、明治維新が成功する上で、朝廷はどんな役割を果たしたのか教えてくれる?」とエイレネが尋ねると、ミエナは微笑みながら頷き、話し始めた。

幕末の朝廷の復権とシンボルとしての役割

「江戸時代の日本では、政治的な権力は長らく徳川幕府が握っていましたが、朝廷は天皇家が続く象徴的な存在として維持されていました。」

 ミエナは説明を始めた。

「表立って政治には関わらなかったものの、天皇家が続いているという事実は、日本の伝統と国家の根幹を象徴するものとして人々に認識されていたのです。」

エイレネが興味深そうに頷く。

「だからこそ、朝廷が復権すると人々に大きな影響を与えたのね?」

「その通りです。」ミエナは続けた。

「幕末の混乱が深まる中で、薩摩藩や長州藩などの倒幕派は、新たな体制を作るために人々の支持を得る必要がありました。そして、朝廷を国家の中心に据えるという主張が、伝統を重んじる人々の共感を集める手段となったのです。」

「尊王攘夷」と朝廷への忠誠

「特に、幕末には『尊王攘夷』というスローガンが広まり、朝廷への忠誠心が強調されるようになりました。」ミエナは続けた。「この『尊王攘夷』とは、朝廷を尊び、外国の勢力を排除しようとする考えです。多くの藩がこの考えを支持し、朝廷を中心に新たな時代を築こうとしました。」

ディアナが少し考え込みながら言った。

「つまり、朝廷が新政府の正当性を保証するような存在だったのね?」

「そうですね。幕末の日本では、徳川幕府に対する反発や不満が高まっていましたが、倒幕を果たしても新しい政治の基盤を確立する必要がありました。朝廷を中心に据えることで、倒幕後の日本を統治するための大義名分が生まれたのです。」

薩長同盟と朝廷の権威

「また、薩摩藩と長州藩が同盟を結んだ際にも、朝廷の存在が重要でした。」ミエナが話を続けた。

「薩摩と長州は、幕府に対抗するための強力な軍事力を持っていましたが、それだけでは新しい国家を築くための信頼を得ることは難しかったのです。」

プロメテウスが理解したように頷く。

「だから、朝廷の名の下に新政府を作ることで、倒幕がただの権力闘争ではなく、国家の再構築であることを示したのか。」

「その通りです。」ミエナは微笑んだ。

「朝廷の名を借りることで、薩長同盟は、幕府に反対する立場を超えて日本全体のために戦うという正統性を主張できたのです。」

大政奉還と「王政復古の大号令」

「そして、幕府の最後の将軍である徳川慶喜が大政奉還を行ったとき、彼が権力を返上した相手も朝廷でした。」

ミエナは重要な点を強調した。

「大政奉還によって、徳川幕府は政権を朝廷に返し、形式上、天皇が統治する時代が戻ったのです。」

「なるほど、だから朝廷が日本全体の変革の象徴になったんだわ。」

エイレネが感慨深げに言った。

「そうです。その後、倒幕派は『王政復古の大号令』を発し、天皇を中心とする新政府を樹立するために動き始めました。これにより、日本は形式上でも実際の政治でも、天皇を頂点とする体制に移行したのです。」

明治維新と朝廷の役割のまとめ

ミエナは話を締めくくりながら言った。

「つまり、朝廷の存在は、倒幕派が新しい時代を築くための象徴として不可欠なものだったのです。朝廷を中心に据えることで、日本の伝統を守りつつ、新しい体制を築くための大義と正統性を得ることができました。」

エイレネたちはしばし沈黙し、朝廷の果たした役割の重要性について思いを巡らせていた。

新しい時代のために、古くから存在する権威を利用する――そのやり方が、維新の成功の鍵だったことに気づいたのだ。

「私たちも、地球政府を実現するために何か共通の象徴や大義が必要かもしれないわね。」

エイレネが静かに言った。

ミエナは微笑んで答えた。

「そうですね。共通の大義や象徴は、多くの人々を団結させ、新しい未来を築くための強力な原動力となります。」

こうしてエイレネたちは、明治維新の成功の背景にある「象徴」の力を学び、地球政府実現に向けてさらなる決意を新たにするのだった。


また、エイレネたちはミーティング・ルームに集まって、国連と朝廷の話をしていました。

明治維新の成功の背景にある「象徴」の力を、なんとかして国連に持たせることはできないか、4人は真剣に話し合っていました。

「象徴・・・ねえ」

そんな声を聴いた所長は、「今、誰か、私を呼ばなかったかい?」と現れた。

4人は、「私たちはただ『象徴』について話していただけですよ」といったが、所長は「やっぱり『所長』について話していたんだな」と嬉しそうだった。

「権威はないけど健胃だけは誇れる。大義はないけど研究室まで歩くのは大義だ。朝廷じゃないから恋の調停もできない。国連じゃないからミエナにも告れん」とまで言って、あわてて最後の言葉を取り消した。

「単なるギャグ、ギャグだ」と言い訳をしている後ろで、ミエナのホログラムがクスクスと笑っていた。


6-14 地球政府樹立へのヒント:朝廷と国連の比較

明治維新の成功には、倒幕派が朝廷を中心に据えて統一を図ったことが大きな要因だった。

エイレネたちは、この歴史が地球政府の樹立にどう応用できるかを考え始めていた。

エイレネがふとミエナに尋ねた。

「ミエナ、朝廷が明治維新で果たしたような役割を、現在の国連が果たすことはできるかしら?私たちが目指す地球政府のビジョンを実現するために。」

ミエナは頷き、エイレネたちにわかりやすく説明を始めた。

国連と朝廷の共通点:象徴としての役割

「エイレネさん、実は国連も朝廷と同じように、すでに象徴的な役割を果たしています。」ミエナは言った。

「国連は、加盟国がそれぞれの違いを乗り越え、国際的な協調を目指す共通の場です。朝廷が日本全体の統一を象徴したのと同じように、国連も地球規模で平和や人権を守る象徴的な存在なのです。」

ディアナが興味深そうに尋ねた。

「つまり、国連が地球政府の中心として象徴的な役割を果たせるということ?」

「その通りです。朝廷が維新の正統性を象徴したように、国連もまた、世界の共通の平和と協力の象徴として地球政府の基盤になることができるかもしれません。」ミエナは頷いた。

「ただ、象徴であるだけでなく、新しい地球政府を構築するための実行力を高めることが必要です。」

正当性と共通の大義

「朝廷が倒幕派にとって新時代の正当性を与えたように、国連も地球政府の正当性を提供する役割が期待されています。」ミエナが続けた。

「たとえば、気候変動の危機、パンデミック、平和維持など、国境を超えた問題に対して、国連が地球政府の先駆けとして行動することができれば、世界中の人々に『国連は私たち全体のための組織』という信頼感を築けるでしょう。」

