第50話:レース結果と意外な賞品
そりの速さに慣れてくると楽しいもので、周囲の景色を楽しむ余裕もでてきました。
雪の壁でコースが作られているので、それに沿っていけばいいだけなので気楽です。
「たまにはこういうのも悪くありませんねぇ……おや?」
しばらく走ると、何やら先の方で複数の獣がけたたましく吠える声と地響きが伝わってきます。
「おいジェル、あれ見ろ! 雪崩だ!」
アレクに言われて前方を見ると、山の上に積もっていた雪が大量に滑り落ちて濁流のようになっているではありませんか。
そして一瞬で巨大な怪物達とそりを飲み込み、何もかもが雪に埋もれてしまったのです。
「あぁ……どうしましょう! 急いで助けを呼ばないと!」
「落ち着け、ジェル!」
「でも早く助けないと……えーっと、えーっと……」
「とりあえずお兄ちゃんが宮本さんに連絡するから、ジェルはその間に錬金術で雪を溶かせ!」
「錬金術! その手がありましたか!」
ワタクシの錬金術は魔術を取り入れているので、魔力を使って物の状態を変化させることができます。
雪はもともとは大気中の水蒸気ですから、それを変化させるなんてたやすいことでした。
「とはいえ、さすがにこんなに広範囲に干渉するのは難しいですが……やってみるしかないですね」
ワタクシは木の枝を使って魔法陣を描き、その上に立って呪文を唱えて両手を雪にかざしました。
怪物たちが埋もれた辺りに見当をつけて、雪をどんどん水に変えていきます。
「お、三つの頭のワンちゃんだ!」
溶かした雪の中からケルベロスが現れました。
幸い怪我も無いようで、三つの頭をプルプルと元気に振って水を弾き飛ばしています。
「ケルベロス! あなたと走っていた方や他の犬達はどこですか?」
その言葉にケルベロスは我が身に起きた状況を把握したのか、アォーンと一声吠えると鋭い爪の生えたたくましい前足で穴を掘り始めました。
「よし、ケルプーも手伝ってくれ!」
アレクがケルプードルをそりから外すと、ケルベロスに駆け寄って一緒に穴を掘り始めます。
すると穴から筋骨隆々の男性が、そりの残骸と一緒に現れたので急いで救出しました。
「おい、大丈夫か⁉」
「うぅ……私は雪崩に巻き込まれたのか」
「よかった、無事みたいだな」
「さぁ、急いで他の方々も救出しましょう!」
その後もワタクシは錬金術で雪を水に変え、ケルベロス達は穴を掘って皆で必死で救助活動しました。
その結果、怪物達も選手も全員、無事に救助することが出来たのです。
「すまなかった、人の子よ」
「まさか、人間に助けられるとは」
「我々のそりは大破して、もう走れない。そなた達は進むと良い」
救助された選手達は口々にそう言いました。
そしてワタクシ達のそりは彼らに見送られながら、再び雪原を走り始めて、無事ゴールしたのでした。
「よくやったぞ、人間~!」
「いいぞー!」
ワタクシ達がゴールすると、観衆から盛大な拍手が起こりました。
どうやら、雪崩が起きて救助活動したことは既に知れ渡っているようです。
「ありがとう! ありがとう!」
「ありがとうございます!」
ワタクシ達は大きく手を振って歓声に応えました。
少し遅れてフェンリルやケルベロス達もゴールし、歓声はさらに大きくなっていきます。
「……まさか、優勝者が人の子であったとは。うむ、実に良いものを見せてもらった」
我々の元へ主催者のアヌビス神が現れました。
繊細な装飾の施された黄金の腰布をまとっていて、ジャッカルの頭部を持つ半獣であるという伝承通りの姿です。
「なぁ、ジェル。あの人、頭がワンちゃんだな」
「ちょっと、アレク! 声が大きいですよ。それにワンちゃんじゃなくてジャッカルです!」
「では褒美をとらせよう」
ワタクシ達の目の前に、真っ白な布で覆われた何かが乗った、巨大な荷車が運ばれてきました。
これはお宝の予感……!
「優勝商品のミイラ一年分である」
「……は?」
「ミイラ一年分だ。遠慮なく受け取るがよい」
「えぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
「なぁ、ジェル。一年分ってどういう基準なんだろうな?」
「いいからアレクは黙っててください!」
――そういえば、アヌビス神は冥界の神であると同時に「ミイラづくりの神」としても有名なんでしたっけ。
「……まぁ、珍しいものがたくさん見られたので良しとしましょうかねぇ」
ワタクシ達はミイラの受け取りを丁重にお断りして、会場を後にしたのでした。
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