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第56話:思い出のブローチ

 外では落ち葉が舞い、冬の訪れを感じられるある日の午前中のこと。

 アンティークの店「蜃気楼しんきろう」のカウンターでは、宝飾品のコレクションを披露するワタクシと目を輝かせてそれを見つめる魔人のジンの姿がありました。


「あらぁ、そのブローチ可愛いわぁ~! ジェル子ちゃんのコレクションって、女子ウケ良すぎよねぇ~」


「……この場に女子は一人も居ませんが、それでもウケるかわかるもんなんですか?」


「やぁだ、もう。ジェル子ちゃんのイジワル! うふふ、気持ち的には女子会のつもりなのよぉ?」


 ワタクシの冷静な質問に、ジンは紅茶の入ったティーカップを置いてあごひげを撫でながら苦笑しました。

 そうは言っても目の前にいるのは筋肉ムキムキの魔人ですし、ワタクシも女性と間違えられるような外見ではありますがれっきとした男性ですから、女子会というのはさすがに無理がある気がするんですけどねぇ。


「――それで、ジンのお眼鏡にかなうようなお品はありましたか?」


「えぇ。こんな素敵なお宝を見られるなんて、来てよかったわ~!」


 今日はたまたまジュエリーボックスの整理をしていたタイミングで、彼がお店に立ち寄ったのです。

 ワタクシも特に用事があったわけでもなかったので、なんとなくお茶飲みがてらそのままコレクションを披露しているのでした。


 彼はカウンターに並べられた宝飾品をひとつひとつ丁寧に見ながら感嘆の声をあげた後、ジュエリーボックスから取り出されたばかりの小さな箱に目を留めました。


「……あら、その箱は? ずいぶん古そうねぇ」


「アンティークのブローチです」


 ワタクシは箱の中を開けてジンに差し出しました。


「あらあら。他のお品に比べるとちょっと形が不恰好ぶかっこうだけど可愛いわね!」


 中にあったのは翼を広げた銀色の小鳥のブローチです。少し形がゆがんだ翼には小さなダイヤモンドが装飾されていてキラキラと輝いています。


「ふふ、やっぱり不恰好ですよね。昔、アレクと一緒にドイツのとある領主の元へ身を寄せていた時期がありまして。これはその時に領主と一緒に作った思い出のお品なんですよ」


 その領主は錬金術にも理解があって、ワタクシ達に対して家族のように接してくれただけでなく研究のスポンサーにもなってくれました。

 このブローチを作った時は彼がデザインの案と材料を用意して、アレクが図を描いてワタクシが錬金術で造形したのです。

 造形があまり上手くできなくてちょっといびつな仕上がりになりましたが、彼はとてもほめてくれましたっけ。


「へぇ……え、ちょっと待ってちょうだい。さっき、これのこと“アンティーク”って言ったわよね?」


「そうですが」


「アンティークってことは最低でも百年経ってるでしょ? ジェル子ちゃん、あなた何歳なのよ⁉」


 ――あぁ、そうか。自分の話をする機会なんてありませんでしたから、ジンが知らないのも当たり前でした。


「えっと、若く見えますけどこれでも三百……いえ、正確には三百二十八歳、でしたっけかね。もう年々、歳とかどうでもよくなってしまって――」


「はぁ⁉ 若く見えるとかそういう次元超えてるわよ!」


「不老不死なせいで肉体は二十代前半で止まってますからね」


 ジンは目を大きく見開いて唖然としています。


「……ってことはアレクちゃんも?」


「兄はワタクシと二歳違いですから、来年の三月で三百三十歳ですね」


「そう言われてもまったくピンとこないわねぇ」


 たしかに兄のアレクサンドルが三百歳を超えているなんて、にわかには信じがたいことでしょう。

 元の性格の差もあるのでしょうが、やはり世界中を旅行していろんな刺激をうけているせいなのか、ワタクシよりも心も若いように感じます。


「あー、驚いた。……あら、そろそろ行かないと。嫌だわぁ、もっと聞きたいのに」


 ジンは残念そうな顔で、出された紅茶を飲み干しました。


「おや、もうお帰りですか。まだお昼にもなっていないのに」


「まだこの後行くところがあるのよ。……いやぁ、今日はびっくりしたわぁ。今度、昔話聞かせてちょうだいね!」


「えぇ。たいした話ではありませんが、いつでもお聞かせしますよ」


 笑顔で手を振る彼を見送った後、ワタクシは再びカウンターの椅子に腰掛け、小鳥のブローチを眺めました。


「懐かしいですねぇ。そういえばワタクシがかつて滞在していたお城は今どうなってるんでしょう。最後に訪れたのは二百年くらい前でしたっけ」


 ふと思い立ってスマートフォンを取り出して検索してみると、今日更新されたばかりのニュースを見つけました。


『老朽化する古城、明日解体に』


「えっ、これはもしや……」


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