「確かに…」

プロメテウスが深く考え込むように言った。

「地球政府が必要である理由を、国連が大義として掲げることができれば、人々の理解と賛同を得やすくなるのかもしれないな。」

「その通りです。」ミエナは微笑んで言った。

「国連が地球政府の礎として、地球全体のために尽力する姿勢を見せることが、地球政府の構想をより現実味あるものにしてくれるでしょう。」

国連の強化と地球政府への道筋

「ただし、ここで重要なのは、国連が現状のままでいては十分な役割を果たせないことです。」

ミエナはやや真剣な表情で言った。

「朝廷が当時、日本全体の統一のために重要視されたように、国連も世界全体の意見を反映できる仕組みに強化される必要があります。」

エイレネが頷きながら尋ねた。

「たとえば、どのように国連を変えていけばいいの?」

「ひとつの方法は、『拒否権の廃止』や、『上下両院のような国際議会の設立』です。朝廷が日本の象徴として新体制の礎となったように、国連がすべての国や人々の意見を反映し、地球政府のための決議機関となることが望ましいです。」

新たな地球規模の象徴としての国連の役割

「だから、私たちが目指す地球政府を創るには、国連を象徴的な存在から実際に地球規模の課題に取り組む実行機関に変える必要があるんです。」

ミエナは結論づけた。

「国連が地球市民にとって、地球規模の問題を解決できる信頼できる象徴になれば、地球政府も現実的なものになるでしょう。」

エイレネは感慨深く、「つまり、国連が地球政府への道を照らす象徴となることで、人々もより未来への期待を持てるわね。」とつぶやいた。

プロメテウスもまた、深い思索の表情を浮かべて言った。

「この世界に地球政府が必要であることを、国連という象徴を通してしっかりと伝えることができれば、未来は変わるかもしれないな。」

ミエナは微笑み、「そうです、象徴が人々の心を一つにし、新しい地球の未来へと導く力になるのです」と言った。

こうして、エイレネたちは朝廷と国連の役割の共通点を理解し、地球政府への道筋をさらに明確に見出していった。


またまた、4人は、ミーティング・ルームに集まって今日の話を検討していた。

「ただし、ここで重要なのは、国連が現状のままでいては十分な役割を果たせない。朝廷が当時、日本全体の統一のために重要視されたように、国連も世界全体の意見を反映できる仕組みに強化される必要がある。方法は、『拒否権の廃止』や、『上下両院のような国際議会の設立』だ。朝廷が日本の象徴として新体制の礎となったように、国連がすべての国や人々の意見を反映し、地球政府のための決議機関となることが望ましい」

 ということが4人の話し合いの焦点だった。

『拒否権の廃止』や『上下両院のような国際議会の設立』は、これまでも検討の材料に上ってきたが、今回は、今までとは違った重みをもってきた。

 先人たちの想いが、地球の将来が、なぜかこの二つの言葉に伸し掛かっているような重みだ。

 4人は、その重みを感じながら、ミーティングを終えた。


6-15 歴史と未来を繋ぐシステム思考

坂本龍馬や明治維新のエピソードから、エイレネたちは多くのことを学び、特に朝廷の役割と象徴的な意義に気づいたことで、現在の国連が果たすべき役割についても新たな視点を得ていた。

エイレネたちは、その膨大な知識をどうやって整理すれば良いかを考え、「ここでこそ、システム思考を使うべきだ」と思い立った。

「ミエナ、システム思考で今までの学びを整理して、地球政府実現のためのレバレッジ『神秘の種』を見つけ出したいんだけど、手伝ってくれる?」

エイレネが頼むと、ミエナは即座に頷き、協力を始めた。

システム思考での整理と因果関係の可視化

まず、ミエナはエイレネたちにシステム思考の基本的な手法を指示した。

エイレネたちは、自分たちが学んだ内容を一つずつラベルに書き出し、タブレットに音声入力していった。

「坂本龍馬の構想力」、「朝廷の象徴的役割」、「国連の象徴性と実効力の欠如」、「拒否権の廃止と地球政府の正当性」といった具合に、さまざまな要素が一つずつデータとして並べられていく。

彼らは次々と因果関係を示す矢印で結び、影響がどのように連鎖しているかを視覚化していった。

しばらくすると、SimTaKNの画面には、エイレネたちが構築した複雑なシステム図が完成した。

画面には、矢印が交差し、無数のフィードバックループが浮かび上がっていた。

「ミエナ、私たちの図ができたよ!」と、エイレネが呼びかけると、ミエナは満足そうに微笑み、次のステップを説明した。

「では、このシステム図をもとに、SimTaKNに『神秘の種』となる要素を見つけ出すように指示しましょう。」

エイレネたちがSimTaKNに『神秘の種』について尋ねると、AIが瞬時に解析を行い、画面に結論が表示された。

今回の『神秘の種』は、『国連を象徴と実行力の両面で強化し、全地球的な正当性を確立すること』と表示されたのだ。

エイレネは表示された内容を読み上げ、さらに解釈し始めた。

「つまり、国連が象徴的な存在としてだけでなく、実際に世界中の課題に対処できる行動力を持つことが、地球政府の基盤を築く最も有効な『神秘の種』になるんだね。」

プロメテウスが深く考え込んで言った。

「国連が象徴と実行力の両方を持てば、坂本龍馬が掲げた理想のように、多くの国が協力の下で動き出すということか。だが、象徴性だけでは不十分で、実際の行動を起こす力が不可欠だというのが重要だな。」

「そうね。拒否権の廃止や、国際議会の設立といった改革も、象徴としての正当性と地球規模の問題解決に本気で取り組む姿勢が揃ってこそ、世界の信頼を得られるのよね。」ディアナも深く頷いた。

ミエナがエイレネたちを見つめ、優しく語りかけた。

「まさに皆さんが言った通りです。国連が象徴としての信頼と、実行力としての行動力を持つことによって、地球規模での新しい統一体制が現実に近づきます。」

エイレネは、これまでの学びがようやく一つに結びついた感覚を覚えた。

「これが、私たちが探していた『神秘の種』ね。国連を、ただの象徴や会議の場としてではなく、行動の場へと変えていく…そのための一歩を、私たちは築いていかなければならないのね。」

