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第3話:神様がご来店

 その日、アンティークの店「蜃気楼しんきろう」の店内では、ブローチを鑑定するワタクシと兄のアレクサンドルの姿がありました。


「……これはすばらしい!」


「パリの骨董市で、ジェルが好きそうだなと思って買ったんだけど、そんなに良い物だったか?」


「当然です。なにせこれはルネ・ラリックの作品ですから。まさか骨董市にそんな良い物が紛れていたなんて! 見てくださいよ、このアール・ヌーヴォーの素晴らしい曲線と自然の美を表現した繊細な細工、そして何よりもモチーフの花が――」


「わかった、わかったから。お兄ちゃんそういうの聞き飽きた」


 アレクは適当にワタクシの話をあしらいました。

 もっとこのブローチの感想や来歴を語りたかったのですが、彼はどうもそういう部分には興味が無いみたいで残念です。


 せっかくの掘り出し物を箱に仕舞ってしまうのが惜しまれたので、ジャケットの胸元に着けることにしました。


「やはり、良い物を身に着けると気分が高揚しますねぇ」


 白いアネモネの花をモチーフにしたブローチのエレガントな曲線美は、ワタクシの美しさを高めてくれるような気がします。

 鏡に映る自分の姿を見て満足したので、カウンターに腰掛け、読みかけの本を手に取りました。


「んじゃ、ジェル。店番よろしくな。俺はコンビニにおやつを買いに行って来る」


「そんなこと言って、そのまま遊びに行ってしまうんじゃないでしょうね?」


「いやいや。俺はただ、おやつをだな……あれ、誰か来た?」


 店の外に張り巡らせている結界が一瞬、バチッと反応してスッ……と静かになったかと思うと、店のドアが開きました。


 そこに居たのは、黒髪で白い着物に薄紫の袴の、神社の神主を思わせるような格好をした可愛らしい少年です。


「いらっしゃいませ」


「やぁ。僕はこの地域の氏神うじがみだよ」


 少年は音も立てずにカウンターに近づいて来ました。

 まっすぐに見据える珍しい紫色の瞳は聡明な光を宿していて、彼がただの子どもでは無いことが感じられます。


 店の周囲に張っている結界を普通に越えてきたことからも察するに、氏神というのは嘘では無さそうです。


「氏神様がいったい何の御用でしょう?」


「この辺にジェルマンっていう胡散うさん臭い錬金術師が不法滞在してるから、捕まえて欲しいって要望があって調べてるんだ」


「不法滞在している胡散臭い錬金術師、ですか……」


「そうなんだよ。何か知ってる?」


「いっ、いえ。何も……」


「いやぁ、お兄ちゃんも知らないなぁ~。うん、ぜ~んぜん知らない!」


 ――これはとんでもないことになりました。

 ジェルマンという錬金術師とは、間違いなくワタクシのことでしょう。


 祖国であるフランスを出て世界中を放浪した結果、日本の居心地が良かったから京都に住み始めただけなのです。

 その結果、まさか神様から目をつけられていたなんて。


「あの……先ほど“捕まえて欲しい”と仰ってましたが。もし捕まったらどうなるんでしょう?」


「ジェルマンは人間のくせに不老不死で、とんでもない魔力と知識を得ているらしい。珍しいから人体実験とかされちゃうかもね」


「人体実験――⁉」


「どうしたんだい? 顔色が真っ青だけど」


「い、いえ何でもありません」


 神様の人体実験だなんて、何をされるかわかったもんじゃありません。実に恐ろしい。

 これは何がなんでも正体を隠さないと。


「ところで、君達。まだ名前を聞いてなかったね」


「えっ、えーっとワタクシは……」

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