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第34話:ジェル開発の栄養ドリンク

 その日ワタクシは、兄のアレクサンドルと一緒にオランダのアムステルダムに来ていました。

 目の前には美しい運河が流れていて、水上を小型の観光船が行き交い、綺麗に整備された石畳には自転車が並んでいます。


 今すれ違った若い女性は観光客なのでしょうか。地図を片手に笑顔でおしゃれなカフェに入って行きました。

 窓越しにカフェの中をちらりと覗くと、ショーケースにはフルーツやクリームがたっぷり乗った美味しそうなケーキがずらりと並んでいます。


「あ、いいなぁ……でも、また後にしますかね」


 ケーキはとても魅力的でしたが、ワタクシが左手に持っている皮製のレトロなトランクがズシッと重さを主張していましたので、カフェで休憩するのはこの中身を片付けてからにしようと思ったのです。


 トランクの中に入っているのは小さな瓶入りの三十本の栄養ドリンク。

 錬金術の研究の副産物で、たまたまビタミンDをメインにした栄養剤ができてしまったので、それをドリンク化した物を商品として売り込もうと思ったのです。


 商談はアレクに任せて、ワタクシは家でのんびり読書をする予定だったのですが「開発者が立ち会った方がビジネスがスムーズ」だと彼が言うので、一緒にオランダへ行くことになったのでした。


「なぁ、ジェル。今更だけどなんでオランダなんだ? 栄養ドリンクならアメリカの方がサプリメント大国だし、そっちの方がいいんじゃねぇのか?」


「いえ、今回の主要成分はビタミンDですからね。オランダは日照時間が少ないので、ビタミンDの欠乏症になりやすいから需要があると思うんですよ」


 ワタクシは胸を張って答えました。

 それにここ、アムステルダムは商業も盛んなヨーロッパ屈指の世界都市です。きっと上手くいくに違いありません。


 ――そう思っていたのですが。

 残念ながら商談は大失敗して、散々な結果となりました。


「まさかドリンクがあんなにクソ不味まずいとはなぁ……」


 そう、理想的な栄養バランスをとことん極めたまではよかったんですが、味のことはまったく考慮こうりょしていなかったのです。

 アレクと営業先の人にドリンクを試飲してもらうと、急に彼らが苦しみ始めて水を求めて床にのた打ち回り始めたので、相当不味かったのでしょう。


「成分的に美味しさは期待してませんでしたが、まさかそんな酷い味だったとは知りませんでした。まぁ良薬口に苦し、という言葉もあるくらいなんで不味くても別にいいかなと思ったんですがねぇ」


「いいわけあるかバカヤロー! お兄ちゃん舌もげるかと思ったわ! おかげでテロと疑われて警察呼ばれそうになったじゃねぇか。うぇぇぇぇ……」


 アレクは味を思い出したのか、顔をしかめながらトランクから水の入ったペットボトルを取り出してゴクゴクと飲んでいます。


「とりあえず用も済んだし、さっさと転送魔術で家に帰りましょう」


「えー、このまま帰るのかよ。せっかくジェルもここまで来たんだし観光して帰ろうぜ。カフェでケーキ食って運河をのんびりクルーズして、美術館巡りはどうだ? フェルメールやレンブラントの有名な作品もあるし、ピカソだってあるぞ! お土産はでっかいチーズを買ってさぁ――」


「すみませんが、あまりそういう気分では……」


 アレクの提案はありがたいのですが、商談が失敗して気分も落ち込んでましたし、あちこち観光して回ろうという気分では無かったのです。


 ワタクシがため息をついたのを見て、彼は慰めるように肩をぽんぽんと叩いてきました。


「おいおい、そんなしょんぼりするなって。じゃあお兄ちゃんがお金出すからさぁ、せめて船に乗ってゆっくり帰らねぇか? でっかい豪華な船で!」


「でっかい豪華な船……?」


「あぁ、そうだ。ジャグジー付きのプールとかカジノもあったりしてさ、オーシャンビューのオシャレなレストランで高級ディナーと極上スイーツってのはどうだ?」


「……まぁ、たまにはそういうのもいいかもですね」

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