第30話:猫の格差
鏡に映る俺の姿は、とても酷いものだった。
ロクに手入れされていないボサボサの灰色の毛は、癖がついているのかあっちこっちに伸びているし、ふさふさの尻尾もジェルのふわふわの尻尾に比べて俺のはなんだか薄汚れているみたいに見えて汚らしい。
「なんだこの格差は……! お兄ちゃんショックなんだけど!」
「普段からロクに手入れしてないからですよ。ただでさえ癖っ毛なのに」
「ジェルは手入れしすぎなんだよ。いつも自分一人だけクソ高いシャンプー使いやがって」
「そんなことを言っている場合ではありませんよ。まずはこの事態をどうにかしないと……」
ジェルはペタリと床に座って、考え込むようにクリーム色の長い尻尾をパタリパタリと左右に動かしている。
「仮にこれが呪いによる現象だとしても、今のワタクシには解除できませんね。役に立たなくてすみません」
いや、謝るのは本来こっちなんだけど。もともとは俺がグリマルキン草を食べさせたせいだし。
でもそんなこと言ったらジェルにこっぴどく叱られるに決まっている。
だから俺は明るく笑って誤魔化すことにした。
「アハハ、大丈夫だって! 俺がついてるから心配すんな。きっと何とかなるさ!」
俺はひらりとテーブルに飛び乗った。すげぇ、身が軽い。
調子に乗ってソファーに向かって跳躍してみると、そんなに力を入れなかったのに簡単に飛び移れた。
「ほら、猫の姿も楽しいぞ。こんなに身軽に動けるし」
「え、そうなんですか⁉」
俺の華麗な動きを見たジェルは瞳を輝かせて、自分もそれに続こうとこっちに向かって思いっきりジャンプする。
――が、俺の目の前であえなく落下して、ベシャリと床にお腹を打ち付けた。
「うぅ……」
「おい、ジェル。大丈夫か?」
やれやれと思いながらソファから飛び降りて、ジェルの傍に近寄る。
彼は少しフラフラしながらもゆっくりと立ち上がった。
幸い、特にケガをした様子は無いようだ。
「クッ……身軽かどうかは、個体差があるようですね」
「そうみたいだな」
「でも、アレクが一緒でよかったです。なんだか本当に何とかなりそうな気がしてきました!」
――あぁ、俺の罪悪感を煽るようなことを言ってくる。
ジェルの信頼の眼差しが辛い。とても辛い。
でも本当のことを言ってこの可愛い顔が般若の表情に変わるのだけは何としでも避けたい。
「とりあえず、他の部屋を探索して状況を把握しましょうか」
「あ、あぁ。そうだな」
ジェルが尻尾をピンと立ててリビングを出て行くので、俺も急いでその後に続く。
書庫やキッチンなど、ドアが開いているところはまったく問題なく見て回れた。
だが、店や倉庫はドアがしっかり閉まっていて、今の俺たちでは開けることができない。
「猫の姿はやはり不便ですねぇ……」
ジェルは悔しそうな声をあげ、尻尾をフリフリしながら開かない扉を見ている。
とりあえず見て回れる範囲は見たが、当然のごとく何も収穫は無い。
これで探索できる場所は、お互いの部屋を残すのみとなった。
「よかった。ワタクシの部屋もアレクの部屋も、ドアが少し開いているから入れそうですね」
俺達はひとまず、ジェルの部屋のドアの隙間に体をするりともぐりこませた。
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