ミエナは頷き、彼らの決意を後押しするように微笑んだ。

「そうです。歴史に学び、今の状況に合わせて行動することで、皆さんは地球全体の未来を作る力を持つのです。」

こうしてエイレネたちは、システム思考で導き出した『神秘の種』を胸に、地球政府の実現に向けて、新たな行動に踏み出していく決意を固めたのだった。


圧倒された4人は、静かにミーティング・ルームに集まって紅茶とケーキを食べて外の景色を眺めていた。

『行動への決意』、幾度となく繰り返された言葉が、そろそろ本物の行動への決意と変わりそうな予感が4人を包んでいた。

「その道筋を明日は確かめよう」

4人はそう誓って、部屋に戻っていった。


6-16 未来へのシナリオ:ミエナが示す道筋

システム思考を通じて、地球政府実現のための『神秘の種』が『国連の象徴性と実行力の強化』にあると知ったエイレネたちは、次に何をすればよいのか考え始めた。

「ミエナ、今の私たちにできる具体的な行動やシナリオがいくつかあれば教えてくれない?」

エイレネが真剣な表情で尋ねると、ミエナは静かにうなずき、いくつかの可能性を示すために、大型スクリーンにシナリオを表示した。

シナリオ1:国連改革の提案と協力国の獲得

ミエナが最初に提示したのは、「国連の構造そのものを変えるためのシナリオ」だった。

「第一のシナリオは、国連の改革案をまとめ、拒否権の廃止や国際議会の設立に向けた具体的な提案を行うことです。そして、賛同を得られる国々を増やしながら協力体制を構築し、国連内部からの変革を目指します。最初は少数でも、意志の強い国が連携することで、改革の流れを起こすことが可能です。」

プロメテウスが深く頷き、「つまり、世界中で賛同者を集めて、国連の象徴としての信頼性を強化するってことか。だが、反対する大国もいるだろうな。」とつぶやく。

「確かにそうでしょう。しかし、地球規模の問題に取り組むためのメリットを示し、協力の輪を広げれば、大きな一歩になるはずです。」

ミエナは落ち着いた声で続けた。

シナリオ2:地球政府の理念を広める「世界市民キャンペーン」

「次に考えられるのは、地球政府のビジョンを市民の力で広めるというシナリオです。」

ミエナがスクリーンに世界地図を表示しながら説明を始めた。

「世界中の人々に、地球規模で協力する必要性や、地球政府のメリットを伝えるために、グローバルキャンペーンを展開します。教育、メディア、イベントなどを通して、多くの人が地球政府というビジョンに共感し、その声が国連にも影響を及ぼすようにするのです。」

ディアナが微笑み、「国の決定者だけでなく、普通の人々も一緒に地球政府を支える仲間になってくれたら心強いわね。」と言った。

「はい。一般市民の強い支持が得られれば、政府も無視できなくなり、改革の動きに応じざるを得なくなるでしょう。」ミエナは続けた。

「地球市民社会としての基盤を築くことが、地球政府への重要な後押しになります。」

シナリオ3:特定の地球規模の問題解決におけるリーダーシップ

ミエナが次に示したシナリオは、「特定の地球規模の問題に取り組むことで地球政府の必要性を証明する」ことだった。

「たとえば、気候変動の問題を中心に、国連がリーダーシップを発揮し、実効力のある解決策を打ち出すことができれば、地球政府の重要性が具体的に示されます。」

「他の国も、それを見て賛同する可能性が増すというわけね?」

エイレネが言った。

「ええ。特に気候変動や感染症対策など、すでに各国が危機感を共有している分野で国連が主導的役割を果たすことで、地球政府の価値を多くの人に認識してもらえます。これがきっかけとなって、他の課題においても地球政府が主導する意義が明確になるでしょう。」

シナリオ4:地球規模の教育とシステム思考の普及

「最後に、地球規模での協力が必要であることを、教育とシステム思考を通じて根付かせるシナリオです。」

ミエナは教育の重要性について説明を始めた。

「世界中の教育機関に、システム思考や持続可能な社会に関するカリキュラムを導入し、若い世代に、地球規模で協力し合う意識を広めます。これにより、地球政府のビジョンが次世代に受け継がれ、自然に地球政府が必要だという共通意識が育まれるでしょう。」

パンドラが興味津々で言った。

「若い世代から意識を変えていく…それが大人になった時に、世界のリーダーたちが共通の価値観を持てるようになるのね。」

「その通りです。」ミエナは頷いた。

「教育による基盤の強化は、地球政府の実現に向けた根本的な土台となります。」

ミエナの説明が終わると、エイレネたちはそれぞれ深く考え込んだ。

どのシナリオも重要であり、世界の人々を巻き込んでいくための戦略が必要だと感じたのだ。

「まずは私たちができるところから始めてみよう。」

プロメテウスが決意を込めて言った。

「国連で地球政府の正当性を議論するのも、世界市民の意識を高めるのも、どちらも今から取り組める。」

「そうね。地球の未来のために一歩一歩進むわ。」

エイレネも微笑んで頷いた。

こうして、エイレネたちはミエナから学んだシナリオを胸に、地球政府の実現に向けてさらなる一歩を踏み出す決意を新たにしたのだった。


6-17 明治維新の教訓を現代に応用せよ

エイレネたち4人は、ミエナから学んだ明治維新と坂本龍馬の教えに、心を大いに動かされていた。

特に、龍馬が無血での体制変革を目指し、新政府の構想を具体的に描いて実現へと導いたことは、彼らが目指す地球政府の実現に向けた大きなヒントとなった。

「大政奉還や船中八策の話を聞いて、龍馬が描いたビジョンの重要性がよくわかったわ。今、私たちが考えている地球政府も、同じように平和的な変革ができるかもしれない。」

エイレネは興奮した様子で話し始めた。

パンドラもエイレネに同意した。

「そうね。今の時代にこの教訓をどう活かすかが大事だわ。幕府から新政府への移行と同じように、国連を地球政府に変えるためには、具体的なビジョンが必要よね。私たち4人の考えも統一しておく必要があるわ」

4人は目を輝かせながら、坂本龍馬の戦略を今の時代に当てはめ、どのように応用できるかを真剣に検討し始めた。

1. 大政奉還:権力の平和的移譲を目指す

まず、エイレネが注目したのは、大政奉還の理念だ。

「龍馬は、徳川幕府の権力を天皇に返上させることで、戦わずして新政府を作り上げたわ。これを今の時代に当てはめるなら、国連や各国の強大な権力が、どうすれば平和的に地球政府に移行できるかを考えなければならない。」

プロメテウスがエイレネに答えた。

「その通りだな。現状では、5大国や多くの国が自国の主権を手放すことに抵抗している。それを無血で進めるには、国々が対立せずに、共通の利益を見出すことが重要だ。つまり、地球政府への移行が各国にとってメリットがあると納得させる必要がある。」

