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第51話:魔界のフリーマーケット

 異形の集う魔界で、新年にだけ開かれる特別なフリーマーケット。

 そんな興味深い催しがあるということを耳にしたのは、昨年末のことでした。


「すげぇ面白そうだな、俺も行ってみたい! なぁ、ジェル。連れて行ってくれよ!」


 暇を持て余していた兄のアレクサンドルは、ワタクシが魔界に行くと言ったら喜んで付いてきました。

 きっと荷物持ちとして活躍してくれることでしょう。


「しかし、魔界にもフリーマーケットなんてあるんだな」


「なんでも悪魔達が年末に大掃除をして、そこで出た不用品を売買したのが始まりだそうですよ」


「悪魔にも年末の大掃除って概念がいねんがあるのか……」


 そんなことを言いながら会場へ行ってみると、ドクロで飾られた禍々《まがまが》しい門があり、そこに金棒を持ったいかつい鬼が立っています。


「すみません、フリーマーケットの入り口はこちらですか?」


「おう、そうだよ。……あんたら、もしかして人間か? ここは悪魔やモンスター以外はお断りだよ。人間は帰った帰った!」


 門番と思われる鬼はワタクシ達を見下ろしながら、シッシッと追い払うような仕草をします。


 ――人間は入場できない。これは完全に誤算でした。

 しかし、門の向こうには面白そうな店が並んでいるだけに、このまま帰るのは実に惜しい。


「いえ、その……ワタクシ達は悪魔です!」


「どう見ても人間なのに悪魔だと? なら、種族を言ってみろ」


 とっさに悪魔だと嘘をついたのですが、鬼は明らかに疑っている様子です。

 ワタクシは脳内の知識を総動員して「自分達が名乗っても違和感の無さそうな悪魔」を思い出そうとしました。


「えっと、ワタクシ達は……い、インキュバスです! この美貌びぼうで世の女性達をメロメロにしているのですよ!」


「俺達インキュバスだったのか!」


「しっ、アレクは黙ってなさい!」


 インキュバスというのは女性を性的に誘惑する悪魔の一種で、見た目が非常に良いのです。

 だからきっと納得してもらえる、そう思ったのですが。

 なぜか鬼はワタクシの股間を凝視しています。


「あんた……そんな粗末なモノなのにインキュバスに生まれちまったのか。小さくても生きてれば良いことがきっとあるからな、元気出せよ」


「粗末で小さい――」


「よし、可哀想だから、通っていいぞ」


「か、可哀想……ワタクシの股間が可哀想だと仰るのですか⁉ ……んぐっ⁉」


「そうそう、めちゃめちゃ可哀想な股間なんだよ! ありがとな、鬼のおっちゃん!」


 反論しようとするワタクシの口をアレクが手で塞いで、そのまま彼に引っ張られながら門を通過しました。


「ちょっとアレク! 何するんですか!」


「通れたんだからいいじゃねぇか」


「うぅ……ワタクシの男としての尊厳が」


「ほら、ジェル。元気だしてお店見て回ろうぜ」


 予想外の辱めを受けて非常に不愉快ではありましたが、とりあえず気を取り直してお店を見て回ることにしました。


 お店、といってもフリーマーケットなせいか非常に簡易的なもので、地面に大きな布やレジャーシートらしきものを敷いて、その上に商品を並べているところがほとんどです。

 しかし“人間はお断り”とされるだけのことはあって、珍しい薬草や呪術の道具に魔道書、美術品など、想像していた以上に掘り出し物がありそうでした。


「いらっしゃい! よかったら見ていってね~!」


「安くしとくよ~! さぁ買った買った!」


 あちこちから明るい呼び込みの声が聞こえています。

 出店者もお客さんも皆、翼や角を生やしていたり獣のようであったりとまるで百鬼夜行ひゃっきやこうのような光景なのに、いたって普通に商いをしているのがなんともアンバランスで面白い光景でした。


「なぁなぁ、ジェル。あの着物着てる骸骨って、宮本さんじゃねぇか?」


 アレクの視線を追った先に出店していたのは、ワタクシが契約している骸骨スケルトンの宮本さんです。

 彼の家も年末の大掃除で不用品があったのでしょうか。


「おや、アレク殿にジェル殿ではござらんか! よく入場できましたなぁ」


「おう、ジェルの股間が犠牲になったけど入れたぞ!」


「……どういうことでござるか?」


「聞かないでください」


 宮本さんのお店には、氷がいっぱい入ったクーラーボックスが並んでいました。

 その中にはたくさんの小さな瓶が冷やされているのが見えます。


「宮本さんは飲み物を売ってるんですか……あっ、これは、前にワタクシが錬金術で作った栄養ドリンクじゃないですか!」


 そのドリンクは、あまりにも売れなさ過ぎて魔界なら需要があるのではと、ずいぶん前にワタクシが宮本さんに売りつけたお品でした。


「いやぁ……飲んだら死ぬレベルのクソ不味いドリンクとして最初は大人気だったのに、ブームが過ぎると見向きもされなくなったでござるよ」


「冒険しすぎたフレーバーのドリンクあるあるだよなぁ~。最終的にディスカウントストアに流されるやつ」


 アレクの言葉に宮本さんは苦笑いしたように見えました。

 正直、骸骨なんで表情はあまりよくわからないんですけど。


「まぁ、最初のブームで十分儲けたから問題無いでござるよ」


「ならいいんですが」


「さぁさぁ、今日はお祭りみたいなもんでござるから、ジェル殿達も楽しんで行ってくだされ」


 宮本さんに見送られ、ワタクシ達は引き続き店を見て回りました。

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