弱い人間
いつの間にかレオンの目の前に魔王がいて、その魔王の手が向かっている。手は人の手にあらず、爪が鋭くまるで猛禽類のようにガッチリとしている。
(あ、これってもしかしてまずいかも。俺、殺される?)
そう思った瞬間、魔王の手をカレンが掴んで止めた。カレンもいつの間にかレオンのすぐそばにいる。
「何してくれてるのよ、ふざけないで」
魔王の手を掴みながらカレンが憎らしいものを見る目をしながら魔王につっかかる。魔王の手を掴むカレンの片手もまるで竜の手のように変化していた。そう、カレンはそもそも竜なのだ。
「ほう、この男を助けるのか?なぜ?こんな弱い人間をなぜ!!!」
魔王の瞳がカッと赤く光る。どこからどう見てもとても怒っている、体全体から禍禍しいものが溢れ出てるのがわかるほどだ。
「この人は私の結婚相手だからよ」
掴んだ魔王の手をぶんっと振り払うカレン。その勢いで魔王は投げられそのまま地面に叩きつけられる。
「な、ぜだ……なぜ……そんな人間を」
起き上がった魔王は苦々しい顔でレオンを見つめた。あまりのショックで呆然としているようだ。
「嫌だ、俺は絶対にあきらめない、あきらめないからな!!!」
まるで捨て台詞のように言葉を吐いて魔王は消えていった。
(え、何が起こったんだ?)
「大丈夫?ごめんなさいね、変な奴が来ちゃった」
はぁ、とため息をつきながらカレンは言うけれど、レオンは身動きが取れなかった。
膝が笑ってる。手も震えてる。そう、怖かったのだ。あの魔王のスピード、気迫にすっかり圧されてしまった。
(カレンを守るならともかく、守られてしまうなんて。俺は人間だから仕方ない?そんなの言い訳だろう)
「ごめん、俺、何もできなかった……」
「何言ってるのよ、魔王相手に人間が身一つで何かできるわけないじゃない。気にしないで」
カレンはそう言って微笑んだが、レオンの心は一向に晴れなかった。