「それなら、各国が持つ軍事的な負担を軽減できるとか、経済的な利益が生まれるというような、具体的な提案を提示するのがいいかもしれないわ。」

パンドラも加わった。

ディアナも思案していた。

「また、国々の指導者に対して、ただ命令するのではなく、彼ら自身が自発的に権力を移譲するように促すために、対話を通じて合意を形成する道が必要ね。龍馬が考えたように、交渉と説得が鍵になるわ。」

2. 船中八策:地球政府の具体的なビジョンを描く

次に、ディアナが強調したのは、船中八策という新政府の具体的なビジョンだ。

「坂本龍馬は、倒幕後に日本をどのような国にするかを描いて、それが明治政府の基盤になったわよね。私たちも、地球政府をただ作るだけでなく、その具体的な制度や仕組みを明確にしないといけないわ。」

エイレネも同意し、「そうね。龍馬は議会制や外交の開放、経済振興など、具体的な改革案を描いていた。私たちも、地球政府を作るために、どのような仕組みが必要かを明確にして、それを各国に提示する必要があるわ。」

プロメテウスは、さらに思索を深めながら提案した。

「例えば、国際的な議会の設置、人権を守るための強力な司法制度、そして平和維持のための統一された軍事機構——これらを地球政府の柱として提案すれば、国々も自国の主権を手放す不安を少しずつ和らげることができるかもしれない。」

「そして、地球規模の問題——気候変動やパンデミック、社会的分断に対処できるような共通の制度を整えるべきね。」

パンドラは力強く言った。

「龍馬が経済の振興や外交の開放を提案したように、私たちも地球全体で協力して対処する仕組みを作らないといけないわ。」

3. 対立する勢力の調整:グローバルな同盟を結ぶ

「坂本龍馬が薩長同盟を成立させたように、私たちも対立する勢力をまとめることが重要ね。」

エイレネは深く考えながら言った。

「今の世界では、アメラシアとチュアンロ、ロムニカと欧州のように、国際的な対立が多い。これらの国々が協力し合わなければ、地球政府を実現するのは難しいわ。」

ディアナが頷いた。

「龍馬は、どの藩にも属さない中立の立場から調整役を果たした。それと同じように、私たちも中立的な視点から各国をつなげていくことができるわ。今の時代に必要なのは、国際的な同盟を作ることね。」

「そのためには、各国のリーダーたちに、地球政府の構想が自国にとっても利益になると理解してもらう必要がある。」プロメテウスが考え込みながら提案した。

「地球規模の問題に対処するためには、各国が協力し合う必要がある。その協力がなければ、誰も生き残れないという現実を共有するべきだ。」

「私たちも、国際的な対話の場を作って、対立する国々が直接顔を合わせて話し合えるような機会を作ることが重要ね。」

エイレネは続けた。

「対話こそ、地球政府への道を切り開く鍵だと思うわ。」

4. 象徴的な存在:地球政府のシンボルを見つける

「そして、もう一つ大事なのは、象徴的な存在を作ることだわ。」

エイレネは、明治維新の際に天皇が果たした役割に注目した。

「龍馬たちは、天皇を国家統合の象徴として新しい時代の支えとしたわよね。私たちも、地球政府が世界中の人々を結束させるシンボルを見つけないといけないわ。」

パンドラが少し考え込みながら言った。

「そうね。今の時代にそれが何になるかは難しいけど、もしかしたら人類共通の未来のために守るべき価値観や地球環境が、その象徴になるかもしれない。例えば、気候変動に対する闘いを象徴的な目標にすることで、世界中の人々が共感できるようなシンボルを作れるかもしれないわ。」

