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第5話:三枚の御札

 ――男には、たとえどんな危険があったとしても行かねばならぬ時がある。


 その時、俺はアンティークの店「蜃気楼しんきろう」で、次の旅行先について弟のジェルマンと話し合いをしていた。


「なぁ、ジェル。限定品なんだよ。そこでしか買えない特別仕様のパン男ロボなんだよ……!」


「でもその地域はマフィアの抗争が盛んですし、つい最近だって爆弾テロがあったばかりですし……ワタクシは反対です!」


「そんなこと言うなよ、ロボ買ったらお兄ちゃんすぐ帰ってくるからさぁ……」


 俺の好きなアニメ「パン男ロボ」が、とある国で大ヒットしたのを記念して、限定で特別仕様のロボットの玩具が販売されることになった。


 日本では販売される予定が無いから絶対買いに行きたいんだが、ジェルは「そんな危険なところに行かせられない」と、さっきから猛反対している。


「通販じゃダメなんですか?」


「通販してねぇんだよ」


「少々高くても、オークションやフリマサイトで買うんじゃいけませんか?」


「転売から買うのは嫌なんだよ! こういうのは自分の足で買いに行くからいいんだろ⁉」


「はぁ……アレクは言い出したら聞かないし、しょうがないですねぇ」


 俺のゆるぎないパン男ロボへの思いをジェルは理解したのか、軽くため息をつくと店のカウンターの引き出しをごそごそと探って俺に三枚の長方形の紙を手渡した。


 見てみると、薄くて柔らかい白い紙の上に複雑な文字列が並んでいる。いや、文字ではなくもしかしたら記号なのかもしれないが。当然、俺には読めない。


「なんだこれ?」


「とても貴重な御札おふだです。旅先で困ったことがあればその御札にお願いしなさい。助けてくれますから」


「へぇ、便利だなぁー!」


「いいですか、その御札は三枚しかありません。つまり助けてくれるのは三回だけです。よく考えて使うんですよ?」


「おう、ありがとな!」


「――もしその三枚を使い切ったら即、帰国してもらいますからね?」


「わかった、わかった。わかったからそんな怖い顔しないでくれ」


 真剣な顔で念を押すジェルの頭をポンポンと軽く撫でて、俺は御札をいつも着ているベストの内ポケットに入れた。


 ――そん時はさ、御札が必要になるなんて思ってもみなかったんだ。ちょっと行ってロボを買ってすぐ帰ってくるだけなんだから。

 デパートに行くだけだし危ない目に遭うこともないだろう。


 こうして俺は、不安そうな表情のジェルに見送られて海外へ旅立った。


 最初に向かった市内のデパートでは、もうパン男ロボは完売になっていた。


 売り場では俺と同じように、他所の国からはるばる来たけど買えなかったという人たちがたむろしていて、完売の文字やロボットのパネルの写真を撮っている。

 やはりマフィアがいようがテロがあろうが、オタクの購買欲はそう簡単には消えないのだ。


「ここで売ってないとしたら、後は個人商店を当たるしかねぇかなぁ……」


 それから、ネットの情報を頼りにまだ在庫があるという店を探し出した俺は、喜んでその店のある通りへやってきた。


「なんだ、やけに薄暗くて汚い通りだな……ホントにここかよ?」


 その道は昼間だというのに、木々が日の光を遮ってる上に見通しが悪く、どこかアングラな雰囲気のある道だった。

 しかも道を聞こうにもどこにも人の姿が見当たらない。


「まいったな。これじゃ店がどこかわかんねぇぞ……」


 困った俺は、ポケットの中の御札のことを思い出した。

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