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第4話:パチャカマク三世とポチョムキン

 ジェルマンですと名乗るわけにもいかず、困って視線を泳がせた先には、ペルー産の人形が置いてありました。えーっと、ペルーといえば……。


「そう、ワタクシの名は、パチャカマク三世です!」


「お兄ちゃんはポチョムキンだ!」


「変な名前だね。パチャカマク三世は何してる人?」


「実業家です!」


「どんな事業をしてるの?」


「いろいろ売ってます!」


「ブフォッ!」


 隣でアレク、いやポチョムキンが噴き出して笑いをこらえてますが、こっちは必死なのです。


「じゃあ、ポチョムキンは何をしてる人なの?」


「俺は、ハイパーマルチメディアクリエーターだ!」


「かっこいいね! 具体的にどんなことしてるの?」


「うん? えーっと。そうだなぁ……なんかクリエイティブなことしてるんだよ。たとえば…………そう、カマキリの卵を拾ってきて机の中で孵化ふかさせたり?」


「アレ……ポチョムキン! それはクリエイティブじゃないですよ!」


「はぁ……変な人達だな」


 氏神様はちょっと呆れた顔をした後、店内をぐるりと見渡しました。


「ここはお店か何か?」


「そうです! ワタクシ達兄弟の古今東西のコレクションを集めたアンティークの――」


「気のせいかなぁ……どうも神話級の貴重品があるように見えるんだけど。だとしたら没収しないといけないかもしれない」


「気のせいですよ! ここはただのオモシロ雑貨店です!」


「えっ、そうだったの?」


「よかったらこのバネとか買っていきませんか⁉ ビョンビョンして楽しいですよ!」


「要らないよ」


 ……よかった。なんとかごまかせました。

 保身の為とはいえ、自慢の店をそのように貶めるのは屈辱くつじょくでしたが、非常事態だから仕方ないのです。


「ところで、ポチョムキンのSNS見たんだけど」


「えっ……」


 氏神様が差し出したスマホに映ったSNSには『弟のジェルマン。すげぇ錬金術師なんだぜ!』という文言が添えられた、ワタクシの顔写真が投稿されていました。


「あわわわわ……これは……その…………」


 最高の美貌と知性をもった希代の天才錬金術師ジェルマンの自由気ままな輝かしいスローライフが、アホな兄のクソネットリテラシーのせいで終わってしまう……!


 ――そう思われたのですが。


「まぁ、君達が人畜無害アホなのはよくわかったから。僕が上司に上手いこと言っておくよ」


「ほ、本当ですか⁉」


 今アホって言われた気がしますが、それで人体実験を回避できるならありがたい。

 涙目になったワタクシを見て、氏神様は苦笑しました。


「うん、でもタダ、というわけにはいかないけど」


「何が必要ですか? バネですか⁉ 好きなだけ持って帰っていいですよ!」


「いや、さっき要らないって言ったよね」


 氏神様はワタクシの胸元を見て言いました。


「そのブローチ、綺麗だね。ルネラリックでしょ? 僕、それが欲しいなぁ」


「えっ⁉ ルネラリックご存知なんですか⁉」


「うん。僕、アンティークに興味があるんだ」


「あぁぁぁぁぁぁぁ~~!!!!」


 ワタクシは思わず言葉にならない声を叫びながら、氏神様の手を両手で握り締めました。


「えっ、急にどうしたのジェルマン」


「心の友よ! どうかワタクシのことはジェルと呼んでください!」


「おい、ジェル落ち着け。過疎ジャンルで同志を見つけた限界オタクみたいになってんぞ」


「しょうがないじゃないですか! アレクはアンティークの話をまともに聞いてくれないし、語る相手に飢えてるんですよ!」


 ワタクシの切なる叫びに氏神様はきょとんとした後、すぐに声をあげて笑いました。


「アハハハ! いいね、じゃあ友達になろうよ」


「いいんですか⁉」


「うん。僕の名前は『シラノモリノミコト』って言うんだ、よろしくね」


「シラノモリ――どんな字を書くんでしょう?」


「これでわかるかな?」


 彼はカウンターにあったメモに、ペンで『白ノ守尊』と名前を書きつけました。


「なるほど。白という字なのですね。――では友愛の意を込めてシロと呼んでもいいでしょうか?」


「シロって犬みたいだけどまぁいいや。よろしくね、ジェル」


 そしてワタクシは彼に身に着けていたブローチを進呈し、あらためて握手を交わしたのです。


「いやぁ~、一時はどうなるかと思ったけど、お兄ちゃん安心したわ~」


「元はといえば、アレクのせいな気もするんですけど」


 ワタクシがジトッとした視線を投げかけると、アレクは誤魔化すように大きな声で提案しました。


「よぉし、このままシロの歓迎会しようぜ!」


「うれしいな! 僕、日本酒飲みたい!」


 日本酒が飲みたいなんて、どう見ても子どもなのに大丈夫なんでしょうか。


「僕、こう見えても五百歳近く生きてるよ」


 ――さすが神様。見た目ではわかりませんね。


「よし、お兄ちゃんが、とっておきの大吟醸とつまみを用意するから宅飲みしようぜ!」


「ありがとう、アレク兄ちゃん!」


 その後は店を閉めて、我が家のリビングで酒盛りが始まりました。

 シロは想像以上に話のわかる人物で、気が付けばワタクシもアレクもすっかり彼と打ち解けていたのです。


 それ以来、彼はうちの店に時々遊びに来るようになりました。

 こうして良き友を得て、ワタクシのスローライフはさらに充実したものとなったのでした。

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