「確かに、地球そのものが私たちのシンボルになる可能性もある。」

ディアナが深く考え込んだ。

「気候変動や環境問題に対処するために、人類が一つにまとまるという象徴を作ることで、各国の対立を超えて、地球政府を実現する道を見つけられるかもしれないわ。」

4人は、坂本龍馬の教えを現代の課題に当てはめ、国連を地球政府に変えるための道筋を真剣に検討していた。

彼らが見出したのは、平和的な変革を進めるためには、龍馬が行ったような調整役としてのリーダーシップ、そして明確なビジョンを持つことが必要だということだった。

「私たちがやるべきことが少しずつ見えてきたわ。」

エイレネは自信に満ちた表情で言った。

「坂本龍馬が果たした役割のように、私たちも地球政府のための具体的な構想を描いて、それを世界中の国々と対話しながら進めていきましょう。」

「そうだな。」プロメテウスも力強く頷いた。

「対話と合意、そして未来に対する明確なビジョン。それをしっかり持つことで、地球政府への道が開けるはずだ。」

4人は、地球政府の実現に向けて、新たな決意を胸に歩みを進めたのだった。


6-18 地球八策の作成

4人は、地球政府を実現するためのビジョンを「地球八策」としてまとめるため、真剣な議論を重ねていた。

彼らは、坂本龍馬が描いた「船中八策」のように、簡潔で分かりやすい表現にまとめることが重要だと感じていた。

未来を見据えたビジョンを世界に広めるには、誰もが理解しやすく、強いメッセージを伝える必要があったのだ。

「さあ、もう少しで形になりそうよ。」

エイレネは、議論が佳境に入ったところで声を上げた。

「簡潔で力強い表現にするには、まだ削ぎ落とせるところがあるはず。船中八策のように、未来の地球政府の方向性を一目で伝えられる形にしましょう。」


「まず、最初の項目は何としても地球議会よね。」パンドラが言った。

「でも、長々と説明しないで、もっと一言で言えるようにしないと。」

ディアナが考え込みながら言った。

「それなら、『地球議会の設置』はどう?短くて明確で、誰が見てもわかるわ。」

「いいわね。それに加えて、世界全体での意見を反映し、実効性のある議決を行うというニュアンスを込めて、次の項目に進みましょう。」

エイレネが応じた。

「次は、地球規模の平和維持軍ね。ここも、無駄を省いて簡潔にしよう。」

プロメテウスが言った。

「どうしても軍の重要性は伝えたいが、長すぎると説得力が落ちる。」

「『地球平和維持軍の創設』でどうかしら?シンプルで力強いわ。」

パンドラが提案した。

「それだ。平和の維持という目的がはっきり伝わる。」

プロメテウスが頷き、次の項目へと進んだ。

「気候変動も重要よね。ここは、もう少しアクションを強調する表現にしたい。」

エイレネが口を開いた。

ディアナが考えて、「『気候変動対策の国際義務化』とかどう? 法的拘束力を持たせるって意味を込めているわ。」と言った。

「完璧ね。」エイレネも頷いた。

「短くても、すぐに理解できる強いメッセージよ。」

「次は経済の公平な分配と発展だ。」プロメテウスが続けた。「ここは長くなると抽象的に聞こえるかもしれない。」

パンドラが言った。

「それなら、『経済格差の是正と持続可能な発展』でどう? 富の不均衡を正して、世界全体の持続的成長を目指すことが伝わるわ。」

「素晴らしいわ。これなら誰もがその意義を理解できる。」

エイレネは微笑んだ。

「人権の保護も同様ね。」

ディアナが言った。

「これは長い説明をするまでもなく、『人権の世界的保護と権威主義の排除』と書けば明快よ。」

プロメテウスがさらに付け加えた。

「そうだな。これで、私たちの目指す真の民主主義と人権保護の姿勢がしっかりと伝わる。」

「次に、パンデミック対応よ。ここはできるだけ具体的な表現が必要だわ。」

エイレネが言った。

パンドラが「『パンデミック対応の国際連携』はどう? 全世界で協力するという意味がはっきりと伝わるわ。」と提案した。

「それでいきましょう。」ディアナも賛同した。

「迅速な対応が必要ということがしっかり伝わるわ。」

「教育も忘れずに。」プロメテウスが続けた。

「国際教育の普及が未来の基盤になる。」

「それなら、『国際教育の普及と平等な機会』でいきましょう。すべての子どもたちが学べる未来を目指すわ。」エイレネが提案した。

「これも完璧だわ。」パンドラが微笑んだ。

「そして、最後に文化の多様性ね。これは単純に表現できる。」

ディアナが言った。

「『文化多様性と相互理解の推進』で、世界中が一つにまとまる未来を描きましょう。」

「これで決まりね。」

プロメテウスが頷きながら、四人で完成したビジョンを見つめた。

地球八策(第一案)の完成

こうして、エイレネたちの議論を経て、ついに地球八策が完成した。

それは坂本龍馬の「船中八策」のように、簡潔で力強く、未来を指し示すビジョンとなった。

1. 地球議会の設置

2. 地球平和維持軍の創設

3. 気候変動対策の国際義務化

4. 経済格差の是正と持続可能な発展

5. 人権の世界的保護と権威主義の排除

6. パンデミック対応の国際連携

7. 国際教育の普及と平等な機会

8. 文化多様性と相互理解の推進

「これで、私たちの地球八策(第一案)が完成したわ。」

エイレネは誇らしげに言った。

「未来の地球政府が目指すべき具体的なビジョンが、しっかりと示された。」

パンドラも微笑みながら言った。

「これを元に、私たちは各国と対話を進めていけば、きっと新しい世界の秩序が実現できるわ。」

「これこそ、私たちの探究の成果だな。」

プロメテウスは力強く頷いた。

ディアナも満足そうに言った。

「次のステップは、これを世界に伝えることね。これで、地球全体が一つにまとまる未来が、少しずつ近づいてきたわ。」

新たな未来への一歩

こうして、エイレネたちはついに「地球八策」を完成させ、次なる探究への新たな一歩を踏み出した。彼らのビジョンは、世界を変え、地球政府という新たな時代を築くための礎となるはずだ。

「未来を作るのは、これからの私たち次第ね。」エイレネは自信に満ちた声で言った。

「そうよ、私たちが世界を変えるためのリーダーになるの。」パンドラも同意した。

こうして4人は、地球政府という大きなビジョンを胸に、新たな未来を切り開く探究に向けて、再び力強く歩み始めたのだった。


今日のミーティング・ルームに集まった4人はいつもよりはるかに元気で、やる気に満ちていた。

エイレネは袖まくりをして、お皿に山盛りのケーキに挑戦しはじめた。

「それっていつものことでしょ!?」

 ディアナは、クールに作者に向かって話しかけた。

 作者は、声だけで「種切れで申し訳ありません」と素直に謝った。


6-19 読む人に訴えかけて行動させる力強いものに変更

4人は、ついに地球政府の未来を描く「地球八策(第一案)」を完成させた。

彼らが描き出したビジョンは簡潔で力強く、地球規模の問題に取り組むための具体的な指針として輝いていた。

しかし、これで完全ではないと感じていた人物が一人いた——マコテス所長だ。

所長はしばらく考え込んだ後、ふと思い出したように口を開いた。

「君たちの『地球八策』、確かに素晴らしい。しかし、もう一歩踏み込むべきだと思うんだ。これを読んだ人々が、ただ理解するだけでなく、心を揺さぶられ、行動を起こしたくなるような文面にできないだろうか?」

その言葉に、4人は驚いた表情を浮かべた。

「もっと心に訴えかける表現……?」エイレネが問い返した。

マコテス所長は頷きながら続けた。

「以前、高知県の坂本龍馬記念館で、龍馬が書いた船中八策の文面を目にしたことがある。それは単に項目を並べただけじゃなかった。読む人に訴えかけ、行動させる力強い言葉だったんだ。私は、それを読んで感じた情熱を、君たちの『地球八策』にも反映させたい。」

ディアナが興味を示して言った。

「確かに、ただの宣言じゃ人々の心には響かないかもしれないわ。龍馬の言葉には、行動に移させる力があったのね。」

プロメテウスも頷いた。

「地球政府を作るためには、人々を動かす言葉が必要だということか。たしかに、今の地球八策は具体的だが、もっと力強さが必要かもしれない。」

パンドラも賛同した。

「言葉の力で、私たちのビジョンをもっと鮮烈に伝えなければいけないわね。」

マコテス所長は笑みを浮かべて、ミエナに目を向けた。

「そこで、ミエナに頼みたい。君の力を借りて、地球八策を、より人々に訴えかける力強い文面に変えてもらえないだろうか?」

ミエナは少し微笑みながら頷いた。

「もちろんです、所長。では、現在の地球八策を元に、情熱と行動を促す表現にしてみます。」

ミエナが手を加えた地球八策(第二案)

ミエナは、エイレネたちのタブレットに「地球八策」の初稿を映し出し、言葉を紡ぎ始めた。エイレネたちは静かにその作業を見守りながら、彼女がどのように言葉を磨き上げていくのかに注目していた。

1. 地球議会の設置

「人類の未来を守るため、全ての国が声を上げ、協力し合う場を設けよ。地球議会は、全ての人類が地球規模の課題に立ち向かうための心臓だ。国境を超え、誰もが平等に意見を反映できる世界を築くために、今こそ行動を起こせ!」

2. 地球平和維持軍の創設

「戦争と暴力が地球を破壊するのを、私たちはもう見過ごしてはならない。地球平和維持軍を結成し、全ての国が協力して平和を守る盾となれ。自国だけの軍事力ではなく、地球全体を守る軍を作ることで、未来の世代に真の平和を贈るのだ。」

3. 気候変動対策の国際義務化

「地球は今、私たちの手の中で壊れつつある。気候変動は待ってはくれない。全ての国は、ただの約束ではなく義務として気候変動に立ち向かうべきだ。自然を守ること、それは未来を守ること。あなたの行動が、次の世代の生存を決めるのだ。」

4. 経済格差の是正と持続可能な発展

「富の集中は、世界に不平等をもたらしている。全ての人々に平等な機会を与え、持続可能な未来を築け。私たちは富の再分配を行い、貧困をなくすための第一歩を踏み出す時だ。経済は、一部の者のためにあるのではない。全ての人々のためのものだ。」

5. 人権の世界的保護と権威主義の排除

「自由と人権は、どの国にも、どの人にも等しく与えられるべきだ。権威主義国家による弾圧は許されない。地球政府は、全ての人の基本的人権を守り、権威主義と戦う。この世界に平等と自由をもたらすのは、あなたたち一人一人の行動だ。」

6. パンデミック対応の国際連携

「次のパンデミックに備えよ。世界全体が一丸となり、迅速かつ公平な医療対応を構築する時が来た。ワクチンも医療資源も、特定の国に限るのではなく、全ての人々に届くようにすべきだ。あなたの命を守るためのシステムを、今、地球規模で作り上げよ。」

7. 国際教育の普及と平等な機会

「全ての子どもが学ぶ権利を持ち、平等に未来を描く力を得るべきだ。国際基準の教育を全ての国に広め、世界の隅々まで平等な学びの機会を届けよ。未来を担う子どもたちが、平等なチャンスを得られる世界を作るのは、私たちの責任だ。」

8. 文化多様性と相互理解の推進

「多様性は私たちの強みであり、共に学び合い、成長するための力だ。文化の違いを超え、互いに尊重し合う社会を築け。全ての人が違いを認め合い、共に手を取り合う世界こそ、私たちが目指すべき地球の姿だ。」

地球八策(第二案)の新たな形

ミエナが言葉を紡ぎ終わり、エイレネたちの前に現れた「地球八策」は、かつてのものよりも力強く、行動を促す表現に磨き上げられていた。それは、ただの宣言ではなく、全ての人に未来を変えるための決断を促す言葉に変わっていた。

「これが、あなたたちの『地球八策(第二案)』です。」ミエナは微笑んで言った。「人々を動かす力を持たせるために、言葉に情熱を込めました。」

エイレネは、完成した文面をじっと見つめていた。その力強さと情熱に心が震えた。

「これで、地球政府への道を進めるためのビジョンが、しっかりと形になったわ。」エイレネは満足げに頷いた。「これを元に、私たちは各国との対話を進めていくのよ。」


 一段と行動力を高めるような案ができたことに4人はとても満足していた。

 エイレネのケーキのお皿が二つに増えたことと、地球八策の行動力が増したこととの関係は定かではなかった。


6-20 新しい地球八策(第三案)

エイレネとマコテス所長は、これまで作成して来た地球八策(第一案と第二案)はどちらかというと地球政府や地球議会が取り組むべき『政策課題』であって、坂本龍馬が作成した船中八策は大政奉還後の『政治課題や制度設計』に関するものだ。

そういう観点からみると、これまでの地球八策には何か肝心な点が不足している感じがして、二人で検討を始めた。

パンドラ、ディアナ、プロメテウス、ミエナは、二人の真剣なやり取りを静かに見守った。

しばらくして、ようやく二人が納得した表情で顔を上げて、4人に完成した『新しい地球八策(第三案)』を披露した。

それは、これまでの案とはかなり違ったものとなっていて、3人とミエナはとても驚いたが、直ぐに素晴らしいと賛成の意を表した。

『新しい地球八策(第三案)』

1.国連安保理の拒否権など5大国の特権を国連に奉還し、国連を地球政府とし、地球全体に関する政策は地球政府から発せられるようにすること

2.地球政府に上下議会を設け、下院議員を各国の人口と民主主義の熟度に応じて評価し、上院は暫定的に国連総会と同様の各国平等の1票とすること 全ての政策は両議会で公論と民主主義の原則によって決定するようにすること なお、地球政府に置いては全ての主権は地球市民にあり、国家の主権は上院の民主化改革が完了するまでの暫定的に容認されるものとすること

3.地球規模の問題群に取り組む国連NGOなどの地球市民社会を代表する諸団体の指導的立場にある世界の有為の人材を顧問とし、国連を始めとするあらゆる国際機関における有名無実の組織・管理職・職員を除くものとすること

4.地球政府は多層的な自治による統治を尊重し、国際NGOなどの自治を始め、各国とその地方の自治や独立を積極的に促進すること

5.世界人権宣言を始めとする歴史上のあらゆる法規を折衷して、新たに無窮の大典を立案・決定すること これに従い各国の対外関係は民主主義の議論に則り、地球政府として定める法規に拠って立つものとすること

6.地球政府軍を置き、陸海空に宇宙を加え、各国の軍事的行動を抑止し、全ての国を防衛すること。なお、核兵器は可能な限り速やかに地球政府の管理下に置き、廃絶すること

7.世界の通貨・金融・貿易・投資・特許等の経済制度を改革し、各国間の公平な法的秩序を設けるようにすること また、平和の配当を全ての国が享受するとともに、地球政府の恒久的で安定的な財源とするため地球政府税を創設すること

8.地球規模の問題群、とりわけ地球温暖化を最優先課題とし、地球上の全生命の持続可能な生存を守ることを至高の使命とし、その中の一生物として人類を位置づけなおし、緊急の温暖化防止を人類全体の共同の責務とすること

以上の八策は、現代の地球と世界の状況を勘案し、世界各国に訴える最重要施策であり、これ以外に現在の緊急課題があるとは言えない。この八策を速やかに断行すれば、地球と世界と人類、そして地球上の全生命の持続可能性を挽回し、地球の生態系、世界の平和と繁栄、人々の人権の保障を実現することは困難な課題ではなくなる。地球生命圏の公明正大の道理に基づき、各国、各国の国民、地球市民の大英断を以て地球政府の樹立をともに実現してくださることを心よりお願いいたします。


エイレネのケーキの量については、皆さまに書いてご報告するまでもないことなので省略させて頂きます。


6-21 大政奉還、無血開城、そして明治政府の確立

エイレネたちは、地球政府樹立の道筋を考える上で、日本の大政奉還や明治新政府誕生の際の歴史は、とても良い参考になると感じていた。

そこでマコテス所長は、これらの大きな変革の背景に武力が関わった経緯について、ミエナに詳しい説明を頼むことにした。

「ミエナ、大政奉還から明治新政府ができるまでの間に、どんな背景で武力が使われたのか、それぞれの出来事について順に教えてくれないか?」

ミエナは穏やかに頷き、エイレネたちにわかりやすく、丁寧に解説を始めた。

1. 大政奉還を実現するために武力行使が必要とされた背景

ミエナは、まず大政奉還に至るまでの武力を巡る背景について話し始めた。

「徳川幕府が約260年もの間、日本を統治していましたが、幕末には内外の圧力によって次第にその力を失っていました。特に、1853年のペリー来航をきっかけに、開国を迫られる中で、日本国内では『尊王攘夷』の思想が広まり、幕府に対する不満が高まっていたのです。」

エイレネが興味深そうに尋ねた。

「でも、それだけでどうして武力が必要になったの?」

「幕府に対抗するために、薩摩藩と長州藩は『倒幕』を目指し、武力で幕府を打倒しようと考えました。薩摩藩と長州藩は1866年に薩長同盟を結び、幕府に対抗するための軍事力を強化しました。そのため、幕府側もまた軍備を整え、緊張が高まったのです。大政奉還を決断した将軍・徳川慶喜も、薩摩・長州が本気で武力を持って幕府を倒そうとしていることを感じ、幕府の存続が厳しいと判断し、自ら政権を返上する道を選んだのです。」

「つまり、倒幕の動きに対抗するには、大政奉還という平和的な道が必要だったんですね。」

プロメテウスが静かに言った。

ミエナは、1868年に始まった新政府軍と旧幕府軍の戦い、日本史上最大の内戦である戊辰戦争について簡潔に整理した項目をスクリーンに映し出した。「戊辰戦争の主な特徴は次のとおりです。

①戦争の始まりは、1868年1月に京都で発生した「鳥羽・伏見の戦い」です。

②新政府軍は薩摩藩・長州藩・土佐藩を中心としており、旧幕府側は王政復古の大号令に反発した人々でした。

③戦争の原因は、明治新政府が徳川慶喜(旧幕府側)の官職や領地を取り上げようとしたため、旧幕府側が反発したことです。

④戦争は1年半に及び、北海道の「五稜郭の戦い(箱館戦争)」で終結しました。

⑤新政府軍の勝利により、国内は新政府によって統一され、新しい時代が始まりました。」

2. 江戸城を無血開城にできた背景

「次に、江戸城の無血開城についてお話しします。」

ミエナは、エイレネたちにとって特に興味深いであろうエピソードについて説明を始めた。

「大政奉還が実現した後も、倒幕派は徳川家の軍事力が脅威であるとして、徳川家が持つ重要な拠点、つまり江戸城の接収を求めました。しかし、徳川家の兵力は依然として強く、武力衝突が起きると東京(当時は江戸)全体が戦火に包まれる恐れがありました。」

エイレネが真剣な表情で言った。

「それを防いだのが、江戸城の無血開城というわけね?」

「そうです。無血開城の背景には、勝海舟と西郷隆盛という二人のリーダーの交渉がありました。西郷は新政府側の武将でありながら、江戸全体を戦場にすることを避けたいと考え、また勝海舟も、幕府側の責任者として江戸の人々の生活を守るために、できるだけ平和的な解決を望んでいました。」

ミエナは続けた。

「二人の協力と信頼のもと、徹夜の交渉の末、江戸城が戦わずに明け渡されるという結果に至りました。これによって、徳川家は実質的に降伏し、新政府の誕生が平和的に進められたのです。」

「そうか、信念を共有する者たちが話し合いで道を見つけたのね。」

ディアナが感慨深げに言った。

3. 明治新政府ができてからの大規模な武力行使

ミエナは最後に、明治新政府が樹立された後、なぜ大規模な武力行使が必要となったかについて説明した。

「明治政府が成立した後も、日本全土で新政府への反発が起こりました。特に、旧幕府軍や一部の反政府勢力が新政府に反抗し、明治10年に『西南の役』として知られる一連の戦いが始まったのです。」

「新政府はなぜ、反発を受けたの?」パンドラが尋ねた。

「新政府は日本を中央集権国家として統一し、西洋のような近代国家を目指していたため、従来の幕藩体制を完全に廃止する方針を掲げました。しかし、多くの武士たちが不満を抱き、特に旧幕府に仕えていた者たちや、江戸時代の伝統を重んじる者たちは、新政府のやり方に抵抗しました。」

ミエナはさらに詳しく続けた。

「この反乱に対して、新政府は国全体をまとめるために武力での制圧を余儀なくされたのです。戊辰戦争を通じて旧幕府勢力を鎮圧したことで、ようやく日本全土が明治新政府の下に統一され、日本は一つの近代国家へと歩み出しました。」

武力と平和的解決の間で学ぶこと

ミエナが話を終えると、エイレネたちはそれぞれ考え込んでいた。

明治維新を通じて見えたのは『平和的な解決と武力の使い分け』が、社会の変革には時に必要であるという現実だった。

「武力で進む道もあれば、勝海舟と西郷隆盛のように、話し合いで道を切り開く力もあるのね。」

エイレネが静かに言った。

「私たちも、地球政府という目標に向かう際には、できる限り平和的な道を模索したいわね。」

ディアナも頷きながら続けた。

「その通りです。平和的な解決を目指しながらも、協力者の力を借り、時には強い意志で進む道も必要です。」

ミエナは彼らを見つめ、未来を見据えたような穏やかな声で締めくくった。

エイレネたちは、幕末から明治への移行における人々の選択から学び、地球政府樹立への道にもその知恵を生かそうと決意を新たにするのだった。


今日は真面目にミーティング・ルームに集まった4人は真剣に議論していた。

「『大政奉還を実現するために武力行使が必要とされた背景』ということから、やはり国連改革にも何らかの武力を持った後ろ盾が必要ではないか」とプロメテウスはいった。

パンドラは「『江戸城を無血開城』したってことは、今の私たちの課題からすると、どういうことになるのかしら」と言った。

 ディアナは「それって、『安保理の拒否権』が最後の砦だから、それを『無血で解除』するっていうことかな」といった。

 パンドラは「誰も血を流してほしくないから無血は絶対ね」といった。

エイレネは「『明治新政府ができてからの大規模な武力行使』があったっていうから、地球政府ができてからも大規模な武力行使があるかもしれないわね」といった。

プロメテウスは「結局、武力の背景が無いとこの3つは実現不可能だ」といった。

ディアナは、「私たちに武力はないから、結局はどこかの国の武力に頼らざるを得ないのかな」と諦めたように言った。

エイレネは、「できることから始められるようにもっと勉強する必要があるわね」といった。

ちょっと元気が出ないままだったが、マコテス所長がケーキを山盛りで持ってきてくれた。

「ケーキを食べて景気の良い顔になってね」

4人は、「その駄洒落を言うために、わざわざケーキを山盛りにして持ってきてくれたんだ」といって所長の駄洒落にかける熱意に自分たちの決意が負けていると反省した。


6-22 廃藩置県の政治的意義

エイレネたちが地球政府樹立に向けて歴史から学び続ける中、マコテス所長は明治時代初期の「廃藩置県」という改革について深く関心を持ち、疑問を抱いた。

「ミエナ、この廃藩置県という政策には、どんな政治的な意味があったのだろう?」マコテス所長はそう尋ねた。ミエナは所長の問いに微笑んで頷くと、エイレネたちの方を向いて説明を始めた。

「廃藩置県は、明治政府が1871年に行った全国の藩を廃止し、県を置くという政策です。」

ミエナは、まず歴史的背景について説明を始めた。

「江戸時代、日本は徳川幕府のもとで300以上の藩に分かれていました。各藩は藩主が治めており、独自の政治・経済・軍事を持っていたため、実質的に分権国家でした。」

エイレネが疑問そうに尋ねた。

「でも、どうして明治政府はそんなに大きな改革をする必要があったの?」

「それには、『中央集権体制』を確立するための意図がありました。」

ミエナは頷きながら続けた。

「明治政府は近代国家を目指し、日本全土を一つの強い政府のもとにまとめようとしました。藩がそれぞれ独立した力を持っている限り、中央政府の指示が行き渡らず、また地域ごとに分かれた独立性が国の統一に支障をきたしていたのです。」

「さらに、廃藩置県には藩主の政治的影響力を取り除くという意味もありました。」

ミエナは説明を続けた。

「多くの藩主は地元で大きな支持を得ていましたが、それは時に明治政府の政策に対する抵抗にもなりかねなかったのです。」

プロメテウスが考え込みながら言った。

「ということは、藩が力を持っていれば、中央政府が一つの方針を示しても、それぞれの藩が独自に動く可能性があったということか。」

「そうです。」ミエナは頷いた。

「政府は藩の力を削ぐことで、国家全体としての統一を確立し、藩による独自の反発や対抗勢力を防ぐことができました。そして、藩が廃止されて県に変わることで、県知事や県庁が中央政府の管轄に入り、全国が一体的に動けるようになったのです。」

国家防衛と経済発展の一体化

ミエナはさらに、廃藩置県が国家防衛や経済発展にもつながっていたことを説明した。

「廃藩置県がもたらした中央集権体制により、日本は軍事や経済を国全体として一体化させることができました。」

「たとえば、藩ごとに軍隊を持っていた時代には、全国を防衛する一つの大きな軍隊を持つのが難しかったんです。しかし、廃藩置県によって、『藩兵』が廃止され、徴兵制による統一された国軍が作られました。これにより、外国からの脅威に備えた防衛体制も強化されたのです。」

ディアナが理解したように頷きながら言った。

「だから、国全体が一つになって、外からの攻撃に備えやすくなったのね。」

「その通りです。」ミエナは微笑みながら答えた。

「さらに、経済面でも全国で一体化した政策が取れるようになりました。藩がそれぞれ独自の財政や通貨を使っていた時代から、国全体で財政や産業政策を統一することで、近代的な経済発展が可能になったのです。」

国民統合と「日本人」としての意識の向上

ミエナは最後に、廃藩置県が国民としての一体感を高めるうえでも重要な意味を持っていたと説明した。

「廃藩置県以前の人々は、地域ごとの『藩士』や『○○藩の民』といったアイデンティティを持っていました。しかし、廃藩置県によって、地域を超えた『日本人』としての意識が高まり、近代国家にふさわしい国民統合が進みました。」

エイレネが感心したように言った。

「藩ごとの意識から、国全体としての意識に変わっていったのね。」

「そうです。これにより、人々は『日本人』としての共通意識を持ち、国全体の課題に対しても協力するようになったのです。」

地球政府への示唆

ミエナは説明を締めくくりながら微笑んだ。

「こうした廃藩置県の動きは、私たちが目指す地球政府の統一的な管理にも通じる点がありますね。地球全体がそれぞれの利益ではなく、共通の課題に向けて動くためには、国境や個別の利害を超えた一体的な仕組みが必要です。」

エイレネは目を輝かせながら言った。

「私たちが目指す地球政府も、こうした統一した地球市民意識を作ることが必要になるのかもしれないわ。」

プロメテウスも深く頷き、「一つの地球として、共通の目標に向かって進むためには、象徴としての地球政府と、統一的な政策が必要だな。」と言った。

ミエナの説明を通じて、エイレネたちは廃藩置県が日本を一つにまとめた重要な改革だったことを理解し、地球政府への道を考える上でも大きなヒントを得たのだった。


その夜、エイレネが見た夢には、北欧諸国のような人口500万人とか1,000万人くらいの国家に次々に置き換えられる変革が進められる地球政府の様子が現れた。

民主主義が健全に機能するには、小国であることが第一条件かもしれないと夢の中でエイレネは思った。

それらの北欧の国々は経済的に豊かで福祉国家としても充実している。

これが民主主義国家のあるべき姿なのかもしれないとエイレネは思った。

また、国連の改革で、旧植民地を実質的に継続・支配している信託統治制度の見直しも行われて、植民地主義からの完全な脱却が実現するという夢も見た。

廃藩置県とは逆に、小国で構成される地球市民社会への変革は、豊かで人々の生活や人権などが最優先で守られることによって、地球政府と地球市民が一体となる重要な改革なのかもしれないと夢の中でエイレネは思った。


第5部 第6部 完


注意書き

本書はフィクションです。本書に登場する人物、団体、地名、組織、国家、出来事、歴史などは、すべて架空のものであり、実在のものとは一切関係ありません。万が一、現実の人物や出来事との類似点があったとしても、それは単なる偶然です。

また、本書の内容は完全に創作であり、科学的・歴史的・宗教的事実を反映するものではありません。本書に登場する技術、魔法、超常現象などはすべて架空のものであり、現実とは異なります。

本書では社会問題をテーマとして扱うことがありますが、特定の思想・信条を読者に押し付ける意図はありません。登場する人物の意見や行動は、著者や出版社の見解を代表するものではありません。

イケザワ ミマリス


明治維新が重要な参考事例に浮上した。

大政奉還から船中八策、廃藩置県や西南の役、いろいろな示唆が得られた。

地球八策もできて、いよいよ各国やNGOなどに直接働きかけるのが次の第七部!

物語もクライマックスに近づいています!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